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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第十四章:ダンジョンよもやま話
834/1206

834:昨晩は……もういいか

 人肌が温かい。そして柔らかい。とても幸せな感触と温かさが左腕にまとわりついている。昨日は芽生さんが泊まっていったので頑張ったんだったな。その疲れも残っていない。やはりこれも枕の効力か。これならもう一回頑張れたかもな。


 寝る前の激しい筋トレにもかかわらず体の緊張はほぐれて睡眠効果もあり。目覚めも快調で残った眠気は無し。快適な睡眠を体感できている。送信っと。


 今日もダーククロウスノーオウル混合枕の感想を送信したところで、朝食の準備だ。腕の柔らかな感触とぬくもりがなくなり寂しさを覚えるが、昨日散々楽しんだのでそれを思い出しながらベッドから起きる。息子もまだまだ元気いっぱいだ。さすがに若い頃ほどの垂直上昇を維持できている訳ではないが、年齢の割には頑張っていると思う。その内こっちも年々元気を失っていくんだなと考えると、今の内に頑張ってもらうことこそ重要だとも言える。こっちのほうに効く枕とかできないかな。


 そんな男の夢みたいな枕……いや、別に枕でなくてもいいのか。そういう成分が存分に含まれているものでもいい。俺もマカとか飲み始めるお年頃かな? 二人のことを考えるとそっちに金を使うのも大事だな。自分の身体だ、自然に任せるだけでなく体にいいものを摂取していこう。


 いつもの朝食を二人分作り、テーブルに並べると今度こそ芽生さんを起こす。


「芽生さん、朝食できたよ」


 軽く揺り動かすと、それだけでパッと目を覚ました。ちゃんと枕の効果は向こうにも伝わっていたらしい。


「おはようございます」


 眠そうではない。パッチリ起きれた、という感じだろう。


「ご飯ですね、着替えてきます」


 芽生さんがここが自室だ! と言い張って占拠している我が家の一室へ裸のままでふよふよと泳いで行く。全裸で寒くないのかな。昨日のうちにこっちの部屋へ用意しておけばよかったのに。


 しばらくして服を着て戻ってきた。ちゃんと昨日とは違う服だ。着替えもちゃっかり常備しているので、昨日はお泊りだったという雰囲気は伝わってこない。しっかり近くまで寄って匂いをかがれたら俺の香りが移っていてアウトかもしれないが、遠目に見えれば今日も家から出勤してきました、という風には見えるだろう。


 朝食を食べながらお互いの今日のスケジュール確認と、次回潜る日程を決める。日帰りでも充分な成果を稼げるので、一泊する理由は今のところ薄い。日帰りという事なので食事も昼の分を用意するだけで済む。


「とりあえずイベントがいつ終わるか、それをミルコに確認してからだな。今日はダンジョンによる用事があるからそのついでに昼から軽く稼ぐ程度にしておこうと思ってる」

「つまり、ダーククロウの羽根集めですか。ボーっと半日茂君の前に居るだけで終わりそうですね」

「んや、せっかくだしモンスターリポップが多い内に普段潜らない二十層あたりに行こうかなって。カウ肉の在庫を増やすのが目的だけど。そろそろへそくりが怪しくなってくるものからちょっとずつ仕入れようかなと思っている」

「なるほど。私のお腹に入るものなら大歓迎です。今の内にこまごまとした仕入れを行っておいて、イベント終わるまでに稼いで強くなって、終わったら五十層ですか。どんなモンスターが出るか楽しみですね」

「高橋さんたちもイベントが終わるまでは四十九層待機で探索禁止命令を守っている形に表向きはなってるからな。こっそり探索しているとはいえ、流石に下に行くという事は無いだろうけどそこそこ稼いで回ってるはずだ。スキルオーブの一つぐらいは出してるかもしれないな」


 先に長く潜っている都合上、スキルオーブを拾うのも彼らのほうが先という可能性は十分あり得るし、今頃スキルオーブを出してこっそり覚えたりしているかもしれない。あのマップのモンスターはどんなスキルオーブをくれるんだろうな。


「さて……私は今日は午後から講義ですがちょっと早めに出て講義前の勉強をしてきます。洋一さんはどうしますか」

「俺は朝一で枕取りに行って支払いして、それからダンジョンへ行って、小西ダンジョン経由でダンジョン庁に荷物送ってもらえるよう手配するかな。何処に送ってくれって指定がない以上送り先も解らないんじゃどうしようもないし、住所をレインで送ってもらうのもちょっとまずいかもしれないからね。ちゃんと請求書の形で費用も回収しないと」

「今回の枕の割合はどんなぐらいなんですかね」

「五対五で頼んでみた。そこそこ眠れてバッチリ起きれるって感じのアレンジだからそれで行けると思う。短時間仮眠の連続使用で体を壊されても困るし、本当に仮眠で疲れが取れるようにって感じかな」

「これで長官の忙しさが落ち着くと良いですねえ。出来るだけ頑張ってほしいものです、そのほうが私たちも楽が出来ますし」


 朝食を食べ終わり片付け、昼食はウルフ肉の生姜焼き。先に作っておくと何時でも飯が食えるからな。ささっと作り終えると芽生さんと同時に家を出る。芽生さんは徒歩で駅へ。俺は車で布団の山本へ。


 布団の山本へ到着し、枕の受け取りと支払いを終える。二十万円が二個で四十万円。枕だけにこれだけ金をかけるのか? というところだが、原価で考えても十五万ぐらいするのでかなり勉強してもらったのは間違いない。日本国から金をとるのだからもう少し値段を釣り上げてくれてもいいんだという話をすると、山本店長曰く。


「次からはキッチリ搾り取ります。今回はサンプルを含めてということなのでお安く提供いたしました。是非使い心地を庁内だけでなく関係機関や官僚たちに広めてもらえるとウチも仕事のやりがいがありますね」


 だ、そうだ。どうやら品質によほど自信があるらしく……いや実際の効果のほどは俺も体感しているし、毎晩心地よい眠りを提供してもらっているのは間違いないのだが、それでもそこまで安くする必要は無いとは思うのだがそれで金がとれると考えているらしい。


 まあ、俺の仕事は素材を提供するだけだ。そこから先の商売に口を出すのは筋違いかもしれないな、と思い直した。枕を受け取るとそのまま家へとんぼ返りする。流石に車で行って適当なところへ停めて勝手に探索というわけにはいかない。


 真中長官にレインで、小西ダンジョン経由で真中長官に直接送る旨の連絡を取っておく。しばらくするとイイネ! というスタンプが返ってきたのでその手順で問題ないのだろう。


 枕を二個、手ごろな段ボールに放り込んでお手製の請求書を作って振込先を指定して印刷。期限は切ってないがそこそこ手早く入金してくれるだろう。段ボールに封をして保管庫へ。中間マージンは取らないことにした。口利きした分もギルド貢献、ということにしておく。


 早めの昼食を取ると早速小西ダンジョンへ。さすがに今日は浅い階層へ潜るからいつものお菓子は無しだな。まだ人に見られて困るものだし三十五層以降へ潜った時にまたお祈りと納品を済ませよう。


 ダンジョンへ着くと真っ先にギルマスの部屋へ挨拶をしに行く。ギルマスが居たので、口頭で段ボールの中身について説明、真中長官へ直接送るものなので不審物と認定されて届くのが遅れると悪いので、小西ダンジョンから直接長官あてに送った荷物、という体裁を取り繕ってほしいと説明。


 真中長官とのレインのやり取りまで見せたところで二つ返事で了承してくれるギルマス。普段からちゃんと話を通しておくと、こういうところで詰まることがなくて非常に楽である。日ごろの付き合いは大事だな。


 さて、午後から探索だ。久しぶりの廃墟エリアからの草原エリアに足を踏み入れる。リヤカーは……念のため持っていくか。展開せずに畳んでおいておけばそれほど邪魔にはならないだろう。


 早速入ダン手続き。時間に余裕というか探索自体に余裕があるし他に入場待ちも居ないので少し受付嬢とおしゃべり。


「今日は昼からなんですね。午前中はお休みでしたか? 」

「深く潜らないんで今日も実質お休みみたいなものです。午前中はちょっと用事、ですかね」

「なるほど、足りない素材の補給、みたいなものなんですね。どうぞご安全に」

「ありがとう、ご安全に」


 リヤカーを引っ張って一層を抜け、今回は二十一層着。出来るだけエレベーター待ちの邪魔にならない所にリヤカーを放置。リヤカーの表に「安村専用」と書かれているので意図的に持っていかない限りは問題ないだろう。


 早速二十層に下りて様子を確認すると、あちらこちらにパーティーの姿が見える。俺が見慣れた二十層とはかなり違っていて、Cランクが多く潜り込んでいる上にモンスターが湧き放題なので次々に近い所から戦いを仕掛けに行っている感じだ。ここまで解りやすく探索をしている、となるともはやこの辺はアトラクション感覚なのかもしれないな。


 さてファーストコンタクトは……と考えていると、目の前にダンジョンハイエナが湧く。早速雷撃で焼き切り、ファーストコンタクトは成功。なんと、ヒールポーションのランク3まで落としてくれた。収入的には嬉しいが、欲しいのはキュアポーションのランク2なのでちょっと悲しい当たりを引いた気持になる。


 道から随分離れながらも、ギリギリ見える距離を維持しつつ、一本道と並行する形で進んでいく。どうやらどこでどんな風に湧くかは完全に手持ちの情報とは違い、湧けるスペースが有ったらとにかく湧くといった感じだ。俺が一人でうろついているのもあるのだろうが、どうやら探索者を中心に半径二十メートルほどの近さでは湧かない、という設定は機能しているようだ。


 こっちには【索敵】があるので真後ろに現れても対処可能。他のパーティーがやってるみたいに時々後ろを確認しながらゆっくり移動する、という行動をとる必要はない。


 のんびり歩きながらでもモンスターが湧くので非常に手間が小さいしただ歩くだけの時間も短くて済むのでこのイベントは成功していると言えるだろう。ミルコにはちゃんとみんな喜んでたよと報告は出来るな。


 後ろに湧いたモンスターに対処、レッドカウだった。お前を待ってたんだ。リポップしてすぐなので、足元の草を食べる暇もなく雷撃で焼かれてお腹が空いたまま黒い粒子へ還っていく。ちょっとかわいそうだが、十九層二十層は【索敵】狙いの探索者がつねにうろついているはずなので、最近ではまともに食事にもありつけていない可能性が高い。


 流石に一発で肉をくれる事は無かった。まぁ、来てそうそうホイホイと肉をくれるとも思っていないので時間効率は悪いが大人しくイベント参加者に混ざるとしよう。かといっても、一人でイベントに参加しているように見えるのは俺だけ。何が湧くかは解らないので一口に儲かると言えるかどうかは怪しい所だ。


 しかし、湧くペースが中々に早い。雷撃だけで倒しているとはいえ、二分か三分に一回ぐらいの速さで自分の戦闘範囲にリポップするので暇をする事も無く、小休止するタイミングも難しそうなので、休憩したくなったら階段周りまで近寄って集団で休憩するような形になるだろうな。


 こっちへ来る前に早めに飯を食ってきてよかったと考えるべきか。このリポップ量の中で優雅に食事をする暇はちょっとないかも。これは結構消耗もするかもしれない。保管庫リストのカロリーバーと飲み物を取り出しやすい位置に移動させておいて……これでよし。


 さぁ、普段の稼ぎからすれば些細なものだが、レッドカウ肉という食材を仕入れるにはやはり自力でやってこそのもの、という探索者の矜持みたいなものがある。ただ肉が欲しいだけなら、二十一層のエレベーター前でプラカードを振り回してお肉買い取ります、と恥を承知で募集すれば金だけが目的の探索者相手なら充分有効だろう。


 そうやって買い取るのも探索者の自由だが、そうしないのは自分が探索者であることを忘れないで居ようというのと、ただ単にプラカード振り回してボーっとしているのは性に合わないからだ。暇なのは俺の原理原則にもとる。確実に稼げる手段があるのだから稼ぐついでに自分で摂ったほうが明らかに早い。


 さてもうしばらく、イベントを楽しんでいる探索者の様子を眺めながら目標のお肉を……どれだけ集めようかな。イベント中ならそこそこの稼ぎは得られるはずだ。肉は何個取れるだろうか。Bランク待ちで二十層をグルグルしている間よりも稼げる可能性は高い。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
中華屋さんのお爺さん元気かなあ。
これだけわいて数がいるのであればあの蟻の大群がいる9層は凄まじいことになってそうですね
階層地図自分用※モンスターは初出のみ記載 : 17:草:バトルゴート、レッドカウ 18:草: 19:草:ダンジョンハイエナ 20:草: 21:廃:EV:(安地)※Cランク下限 22:廃:ジャイアントス…
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