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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第十四章:ダンジョンよもやま話
832/1206

832:イベント中~新浜パーティーの場合~

 side:新浜パーティー


 朝まで時間は戻る。三十五層のセーフエリアで新浜パーティーがこのイベント中にどう動くかを相談していた。


「というわけで、このイベント期間中? の間にしっかり数を稼いで強くなって安村さん達に早く追いつけるように頑張りたいところなんだけど、どう? 」


 新浜が全員に問うている。


「強くなることには大賛成ですし、モンスターがガンガン湧くならそれをドンドン倒していくにも問題はないと思います。今のところ一回あたりに来るモンスターが多すぎて対処しきれない、という状態でもない訳ですし、三十四層を往復して帰って来る時も行きと同じぐらいのモンスターの湧き具合を体験できるってことでしょう? ならここはいっちょ踏ん張ってみる所やと思いますわ。ただ、安村さん達に追いつくのはまだまだ不可能やと思います。流石にもっとるスキルに差がありすぎると思いますわ」

「そうですね……近々の目標はスキルオーブ一個ってところじゃないですかね。安村さん達もこの辺ではドロップが無いという話でしたし、相当な回数この階層を回っているはずですから、そろそろ出てくれてもいいような予感はします。何が出るかまでは全く解りませんが、最悪でも【生活魔法】、良ければ何らかの属性魔法、もっと良ければ耐性スキル、それ以外の未知のスキルが落ちる可能性もありますが、狙っていくのは有りだと思います。狩場を独占できているという事はスキルオーブのドロップも自分たちの成果に直結しているという事になりますから、気合を入れて挑むのは悪くないでしょうね」


 横田と平田がそれぞれ論をかわす。


「出来れば被ってないスキル、もっと良ければ【物理耐性】ってあたりじゃないかな。我々にとっての優先順位で言えばこういう形になると思うよ」

「【物理耐性】もう一つあればより前に出て戦えるから戦闘効率はかなり良くなるでしょうね。喰らって回復して……と進んでいくのはあまり効率がよくありませんし、回復する手間を減らすために平田さんには最前衛を任せてる形にはなってますから、もう一枚壁役として務められれば更に効率よく進めると思います」


 多村、村田は【物理耐性】が欲しいという物欲センサーをガンガンに稼働させながら自分の意見を言う。特に村田にとっては、この中で唯一スキル無しで進んできたこともあって、物理耐性が落ちるなら自分が覚えて前衛に出たい、という気持ちが強くあるのだろう。


「じゃ、三十四層を何か出るまでひたすら回り続けるという事で良い? 出たら出たでその後で何か考えましょう」

「それで問題ないと思います。今我々に足りないのはこの周辺での戦闘回数とスキルですから」

「しかし【索敵】まで譲ってもらったって言うのにまだ追いつけてないというのは歯がゆさを感じるね」

「リーダーは早く同じ階層で会えるようになって休憩しながらイチャイチャしたいだけやないですのん? 」


 平田が茶化しながら真剣な場面に少し柔らかな空気をもたらす。


「否定はしないわ。それもある。でも私たちの今年の目標が安村さん達に追いつくである以上、それは出来るだけ早めに達成しちゃいたいところじゃない? 」


 新浜が言い切ると、誰かが口笛を吹く。


「それもそうですわ。目標はあくまで目標であって、時間ギリギリ一杯使って達成しなきゃいけないもんでもないですからな。達成したらしたで、新しい目標を見つければええだけの話です。ただ、無理な探索はしない。あくまでいつものペースで進んで、その上で出来ることは頑張ってやる、それでええと思います」


 平田が周りを見回すと全員が頷いている。方針は決まった。


 新浜パーティーが三十四層へ上がる。普段なら三十六層へ上がってそこで実力の確認と行くところだろうが、普段とはリポップタイミングの違う環境なら、より確実にリポップする場所もタイミングも数も慣れている三十四層で確実に倒していく、というのが相談の結果決まった探索スケジュールになった。


 ダンジョンウィーゼルとワイバーン、特にワイバーンはまだ要注意だ。【魔法耐性】を持ってるわけでもない新浜パーティーにとって、ブレスは厄介極まりない相手であることをそれぞれが自覚しており、ブレスを必ず吐いてから地上に下りてくるという行動パターンを植え付けられた相手に対して、それぞれが自分がベターな行動でブレスを回避して地上に降り立った後スムーズに行動できるように心がけていた。


 新浜はワイバーンが降り立ったと同時に【風魔法】で翼を切り裂き、再度空中へ逃げられないように。


 横田は【水魔法】で水球のトンカチのようなものをイメージしそれを頭にぶつけることでワイバーンを昏倒させることを念頭に。


 平田はブレスを至近距離で避けてすぐに肉弾戦に移れるようにできるだけワイバーンの足元へ。


 多村は【索敵】で周辺を警戒しながら、ワイバーンにつられて他のモンスターが乱入しないか監視するポジションに。


 村田はブレスを確実に回避して新浜が狙わないほうの翼を攻撃しに、それぞれ動く。


 五人がバラバラに、しかし一つのことに向けて集中して動くため、ワイバーンは誰を攻撃するかどうか少し悩むような仕草を見せるが、その間に横田の【水魔法】で脳を殴られ、軽く脳震盪みたいなものを起こす。その間に全員でワイバーンに殴りかかる。


 三十四層なら出来る、ワイバーンの五人同時に殴りかかるフォーメーションはてきめんに効果を発揮している。ブレスに当たらないことが前提の作戦だが、今のところこの方法で失敗した回数は一回。多村がギリギリブレスを避けそこなって燃えそうになったことがあった。その時は横田の冷静な【水魔法】によって鎮火し、ヒールポーションのランク2程度の火傷で済んだ。


 彼らにとって初対面のワイバーンでの初手の出来事だったため、ワイバーンのブレスがどのような形で発射されるかがまだ彼らにとって未知の攻撃だったからこそ起きたアクシデントと言えよう。多村は「美容院でパーマ掛ける手間が省けた」と冗談めいていたが、そこそこの精神的ダメージは受けていたようで、ワイバーンのブレスが飛んでくる際は最も遠くにポジションを取るようになったのもそのせいである。


「今回も何とかなったね」

「段々ブレスの動きに慣れてきたのもあるけど、スキルのほうも攻撃のほうも強くなってきた感が伝わってくるね」

「ここに来てから三回ぐらいステータスブーストのレベルが上がりましたからね。もう二つぐらい重ねておきたいところです」

「安村さん達は一体何回レベルアップを繰り返しているんだろう? ここより深い所で戦い続けているんだからその分だけ早くもなりますよね。本当に追いつけるんだろうか」


 新浜パーティーは段階が上がることをステータスブーストのレベルアップだと認識しているため、レベルアップと呼称している。閑話。


 何度も通っている三十四層。ダンジョンウィーゼルの動きにも慣れた。もう耐性が有ろうと無かろうと攻撃を避けることも難しくなくなった。ただ耐性があるともう一歩踏み込んだ戦い方が出来るようになるんだろうなあとは全員思っているので、その際の体の動かし方は熟知しはじめていると言っていい。


 安村ならば雷撃でバツッと一発で焼き焦がして終わりなのだが、新浜パーティーで一番属性スキルに精通している横田とて、【水魔法】で深めの切り込みを入れる所が精いっぱいというのが今の新浜パーティーの状態だった。それでも人数差でカバーできるので、二人で潜っている安村達の異様さが更に浮き出ることになる。


「しかし、二人で三匹四匹相手にしてるってどうやってるのだろうね」

「【雷魔法】でスタンさせて、そいつが動けない内に一匹ずつ倒していく形じゃないですかね。結構基本に忠実なことを地道に重ねていると思いますよ」

「潜る時間の差かあ。芽生ちゃんが夏休みの間に頑張ったところを半年遅れで私たちが潜ってるってことね」

「その半年を頑張って三ヶ月ぐらいに出来れば追いつくのも難しくないんじゃないかな。焦らなければ大丈夫だと思うね」


 ぼやく多村と新浜を横田と村田がなだめている。ぼやきつつも目の前のモンスターを処理しつつあるのは成長の証と言えるだろう。


 ワイバーンのブレスをかいくぐりながらワイバーンを倒すが、流石にワイバーンは個体数が少ないだけあってスキルオーブのドロップは望める物では無かった。そちらは完全に諦め、ダンジョンウィーゼルからのドロップに狙いと願いを絞ることにした。


 いつもよりも少し速いペースで往復し始め、途中のダンジョンウィーゼルからスキルオーブを無事に拾い上げたのはその一時間後だった。


「【物理耐性】を習得しますか? Y/N 残り二千八百七十七」


 横田が代表してスキルの内容を確認し、物理耐性であることを説明する。


「【物理耐性】らしいです」

「やっと一つ出たかー。これでまた一歩近づいたってところかな」

「で、誰が覚えるの? これ」

「考えてませんでしたね。とりあえず安全地帯まで行きますか。その後でゆっくり考えましょう」


 自分達が使う前提なので猶予時間は四十八時間ある。焦って今使いどころを決める必要はない。横田のバッグの中に確かに仕舞いこまれたスキルオーブを確認すると、現在地から最も近い三十五層へ下りる道を選んだ。


 高額スキルを背中に背負っている横田の胃が少し痛む程度の消耗で無事に三十五層にたどり着くと、早速誰が覚えるかの相談を始めた。


「相談……と言ってももう誰に行くかは決まってるようなものよね」


 新浜が素に戻る。約一名を除いて頷く新浜パーティーの面々。


「そうですね。村田さん、どうぞ」

「え、俺が覚えちゃっていいの? 」

「まだスキル持ってないの村田君だけだしね。これで各自スキルを一つは持ってることになるわけだ」

「じゃあ、遠慮なく……イ、イエスで」


 村田の体の中に沈み込んでいくスキルオーブ、発光する村田。固唾をのんで見守る他のメンバー。


 発光が収まると、いつもの調子の村田に戻り、村田はあちこちつねったりして、【物理耐性】の効果がどうなっているか確かめている。


「平田さん、一発殴ってもらっていいかな。軽めで」

「ほいきた」


 パチンと気持ちのいい音が響く。腰が入ってないが小気味の良い右フックが村田を襲った。村田はそのまま何事も無く立ち尽くし、平田のほうもふむ? といった感じで手ごたえの無さを感じ取っていた。


「なんか前に試しに殴った時より手ごたえがありましたな。なんか図太い芯が入ったようなそんな感じですわ」

「どうやらちゃんと効いてるみたいです。痛くないですし、脳を揺さぶられた感じもしません。確かに効いてる気がするけど……なんか物足りないな」


「ちょっと村田さん、それはやりすぎです」


 村田はまだ自分でも信じられないようで、自分の腕を剣で斬ろうとして横田に止められている。


「これでやっとパーティーみんな横並びってところかな。次はワイバーンからドロップ……は厳しそうだから三十三層に上がって同じダンジョンウィーゼルで次のスキルオーブを狙うのでどうだろう? 」


 早々と数日分の目標を達してしまったため、新浜が新しい提案を出す。


「それが良さそうですな。三十六層はまだ厳しそうやし、このイベントが終わってから挑むんでも悪うはないと思いますし、この期間中は三十三層のドロップ品を目指していくという事で」

「その前に荷物の整理と軽く胃袋に入れていきませんか。気を持ち直すのも大事じゃないかな」

「そうですね。正直三十四層を何往復かした分だけドロップ品も溜まってますし、一旦下ろさせてもらうと楽が出来ます」

「じゃ、早めのご飯の後で三十三層という事で異議ある人」


 無音。承認はなされた。


「じゃ、ちゃっちゃと作っちゃうから待っててね」


 新浜がどこから取り出したか使い慣れたエプロンを装着すると、荷物をごそごそと漁り始め、鍋に移した人数分より多いパックライスと安村の家で作りかけにしておいた野菜炒めを取り出す。まずパックライスを温めて山盛りのご飯をドサッと用意すると、皆がご飯を食べている間に自分の分を確保しつつ、野菜炒めの仕上げに入る。


 今日も欠食児童たちは元気に食事を囲んでいる。村田の表情はあまり読み取れないが、やっとパーティーのメンバーに横並びになれたんだという自信が少しだけついたようにも見えた。その分食欲も増えた。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
「かろうじて」の使い方が違う気がする。「どうにかなった」って感じの言い回しだから避けたならともかく、避け損なったなら他の言い方がよいと思う。
新浜パーティーの描写を読んで、安村さんの思考は二段とび三段とびで飛躍してるんだなあと改めて思った。しかし地の文は誰目線だこれ? ミルコ目線?
仲が良くて良いですね。安村パーティーが目指すべき目標となってヤル気に満ちてるのもいいな
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