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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第十四章:ダンジョンよもやま話
830/1206

830:イベント中四十八層 3/4

 食事を終えて一休み。雑誌を適当に読みながら胃袋が落ち着くまでの時間を過ごすが、芽生さんがすっくと立ちあがり、こちらへ向く。


「そういえば【生活魔法】体験をまだ済ませてなかったですね。ウォッシュがどんな効果かまだ味わった事が有りません」

「食後の休憩としてはちょうどいいか。早速やるぞ。ウォッシュ」


 早速かけてあげると、芽生さんはビクッと震えながら両腕を前でクロスさせて悶え震える。


「なんか、全身を直接まさぐられた感じ。その……胸の先っぽまで」

「あぁ……それで結衣さんにセクハラって言われたのか」

「やっぱり。これ、他の女性にかけるの禁止。私と結衣さんなら許す」

「こっちとしては触ってる触感が無いので一方的に禁止されるともの寂しさを感じるけど、誤解される可能性があるのは伝わった」


 たしかに、息子の先っぽまで撫でられるような感触……とかんがえると、俺も男性相手にセクハラしてることになるな。迂闊にかけるのはほどほどにしておこう。高橋さん達も同じ感想を持ったのだろうか。と、結衣さんなら許す、と許可している点と、結衣さんが個人的にどう思っているかを考えてないところとツッコミどころはあるが、素直に従っておこう。


「とりあえず後は、服だけかけるという事も出来るんだけどやる? 」

「あ、服は大賛成かも。それだけスーツの寿命も延びるってことですよね」

「実際に洗うよりは確実に汚れが落ちるし、繊維に対してどう作用するかまでは解らないけど、お手入れとしては充分使い物になってると思う」


 とりあえず服もウォッシュ。こっそり気づいていたが襟口に飛んでいたごった煮の汁も落ちていることを確認。これでよし、と。綺麗になったスーツに袖を通し直し、匂いを嗅いで確認している。


「そういえば、他のダンジョンの探索者さん達とは連絡とってるんですか? 」

「一応ね。エレベーター前後でいくつか会話は交わしたよ。解る範囲のことは伝えておいたから大丈夫だとは思うんだけど。後、マリモのくれる謎の種、鑑定に回ってきたかどうかとか。回ってきたのは教えてくれたけど結果は教えてくれなかったな、さすがにそこは秘密らしい」

「それを聞いたってことは、ここのダンジョン産のドロップ品だと証明しちゃいましたね」

「まあ、良いんじゃないか? 彼は自分のスキルでいろんな物事について一方的に知る権利を有しているんだから。その代償が今こうしてのんびり休憩しているような様をいろんなダンジョンマスターから見られている、という状態につながるわけだ。【保管庫】と【鑑定】両方持ってる更に希少な探索者も探せば居るのかな」


 そもそも公開しているかどうかも謎だが、両方持ってたらそれ以上に便利な事は無いだろうな。同時に便利に他人に使われるってことにもなるが。


「そうですねー、もしかしたら居るかもしれませんね。【保管庫】にしても【鑑定】にしても数十ダンジョンに一つでしたっけ? そんなレアスキルですから、国内を全力で探せばあと五人ぐらいは出てくる計算になります。それに他のレアスキルって一体何でしょう? どんなものがあればレアスキルだと判断できるんですかね」

「まずレアスキルとして一つ判明してる【採掘】だろ? 後はそうだな……ミルコが移動に使ってる転移とか、スキル化すれば便利なのは確かだろうな」

「転移がスキル化したとして、本人だけ転移なんですかね。それともおてて繋いで仲良ししてれば一緒に転移できたりするんですかね」

「少なくともお菓子やコーラと一緒に転移できるのは間違いないからな。自分の身の回りは確実だろう。他の人、パーティーメンバーも一緒に出来るかどうかは鍛え方次第じゃないか? 」


 少なくとも転移の段階で異次元間移動という事象を起こす訳だから、かなりの魔力操作が必要になるだろうな。そうなるとミルコの魔力って一体どれだけあるんだろう。気になるが、多分途方もないぐらいの差があるんだろうな。それでもそう感じさせないのは魔力隠蔽が働いているのか、それとも実は我々の前に見せてる姿が世を忍ぶ仮の姿で実はドラゴンだったりとか、そういうのだろうか。ミルコの謎が一つ増えたな。


 程よく雑談して休憩したところで午後の部開始。午前と変わらないモンスター量に満足しつつ、ギリギリまで近寄って一気にダッシュ。ホウセンカの実が成る前に仕留めることが出来るようになった。これも【隠蔽】の効果だと思うとかなり戦闘が楽になったな。


「順調ですね」

「安心すると怪我するが、隠蔽と索敵と耐性で三重の防壁張ってるようなものだからな。これで抜けるのが厳しいとなったらその時は本格的に探索のやり方から考え直さないといけなくなるな」


 これ以上はそう無いぐらいの安全策を取っているのだからこれぐらいの楽さが無くては困る。そしてこの楽さを出来るだけ維持しながら進むのが目的だ。とりあえずのんびり進んでしっかり稼ごう。


 またさっきと同じ四十八層の周回コースをぐるぐるとまわる。四十八層のモンスターセットはハエトリグサ一匹に対してマリモ四、といったところ。コスト的に考えるとマリモ二匹とハエトリグサ一匹が等価値らしい。ホウセンカ二匹とマリモ三匹というグループセットがでるので、全体コストは6。ハエトリグサが2でマリモが1と考えるとホウセンカはその中間、といったあたりか。


 この場合、最悪のケースとしてホウセンカ四匹というアセットが用意されていても文句は言えないのだが、とりあえずそのケースはまだ出会った事は無いのでさすがに厳しいと考えられているのだろう。


 ホウセンカはグループに二匹まで、ハエトリグサは道筋に一匹のみ出現で必ずマリモとセット。この基準から外れない限り、この階層で何かしらの問題が起きたと判断する材料にもなるだろう。


 そして小部屋にはハエトリグサは湧かない。ハエトリグサを目的にしてうろうろするなら、小部屋は無視して真っ直ぐ行くのも選択肢としては有りだが、今日はちゃんと稼ぎたいので小部屋もちゃんと覗いてモンスターが居るかどうかを確認し、居たら殲滅する。この草刈り作業ももう数回目。大まかな配置とどの部屋にどのモンスターが湧いているかも徐々に頭に入り始めた。


 そういえばマリモもホウセンカもハエトリグサも、正式名称はいつつくんだろうか。流石にいつまでもこの呼び方では落ち着くまい。動画も画像も攻撃手段も提出してあることだし、是非かっこいい名前をつけてあげてほしいものだ。


 こっちとしてはマリモっぽいとかホウセンカっぽい仕草とかハエトリグサにこんなんあったよね? 的な内容をフワッと伝える事しかできないので、カニの件みたいに真中長官の独断でドウラクと名前を付けられたりするものだが、笑える内容でなくても良いので早めに決めてほしい。でないと心の中で永遠にこのままになっている可能性はある。


 名前が決まれば保管庫の中身も入れなおすことにより名前が一新されるのだが……中々物事とはスピーディに進むことと進まないことが有るらしい。モンスターの名前の優先順位はそれほど高くないと考えられるな。


 日本の、と前置きをするが、おそらくダンジョン庁はダンジョンマスターの存在を公表したがっているだろうし、そっちへの対応に注力しているんだろう。モンスター名は海外基準でも良いので早いところ決めてほしいな、と思っている。


 マリモが六匹転がってきた。一匹を蹴り飛ばし奥のマリモにぶつけて体勢を崩している間に近づき、順番に中心を貫いて一撃で倒していく。マリモはもう物の数ではないな。


 と、ここでステータスブーストが上がる感触を覚える。芽生さんのほうを見るとあちらも同時らしい。同時に上がるのは珍しいな。これでまた一つハエトリグサを倒しやすくなった、と考えるとその分探索のペースが上がってより確実に収入を稼げるようになる。


「ステータスブーストは何回上がっても気持ちいいもんだな。だんだん人間離れしてきた気がするが、探索者やってる以上今更だろうな」

「そうですね。スキルにしても育ってきてるようですし、一度トラックにでもぶつかってみますか? もしかしたら無事かもしれませんよ」

「さすがに上で試すのはちょっとな。でもジムか何かに通って一度自分の能力を確かめるのは重要かもしれない。トップ探索者になるとこのぐらいのことはできるんだぞ、という基準にはなるかもしれないな。流石に月額会員で何処かのジムに通うなんて事はしないだろうから、どこか探してみるか」


 最近ダンジョン外で自分の力を全力で行使する、という機会がない。重たい荷物をそうそう持ち歩くわけでもないし、全力で走ることもしていない。一度試してみるのは面白い結果が出るかもしれない。メモっておいて今度の休日にでも安く使えるスポーツジム体験みたいなものをやってみよう。


 グルグルと回り続け、同じ動作を繰り返す。ライン工時代の経験を存分に活かし、同じ構成同じ配置同じ戦い方の相手でも、体の力の入れ具合や使う魔力の量、使用するステータスブーストの段階を微妙に調節しながら一番楽に戦える方法を模索していく。


 常に全力を出して戦うのは疲れる。肉体的ルーチンワークを長く続けるコツは動作の緩急を小さくすることだ。動作の出し始め、抜き終わりは結構消耗する。常にある程度の威力を維持しながら目標物に入るまでの時間で徐々に出力を上げていって、終わった後も少し力を残しておく。


 まだまだ改善の余地はあるな。この花の迷宮マップは他のマップに比べて駆け足で巡ってきたため、モンスターに対する戦闘回数で言えばまだまだ不足している。よりスピーディーに、よりスマートに、より低労力でモンスターを倒せるようになって、ようやくこのマップにも飽きた、と言えるようになるだろう。そこにたどり着くにはまだしばらくの慣れが必要になるな。


 いっその事雷撃一発で吹き飛ばせるようになるまでここで鍛錬を積む、という選択肢もある。その頃には高橋さん達も次の階層へ向かい、霧のマップの全容を解明してくれているかもしれない。そうすればまた楽な探索が出来る。


 ホウセンカの実が実る前に刈り取り。マリモが蔓を伸ばして来たら逆にこちらへ引っ張り込んで手元に近づけてから斬る。ハエトリグサは葉そのものではなくそれ以外の部分をスキル攻撃するか、葉を切り落として向こうの態勢が再攻撃の準備を終える前に近づいて斬る。スキルをあまり多く使わなくても倒せるのが良い所かもしれないが、その分耐性がある程度ないと厳しいかもしれないな。


 次のマップではどんなモンスターが出るのかな。霧が出ているという事はこちらの視覚をある程度阻害されていると考えて問題は無いだろう。だとすると、向こうからこちらに近づきやすい環境が整えられていると言える。もしくは、視界が悪い所から離れて攻撃してくるタイプか。


 両方出てくる、というのもあり得るな。遠距離からこちらをけん制しつつ、近距離タイプが仕掛けてくる。そういう連携もそろそろモンスター間で行うタイプが出てきてもおかしくはない。先のことを考えると先へ行きたくなってくるのは仕方がない事だが、今は今だな。気を抜かずに戦っていこう。


 と、ここで今日の頑張り分、謎のポーションを一本手に入れた。ハエトリグサが多分1%ぐらいの確率で落としてくれる。まだ査定できないし効果のほども解っていないが、少なくとも深く潜った分だけの効能と金額は示してくれるだろうと思っている。これも臨床実験やらなんやらで早々と結果が出るわけではないだろうが、とりあえず予備として持っておこう。


 こちらとしては民間探索者として当然の要求として、モンスター名の正式命名とドロップ品の査定金額の確定を要求して、それが通った後でようやく下層に向けて腰を上げても遅くは無い。それまではのほほんとレベルアップと称してこの作業を続けるのも悪くない。


 正直、これ以上の収入を得ても使い道に困るのが関の山だと思っているので収入はあくまで数値的な自分の強さだと考え始めている。稼いだ数字が大きいほど強いという指標だ。出来高制の探索者にとってこれ以上解りやすい指標は無い。


 今日も収入は充分なものになるだろう。おおよそだが、このペースならいくらの収入になるか、という算段は付いている。いつも通りの時間まで粘って、そして持ち帰って査定だ。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] ウォッシュは頼まれた時と注意事項もセットじゃないと人には使えないですかねー
[気になる点] 謎ポーション。伏線っぽいなあと感じています あり得るとすれば、「フェニックスの尾」かもしれないと思っています
[気になる点] クスリインフレもそろそろ上限に届きそうな勢い。 あとは、 魔力回復薬 状態異常回復薬 状態異常防止薬(時限) 環境適応薬(時限) 死者蘇生薬 若返り薬 不老不死薬 変身薬(永続) 透明…
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