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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第十四章:ダンジョンよもやま話
828/1206

828:イベント中四十八層 1/4

いいね一杯貰えた……うれしい……

 今日も目覚めの気持ちいい朝。今日は気温も高く、場所によっては四月上旬並みの暖かさになるとかなんとか。まあエアコンつけっぱなしの部屋にはあまり関係がない。しいて言うなら乾燥に気を付けようという所だろうか。


「おはよう安村さん」


 朝食の準備中に結衣さんが起きてきた。今日も二人とも仕事なのに昨晩はお楽しみであった。とてもゆっくりしていたのは確かである。あ、枕の使用感送信しておかないとな。寝る前に軽い運動をしたが翌日の起床時に昨日の疲れは残っていなかった。疲れについても程よく解消してくれているという可能性は高い、と。


「おはよう、結衣さん。朝食もうちょっと待ってね」


 ちょっとお高めのトーストを用意してお高いバターにお高い目玉焼き。キャベツだけはいつもの奴。朝食単価が平均して二百円ほど上がった。一年で七万ちょい余分に食費にかけることになる。俺の中では中々の贅沢だ。朝食は精々昼食までのカロリーのつなぎと考えていた時期もあったが、それではつまらないと思い始めたのが最近。時々遊びに来る二人にも味気ない朝食を用意するよりは多少なりとも食事を楽しんでもらおうという気遣いも出ようというもの。


「悪いわね、泊めてもらったのにご飯まで頂いて」

「一人分も二人分もそう変わらないから問題ないよ。それより、今日の昼食の予定は? 途中まで作り置きして持っていくならキッチン貸すけど」

「今日は昨日の材料から適当に選んで作るから……何にしようかしらね」


 食事をしながら昨日買って俺の家の冷蔵庫に入れてある食材を吟味しつつ、今日の昼食をどう味付けするか悩んでいるらしい。朝食後に俺がいつも悩んでいた奴だな。


「今日は安村さん何食べるの? 」

「今日は炊き立てご飯にごった煮の予定だから、今日までに残った野菜くずとか適当に放り込んで味付けしてギリギリまで煮込んで……かな。あれ、炊飯器のタイマー押してたっけな……と。お、忘れてた。まだ間に合うな。今から炊飯っと」


 危なかった。いざ出かける段階になって米が炊けてなかったでは、炊き立てご飯が食べられないだけでなく、ここにそのまま水に浸かったままお高いコメを放置する事になっていた事だろう。それでは気になってダンジョンに集中できないし美味しいご飯も食べられない。


「今日は芽生ちゃんも一緒なのよね。行き先は四十九層? 」

「その予定だけどモンスターが湧きやすくなってる分危険度が高いから、危ないと判断したら早めに切り上げて四十三層巡りに変更すると思う」

「気を付けてね。助けには行けないんだから」

「さすがにそこまでギリギリ行けるって考えるような判断はしないさ。元々余裕を持って探索してるんだし、今の探索で前に進まない理由も今後の探索に実力が備わって余裕が出るように、ってことだから」


 朝食を取り終わって片づけをし、早速ごった煮づくりに入る。今日はしっかりダシをきかせて野菜を煮込む。ベースになるのは濃縮つゆ。鶏肉を細かく切って炒めた後で野菜を入れて濃縮つゆを一回し分かけて水を入れて軽く煮込む。煮込んで具材が柔らかくなったところで必殺の技、百倍加速を使う。二分ほど保管庫で熟成させることで三時間冷ました分の食材が出来上がってくるので、そこで再度加熱して味を具材の中にギュッと詰め込む。


 焦げないように注意しつつ再度味見……うん、これだけ味がしみていれば問題ないだろう。今日もいい出来だ。時間に余裕があるのでその間に生野菜をザクザクと切ってサラダにして、野菜マシマシにしておく。ご飯をタッパー容器にまとめて入れてこれで完成だ。ご飯をどれだけ消費するか解らないが、多めに炊いておいたので余ることを見越しておく。


 結衣さんはIHの片側を借りつつ、ある程度材料に火を通しておいて現地で完成させて食べる、という形に持っていくらしい。今日のレシピを聞いてみると、二日連続焼きそばは士気が下がるので米の飯をたっぷり食わせるらしい。そのため、パックライスを人数分プラス二ぐらいを持ち運んで、現地で鍋でまとめて温めるんだとか。


 ダンジョンで料理することも考えてレシピを考えておくのも有りか。よりアツアツを召し上がるために最後のチーズ掛けだけ現地でやるパスタとか、そういうものがあってもいいな。記憶の端にとどめておこう。


 二人とも準備できたところでいつもの確認だ。今日は通勤の事情でお菓子は無しだな。いつもより忙しい戦いになる可能性があるんだし、四十八層の様子を今日一日かけてみて、それから苦情を言うために取っておこう。


 万能熊手二つ、ヨシ!

 直刀、ヨシ!

 柄、ヨシ!

 ヘルメット、ヨシ!

 スーツ、ヨシ!

 安全靴、ヨシ!

 手袋、ヨシ!

 飯の準備、ヨシ!

 嗜好品、今日はナシ!

 保管庫の中身、ヨシ!

 その他いろいろ、ヨシ!


 指さし確認は大事である。


「それ、効果あるの? 」


 指さし確認しているのを横目で見ている結衣さん。前にもあったなこんなやり取り。


「時々指さし確認自体を忘れてることもあるから効果のほどは解らないかも。前職の名残みたいなものかな。確認して気づくこともあるから大事と言えば大事。今後も続けていくつもりだ」


 ◇◆◇◆◇◆◇


 今日は車で送迎なのでいつもの電車とバスは使わない。定期でなければ一回分浮いたラッキーとなるのだが随分先まで定期は購入済み。なので結衣さんを暇にさせないために適度に話題を提供しつつ、運転に集中してもらう。やはり助手席に乗っているということで、運転の補助は必要である。


 小さな音量でラジオを流してはいたものの、俺の世代にも結衣さんの世代にもぴったりくる話題では無かった。もうちょっとお年寄り向けの話の内容だったらしい。流れてくる歌も俺の親の世代。まぁそういう日もある。


「特にこれといったニュースはないわね。世の中平和ってことでいいのかしら」

「小西ダンジョンは絶賛混乱中だけどね。まあ探索者世間的な注目度はそこそこあるとはいえ、一時的にモンスターが増えていることは間違いないのだし、しばらくはこの騒ぎを眺めているだけってのも物足りない。せっかくの限定イベントだし参加するほうが楽しみが増えるかな」

「せっかくだし儲けて帰る……まぁ箸休めみたいなもんかしらね。出来ればスキルオーブのドロップでも増えてくれると更に有り難いんだけど」


 確かに、結衣さん達は進捗の割りにスキルオーブのドロップ回収回数が少ないように感じる。自分たちが拾い過ぎであるという気もするが、この先へ進むにはもう二、三何かしらのドロップがあったほうが安全であることは間違いないだろう。【物理耐性】と【魔法耐性】を人数分そろえろとまでは言わないが、それに近いところまで持っていく算段を立てる必要もあるだろうな。


「スキルオーブを落とさせる方法か……やはり回数をこなすしかないから、今の状況でいろんな階層に行って戦い続けるのが一番の近道かもしれないな」

「結局時間と戦闘回数の戦いなのね。何か見つけた裏技とかないの? 」

「裏技か……最近は一つしかないが、今のところこれといって探索に役に立つ裏技では無いかな」


 マリモの蔓を剥くだけ剥いてから倒すと種を確実に落とす。ただ、この種がそこまでして価値のあるものかどうかは微妙なラインであり、このイベントの最中でそんなのんびりしたことをしてたら後ろからモンスターがリポップして挟み撃ちになる可能性を考えなきゃいけないだろうな。


「とりあえず俺の手持ちの情報では三十三層から三十七層にかけてスキルオーブのドロップの情報はない。高橋さん達が握っているかもしれないが、充分にチャンスはあると考えても良いと思う。せっかく広いフィールドを自由に使えるのだからスキルオーブドロップに賭けて濃密な時間を過ごすという手も有りじゃないかな」

「……考えておくわ」


 その後は会話をせず、無言で小西ダンジョンへ向かう。やはり他人の運転でダンジョンに行くのは楽だな。バスよりちょっとだけ早いし、道中のバス停ごとに寒い思いをせずに済むし、至れり尽くせりだ。


 しばらくして小西ダンジョンの近くの駐車場に車が止まる。ここは小西ダンジョンギルドで借りているスペースだ。十二台分ほどあるが、結衣さん達がそのうち五台を使っている。残りはギルド嬢達と多分ギルマスの車で収まっているのだろう。その分ギルドの敷地内にできたスペースは、最近できたリヤカー置き場となっている。敷地面積については多分今も随時交渉中なんだろう。


 駐車場で車を降りると、ダンジョンまで目と鼻の先。コンビニで買い物をする余裕もある。今日はかなり時間に余裕を持って出てきたので、ギルドで温まりながら芽生さんを待つか。


 芽生さんはいつも通りの時間のバスで到着した。結衣さんは既にパーティーと合流し、ブリーフィングを始めているようだ。邪魔しないでおこう。


「今日は一本早いんですか? いつもの時間で来たつもりなのに先に居ましたよね。もしかして昨晩はお疲れでしたか? 」


 芽生さんが珍しい、といった感じでこちらに顔を近づけてくる。


「ご想像通り、昨晩はお楽しみでしたよ……と、あんまりそう拗ねるな」


 首筋をすりすりとしてやるとそのままくすぐったそうに首をすくめる。猫かな?


「じゃあ今日は私とお楽しみしてもらいますかね。明日は午後講義なので午前中は時間があるんですよ」

「タイミング的にはちょうど良いかもしれないな。ちょっと明日は午後から仕事になりそうでな」

「何かあったんですか? 」

「ま、ここで話してても続かない。入ダン手続きと移動しながらここ数日で有ったことを話していこう」


 入ダン手続きで日帰りを伝えてリヤカーを引き一層を歩き抜ける。


「なんかいつもよりスライムが多く感じますね」

「それも一つの話す内容の内なんだけどね。こうスライムが多いとなんだか懐かしさすら感じる」

「潮干狩りおじさんとしてはスライム狩り放題で喜ばしい所じゃないんですか? 」

「俺一人ならそれも有りだが、今日はせっかく深くまで潜れる日だからな。稼げるときに稼いで帰らないと勿体ないでしょ」


 ところどころ移動の邪魔になりそうなスライムを雷撃で吹き飛ばしつつ、エレベーターで少しの間順番待ちをして時間を潰される。モンスター増加の報を受けてか、今日は清州ダンジョンではなく小西ダンジョンで稼ごう、という探索者が若干増えているような気がする。


 エレベーターに乗ったところでネタバラシ。ミルコにソシャゲの限定イベントについて説明した結果、ミルコなりの限定イベントとしてモンスターの増加が行われている事と、そのおかげでモンスターが目の前でもリポップする事態になっていることを伝える。


「なるほど、また洋一さんのせいでダンジョンが大変なことになってるというわけですね」

「俺のせいじゃないと言いたいところだが、この事態を止められなかった以上俺にも責任が無い訳ではないからな。まあ、普段混みがちの階層でもモンスターがそれなりに出ているので感謝祭みたいなものだろうか。で、ここで問題なんだが」

「四十八層も同じようにモンスターがあふれてる可能性、ですよね」

「そう。なので最悪四十二層に戻ってお茶を濁すのも有りだ、と今の内に言っとこうと思って」

「確かにまだ四十八層で自由に動ける、というほど強くなれてませんからね。それに新しい階層にチャレンジするのもあの霧の中でモンスターがわんさかいたら対応しきれなくなる可能性は高いです。安全に行きましょう」


 ミーティングを終わらせたところでエレベーターの中で一服。そういえば今日は朝のコーヒーの一杯を作るのを忘れていた。何日か前でもう少し冷めてるかもしれないがそれで満足しておこう。


 エレベーターが四十九層に到着。すると人の気配。これは高橋さん達居るな。リヤカーをその場に止めると索敵を頼りに適当にふらつくと、青い反応が四つ。どうやら勢ぞろいらしい。


「どうも、おはようございます」


 休憩だからと気を抜いていたのか索敵をOFFにしていたのか、ゆったりとした雰囲気を醸し出していた。


「やあ安村さん。おはようございます」

「その様子ですと泊まりですか? このモンスターの異常出現のせいですかね? 」

「それもありますが、もしかするとダンジョンの底からモンスターがあふれ出てくる可能性が捨てきれないと判断されまして。現状最深層であるここで見張りみたいなものをしているところですよ」


 情報はまだ錯綜している最中か。それとも迂闊に情報を流せないと判断されているのか、それともタイミングが合わなかったのか。とりあえず彼らには真実を伝えておいたほうが良いだろうな。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 安村さんのヨシ!とナシ!が好きなので、ずっと続けてほしい
[一言] > 軽い運動」 激しい運動すると結衣さん壊れちゃうから > お高いバター」 お安いバターというものが、もう無い > 一年で七万ちょい」 預金が減らねえ > 米が炊けてなかった」 そんな…
[一言] あー、イベントの情報はここまで届いてないのか 見張りご苦労様です
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