表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第十四章:ダンジョンよもやま話
822/1206

822:出ちゃった

 気持ちいぃいいぃいぃいぃ朝を迎えた。いつものダーククロウの枕ではない、早速実戦配備されたスノーオウルとダーククロウの混合品である新型枕のサンプルを使用した感想である。


 睡眠時間はいつもと同じぐらい。短くなるかなと思ったが、今回はそうでは無かった。もしかしたら明日は短くなるかもしれないので、睡眠データとしていつものメモ帳ではなく報告としてレインに送っておく。


 実験データ被験者安村:

 一日目、通常通り起床。睡眠時間の短縮効果はなし。起床時に眠り足りないという感覚はほぼ存在せず、寒いが布団の中でもう少し過ごしていたいといういつもの気分はない。心地よく起きられたと思う。体調などにおかしいと思われる点はなし。ダーククロウの布団も同時に使用しているため、枕の効能がそれほど効果が出ていない可能性はある。次の日に期待したい。


 送信っと。しばらく毎日報告するようにしておこう。しかし、この気持ちよさは久しぶりだ。布団と枕のダブルパンチで色々と大変なことになっていたことを思い出す。あの時以来の心地よさだ。


 スノーオウル枕で眠ったあの時のバチッとした寝覚めの良さはないが、体の不調やなにやら体の中がグルグルするような、睡眠不足からくる体調不良も見られない。取れるだけ睡眠で体の調子を整えて、眠さはしっかりと抑えられている。このサンプルはしばらく保管庫で使いまわして、ダンジョンで小休止する際も使っていこう。


 いつもより美味しく出来たような気がする朝食を食べて、昼食の回鍋肉を作り出す……と思ったが、醤が切れていたので代わりに濃いめに溶いた中華だしでその代わりとする。こういう応用が利かせられるかどうかで料理人の腕が変わるらしいと誰かが言っていた。その変化が受け入れられ、新しいメニューとして食卓をにぎわしていくそうだ。誰だったかな。


 とりあえず回鍋肉もせっかくならもう一つ変化を……ということで片栗粉を溶いてチョイととろみをプラス。味は……回鍋肉ではなくなったな。これではただの肉キャベツピーマン炒めだ。代わりに味噌を入れてでも良かったかもしれない。次回への反省点としてメモっておこう。


 今日は米も炊いた。お高い米だ。美味い米と美味そうな回鍋肉をおかずにして食が進まない訳がない。もう今日は勝利が確定したようなものだ。心の中で今の内に高らかにファンファーレを鳴らしておこう。


 保温ポットにコーヒーを注いでしっかりと蓋を閉めて保管庫へ。これでいつでも熱々の気分転換を摂取できる。ペットボトルと違ってほぼ淹れたてを飲むことが出来るのがいいところだ。


 昼食の準備は出来た。朝の片付けもバッチリ。寝間着は洗濯機に放り込んで目下脱水中。風呂はタイマーをかけた、今日の夜は掃除をしよう。



 万能熊手二つ、ヨシ!

 直刀、ヨシ!

 柄、ヨシ!

 ヘルメット、ヨシ!

 スーツ、ヨシ!

 安全靴、ヨシ!

 手袋、ヨシ!

 飯の準備、ヨシ!

 嗜好品、今日はナシ!

 保管庫の中身、ヨシ!

 その他いろいろ、ヨシ!


 指さし確認は大事である。今日も順調、いつも通り。さあ日銭を稼ぎに行こう。と、その前に洗濯した服を干してからいかないと帰ってきてからしわしわの服を相手取ることになる。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 いつもの電車、いつものバス、いつもの時間。今日は風が強いのでバス停に止まるたびに冷たい風がバスの中に吹き込んでくる。早く暖かくならないかな。


 ダンジョンに到着し入ダン待ちの列に並ぶ。ニュースによると、エレベーターが出現を始めた後ぐらいから探索者に転職するという不思議な現象が起こりつつあるらしく、日々探索者の数は増えているらしい。そのせいなのか、以前に比べて入ダン開始待ちの人数も一割から二割ぐらい増えた気がする。


 ダンジョンに一度入ってしまえばそう大きな違いこそないものの、他の階層ではそこそこ賑わっているんだろう。七層の混み具合からもそれは窺える。確かに小西ダンジョンも探索者は増えている。探索者が増えればその分ダンジョン庁も儲かる。ダンジョンも魔素の放出が早まって儲かる。探索者にとってはライバルが増えて……儲からない場面もあるだろうな。さすがにそこまでどうにかできるような設計になっていない。


 根無し草の探索者なら自分が潜りたいダンジョンを自分で決めて自由に移動することが出来るのだからそういう生き方も有りだとは思う。その内どこかのダンジョンが攻略されることで探索者そのものの分散が起きる可能性だってあるんだ。他の探索者の心配は出来るが実際に何か手を講じることが出来るかは解らないな。


 いつも通りリヤカーを引いてエレベーターで七層へ。茂君は今日も良い茂りっぷりを見せてくれた。今日の茂君占いの結果は好調らしい。とれたてほやほやの茂君の戦果を確認する……確認……あっ。


 スキルオーブ(生活魔法) x一


 保管庫リストの中にはスキルオーブ、しかも待ちに待っていた【生活魔法】の文字。これは久々の大当たりだ。前回茂君がくれたのは【水魔法】だったな。芽生さんを泣かせてまで無理矢理覚えさせたような記憶。懐かしいなあ。


 とりあえずスキルオーブをそのまま保管庫に入れておいて、まずは七層へ戻ろう。そして七層のノートにドロップ情報を記録しておこう。


 そう思い速足で七層へ向かい、久々に乗る自転車で中央部へ。七層の自転車も気が付いたらあっという間に増えていて、今では違法駐輪の山みたいになっている。それぞれ観察すると丁寧に空気圧を調節されているようで、誰かが管理しているらしいことは解った。


 七層のノートが切れそうになっていたので補充。そして一番新しい所に今日の日付と出た階層、出したモンスター、そして出たスキルオーブを報告。後は気が向いた誰かが地上に戻るついでにネットに上げて情報共有されていくだろう。


 今日はもう満足して帰っても良いぐらいの稼ぎだ。朝から本当にツイてる。このまま潜って何か不都合でも起こさないかと不安がよぎるが、いつも通りの動きを心がけていればそうそう問題など出る可能性は低いだろう。こういう時こそいつもの動きを忘れずに、だ。


 そして再びリヤカーのところまで戻り、今度こそ四十二層へ。愛読書をリヤカーに広げてリヤカーに腰かけたまま楽な姿勢でじっと時間を待つ。


 雑誌は三冊。関西版、関東版の月刊探索ライフ、そして探索・オブ・ザ・イヤー。最近知ったのだが月刊探索ライフは関東版と関西版の二種類あったらしい。たまたま小西ダンジョン前のコンビニに両方並んでいたので買ってみた。


 何が違うかと言えば、関東風関西風の味付けの違う探索料理レシピの記事が違う事と、それぞれ見出しが「高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンにエレベーター正式設置! 」か「大梅田ダンジョンにアレ! 」という見出し、そして野球情報が載っているかどうかである。野球情報が載っているのが関西版。


 内容はそれぞれ、一層から二十八層までのダンジョンのエレベーターの位置と解説。それと取材した際の混雑度、共通するのはエレベーター待ちの行列は守りましょうの文字。QRコードからのリンクで探索者視点でのエレベーター内部の様子やエレベーターの作動手順などもそこを参照して見れるようになっているらしい。俺が見ても今更感が強いが、エレベーターを使ったことが無い現代文明から遠く離れた人にとっては真新しいものに映るのだろう。


 冗談はさておき、後ろをつかえさせないためにもその手順をあらかじめ公式の情報だけでなく市井のソースからも公開しておくことは目的に適うのだろうな。細かい所や各階層の様子はどちらも似たようなものらしいが、民度が違うらしく関東版のほうが若干真っ直ぐに並んでいるようにも見える。


 料理はどっちのほうが好みかと言われると作ってみないと解らないというのが本音である。関西風の味付けが好きな物も、逆に関東風の味付けのほうが好みの物もある。これは作り分けて味付けを確認して好きな方をローテーション待機リストに入れていこう。ページに折り目と料理にチェックをつけておく。


 また、今後の流れとしてオーク肉とレッドカウ肉の査定が劇的に増えるのではないかという予想がされている。確かに十四層と二十一層の流通を考えたらその二つの製品については移動が楽になった分だけ日帰りで肉を持ち帰られることも幸いするので言うとおりになるのではないかと俺も思う。実際清州ダンジョンではレッドカウ肉とオーク肉の査定が増えたという話はエレベーターが付いて一か月後ぐらいだったかな? そのあたりの誌面で読んだ覚えが有る。


 ついでに言うならば二十八層まで潜れるようになった層がエレベーターで帰ってくることも考えると、トレントの実や馬肉にも同じ影響は出そうだ。これはカメレオンの革も値下がり対象に含まれるのかな? さすがにエレベーターのある全ダンジョンでドロップして手軽に持ち帰られている事を考えると、供給過多であると考えられる。


 馬肉の価格は……これから次第だな。下手な馬肉を食べるよりも美味しかった場合は上昇するだろうと考えることが出来るが、その分供給が増えているので需給の一致がどのあたりで行われるのか。様子見しなければならないところであろう。


 個人的には三十層まで混んでいても三十一層から先はB+ランクの占有地帯であり、三十一層にはあの長い橋がある。アレを往復するだけでしばらく分の馬肉の供給としては充分だろうし、手持ちの馬肉も日々減りつつはあるがまだまだ余裕がある。余裕がなくなった時にまた取りに行こう。もう四十三層までならソロで行っても問題はない程度に自分の実力はあると考えている。


 まだしばらくはソロでドウラク狩りが続くかな。そう思っているところでエレベーターが四十二層に到着した。エレベーターから降りたところでノートを確認。特に書き込むような内容は無いらしい。普段俺がソロで活動している場合は四十二層で活動をしているので、俺に連絡がある場合は四十二層のノートに書き混んでくれれば対応する、という話は高橋さん達には伝えてある。今日も何もない、ということは高橋さん達は四十九層周辺を巡っているのであろうことは解る。


 彼らが四十九層に到着したのは俺達よりも一週間ほど遅れた所だったらしい。ノートにはしばらく四十八層で地力を溜めると書置きをしておいたので、彼らの戦力に問題が無ければ四十九層より先、五十層や五十一層方面へ向かっているはずだ。もしかしたら同じ理由を抱え込んで下にはいかずにあえて四十八層を巡っているかもしれないが、お互い共謀して深く潜らずに居ようという協定があるわけではないのでそれぞれの事情があるんだろう。


 もしかしたらハエトリグサのポーションを手に入れるために四十八層での戦闘を強いられている、という可能性もまたある。まあ彼らは彼ら、俺は俺。今日出来ることをこなすだけだ無理をせず今日もドウラクの身を市場に供給する仕事に邁進しよう。


 今日は気楽な狩りである。【生活魔法】を拾ったことで今日の実質的な稼ぎは既に五千万円を超えている……と、念のため最新号を確認。相場は……うん、変わらず五千万円だな。やはり生活を保つことに一定の需要があるらしい。最近は【火魔法】も相場が上がり始めた。千五百万円から二千万円ほどになっている。二十五層で索敵のお供に各属性魔法をプラスすることでより楽な探索が出来る、そう考えた探索者が値を吊り上げているらしい。


 俺の普段使う【雷魔法】は五千万円。魔法耐性のあるモンスター以外に対してつぶしが利き、相手の攻撃を一時的に止める手段としても好評なようだ。属性魔法は全体的に一千万円ほど値上がりしている計算になる。これなら他所の過疎ダンジョンへ行ってスキルオーブのドロップだけを狙って探索者活動をする、という理由で過疎地へ一時移動していくというのも常識的な範囲になり始めているな。


 探索者の絶対数も増えている事だし、スキルオーブの相場は今しばらく上昇気味になるのは仕方がないのだろう。引退する探索者が現状ではいない事も考えると今後ますますスキルオーブの価格は上昇していくだろう。自分で使わない分は上手く売りさばいていかないとな。


 さて、覚えるか。保管庫からあまり時間が経っていないスキルオーブを取り出すと、頭の上に掲げ左手は腰に当てるいつものポーズをとる。するとなじみの音声さんが対応してくれた。


「【生活魔法】を習得しますか? Y/N 残り二千八百七十九」

「イエスだ! 」


 体に沈み込んでいくスキルオーブ、そして光り輝く俺の体。一分ほどして落ち着く輝き。その後、頭の中に流れてくる使い方。なるほど、こうやるのか。


 また一つ自分の金額的価値が高まった。元々保管庫を持っていただけあるから誤差の範囲と言えばそうなのだが、それでも自分に出来ることが増えたというのはうれしい出来事だな。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
安村さんのスパダリ度の上昇が止まらない! 探索者になってから引き締まったボディ、仕事も家事も効率化を進める向上心の持ち主で、ちょっとワーカーホリック気味だけど稼ぎは最上級、家持ちな上に家事は一通りでき…
これで生活魔法の火と風を使えば七輪かBBQコンロ持ち込んで簡単炭火焼肉できるようになるね! あと安村に持ち込みを検討してもらいたいのはポータブル電源と冷蔵庫と電子レンジかしら。
その枕欲しい 布団とセットで超欲しい!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ