813:行けるのかい、行けないのかい、どっちなんだい
「撮れ高あった? 」
「もう全部撮れ高ってことでいいんじゃないですかねえ。しかし厄介ですね。こっちの魔力を吸い取って回復するタイプのモンスター、というより自己回復以外で回復する手段を持つモンスターは初めてだと思いますし、私が対応した場合……根元目掛けてひたすら魔法矢打ち込んであたっている間に近寄って手折るのがベターな戦い方になるかもしれません」
「ウォーターカッターでスッパリと切れるかどうかも見どころか。相手の葉より大きな刃を出した場合、中心で吸収を始めるのかそれとも切れてしまうのかが確認のしどころになるのかな。ともかく、ボスではないのだからこいつは階層で一匹しか出ない可能性は低い。次で試してみよう」
魔結晶を拾う。ハエトリグサの魔結晶は大きさ的にはスノーベアと同じぐらいか少し大きめのの魔結晶だった。収入としては中々期待できるところかもしれないな。ただ、マリモ二匹倒したほうが気楽であることは間違いない。だが、ダンジョンの法則から行くと、こういうモンスターは特殊なものを落としやすい傾向にある。
「さて、次行くか。今日中に四十九層にたどり着けるかどうかはこの先の働きにかかっている。今日中に一通りやってしまって、その後はしばらく気を楽にしてさっきのハエトリグサに手間取らないように自己強化に努めよう」
早速地図作りだ。索敵でさっきのハエトリグサが居るかどうかも確認しつつ進む。どうやら推測通り生息数はそう多くないようで、ほとんどのモンスターは上の四十七層とほぼ同じ構成で出てくる。これ以上増えると非常に厄介だと思っていたのでちょうどよい……いや、結構手間取ってはいるが、とにかくそれ以上多くのモンスターが出て来ていないのは有り難い所か。
四十七層ほど曲がりくねっていない、シンプルな設計をしているなと思うのが四十八層の第一印象だ。道に沿っていくつか小部屋が用意されていて、小部屋にはそれぞれモンスター。流石にホウセンカ二匹とマリモ四匹というのが最大グループらしく、マリモが数の内に入らないとはいえホウセンカが実を成らせる前に叩き斬るというのは中々スタミナを使う作業になったが、これと言って危険な状態に陥る事は無くここまで来ている。
そして、四十八層探索中に俺も芽生さんもステータスブーストが一段階あがった。実にめでたい。この階層でもう二、三段階アップさせて次に行きたいところだ。
「これでホウセンカダッシュがより楽になりますね。マリモは……かわいいですね」
「かわいいし倒せばかなりのお金になる。ポーションも落とす。しいて言うなら固有のドロップ品が無い事だが、保管庫を持つ自分達としては問題ないものの、保管庫無しで挑む探索者にとっては良い稼ぎ場になるだろうな。キャンプと往復する回数が少なくて済む」
「そういう視点からもこの階層は有用ですか。まだあのハエトリグサが何か嵩の高いドロップがあるかもしれませんよ」
「生息数はそんなに多くないみたいだから大丈夫だろう。百匹ぐらい倒してみてポーションでも出てくれれば美味しい、ってとこだろうな」
「順番から行けばヒールポーションのランク5ってことになりますが、それが出ると? 」
「期待せずに行こう。今のところは手間なく倒せる方法を探すって事で収入としてはマリモの倍ぐらいあったとしてもそれ以上に手間がかかるんだから出るまでは美味しくないだろうし、出たところで一本は確実にサンプルとして回収されて誰かの治療に回されて効能がはっきりするまでは金にならないしな」
ダンジョンハイエナがヒールポーションのランク3を落とすように、こいつもキュアポーションのランク4の次のポーション、流れ的にはヒールポーションのランク5を落としてくれる可能性は高い。確率としては低いものになるだろうからレア扱いだろうが、今のところそれを拾ってくることが出来るのはこの階層だけなのだから、金額的にも満足できるものが取れるだろう。
しばらく値段は付かないだろうし効能を調べるために数本を手に入れてから後日精算、という形になるんだろうが、宵越しの金には困っていない。今すぐ金に換わらなくても問題は無いだろう。
小部屋を一つずつ確認して戦闘を挟んで階段がないかどうかをチェック。小部屋が多い階層は小部屋内に階段がある可能性も高まる。今までは無かったが、意外と近い所に階段があったりする可能性は捨てきれないので一つずつ回るしかない。
小部屋にハエトリグサが生えているパターンは今のところ引いていない。こいつは道にしかいないモンスターなのかもしれん。手間こそかかるものの、イメージ的に経験値が多そうな相手だから余すところなく戦いたいし、ドロップをハッキリさせるためにも数多く出てきて欲しいところ。
何より便利なのは、このハエトリグサ型のモンスター、ホウセンカと同時に出てくるパターンに出会っていない。つまり、葉に襲われながら爆撃を受ける可能性が無いという事だ。これは非常に助かる。葉に挟まれた瞬間爆撃を受けて何もできないまま消化吸収されダンジョンの一部になってしまうという恐れていたコンボが成立しない。ハエトリグサが出てきた時点で想像された最悪の事態が起きないであろう事に安堵している。
◇◆◇◆◇◆◇
探索は続く。今日のドロップとしては謎の種は五十個ほど手に入れてはいるが、これは換金できるまで長い時間がかかるであろうことが予想される。実際に発芽して開花……するかどうかは解らないが、そして結実してその成果物の実際の効能を確かめて、どのぐらいの価値があるものなのか。
それを見極めるまで何か月かかかることを予想しておく。【木魔法】で促成栽培する事でより短い期間で出来るらしいとは言え、そうそう都合よく出て来てくれるスキルオーブでもない。やはり、その手間を省くためには自分で【木魔法】を習得して色んな環境で試してみることが一番なのだろう。
ダンジョン内でしか生息できない草花だった場合、七層に土と肥料と水を持ち込んでそこで育ててみる、という形にもなるだろう。花畑になるのか農園になるのか、それもまだ定かではない。保管庫に入れて百倍の速度で成長させることが出来るならまだしも、そこまでのことはできないだろうなぁと心の中では思っている。
マリモ四匹とホウセンカ二匹のグループが考える頭を遮る。流石にホウセンカ二匹を相手して思考をしながら戦うことは難しい。真っ先にホウセンカに向かって走り込み、伸びてくるマリモの蔓は雷撃で焼き切る。ホウセンカさえ仕留めてしまえばあとは力押しでなんとかできる。防御をしながら攻撃というのはなかなか難しい。その意味で相手の最大の攻撃手段を真っ先に潰してしまうのは戦法として正しいのじゃないかと思う。
しばらく道を進むと道端に生えているハエトリグサが索敵から感知でき、やがて目に入る。ハエトリグサを見つけ次第芽生さんが葉が伸びて来る前に魔法矢を打ち込む。俺も続いて雷撃。流石に一発で仕留められるとは思っていない。体が大きい分タフネスもあるだろう。やはり直接攻撃に赴くのが無理が無くて済む。相手が葉を引っ込めたタイミングを見計らって一気に近づき葉を切り刻み、本体に攻撃を加える。
本体そのものにはそれほどの物理的強度は無いようで、魔法吸収という手段を失ってしまえばマリモと同レベルの狩りやすいモンスターとなり果てる。一手間二手間かかるが、戦い方を身に付ければなんとかなるモンスターという事になった。
「ホウセンカにも慣れた、ハエトリグサは何となく攻略法は見えてきた。この調子で行こう」
「今日の稼ぎはここまででどのくらいですかね」
「……八千万は超えたかな。四十九層で一休みできるならその後四十八層を巡りに巡って地図を完成させつつ狩場コースとしてグルグル巡れるポイントを探そう。まずは階段だ」
小部屋が多い分道は真っ直ぐが多い。このまま何処かの小部屋に階段があってくれると巡りがいもあるというものだ。少なくとも一部屋ごとにモンスターが配置されているので、収入の面で心配する事は無い。若干移動しづらいのは難だが、探索のペースを作りやすいのは利点かもしれん。
もう何十個目かを数えていない小部屋を掃除した後、横を見ると階段。どうやら階段にたどり着くまでにほぼ最短でたどり着いてしまったらしい。広さに比べてまだまだ埋まってないらしい地域で一杯だ。
「階段ですね。意外とあっけなくたどり着いてしまいました」
「このペースでたどり着けると解っていたら日帰りでも来れたな。まあ、たどり着いてしまった以上下りない選択肢はない。四十九層を探索して、エレベーターを置けそうなところを探して五十層への階段を探して休憩にするか。一通りやる事はやっておかないとな」
階段を下りて四十九層に達する。さて、今度はどんなマップが待ち受けてくれるのか。毎回マップが変わる瞬間が楽しみである。
階層を跨いだ瞬間、草木の匂いが無くなり急に湿気みたいなものがまとわり始める。また水辺かな? しかし、明るさみたいなものは前に比べて少し薄らいだ。階段を下りていくが、セーフエリアと言ってもマップの特徴はそう変わらないはずだ。モンスターの有無と、環境的な何かが変わる以外は基本同じのはずだ。
階段を下り切ると、そこは……そうだな、例えに一番近いのは紫色に輝く鍾乳洞、というイメージだろうか。逆さつららが地面から生え、天井にもつららがぶら下がっている。神秘的な光景と言えるかもしれない。階段はマップの端っこであろう壁に張り付くように設置されていた。
この階段は他のマップの階段に比べて……そう、サバンナやカニうま島みたいに大岩に無理やり設置されているようなタイプではなく、壁の中にある分だけそれっぽいという雰囲気を損なわない程度には階段であると言える。ただ、このマップの階段が全てそうであると言い切るのはまだ早計だろうな。
まわりを確認するが、どうやらある一定以上の距離は見定められないようになっているらしい。霧みたいなものがある一定距離以上の視界を遮るようになっている。これはドローンで探索することは不可能ではないだろうけどあまり広い範囲は索敵できないだろうな。
「旅行にきたって気分がぐっと増しますね。流石に水滴が落ちてきたりはしないんでしょうけど、視界が悪いですね。霧が張ってるみたいです」
「居住区にするにはちょっと環境が悪いかな。ジメッとしてるわけじゃないが気分的にそんな感覚を覚えるな。とりあえず五十層への階段を探すか。ドローンで撮影しながら階段と、エレベーターが置けそうなデカい逆さつららを探してみることにしよう」
ドローンを飛ばしてまず周囲を探索しようとしたが、このマップは天井が低い上に霧のようなものがかかっている。やはり他のマップみたいに高い所から撮影、という訳にはいかないようだ。精々三百メートル四方が限界か。
「ドローンはそこまで使えるわけでは無さそうだな。天井が低すぎて活かしきれない。少々面倒だが自分の足で調べることにしよう」
「自分の足で確かめるのは久しぶりですね、二十一層以来じゃないですか。あの時もドローン使いませんでしたよね? 」
「今思えば階段がある建物があるかどうかをドローンでまとめてババッと探す手もあったんだな。どの建物が何階建てで階段があるかどうかぐらいは探っても良かったな。見える範囲で探っては行くか……バッテリー持つかな」
足を止めて待っていても何も進捗は進まない。このまま歩いて下りの階段を探しに行って、その後でエレベーターに相応しそうな逆さつららのある場所を探していこう。念のためスマホのカメラを回しながら風景を観察しておく。霧が無ければ神秘的、感想はこれに尽きるな。
下りてきた階段は壁際にあった。ならば次への階段も壁際にあるかもしれない。そう思って壁際を一通り回る。そのまま一時間半ほどマップを一周回ってきたが、どうやら壁際に階段がない、ということは解った。同時に、階層の広さもだいたい分かった。それだけでも収穫か。後はもう一度階段まで戻り、そこから二手に分かれて階段を探すことにする。
調べた結果、四十八層の階段から北西方向に三十分ほど歩いたところに五十層への階段はあった。逆さつららの根元に階段は生えていた。今後は逆さつららの大き目の奴を目印にしていけば階段は見つけやすくなるという事だろう。一つ学んだな。これ以降のマップで参考にしていこう。
「さて……紫の鍾乳洞、もしくは霧マップと言うほうが正しいかな。ここではこの逆さつららが大事なんだな」
「どの辺にテント張りましょうね。出来れば解りやすく階段の周りかエレベーター予定地の近くが良いですね」
「人が居る痕跡がない所を見ると一番乗りらしいしな。高橋さん達は途中で苦戦したんだろうか。それともまた呼び出しで東京にでも行っているのか。何にせよ、エレベーターが置けそうなところは途中二カ所程だったし」
もしかしたら途中でエレベーターが壁側に設置されていないかどうかゴブリンキングの角を持ちながら歩いてみたが、その反応は無かった。つまり、高橋さん達より先に到着した可能性は非常に高い。今回は勝ったな。勝ち負けが決まる訳じゃないが、出来るだけ便利な所にエレベーターを置きたいし、その点で言えば高橋さん達も同じだろう。
前回もエレベーター設置に関わったこともあるし、良い感じの場所を見繕ってそこにいつものメモセットを置いておけば後から来るであろう高橋さん達も見つけやすくなるだろう。
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