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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第十三章:新春も潮干狩りを
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812:新モンスターは気が荒い

 四十六層を無事に通り抜けて四十七層まで来た。ここから先は四分の一ほどは道筋が解っている。小部屋がそれなりに存在し、小部屋の中にはモンスター。ここからは一グループあたりのモンスターの密度があがる。マリモなんて六匹出てくる。


 単位時間当たりのモンスター出現率は格段に上がり、その分旨味も増えていく。ここで安定して狩れるようになっていれば現段階での探索は順調だと言える。問題は次の階層だな。ここより密度が薄くなると言う可能性は低い。良くても同じぐらいだろう。


 そのマリモ六匹だが、今までは探知範囲の都合でまじまじと観察をする暇が無かった。今は隠蔽のおかげで普段どういう行動をしているかが解るようになっている。マリモは……ただひたすらに転がっていた。感情があるかどうかは解らないが、転がることを無上の喜びとして感じ取っているのだろうか。転がって飛び跳ねては壁にぶつかって浮き上がり、その瞬間を楽しんでいるようにすら見える。


「あれ、何が楽しいんでしょうね。転がってぶつかって。別に転がる先で増える様子も無いですし」

「転がる以外には何もできないのかもしれん。もしかしたら転がることで地面から養分を吸って移動している可能性もあるが、石畳だしな……とにかく転がることが大事なのは解った」


 マリモのほほえましい転がりっぷりを楽しんだところで戦闘開始だ。せっかくなのでホウセンカの種を飛ばして爆破してみる。


 突然爆発したマリモは内部から崩壊して一枚の板のように広がり、そして黒い粒子に還っていく。他のマリモはこちらを認識したらしく、こちらへ転がりながら一生懸命蔓を伸ばしてくる。


 その蔓を雷撃し、水の刃で斬り、場合によっては手でつかんでそのまま雷撃を蔓伝いに直接本体に与え、次々と消し炭に変えていく。慣れた攻撃で出てくる以上はこちらも慣れたパターンで対応するのが筋というもの。


 でも流石に六匹は多い。全力雷撃で足止めできるのが二匹、正面で対応するのが一匹、横から蔓で攻撃されても反撃で蔓を焼き切れるのが一匹。俺一人で四匹までは対応できるとして、芽生さんのほうは……向こうも同じ感じか。なら八匹までは行けるか。ただしちょっと戦闘後に落ち着く時間が必要になる。それなら四匹が二セット時間差で来てくれる方がありがたいな。


「前も思いましたがさすがに六匹は多いですね」

「後でミルコに苦情を入れておこう。手数が足りないと」

「そもそも、こんな奥まで二人で来てるのが異常とも言いますけど……ねっ! 」


 最後の一匹に芽生さんがトドメ。ウォーターカッターで真っ二つにされたマリモが黒い粒子に変換されていく。後には魔結晶とポーションが一つ。


「やった、あたりっ」

「これで三百万。これを簡単な仕事と思うかハードな仕事と思うかは人次第だが、命を賭けてるんだからこのぐらいは儲かってもだれも文句は言わないだろう」

「南城さんや新藤さん達は今頃何層あたりをうろついているんでしょう? 離れてるとはいえ他人の進捗が少し気になりますね」


 確かに。顔合わせ程度とはいえ、見知った競争相手がどこで何をしてるかは気になると言えば気になる。


「もしかしたら長めの正月休みかもしれないぞ。向こうは全員本業探索者らしいからな。休む時に休んで働きたいときに働く。悪いとは思わないし、エレベーターの件もあって動きづらい時期だろうからな」

「エレベーターはそろそろ発表ですかね。東西同時に発表、という形にする方が問題が広がらなくて済みそうな気がします」

「結局年明けすぐという発表にはならなかったな、エレベーターの件。ダンジョン庁が何を考えてるかまでは解らないが、流石に今月中には発表するだろ。大梅田のほうは実質的にみんな知ってる状態らしいし、それを放置しておくのはあまりいい雰囲気を出すことにはならないからな」


 帰ってテレビつけたらダンジョン庁が会見開いてた、みたいな流れが一番理想的だな。もちろん、想像通りに行くはずもないし、今日は休日だったはずだ。流石に休日ど真ん中にダンジョン庁が会見、というほど緊急な問題でもない。すでにエレベーターはある程度知られているし、正式発表が行われていないだけだ。使い方も下手な探索者のほうが熟知しているだろうしそれにまつわるマニュアルを整備して冊数を印刷し、配るだけ。


 まぁ、だけとは言ってもすべての探索者に配るだけの量もあるし、そこからエレベーターの話を聞きつけて地方から遠征してくる人が増える可能性もあるのだ、周辺自治体や公共交通機関への説明なんかヘの通達なんかも含めて時間がかかっていると考えるべきだろう。人口過密地のダンジョンは大変だな。


 前回解っている道筋に沿って進み、まずは先を見通してない方面へ行く。ざっくり言って四十七層のイメージ地図はこうだ。中央にほぼ真っ直ぐと言える南北に通る道があり、その東西に迷路小部屋込み。完全にそうである、と言い切れるわけではないが、今その南北に通ってそうな道に沿って進んでいる。


 ところどころ左右に折れる道こそあるものの、もしかしたらこのマップは正直に南北に打通している形になっているかもしれない。その場合、階段のあった場所は西側、だとすると次に向かう階段は東側にあるかもしれない、という人間臭い当たりをつけて探索する事が可能になる。その為の南北への行き道の確認だ。


 ミルコの癖だとは思うんだが、この小西ダンジョンでは左右対称になるような階層がいくつかある。五層にしても六層にしても十五層にしてもそうだし、森と泉マップである二十九層から三十二層にもその傾向は見える。


 おかげでちょっとだけ探索が楽になっているんだが、地図を全部作り切る必要があるD部隊は大変だろうな。解ってても隅々まで地図を作り上げる必要があるのだから。


 きっと、四十八層にしても何かしらコツみたいなものがあるだろう。それをあてにして探索を続けていくのが大事か。


 考え事をしながらもかなりの数がポップしているマリモやホウセンカを倒していく。流石に数に慣れてきた。六匹相手にするのは九層以来か。ここの階層の深さで大量のモンスターを相手にするのは中々の骨だが、それ以上に実入りが美味しいのも確かだ。四十八層では更に多い実りを期待できるだろう。それに思いを馳せながら南北の道を歩ききった。ここからは東側、つまりまだ未達の地域の階段をいかにして発見するかがカギとなるだろう。


「半分は埋めたようなもんだな。後は東側に階段があると睨んで探索を続けていこう」

「西から来たから東に階段があるって安直すぎませんか」

「ダンジョン探索をさせるメインはあくまでモンスターを倒すこととドロップを持ち帰らせることの二点であって、多少の好みの違いはあるにしろ迷宮で迷ってうろうろする事はカウントに入ってないと思うんだよな。楽しませるために作ってあるとはいえ、ある程度解りやすくないと迷ってそれどころじゃなくなるからな。そのへんはダンジョンマスターのさじ加減を信用しておくことにする」

「これで西側に階段があったらどうします? ありえなくはないんですよね」

「その時は自分の勘と運の悪さを恥じるさ。そういうときもあるってな」


 北に行き切ったところから東へそれる道に入り、道に沿って探索を進める。道中のモンスターを相手にしつつだが、こっちのほうが相手よりも先に気づけるという隠蔽と索敵の組み合わせにより非常に楽に探索と地図作りを行えているのは気楽なものだ。


 戦闘込みで二十五分ほどで階段を見つけることが出来た。やはり階段は東側にあった。もし次回この道を通る事が有れば、最短距離で行ける道を探そう。もうちょっと楽にたどり着けるルートがあるはずだ。


「さぁお待ちかねの四十八層だ。モンスター密度は高く、そして二十四の倍数だ」

「あぁ、ありましたね巨大オブジェクト。何が配置されているんでしょう? 」

「楽しみの前に一休憩かな。流石にモンスターが多くて少々疲労がたまっているかもしれん。水分とカロリーを取っておこう」


 階段付近の安全を確認してカロリーバーと水分を補給して一息入れる。ここからは完全新規のマップだ。最後の階層だからこそ気を付けないとな。この階層以上のモンスターが出てくる可能性もあるんだから落ち着く時間は必要だ。


 きちんと休憩を取った後、四十八層へ下りる。空気は変わらず索敵にもモンスターはしょっぱな引っかかる、という事は無かった。そして上を見る。花のアーチに覆われてはいるが、その隙間から確かに見えている。頭の上の花を雷撃で散らし、よく見えるようにする。そこには巨大な花がお目見えしていた。


「なんつったっけ……ラフレシアだったか? そんな感じだな」

「世界最大の花って言われてる奴ですね。でもなんかもう一種類あったような? たしか相当に臭い花だったと思いますが」

「とりあえず……世界最大の花は記録更新だな」

「ダンジョン内も地球だとみなせれば、ですが」


 目で見えている大きさは明らかに数百メートルの大きさを誇っているだろう。それが天井に何とかしがみついて、下に向けてその大きな花を咲かせている。


「なんていうか、重そうだな。必死にしがみついている気がする」

「ダンジョンオブジェクトでしょうから壊れる事は無いのでしょうけど、何となく不安になりますね……と、来ますよ」


【索敵】に感。四匹。その内一匹は少し反応が大きい。曲がり角の向こう側だ。早速ゆっくりと近づいていく。曲がり角を曲がってモンスターを確認する。モンスターはマリモ三匹と……新キャラだ! ここで新キャラが出た!


 見た目は食虫植物に見える。かなり体は大きい。全長は三メートルほどあるだろうか。相変わらず足元の根をうねうねとさせながら動くのはホウセンカと変わらないが、他の植物と違うのは、明らかに食いに来ているとみられる蔓の先の葉にはとげとげのついた、ハエトリグサのような見た目をしている蔓の先の葉だ。その大きさは二メートルほど。俺でも一飲みにされてしまうほどの大きさを誇る。


 とりあえず、戦闘に入る前に動画の撮影。今までのモンスターの中でも中々殺意が高そうではある。捕まったら食われるか溶ける。つまり当たらないか、その前に葉を切り落としてしまう必要が出て来るって事だな。再生するかもしれないし厄介だな。これがホウセンカと同時に出てきたらと考えると戦術の組み立て甲斐がある。


「とりあえずマリモ三匹を先に焼いてしまって、芽生さんに撮影頑張ってもらおう。何とか戦えるパターンを見つけ出してくる」

「無茶はしないでくださいね。間違っても食われてみようとか考えてないですよね? 」

「お高いスーツが溶かされるかもしれないんだ。被弾は考えない、相手の攻撃がどのぐらい速いか、葉で噛みついてくるだけなのか、そのあたりをメインに戦ってみる」


 マリモを三体極太雷撃で先に処理、この際燃費は後回しだ。さっき休憩した分魔力に余裕はある。マリモが焼けると同時にハエトリグサがこっちを向く。そのまま向こうもウネウネと近寄ってくる。足はそれほど速くないが遅くもない。油断していると相手の射程に入りそうだ。葉をこちらにむけて伸ばしてくる。葉のスピードはそこそこだが射程距離は長くない。見た目に反して葉が無限に伸びて来るとかそういう訳ではないみたいだ。


 葉の噛みつきを一度、二度、三度避ける。試しに葉を避けた際にすれ違いざまに雷撃を繰り出す。少し焦げたが攻撃が怯む様子はない。また二回ほど回避し、今度は雷切で葉の根元を切り刻むと、葉は落ち、地面でピクピクと振動した後黒い粒子に還った。


 切り落とされた葉の後は蔓が引っ込み、また違う蔓を繰り出してくる。全部で腕……ではないな、蔓は三本か。つまり三回切れば相手の攻撃は一時的に止む。次は雷切ではなく雷撃で対応する。


 葉の中心に雷撃を当てると、一時的に葉は口を閉じ、咀嚼するようなそぶりを見せる。……もしかして、雷撃を食ったのか? すると、切ったはずの葉が徐々に再生を始める。こいつは魔力も食事に出来るようだ。どうやら葉に魔力をぶち込むのは今のところ下策に当たるらしい。一つ攻略の糸口を見つけたぞ。


 葉は攻撃手段でもあり防御手段でもあり回復手段でもある。なら、それ以外の場所を狙ってみよう。雷撃でハエトリグサの根元を狙ってみる。すると、意外なほど呆気なくハエトリグサは力を失っていく。そのまま継続して雷撃をすると、ハエトリグサはどんどん萎んでいき、雷撃を受けている地点へ栄養分である所の魔力を補充しようと葉がそちらへ集約されていく。


 その間に歩み寄り、雷切で葉を全て切り落として根元に突き刺すと、ようやくハエトリグサは黒い粒子に還った。結構手間がかかったな。強さ的には他の二匹より圧倒的に戦いにくい辺り、このマップの中ボス的なところだろうか。

作者からのお願い


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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] > ただひたすらに転がっていた」 わーい > せっかくなのでホウセンカ」 見逃されがちな狂気 > …向こうも同じ感じか」 学業のブランクどこ > 手数が足りない」 エリアパラライズ開発…
[一言] 〉でもなんかもう一種類あったような? たしか相当に臭い花だったと思いますが ショクダイオオコンニャクのことかな? 中ボスか…確かにこの階層にしか出現しない手強いユニットだしそろそろ50階層…
[一言] 新モンスターなハエトリグサ君、虫じゃなくて魔力を食べるのか 属性問わず捕食できるんだとしたら遠距離魔法メインの人には面倒な相手だなあ
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