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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第十三章:新春も潮干狩りを
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811:通り抜け

 四十三層で何度か【隠蔽】の効果を確かめて、確実に相手の索敵範囲を短く出来る、もしくは相手にこちらの存在を気づかせにくくする、という事までは解った。もしかしたら戦闘という状況になると、こちらの動きが見えているのによく見えない、といった形で応用できるかもしれない。


 探索者にとって対人戦というものはそもそも想定外なのでよほどガラの悪い探索者か、探索者犯罪に携わる者としてこの顔見たら110番みたいなことは極稀にあるのかもしれないが、そういう場合でも対処するための人員というものは考えているのだろうか。D部隊に任せるのか、それとも探索者の良心に従って、清州ダンジョンで見たような簀巻きにしてボコボコにするような範囲で済まされるのか。ボコボコにされるぐらいで反省してまともになってくれると余計な気をもまずに済むな。


 四十四層手前の階段で食事タイム。前回の探索では早めに昼休憩を取って、お腹を空かせて四十二層に帰ってくる行程になったが今回は四十三層を踏破した後のタイミングにした。四十四層から四十五層へ向かう階段周りはモンスターが近くに湧きやすくてゆっくりできない。狩りが続く前提で言えばここが最後のゆっくりできる場所と言えよう。【隠蔽】のおかげでモンスターが近寄りにくくなっているし、近寄ってきていてもこっちの探知範囲のほうが広くなっている。安心して食事を楽しめるな。


「さぁ、お待ちかねのワイバーン肉だぞ、更にお望みの照り焼き風だぞ」

「わーいやったー。これを楽しみにしてたんですよ。このために今日の探索をすると言っても過言ではありません」


 箸をカチカチさせながら大皿に乗ったワイバーン肉の照り焼きが取り出されるのを待ち、机に置かれたら早速手を出して落ち着いて味を確かめるようにかぶり付く。


「んー、甘辛くて美味しい。それにパリッと焦がされてて食感も楽しい。これは当たりですね、大当たりですよ」

「そこまで言ってもらえると作って良かったと思うよ。どれどれ……うん、本来なら鶏皮で出す分のパリッと感が肉の焦げ具合で良い感じについてるな。これは成功だ」


 ダンジョンの、比較的とはいえ安全とはいいがたい場所で食事を楽しむことが出来るようになったのも、索敵と隠蔽という二種類のスキルを上手く維持しているからだろう。隠蔽もおそらく意識的にON/OFFをつけることが出来るだろうから、探索が落ち着いたらちょっと試してみるか。今やるのは状況的にヤバイ。


 パックライスのお供にこの焦げ具合と香り、そして甘辛タレがよくあうなあ。これは在庫に余裕があればローテーションに組み込んでも良い一品だ。メモに取っておいて今後来るであろうローテーションの更新時期に見返そう。


 みりんと醤油たれにほのかに残る酒の香りが食を進ませる。自宅ならご飯をお代わりするところだがここはダンジョン。今からパックライスを温めてもう一個……というのはさすがに贅沢のしすぎだ。ここがセーフエリアなら問題は無かっただろうが、そうやってついつい食べ過ぎないようにという状況判断も含めてここでご飯を食べることにしたのだったな。貴重なご飯の残量を気にしつつ、多めに照り焼きを味わいながら、バランスよく食べていくことが必要だ。それにしても、もう一パック食べたかったな。


 野菜ジュースでミネラルとビタミンも確保。大皿に肉とレタス、そして米。栄養バランスはバッチリとれて、心なしかやる気も上がったように感じる。ついでにワイバーン肉でお肌のツヤも出てくる。これはこの後の探索に期待が出来るな。


 警戒しつつ食休み。こっちの探知範囲にモンスターが入っても、気づかれずにそのまま通り過ぎていった。どうやら【隠蔽】はきちんと機能している。昨日までだったら確実に襲ってきたであろう距離での遭遇、念のために構えはしたものの戦闘にはならなかった。収入のチャンスが減ったと考える事も出来るが、この後存分に稼ぐ予定だから今のカウントは無かったことにしておこう。


 しっかり休んで探索再開。四十四層へ下りてドウラクとリザードマンが併設された地域にまで来る。リザードマンの索敵範囲はこっちの調べで言うとドウラクよりも狭い。つまりリザードマンだけのグループなら奇襲を仕掛けることも可能。


 思い切って走り込んでみたが、リザードマンがこちらを振り返って武器を構える前に一刀のもとに切り伏せることが出来た。戦い方によっては便利に物事を進められるか? 手もちの戦術が一つ増えたな。そのままペアでいたリザードマンに全力雷撃、スタンしたところを首を刎ねて終了。首が一発で落とせるようになったのも自分の能力が上がったことを感じる。初めて会った時は鱗をじわじわと焼いていくイメージだったはずだな。


「割と融通が利きますねえ。あえてオフにして近寄らせることも出来ますし、さっきみたいに一気に近づいて奇襲もかけられますし」

「多分次からの階層はもっと顕著になってくると思うぞ。ホウセンカの爆撃までの時間が稼げるから実を爆ぜさせる前に近づくことが出来そうだ」

「それは便利かもしれません。さぁこの調子でどんどん行きますか」


 腕試し兼隠蔽のテストをしながら他の階層と比べて短い階段への直行コースを進む。この階層では島の内側も外側もリザードマンとドウラクが出るので両方を相手にすることが出来て飽きずに戦うことが出来る。それぞれの索敵範囲と隠蔽を使用した状態での索敵範囲は体で覚えた。後は四十五層以降とダーククロウ、スノーオウルの索敵範囲が認識できれば今のところは充分だろうとは思う。この先何が出てくるかまでは解らないが、当面の間苦労する事は無いだろう。


 何かを調べながらモンスターと戦うと思ったよりも早く進むもので、あっという間に階段までたどり着き、そして四十五層へ下りる。


 四十五層からはマリモとホウセンカの索敵範囲調べ。やはりこちらも半分ぐらいになっていた。ホウセンカに至っては、実を成らせ爆発する種を発射する前に近づいて倒すことが可能になった。マリモを後まわしにしてホウセンカを優先して撃破できるようにもなったし、ここの階層も稼ぐのが非常に楽になったと言える。スキル一つでも戦い方はこうも変わるものなのか。骨ネクロダッシュの難易度がぐっと下がったぞ、もうやらないだろうけど。


「マリモは今までとは変わらないがホウセンカを倒すのが断然楽になった。防御のことを考えなくていいのは体にも心にもスーツにもいい。まだしばらく攻撃一辺倒でいけそうだ」

「探索時間の短縮にも役立ちますね。戦闘時間は短いほうが良いですし、その分前にも進めます」

「時給単価が上がるという事でもあるな。一泊一億が一億一千万になるかもしれないという事か。それは地上に上がった時が楽しみだな」

「しかも、四十八層は未達エリアですし予想通りならモンスター密度も高いはずですからね。惜しみなく戦えば一時間でいくら稼げるか楽しみです」


 わいわいと騒ぎながら四十六層への階段へ向かうものの、【隠蔽】には聞こえる声を小さくする効果でもあるのか、実際に話している芽生さんと俺との会話には問題は無いが、会話に反応して遠くから襲ってくるモンスターの姿も無い。ちゃんとスキルは起動しているという事に間違いは無いだろう。


 サクサクと一時間ほどで四十五層を通り抜け四十六層へ。そういえばボスであるヒュージスライムには出会わなかったな。まだ湧いていないのか、それともたまたま出会わなかったのか。どちらとも言い難いが運が良かったとしておこう。相手をしても勝てると確実に言えるが、一時間強のロスを生じさせてしまうのは美味しくない。それに一度は戦ったのだ。エレベーター稼働に必要な角を落としてくれるゴブリンキングとは違い、何度も倒すことにそれほどの価値は見いだせない。


 ボスがいなければ四十五層は戦闘込みで一時間ほどでとおりぬけることができる。ここまでは予定通りだ。四十六層も似たような位置にあるらしく、ここも戦闘込みで一時間から一時間半という事だろう。戦いが楽になった分だけ体への負担も軽い。疲労して戦えなくなるという事は無さそうだ。いざとなったらドライフルーツもあるし、まだまだ体力的にも精神的にも余裕はある。


 四十六層は四十五層よりもモンスター密度が高い。まだまだ十分手に負えるレベルではあるし、新しいスキルのおかげで気楽に行けそうではある。行程も短くなりそうかな。


「やっぱり地図があるっていいなあ。あちこち巡ったりしなくてもどこをどう曲がってどっちに行けば解ってるってのが特にいい。地図作りも楽しいが、地図を作っても今のところ報奨金が出るとかそういう話にはならないからな。やはり収入としてはモンスターを確実に倒せてそこを周回するだけで済む美味しいルートを開拓したいものだ」

「贅沢がものすごい勢いで漏れ出てますが、階段を下りればまた道探しですよ。ここでいかに早い道を見つけるかと、その下の階層でどこまで時間がかかるかで本日のノルマがかかってるんですからしっかりお願いしますね。私はそっちで力になれない分、腕力でお手伝いします」

「頼もしい相棒で嬉しいよ」


 ぽん、ぽんと頭を軽く叩く。芽生さんは少しうれしそうにしている。そのままなでなでを始めると、首のあたりがくすぐったそうにしつつ、そのままなでなでされっぱなしの状態になる。もっと撫でてにゃんとか言い出しそうな甘酸っぱい空気が生み出された。


 ここはダンジョン最深層に近い場所、本来イチャイチャしてる余裕などない所なのだ。だが、これくらいの配信サービスがあっても許されるだろう。たまにはちゃんとしてるんだぞというところはみせておかないとな。三十秒ほどの短い時間だがちゃんといちゃつきはしたぞ。はい、解散解散。


「さ、四十七層に向かうぞ」

「はーい」


 芽生さんのやる気を補充したところで気を取り直して地図通りに階段へ向かう。道中のマリモとホウセンカを最速で近づいて最速で斬り、被害らしい被害を出さないまま進んでいく。マリモの落とす謎の種を確実にドロップする方法は前に法則を発見したが、一匹一匹丁寧に倒していくよりはその時間で数多く狩ったほうが実入りもドロップが良いということはなんとなくだが体感で解っている。一匹から確実に謎の種を落とすよりは、その時間で六匹倒したほうがドロップ率から換算しても効率的だ。


 床に散らばるホウセンカの種……これ本当にどうしようね? 地上に持ち帰っても爆発物にしかならない気がするが、かといってそのまま放置していくのも気が引ける。掃除するためにスライムが派遣されてきてこれを口に含んだ衝撃で爆発してしまう可能性を考えると忍びないものがある。


 とりあえず保管庫に溜めこみつつ、もしギルドから提出を願われた場合は素直に出す、ということに……あれ、そうなると保管庫の存在が小西ギルド外部にもバレちゃうことになるな。丁重に扱って一粒だけ持って帰ったことにすれば問題はないかな。うん、そうしよう。


「ちょっと実験するから離れてて」

「何する気です? 」

「今の内にやっておいたほうが良いかと思って。ホウセンカの種の爆破実験」


 周りにモンスターがいない事を見計らって、射出でホウセンカの種を撃ち出してみる。パチンコ玉と同様にプシュっと飛んでいった種は着弾点で爆発。どうやら射出の出始めの衝撃で爆発する事は無いらしい。


「それ、射出の瞬間爆発したらどうするつもりだったんですか? 」

「その時はその時、と思って。とりあえず音速を超えなければ大丈夫かなと」

「とりあえず武器にはなることは解ったって事ですか。持ち球が多くていいですね」

「芽生さんも何か新しい技でも開発する? 【魔法矢】と【水魔法】の混合魔法みたいなの」


 すっかり忘れそうになっているが、年末から年始にかけて芽生さんは【魔法矢】スキルを覚えた。どのように応用するかは彼女の想像力によるが、俺の粗末な想像力では、ウォーターカッターに魔法矢を混ぜ込んで魔法としての硬度を上げるか、同じく混ぜ込んだ魔法矢を爆弾みたいにして着弾時点で傷口を広げるような形での攻撃が考えられるぐらいか。


「うーん、今のところは魔法矢の威力を上げるほうが大事ですかね。そもそも水魔法はダブルスキルですし、魔法矢を混ぜ込むとかえって威力が落ちる可能性だってあります。その辺をハッキリさせるためにも使えるときは魔法矢を使っていこうと思います」


 芽生さんなりに考えているという事か。もしかしたら秘密の特訓的な何かをしているかもしれないし、俺が変に口を出して意識誘導する事で悪い方向へ流れる可能性だってある。ここは本人に任せよう。


 ホウセンカの種を溜めこんで武器として使う事に問題はなくなった。これでまた一つ手札が増えた。索敵範囲外から種をぶち込んで爆破する事も可能になった。どこかで使おう。

作者からのお願い


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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
「一匹から確実に謎の種を落とすよりは、その時間で六匹倒したほうがドロップ率としても上だ。」 ドロップ率→ドロップ数 では?
[一言] 隠蔽OFFで接近、からの種爆弾射出して牽制&目眩まししつつ 同時に隠蔽ONで回り込むように間合いに入れば 「き…消えた!?」が出来そう
[一言] 直接的な攻撃力はありませんが索敵も隠蔽も探索者活動に大いに役立ついいスキルですねー こういう役に立つ系で保管庫ほどレアではないスキルは集めたいですねえ
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