81:保管庫いじりと確定作業
買い物を終えて一旦家に戻った。時刻は十一時を過ぎたあたりだ。少し早いが昼食はスーパーで買ったもので済ませる。手の込んだ料理を作る気がないときは出来合い物を買ってくるのが一番楽だ。
細かいものをいくつか組み合わせたり、量り売りの総菜を複数種組み合わせることで、なんだか豪華な食事を終えた気分になる。
満足した……さて、今からなにするかな。
……
…………
………………
何も思い浮かばない。やらなきゃいけないことは午前中に済ませてしまった気がする。
保管庫の整理でもするか。まずは保管庫の中に入れてあった、物資を全部抜き出して綺麗にする。
主に食料関係だ。結構な量詰め込んであったもんだ。粉ジュースと水とカロリーバーとゼリータイプのエネルギーチャージ食と……とにかく色々だ、色々。賞味期限を確認し、とりあえず外に出していく。
後、使ったまま放り込みっぱなしだったタオルやハンカチなんかもこの際まとめて洗濯してしまおう。
保管庫の中身を整理し、表示されるリストが綺麗になった。掃除もたまにやると気分がいい。
出した品物をまた順番に放り込む。と、水道水のペットボトルとミネラルウォーターのペットボトルを区別するのか?というのを思い出した。
試しに空になっているペットボトルに水道水を詰めて、保管庫に入れてみる。
ペットボトル (五百ミリリットル・水道水) x一
ペットボトル (五百ミリリットル・ミネラルウォーター) x一
ペットボトル (二リットル・ミネラルウォーター) x一
前と表記が変わっている。以前はただの水とだけ表示されてはずだ。
もしかして、放り込む際の俺の意識がある程度反映されているのではないか。
例えば粉ジュースを入れて味を変えた後のペットボトルを放り込めば、味も区別できるんじゃないか?
これは新しい発見だ。保管庫の内容物は使用者の認知に対しても機能する。しかし、同時にデメリットも上がってきた。表示されるリストの中身がごちゃごちゃになってしまう。
たとえば、最初に買い込んだパチンコ玉と、後で買い込んだ小玉。今までは大きさが一緒ということでまとめてリスト化されていた。もしこれを俺が別物として考えていたならば、リストは二つに増えているだろう。
保管庫スキルも俺の使いようによって多少融通をきかせてくれるようになったのか。それとも、保管庫スキルが進化したのか。それは解らないが、荷物が整理しやすくなったと同時に判別しづらくなったという事だろう。
とっさの判断でアイテムを取り出すときに面倒くさいことになりそうではある。確かに便利だったらいいな、という意識は持ってはいたが、こういうデメリットがある、ということまでは考えていなかった。
今後保管庫スキルについてはより一層の注意が必要になったって事だろう。ペットボトル五百ミリリットルの内部容量が五百ミリリットルで統一されているのは、まだスキルが詳細まで表示されなくなっているってことかな。
今後もしかしたら四百五十六ミリリットルとか、内部容量まで細かく表示されるようになったらと思うと、使い勝手が一気に悪くなってしまうな。
便利になってくれるとしたら、魔結晶だろう。今は各モンスターの魔結晶がそれぞれの固有の魔結晶として内部に存在してくれているが、これが細かい表示になるのか適当な表示になるのかは解らない。
こっちとしては、どの魔結晶でも重さ単位で表示されることになれば、逆に面倒くさいことになるだろう。スライムの魔結晶が単品扱いで他が量り売りであることを考えると、そこに焦点が当たるのは想像に難くない。
これはバッグに入れるにせよ保管庫に入れるにせよ、普段から整頓しておきなさいというスキルの意思なのかもしれない。従っていればまた新しい発見が出来るかもしれないしな。洗濯機を回しながら一人納得する。
一つ確認が取れたところで、保管庫の中にリストを確認しながら中身を放り込んでいく。ダンジョンキャンプするなら下着やアメニティ、ツナギの替えなんかも入れておいていいな。今度鬼ころしへ行ったらツナギをもう一着買おう。
水道水とミネラルウォーターそれぞれを保管庫に入れていく。取り出した後に勘違いしないよう、水道水を入れたペットボトルはラベルをはがし、ミネラルウォーターはそのままにしてある。水道水は体を拭いたりちょっとした洗い物をする時に使うのだ。
パチンコ玉を入れていく。うっかり二つに分散すると面倒くさいので、混ぜ混ぜしてから保管庫に入れ込む。無事に一種類の物として認識されたようだ。そのまま中玉・大玉を入れる。
ゴブリンソードは片方が若干欠けている。最初に手に入れて使って、壁にぶつけた時のほうがこれかな。もう一本、未使用の物があるが、同じものとして認識しなおしてくれるだろうか。
ゴブリンソード(鞘付き) x一
ゴブリンソード x一
ゴブリンソードの鞘 x一
どうやら、多少の欠けなんかは大目に見てくれるらしい。いいぞ、そのぐらいの大雑把さで頼む。とりあえず、ゴブリンソードをすべて鞘から抜き出しておく。
以前のボウル生卵実験で抜き身のまま射出することが出来るだろうという事は予測されるが、いざという時のために抜き身で用意しておく。抜き身のまま入れておいて手を斬ったりするわけではないので、使いやすい形で置いておくに越したことはない。
次に食料を詰めていく。前にスライムに食わせてドロップが増えたカロリーバーを箱で更に多めに用意しておいた。スライムにどのくらい食わせればドロップが確定してくれるかを確かめるためである。
箱で数種類買ったが、取り出しも箱単位になりそうなのでバラして保管庫へ入れていく。賞味期限はあるようでないようなものなので、まとめて一種類として認識されてくれると嬉しい。
カロリーバーも多種多様だが、俺がカロリーバーとだけ思えば同じカロリーバーとして認識されるらしいこともはっきり解った。解っているだけで六種類のフレーバーが保管庫に入れられているが、味ごとのカロリーバー表記となっている。
これは、以前ゴミをカウントした時に、違う種類のカロリーバーのごみになった袋をまとめて一種類として判別できるか?という試験をした際にも確認が出来ている。
放り込んであった一度温めたレトルトカレーはきちんと処分するため夕食に回す。ゼリー飲料はもう一回冷やしてから放り込むことにしよう。粉ジュースはまだまだ在庫があるな。
ふと思いついて、俺は部屋中の小銭をかき集めて保管庫に投入してみた。どうやら、製造された年やどれだけ使い込まれたかを区別することなく、小銭は同じ額面は同じ額面として認識された。
綺麗なものと汚いものを交互に放り込んだが、綺麗なものが三つ同時に保管庫から取り出されるなどの結果が出たので出てくる順番はランダムらしい。まぁ、硬貨として使えるなら問題なしだ。後、さすがに保管庫の中でピカピカに磨かれたりはしないらしい。
後、スマホを放り込んで自宅の電話から自分のスマホにかけてみたが、どうやら無事に電波の届かないところに居るか電源が入っていないらしい。異空間から着信音がするなんてことは御免被るからな。これはいい結果だ。
ただ、取り出し忘れて連絡が取れないという事には十分注意しなきゃいけないな。
色々なものを出したり入れたりしているが、それぞれの物を判別する基準はやはり俺らしい。俺の解りやすいようにスキルが体になじんでくれている、と認識したほうが良さそうだ。あまり細かいことを考えないようにしたほうがいいのかもな。
曖昧な部分は曖昧のままでいてほしい。そう願う俺だった。
保管庫の整理は結局一時間ぐらいしか暇をつぶせなかった。寝て過ごすにも眠気が一向に来ない。
こうなったら昼からダンジョンへ行く、という選択肢もありか。往復交通費もばかにならないが、その分だけ稼いで帰ればまぁ良いだろう。今から行って五時間ぐらいはダンジョンで作業が出来るかな。
そうと決まればやることは一つ、スライムのドロップ確定作業だ。特定メーカーの特定カロリーバーだけドロップが確定する、と確信が持てればそれでいい。
今から駅に急げば乗り換え時間が最短でダンジョンに着けるな。早速行こう。今行こう。そうだ、ダンジョン行こう。
◇◆◇◆◇◆◇
ダンジョンに予定通り最短で着いた。さっそく入ダンする。
「昼から来られるなんて珍しいですね」
「一日休むつもりだったんですが、どうも落ち着かなくて」
「そうですか、気を付けて行ってきてください」
受付で他愛もない会話をすると一層に降りる。
スライムの数はいつも通りって感じだ。奥へ行けば塊になってるのを発見できるだろう。今回はドロップの確定が主目的なので塊で出現しなくてもいいのだが、人に見られていい顔をされる作業ではない。
特にこの間増殖騒ぎを起こしたばかりなのだ。またやらかして、しかも今回の犯人は俺、という事になれば余計に炎上するだろう。炎上するほど燃料が無いダンジョンでもだ。
一層のマップはもう完全に頭に入っている。ススっと袋小路の小部屋へ移動すると、予想通りスライムが適量湧いていた。このぐらいいつも湧いていてくれると俺も笑顔で居られて財布もハッピースライムも俺に出会えてハッピー。さぁ、今日こそドロップ確定作業に付き合ってもらう。
まずは、カロリーバーを一本出して食わせてみる。置かれたカロリーバーに気づいたスライムはちょんちょん、と釣り針に引っ掛けられた餌に食いつく魚のような様子で確認すると、体内に取り込み始めた。
一通り消化し終わる前に熊手でグッと核を抜き出し、パンと踏む。食事中にごめんね。後でまた会おうね。ドロップは何も出なかった。
……ふむ、味が気に入らなかったのか?保管庫から違う味を引っ張り出す。もう一度、違うスライムで試してみよう。さっきはプレーン風味だったが今度はブルーベリー風味だ。
置かれたカロリーバーに気づいたスライムはまたちょんちょん、とつついた後、餌に食いつく。消化してるところでグッパン。ドロップはスライムゼリーだけだった。
別の味を試そう。今度はバニラ風味だ。置かれたカロリーバーに気づいたスライムはまたちょんちょん、とつついた後、餌に食いつく。消化している最中にグッパン。すると、ゼリーと魔結晶が出た。
バニラがいいのか?もう一度バニラ風味で試してみよう。そういえばあの時もバニラ風味だった気がする。スライムは予定通りの行動を示し、消化してる最中にグッパンで消滅してもらった。ドロップは二つとも出た。
もう二十本ほど試してみるか。検証とはこうやって地道にやるものだ。各風味で確定で出るか出ないかも調べなければ検証の意味はない。
ついでに各フレーバーも二十本ずつぐらい追加でやってみよう。もしかしたら大当たりのヒールポーションを引く味が出るかもしれないからな。
風味とドロップが確定したら、後は消化し終わった直後でも良いのかどうかを試してみようか。もうちょっと実験に付き合ってくれよ? 君達。
◇◆◇◆◇◆◇
合計およそ百二十回の検証が終わった。やはりバニラ風味がキくらしい。バニラがキまったスライムはドロップテーブルを固定することができ、そこからはゼリーと魔結晶が確定でドロップする。
二十二分の二十二の確率でこうなったので、信憑性はありそうだ。
なお、ブルーベリー風味ではスライムゼリーが確定で出て、青りんご風味では魔結晶が確定で出て、それ以外は特に出ないらしいことも解った。ブルーベリー風味は特売で買い込んでも赤字、青りんご風味は特売で安く売ってたら黒字になるか。スーパーの安売り情報を利用しなければならないな。
他の三種類の味では、俺の体感ドロップ率とほぼ同じである、スライムゼリー三十パーセント、魔結晶六パーセントという割合だと思う。
さすがに一種類の味を百本も二百本も持ちあわせていないからな。検証としては二十本で一旦検証は止めようと思う。他の検証をしたいことがあるのと、今手持ちがそんなにないからだ。
さて、次は消化が終わった瞬間どうなるかを検証し始めるか。
とりあえず、もう一か所誰も行ってないであろう地点の目星がついている。そちらに向けて移動を開始するため、視界内のスライムにはあっという間に黒い粒子になってもらう。
すまんな、残った君たちに悪気はないだろうが、今は構っていられる時間はそんなには無いんだよ。
作者からのお願い
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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。





