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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第十三章:新春も潮干狩りを
805/1209

805:早め早めの

 気持ちいい朝を迎える。隣にはアラーム、片手に結衣さん。幸せな朝だ。眠気は飛んでいるが、もう少しこうしていたいなあという気持ちにさせてくれる。だが、今日は予定がきっちりあるのでいつもの時間に起きて、いつものご飯を食べて、そして税理士さんのところへ出かけるのだ。


 俺が起き上がった事に気が付いたのか、結衣さんも寝ぼけ眼を軽くこすりながら目覚める。


「おはよう。やっぱりこの布団は良いものね」

「あとどのくらい効果が続くかは解らないけどこの布団じゃないと眠れなくなってしまうと思う」

「ちょっとお出かけして宿泊旅行する時もこの布団が惜しくて中々眠れないのよね」

「一緒に旅行に行けばとりあえずセミダブルについては困らないかな」


 朝食を作りつつ、結衣さんは昨日の服に着替えなおす。どうやら家に帰って一旦着替えてから向かう模様。流石に知り合いに二日目の服で会いに行くのは憚られる、という所か。


 朝食が出来たので並べて食事。昨日の肉祭りに比べれば質素そのものだが、胃袋をそこそこ休めるためにもシンプルな食事は必要だ。流石に毎食肉……というのはそろそろ限界が来そうなものだ。それまでに精々たっぷり味わっておくとするが、それはそれとしていつものトーストと目玉焼きとキャベツ。さすがにこれが胃にもたれるという現象はまだ感じていないので、朝食としてはちょうど良いのだろう。


 昼食を重めに食べてダンジョンで胃もたれで活動できませんという事態にはまだ遭遇していないので、胃腸の健康は保ち続けていると判断できそうだ。尤も、そういうときのために整腸剤や風邪薬、ビタミン剤に胃腸薬、下痢止めや酔い止めなど、一般家庭にありそうな基礎医薬品については常に携帯してはいる。医療品持ち運びバッグにまとめて放り込んであるうえに、保管庫で薬の消費期限もその分伸びてるのであと二十年ぐらいは保管庫の中で眠ってくれていても活躍してくれる事だろう。


「じゃ、時間になったら現地集合という事で。また十分前ぐらいに連絡入れるので芽生ちゃんとそこで待っててね」


 朝食を食べ終わるとコーヒーをグイッと飲み干して、気合を入れた結衣さんは早速自宅へ帰って行った。まだまだ予定時間には余裕があるので家事をササっと済ませてもう一杯コーヒーを飲む。あまり飲み過ぎるとトイレが近くなるが、かといってやる事が無い。コンビニで立ち読みでもするかな。


 自宅近くのコンビニへ。並んでいる雑誌を見るが、定期購読の雑誌の最新号はまだ入荷してない模様。俺が毎回買っていくのでここのコンビニには多少古くなっても探索情報誌は常備してくれているし、無ければダンジョン行くついでに小西ダンジョンそばのコンビニへ行けば探索雑誌は豊富に置かれている。確実に売っている店があるというのはこのご時世大事である。


 ダンジョン探索者をやっている都合上、置き配にしない限り日中は家に居ないし連絡もつけようがない。なので出来るだけ荷物は自分の都合のいい日時をピンポイントで指定できるか、自分で買いに出かけるかになる。田舎に近いとはいえ準都市部に住んでいる身としては、車で出かけられる範囲に購入できる店があるならそこへ向かうのが最も効率的と言えばそうなる。


 ふと、料理雑誌が目に留まった。ぱらぱらとめくって内容を読み取り、使えそうだったら買って研究しようと思ったが、そこまでインスピレーションを刺激される内容でも無かったので今回は保留。ローテーションの変更はしばらく無しだな。そもそも頻繁にローテーションの内容が変わる様ではローテーションを組んだ意味がない。もっと後日に回そう。


 コンビニで雑誌を適当に流し見しておやつを適当に見繕うと良い時間。早速出かけて時間より早めに到着するようにしよう。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 電車で最寄り駅について二十分前。レインで二人に到着したけどゆっくりおいでと伝えておく。寒い中二十分は少し厳しいが、懐からカイロ代わりのホットコーヒーを飲んで体を温めておく。ベンチに座ってボーっとしていると芽生さんが、続いて結衣さんが現れた。結衣さんは車である。


「お待たせー。じゃあ乗って乗って。駐車場を使わせてもらう旨も連絡してあるし歩いたりバス使うよりは車のほうが早いから」


 二日続けて結衣さんの車に乗る。俺は後部座席、芽生さんは助手席である。


「くんくん……洋一さんの匂いがします。昨日乗せましたね? 」


 芽生さんから指摘される。そんなに匂うかな……やっぱりダンジョン潜った後は体臭も残りやすいのかもしれない。もう少し気を遣うようにしておこう。このスーツもそこそこの期間着続けているからもしかしたら移ったのかもしれん。


「昨日の帰りから今朝まで一緒だったからだと思うわ。多分帰り道に買い物したり色々出かけた時に移ったのかも」

「という事は夕食も一緒にですか。何食べたんですか」

「ワイバーンのステーキと照り焼き。中々美味しかったわよ? 」

「今度のローテーションはワイバーン照り焼きにするか。作り方は何となく覚えたし同じ味を再現とまではいかなくても美味しく頂けるだろう」

「それでお願いします。なんか私だけワイバーン肉を味わう機会が無いような気がします。結衣さんがやたらお肌つやつやしてるのもワイバーン肉の効果ってことですかね」


 言われてみるとそうだな。前に食べたのも結衣さんとだし。次回は忘れずにワイバーン料理を作ってダンジョンに行こう。


 車で更に五分、目的の場所にはすぐ着いた。歩いてでも来れない距離ではないが、確かに車で来た方が便利な場所ではあった。看板には「佐藤会計事務所」の文字。相手も佐藤さんと言うのかな。


 結衣さんは車に乗り込む時点で連絡をしていたので、そのまま建物の中に入る。雑居ビルの一室にあるそこはいかにも事務所という感じで書類が並びパソコンが何台か並んでいた。複数人働けるけど今は人はあまり居ないようだ。


「いらっしゃい新浜さん。そちらのお二人が相談の方かな? 」


 軽い口調で結衣さんに挨拶をしている。俺と同年代かちょい上ぐらいだろうか。この二人が好みそうな年齢層ではある。これは見た目で経理周りを頼む先を選んだ説が浮上してきたぞ。


「初めまして、安村といいます」

「文月です、よろしくお願いします」

「こちらで会計事務所を営んでおります佐藤です。新浜さんのご紹介という事で、探索者をされてるということまでは聞いております。具体的な話はまずは落ち着ける場所でやりましょう」


 中に通してもらい、応接室でコーヒーを出してもらう。今日のコーヒー三杯目。このぐらいならまだまだ胃に入るが、トイレに行きたくなるかもしれないな。覚悟しておこう。


「お互い時間ももったいないですし、まずお金の話から始めますね。今回は確定申告だけについて当事務所を利用していただくという形式か、年間契約として一括払いしていただいてその後の収入支出についてこちらで把握しつつ月毎に情報の交換をして年間の収入、経費について詰めていく形式の二パターンになります。どちらを選ばれるかはそれぞれの判断に任せます。が、面倒くさいからまとめて管理してほしい、という場合は是非とも年間契約していただく方が手間もかからずお得です」

「税理士さんにお支払いする費用は経費になるんですか? 」


 根本的な話で申し訳ないが、という形で聞いてみる。


「全額経費として計上できます。なのでどちらを選んでもデメリットがあるという事にはなりません。確定申告だけでも年間契約でも、どちらも経費として支出する事が可能です」


 なるほど、確かに経費と言えば経費だからな。かからないようにしたければ自分できっちり税金対策を行ってくれということだろう。現実にはそれが出来ないからこうしてお願いに上がっているわけだ。


「月毎、ということは毎月一回こちらに来て書類やレシートを提出する事になるんでしょうか? 」


 芽生さんが俺が気になっていた事を丁度口にしてくれる。


「別に月毎、と決める必要も無いですよ。ただ、月毎ぐらいで管理していただいた方がこちらで把握しやすいのと、それぞれの個人の心得として溜めこまずに日々整理していくという癖をつけてもらうためでもあります。人によっては毎日ものすごい量の経費を出してはこっちに投げて来るような人も居ますけどね」


 なるほど、自分の普段の整理能力の問題か。俺はきっちりやってるが他の探索者や一般個人事業主はそうとは限らないから癖をつけましょうね、という税理士からの相談兼お願い、というところだろうか。


「とりあえず、ざっくりで良いですからお二人の予想年収をお聞きしても良いですかね? そこから確定申告の費用や年間金額を決めましょう。もしお互い隠しておきたいなら、ちょっと外へ出てていただいてその間に各自相談、という形を取りたいと思いますが」

「その点ですが、探索者のパーティーとして取り組んでいますので、共用装備として経費で落ちるか怪しいものや立て替えておいて後で支払ってもらったもの、書類上は私が全額受け取っている形で書類は残っているけど実際は後で分配している、と言うようにお互いの収入に引っかかってるところがあるんですよ。なのでその辺を上手く説明、もしくは解釈していただけるようになりたいので出来れば……いや、芽生さんが良ければほぼ同時に受けたいと考えているのですが」

「なるほど、お二人はパーティーなんですね。他のパーティーの方々はまた別という事でしょうか? 」


 どうやらパーティー人数がもっといる、というイメージで語っているらしい。結衣さんが五人パーティーであることを知っていてそういう話だと思っているらしい。


「私たち二人パーティーなんですよ。なので二人まとめてという形の予定なんですが、どうします? 年間でまとめてお願いしちゃいますか? 」

「そうだな。まとめてお世話になって良いと思うよ。そのほうが色々と気楽になれるだろうし、このままお願いしちゃおうかね」

「二人パーティーって珍しいの? 」


 佐藤さんが結衣さんに確認している。


「そうね、普通は三人から五人ぐらいが理想的ね。ごくたまに複数パーティーが連結して探索しているところもあるけど、ソロ探索者を別にすれば二人パーティーって言うのは珍しいほうだと思うわよ」

「なるほど。参考になるよ」


 二人でコンセンサスが取れたところで佐藤さんに向き合って改めてお願いする。


「今後、年間契約という事でお願いしようと思うんですがそれでよろしいでしょうか? 」

「解りました。とりあえず今年は色々手続きや考えることがちょっと多め、と言うところですかね。早速契約しましょう。全てはそれからですね」


 契約の書類を持ってくると、年間費用として百万円を契約料として出して契約を成立させること、契約料については振り込みで対応する事……札束放り込んであるからその場で出しても良かったんだが、流石にそれは行儀が悪いと思ってやめた。


 書類をお互い確認し、漏れや気になることがあるかどうかを精査する。この辺はきちんと形式ばったものが用意されていたため、難しい用語は確認し、解らない部分については適宜質問しながら話を進めていく。


 最後まで書類を読んだことを確認して、即日契約してしまう。こういう時は即断即決した方が自分にとっては都合のいいように世の中は回るような気がしているので、ここも即断即決で決めてしまう事にする。


 何より、年上過ぎず年下過ぎず、かなり年齢が近い事もあってかやり取りにあまり引っかかるような言い方や上下関係みたいなものを感じさせない佐藤さんの人柄を気に入った。彼に全て任せていこう。


 契約に必要なものはそれぞれ持ってきていたため、無事に契約を終わらせる。


「新浜さんに事前に今日来る、という話を聞いていたからこの後の予定は空けてあります。もし収入支出関連の書類をまとめてお持ちなら、早速お話のほうに入ろうと思いますけど、そのあたりはどうします? お持ちですか? 」

「一応私のほうは持ってきてはいるんですが……芽生さんは? 」

「私はギルドの証明書以外には洋一さんの収入からいくらか頂いている、という事実確認だけはしておきたいですからね。まずは洋一さんのほうから話をしてもらうほうがスムーズになると思います」

「お二人は随分仲がいいようで」

「お二人じゃなくてお三人ですけどね。なので結衣さんも一緒に聞いてて問題ないですよ」

「なるほど……男としては中々羨ましいご関係ですね。まあ私は妻一筋ですし他人の恋愛関係をつつき回すような趣味はありませんから、問題ないならこのまま相談のほうに入らせていただきますよ」


 結構あっさりしている。その点も評価できるな。さて、俺は結局今年いくら払わなければいけないのか。

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 良いとこだけじゃなく、きちんとメリットデメリット有りますよ~と負担のぶんも説明してくれてますし、そういう点では仕事をお任せして大丈夫そうですね佐藤さん。
[良い点] 毎々更新ありがとうございます。 朝読むのが日課になっております。 [気になる点] >>年間費用として百万円 契約金!これ以外に、月々の費用・決算費用・ 税務調査立合費用別途と考えると個人…
[一言] 2人パーティーだけども稼ぎは恐らく国内1位とかそんなレベルだからなー 数字見たらどんな反応をするやらw
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