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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第十三章:新春も潮干狩りを
804/1206

804:感想戦

「なるほど、こうやってダンジョンは消滅していくのね」


 ひとしきり動画を見終わった結衣さんの第一声。俺はまだ固唾を呑んで余韻に浸っている。これが小西ダンジョンでもいつかは訪れる風景という事なんだろうな。少なくとも四十九層までは出来上がっているはずの小西ダンジョンでは、しばらく攻略という話にはならないだろうと予想はしている。もしかしたら四十九層でいったん止まって、その先はまだ作ってないよと言い出すかもしれないが、それならそれでありかなとも思っている。


「とりあえず自分とかかわりない所でイベントが発生して終わってくれたことには一応の感謝かな。今から小西ダンジョン以外に潜るとなったら荷物もそうだけど色々と面倒なことになりそうだし。そう言えば荷物は押し出されてこなかったから、生命として認識されずにそのままダンジョンの中へ消え去っていったんだろうな。前にミルコに質問してそう回答をもらった覚えが有る」

「じゃあ、もうダンジョンコアを破壊した時に起こる現象は知ってたってこと? それならあまり驚きはないんじゃないの」

「実際に映像として記録されているのを見るとやっぱりね。百聞は一見に如かずとも言うし、これは世界的に見ても良いデータなんだろうな。少なくともダンジョン崩壊に人は巻き込まれないという事が解ったし、探索者は安全に脱出するだけの時間も整備されている」


 ただ、あのダンジョンを生活の糧にしていた人々にとっては逆に迷惑な行為になった可能性が高い。実際そのせいで該当探索者チームは怒られることになったわけだし、ダンジョンは攻略すればただ良いってものじゃないことも解る。


「ダンジョンを消しても、ダンジョンは無くならない。また新しいダンジョンが生まれる。実際にもう準備は進めてるのかもしれないし、数が減ったそばから増えていく可能性だってある。新しいダンジョンが前と同じ場所に湧く可能性だってあるんだ。一概にダンジョン消滅が良いとはちょっと言い切れないかな」

「ダンジョンって増やせるもんなの? まあある日突然ダンジョンが現れたんだし、実際に増えることはあるだろうけど、そうなると手が空いてるダンジョンマスターが増えてきたら暇なマスター同士が打ち合わせして新しいダンジョンを……ってのは想像つくわね」

「その内ミルコから提案されるかもな。新しいダンジョンを作ろうと思うんだけど何か一探索者として意見は無いか? とかそういうの。ただ、ミルコ自身はそういうのに首を突っ込みたがる性格ではないと思うからスルーされる事はあるかもしれないけどね」

「ミルコ君は自分のダンジョンの世話は……ある意味安村さんとD部隊の人たちさえ見てれば後はどうとでもなるから、その辺フリーなのかもしれないわね」

「俺が居ないときが暇、みたいなものはあるかもしれないな。だから適度に潜って楽しませるようにはしてるつもりではあるんだけど。甘やかしすぎかな? 」


 ちょっと自覚が出てきたような気がする。ミルコと伝手があることを理由に過剰に甘やかしてはいないか。お菓子のあげ過ぎではないか。ダンジョンマスターと探索者ってのはもっとこう、ドライな関係でいたほうがいいのか。それともやはりミルコが特殊な例なのか。


「そうねえ、私としてはミルコ君よりせっかく隣にいる私のことをもうちょっと甘やかしてくれてもいいなぁ~とは思ってるんだけど」


 そう言って結衣さんが後ろから抱き着いてくる。背中の感触は寂しい。そこで女性の価値が決まるわけではないが、やはり芽生さんと比べると物足りない感じがするのは現実として仕方がない所だ。


「今、芽生ちゃんと比べて当たり心地が悪いとか考えてたでしょ」


 体に絡めてきた腕に力が入る。探索者は地上では割と一般人の範疇とはいえ、ステータスブーストは地上でもある程度効果があるのか、締まる体が悲鳴を上げそうになる。


「考えてたが、そういうところが大事じゃないことは解ってるから安心してほしい。むしろそういうほうが好みではある」

「同じこと芽生ちゃんに言ってないでしょうね」

「言ってない。断じて言ってない」

「ならいいわ。そんなところで壁を作ったりしたくないし、今はこれでいいかなーって思ってるし」


 力が弱まる。死ぬかとは思わないが、数分間跡が残るかもしれない。そのぐらい本気の力締めだったと思う。やっぱり女の子って怖い。


「よし、風呂入ろう風呂。今日もしっかりダンジョンで汗をかいてきたはずだし、おねむの時間も近づいてきた」


 このままだらだらとイチャイチャしていてもいいんだが、どうせイチャつくならお互い裸のほうがよりイチャイチャできる。風呂に入ることにした。


「では、三十五層到達おめでとうという事で不肖安村洋一、背中を流させていただきます」

「うむ、くるしゅうない。近うよれ」


 結衣さんの背中を流す。細身の結衣さんとは言え、体を動かす仕事についている分、一般人に比べて背中にも筋肉が付いている、と思う。その筋をたどって背中をツーっと指先でなぞる。


「くすぐったい」

「日々頑張ってる成果がこの辺にも出てるな、と」

「筋肉質の女の子はお嫌い? 」

「だったら一緒に居ないさ」


 泡立てたソープを背中にまんべんなく塗ると、タオルで垢と汚れを落とし始める。言うほど汚れてはいないが、一日動いた分の仕上がりが見て取れた。


「そういえば初ワイバーンの感触はどうだったの、苦戦した? 」

「地上に下ろすまでが一苦労だった。その後は囲んで棒で叩いたり拳で叩いたり、色々よ。人数が居れば何とかなるってところね」

「地上に下ろさずに倒すとドロップ品がどっか行っちゃうからそれだけがネックなんだよな。それさえなければもっと手早く気楽に倒せるんだけど」

「ワイバーンって最初から地上に下りた状態で戦ったりしないの? 」

「気が付いたら上空に居るからなあ。地上に下りたままで遭遇、ってパターンは今のところ見てないかな。もしかしたら空中でリポップするタイプのモンスターなのかもしれない」


 背中を洗い終わる。背中を軽くピシャっと叩くと、結衣さんがクルっとこっちを向く。


「前も」

「しょうがない子だなあ。下は自分で洗ってね。具合が解んないから」


 結衣さんの慎ましやかな胸と無駄のないお腹を泡で包み込むようにしながら優しく洗う。結衣さんは冗談半分だったのだろうが前も、と言った手前引っ込みがつかないのか、下を向いて顔を赤くしている。今更そこで顔を赤くされてもお互い見る物は全部見た間柄だし気にする事は無いとは思うが、シチュエーションが大事らしい。


 一通り終わった後、今度はこっちが背中を差し出す。


「じゃ、こっちもやってもらおうかな」

「う、うん。わかった」


 まだちょっと引きずっているらしい。背中を擦る力も少し頼りない。もっと強いほうがいいな。


「もうちょっと強めにしてくれてもいいよ。そのほうが洗ってもらってる感じがする」

「わかった」


 背中に力がこもる。そうそう、そういう感じそういう感じ……あぁ、きもちええ。


「そんな感じそんな感じ。……って、こっそり前を洗おうとするなよ」

「バレたか。で、どうする? 前も洗う? 」

「せっかくだしお願いしてみるか」


 こっちも前を洗ってもらう事に。当然、臨戦態勢間近の息子が結衣さんを出迎える。


「何でやる気満々なんですか」

「背中が気持ちよかったから。これで胸で背中を洗われてたら暴れ竜が出る所だった」

「そっちも……洗う? 」

「……頼もうかな」


 ◇◆◇◆◇◆◇


 スッキリして体を洗い終わり、風呂に浸かる。俺が下敷きになって、結衣さんが俺の上にもたれかかるように二人同じ方向を向いて湯船に入ることになった。まだ息子は満足してないらしく、結衣さんの足の隙間から少しこんにちはしている。お前も贅沢な奴だな。


「まだまだ元気ねー。よしよし」

「こら、指先で弄るな」


 結衣さんの後頭部に軽くチョップする。あいたっと反応が返ってくるが、そこまで力は込めてないのでリアクションだけだろう。


「ふー、良い気持ち。このあとどうするの? 」

「ゆっくり寝ても良いし、一戦してからもう一度風呂に入ってからゆっくり寝ても良いぞ」

「うーん、私は今日はそういう気分じゃないかな。一緒に居れればいい感じ」

「じゃあたっぷり睡眠を取ろう。明日は何をしようかな……と。調べものも明日ゆっくりすればよかったかな」

「明日は明日でやることが出来ると思うから良いと思う。楽しかったし」


 風呂から上がってスマホを見ると着信あり。芽生さんからの返事だった。「明日ちょうど暇が出来るんですけどいきなりでも大丈夫ですかね? 」だと。明日は元々休みの予定だったからいいけど、結衣さんがどうするか、だな。


「こんな返信来てたけどどうする? せっかくの休みを潰すことになりそうだけど」


 結衣さんに確認を取る。結衣さんは前回に引き続き俺の私服を着ていた。いくら彼シャツでもこの時期は寒いと思うんだけどな。しかし、二人きりで休みを取るのも大事だから出来れば……でもなあ。


「あ、じゃあそうしましょうか。明日はお仕事してるはずですし、いろんな手間が省けて良いと思うわよ」


 結衣さん的にはオッケーらしい。基準がまだちょっと判別出来てないな。今夜一緒に寝るからそれでヨシ、と言うところなんだろうか。


「芽生ちゃんに送っておいて。私に確認取ったら付き合えることになったから明日行きましょうって」

「解った」


 レインで送信する。すると、電話がかかってきた。


「お早いお気づきで」

「もしかして、結衣さんとなりに居たりします? 」


 何で解ったんだろう。女の勘って奴か。


「居る。代わろうか? 」

「時間と場所を指定してくれればそこまでは行きますので、もってくものとか指定があればと思ったんですが」

「収入と経費を証明するものだから……芽生さんの場合ギルドの証明書と俺の布団の代金の分け前分、それから……後何が要るんだろう? 」

「安村さん、電話代わるわ。あ、芽生ちゃん? とりあえず確実に証明できるものだけ持ってれば大丈夫だから、今回は経費用のレシートと証明書があれば事足りると思うわよ」


 それからスマホのバッテリーが切れるぐらいまで二人は俺のスマホで話をしている。一人寂しいのでコーヒーを淹れて飲んでいた。どうやら俺の取り分とか普段はどうとかいう単語が端々に聞こえてくるので、二人でナニしてたんですかとかそういう話だろう。真面目に取り合う必要はあるが参加しても良い事は無さそうなので、歯磨きして寝る準備を整えておくことにした。


 話し合いが終わり、スマホが返ってくる。おかえり、そして充電いってらっしゃい。


「明日朝一で相談しに行くことになったから、そのまま付き合ってね。多分書類関係は安村さんが綺麗に整理してあると思うんだけど」

「一応保管庫に綺麗に仕舞ってある」


 クリアファイルごと中身を取り出し、証明書、納品書、領収書あたりをぱらぱらとめくりながら先に結衣さんに確認しておく。


「探索者歴一年未満の探索者でこんなに稼いだの? 」

「そういう事になってしまったみたいだ。もしかしたら国内で一番稼いでるかもな」

「一人で潜ってる分が相当量あるでしょうから……そうね、他のパーティーが三人四人で潜ってることや、深さを考えたら一番稼いでるかもね。でも、実際はD部隊の人たちかも」

「彼らの給与はまた別で出てるだろうし、多少の色が付くかもしれないけど一般探索者より稼いでるってイメージはないし……そもそも公務員だから副業は出来ないのでは? 」

「じゃあ、やっぱり一番稼いでる人になっちゃうかもね。バレたらインタビュー記事の申し込みとか飛んでくるわよきっと。探索者という鉱脈の夢をつかんだ男としてはどうなのよ」


 肘でうりうりとしながらそのままベッドにもたれかかる。ガチ睡眠の準備はキッチリしてあるので前回みたいにやっぱり一戦……となる前に眠気に勝てないだろう。


「そうだなあ。こんなにかわいい子が隣にいてくれて幸せだな。後お金の心配ももうすぐ解決できそうだし、今年はこまごまとした副収入があったり仕分けがどうのとか取り分がどうのと忙しいことになりそうだけど、来年からはスッキリ二か所だけの収入でやっていけそうかな」


 横になった結衣さんを抱きしめながら布団をかぶせる。


「この布団作った業者さんよね。そっちからは結構貰ってる感じ? 」

「お金としてはそんなに。でも充実感はあるかな。数字だけが積みあがっていくよりも、社会的なお金の流れみたいなものがある程度目に見える形で出てくるのは成果としてとても気に入っている。スーツもそうだな。気前よく使う事でみんなにお金が行きわたる。そういう意味では今俺の貯金にある何億円かは死んだお金ってことだな。と言っても使うこっち側にあまり美点と言うか、お金というものはこう使うべきだ、みたいなものが今のところ無いから溜まってるってイメージだけど。その辺もおいおい考えていかないとな」

「今後は使うほうでも頑張ってね。とりあえずはお金の話を取りまとめるために明日を待ちましょう。今日はゆっくり眠ってね。話し合いの途中で居眠りとかしないように」


 そう言いつつ結衣さんもかなり布団の魔力に惹かれているようで、眠気をこらえきれないようだ。


「大丈夫だろ。安心と信頼のダーククロウ布団だ。起きた頃には目覚めもバッチリのはずだ」

作者からのお願い


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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 自分なら趣味で喫茶店のオーナーになるかな 渋い店長と可愛いウェイトレス2人くらい雇って毎日コーヒー飲みに行きたいな
[気になる点] 銀行というものに預ける時点でそのお金が死んだことにはならない。 まぁ、自分で使ったほうがよりお金がまわりやすくなる分もあるだろうから積極的に使ったほうがいいのはいいが
[一言] 「今後は使うほうでも頑張ってね。と言っても使う側にあまり美点と言うか、お金というものはこう使うべきだ、みたいなものが今のところ無いから溜まってるってイメージだけど」 この台詞は結衣さんと見受…
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