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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第十三章:新春も潮干狩りを
801/1207

801:安全運転は眠くなる

800話でした(過去形

 結衣さんの車は独特の芳香剤のにおいがする。多分本人が付けてる香水と同じ系統の奴だ。この香りは車に酔いにくいタイプだと思う。種類によっては俺が自分で運転してても酔う事が有るので、石鹸のようなにおいのする芳香剤をうっすらとつけるような感じにしている。これはゆっくりできる香りだ。疲れが出てきたのか、バスに揺られているときのようにほんのりうつらうつらしそうになる。


「寝ちゃってても良いからねー」


 眠そうなのを見越してか、結衣さんは優しく声をかけてくれる。確かに眠りそうになるぐらい安全運転だ。よほど厳しい環境で鍛えられたのだろう。交通戦争真っただ中で毎回清州に安全にたどり着けるだけの運転技術と度胸、素晴らしい。手放しでほめ称えるに値する。


「今日の買い物リストを出しておかないと……確か探索中に何個かメモを取ったはずだから、あったあった。今日買うものはっと」


 ふと、税理士に相談という項目が目に入る。これも今月中に考えておかないといけない件だな。


「そういえば結衣さん達は贔屓にしてる税理士さんって居るの? 」


 何気なしに尋ねてみた。参考になればいい程度のつもりで話をふる。


「居るわよ一応。安村さんも芽生ちゃんと一緒にお願いする? 」

「そうするのが無難かなとは思ってる。探索者相手の経験がある所のほうが安心感があるから、芽生さんと相談して……今からでもできるか。そこへ向かってみようかな」

「後日名刺渡すからそこから私から相談を受けて……って話に持っていくと解りやすいかもしれないわね」


 流石に名刺の持ち合わせは無いか。こっちも急ぎではないんだ、まとめられるものはまとめたし、いつでも出せる姿勢にはしてある。後はそろって相談を受けに行くかどうかの段階だ。芽生さんが自分でどこまで把握してるかどうかは解らないが、少なくとも今年一年分のギルドからの収入は証明書をもらった都合で解ってるはずだ。後は俺から芽生さんに渡したダーククロウの羽根の代金と【魔法矢】の経費、スーツがどこまで経費で落とせるか、あたりが気になる点か。


 芽生さんにもレインで「結衣さんお薦めの税理士さん居るらしいからそこに頼まない? 」と送信しておく。昼間に送信用に送っておいた話もまだ未読らしい。急ぎじゃないからまぁいいけど。


「うん、頭の中でまとまった。とりあえず候補先ということでお世話になってみることにするよ」

「わかった、じゃあ名刺用意しとく。多分芽生ちゃんと一緒に行くんでしょ? 」

「パーティー間のやり取りが取引になるのか共用経費として落とせるのか、落とせない場合、どういう形でやり取りすれば税金的に問題が無いのか、とかいろいろあるからね。まとめて相談できるようになってたほうが嬉しい」

「パーティー間でのやりとりはねー。うちのパーティーだと今のところ高額な装備を共同で買ったりはしてないし、やり取りで一番多いのは税金関係ない食料品が多いから。さすがに五人分ともなると私一人で全員養うわけにもいかないし」


 今のところは問題にならないらしい。パーティーで出したスキルオーブも誰が使うかで話し合いにして終わりになるなら経費になる前に収入になってないからな。とりあえず【魔法矢】の購入代金を分割で仕入れるにはどうすればいいかを相談する必要があるって事だな。


「さて、金の話続きに今日の買い物リストだが、とりあえずヨーグルトと漬物は欲しい。後は食パンと卵とキャベツ、そいでもってそれ以外に気になったものがあれば何か……と、ステーキソースがそろそろ切れそうだったかな? 後はミルコ用のお菓子を次の分補充かな」

「ヨーグルトは何となく使い道が解るとして漬物は探索の箸休めかな。ちょっと摘まめるそういうのがあると食が進むのよね」


 保管庫から物品を取り出して一つずつ在庫品を確認していく。ステーキソースは今夜ともう一回分、というところだな、これも忘れず補充しよう。メモメモ。


「あいかわらず保管庫は便利ね。使い方が庶民じみてるのも安村さんらしいわ」

「これと言ってでかい野望やらあるわけじゃないからな。後は日持ちがするから常温保存の食品なんかを入れておくのにはちょうどいいんだ。家に置いといても持ち歩いても変わらない物なら持ち歩くようになった。これも潮干狩りおじさん劇場の受信料とでも思っていけば悪くないさ」

「今は放送時間外ってことよね。ダンジョンの外だし」

「そうなる。放送はまた明日ってところかな」


 俺がダンジョンに入った瞬間こっちにチャンネルを変えるダンジョンマスターも居るって事だよな。やっぱりリモコン操作でポチッと切り替える感じなんだろうか。それともガチャガチャチャンネルチェンジなんだろうか。頭の中で切り替えて映像を楽しむ、とかだとちょっと味わいが無いな。


「明日もダンジョン潜るの? 一日しっかり働いたんだし相当稼いだんだから休みでも良いと思うんだけど」

「と、するとそっちは休みかな。それなら俺も休みにして二人でのんびりするのも悪くは無いかもしれないな。明日のご予定は? 」

「予定らしい予定はないわね。だから一緒にゆっくりしてくれてもいいのよ? 」

「そうするかなあ。確かに休みらしい休みは年末年始以来取ってないような気がする。ここらで一日取っておくのも悪くない」


 結衣さんなりに誘ってくれている。働き過ぎは体に毒、という話なのだろう。ここはお言葉に甘えさせてもらうか。まだ年初だ。仕事をしない時間が多少あっても許される身分……というか、一ヶ月ぐらい遊びまわってても問題ない職業というのについてるのだから他の探索者みたいに稼いだから稼いだ分遊ぼう、というほうがより自然なのかもしれないな。


「ワーカーホリックって奴ね。前の仕事もそうだったの? 」

「前の仕事は週休二日だったな。休みの日は何してたか覚えてない程度には休まないとどうにもならない程度に忙しかった気もするし、もしかしたらそうでもなかったかもしれない。もう覚えてないや。きっと、心の残業って奴が終わったんだろう」

「心の残業って何? 仕事終わっても仕事をしてる気分になってるとか? 」

「前の仕事を思い出してはあの時こうすればよかったとか、こんな仕事やってたなあなんてのを不意に思い出しては後悔するような出来事をそう呼ぶらしい。そういう意味では前の仕事について考える事は無くなったからもう心残りは無いんだと思ってる。ただ、今度は二十四時間ダンジョンのことを考えるようになったから、そういう意味で心の切り替えをするタイミングというか、完全に休日に気晴らし! みたいなことをする必要はあるのかな、と最近感じている」

「じゃあ私がダンジョンのことを忘れさせるように努力すればそれが気晴らしになるって考えでもいいの? 」

「期待してる。今日の夕食にも」


 話している間にスーパーについたので、まずは隣のホムセンへ。いつものパックライスと箱でコーラの補充。カロリーバーはまだ在庫がある。


 買い物を終えると一旦車へ戻り、荷物を下ろしたふりをして保管庫に投入。


「その目くらまし毎回やってるの? 面倒くさくない? 」

「面倒くさいけど、厄介事を抱え込むよりはマシだと思うんだよね。一手間で便利に使えるならこれでもういいやってなってる」

「ふーん。家に帰ったら余分なパッケージを取ってすぐに食べられるようにしておくとか? 」

「家でレンジにかけてアツアツのまま保管庫に放り込んでおくと、昼食には割といいタイミングで食べごろになってる。一泊する時の夕食用はさすがに再加熱するかな」


 続いてスーパー。ホームセンターには無い生鮮食品と細かい調味料なんかをボトルで追加し、メモに書いてあったものとそろそろ無くなりそうなたれ系を買っていく。食パンと卵とキャベツと……明日のローテーションなんだっけな。ローテーションリストを取り出し一番手前の札を取って観察すると鶏肉の照り焼きと出た。たしか在庫は無かったはずだな。鶏肉を買って帰ろう。


「ふつうのお肉も買うんだ? 安村さんなら手持ちに一杯お肉あるでしょうに」


 ダンジョン肉で良いのに、と結衣さんから注目される。


「鶏肉の切り落としの照り焼き、あれ好きなんだよ。時々このスーパーでも惣菜品に並ぶから自分で作るようにしてみた。昼食で悩まなくて済むようにローテーションリストを作ったからその中の一品ということで使ってる」

「なるほど……家へ行ったら台所借りていいかな。ワイバーン肉の照り焼きとか美味しそうじゃない? 」


 なるほど、そういう手もあるな。ワイバーン肉のレシピを増やす意味でも良いかもしれない。俺はステーキを作って結衣さんが照り焼きを作る。並んで調理する風景を想像してみる。悪くないな。


「肉はあるから良いとして、付け合わせの葉野菜が欲しいな。そんなに多くなくていいし足が速すぎて保管庫でも対応しきれないからちょっとの奴で良い。あとは無難に人参とジャガイモがあるのでそれをステーキの添え物に出す。そうだな、レタス半玉あたりでどうかな。口寂しい時にムシャムシャできるしごまだれと和えれば大体なんでもいける」

「それは安村さんがごまだれが好きなだけじゃないの? 」

「そうとも言うが、ごまだれには無限の可能性があると思う」


 必要な物を買いそろえて補充品も買った。後はミルコ用のお菓子だな。あいつはお菓子なら何でもバッチコイだが、コーラとミントタブレットだけはかたくなに要求をしてくる。そこを忘れると一日何となくガン見されてる気分が付きまとうので忘れずにミントタブレットも箱で買っていこう。ただし一回一つまで。コーラも一日二本まで。そこは俺も譲れないところがある。何か大きなお願い事や用事がある時だけ二リットルのコーラを渡すように心がけているつもりだ。


「さて後は……大丈夫そうだな、近々で必要なものは全部そろってるはず。何かついで買いがあったら一緒に会計するけど」

「わかった。じゃあちょっと持ってくる」


 結衣さんはフラッと探し物に出かける。その間に新しいお菓子とかそういうものを眺めてこれはミルコが好きそうだなとか俺も食べてみたいとか感想を漏らしつつも二、三品さらに追加する。後はパックライスをわざわざ買って家でレンチンして食べる、というのもあれなので白米を二人分購入しておいた。パックライスはあくまでダンジョン探索用。家で食べるのが解り切ってるのだからここで買っても問題は無いし、安くつく。


 戻ってきた結衣さんがカートに品物を載せると会計へ。


「なんだかんだで結構な買い物になったな。経費で落ちる物は無さそうだ。しいて言うならミルコ用のおやつかな」

「難しい所よね。個人事業主扱いなら、みんなで食事するのも経費で落ちたり落ちなかったりするらしいし、コーヒー代は経費に出来るけど食事は経費で落ちなかったり、色々大変みたい」


 あれかな、ス〇バでコーヒー飲みながら仕事する時のコーヒー代は経費に出来るけど食事を込みにしたら経費に出来ないとか、そういうあいまいな部分が有ったりするのだろうか。俺も勉強しなきゃいけないな。時間的にも経済的にも余裕はある。覚えておいて損は無いだろう。


「さて、帰るか。腹もさすがに減ってきた。空腹は最高のスパイスというし、もう料理の半分ぐらいは出来ていると言ってもいいな」

「照り焼きとステーキが待って……はいないけど力尽きる前に作り切ってしまいたいところね」

「一応飯を作るぐらいの体力は残ってるからな。ちょっと時間はかかるが美味しい肉料理を作れるはずだ」


 結衣さんの運転で自宅へ。十分ほどだが静かな時間が流れる。結衣さんは運転中はラジオをつけたりはしないらしい。ラジオでも流れれば話が途切れたり気まずい時間が流れたりはしないだろうが、結衣さんの表情を見る限り退屈しているという感じではない。運転に集中しているのか、それとも助手席に俺が乗っているのがうれしいのか、終始笑顔で家までついた。


「着いたわ。早速料理しましょう料理。お腹空いちゃってしょうがないし、今日の料理の最初の一歩は安村さんにかかってるからね。しっかり頼むわ」

「しっかり頼むわ、と言われても一番働くのは俺じゃなくて保管庫なんだけどな」

作者からのお願い


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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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税理士の話しは何度かしてて直近車に乗る前にも話題に出てたのに「税理士居るの?」はボケがはじまってるくね? 俺が趣味多いからかも知れないけど趣味見つけようって言いつつ直ぐにダンジョンの事ばっかり考える…
[一言] 一緒に買い物したり普段の食生活から味の好みまで押さえようという地道な情報収集欠かしませんねぇ結衣さん
[気になる点] 今更だけどクーラーボックスに保冷剤入れてその中に足が早い食材をまとめて入れれば長持ちするのでは? あっでも管理が面倒になるのかな?
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