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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第一章:四十代から入れるダンジョン

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78/1220

78:お買い物、本格的な装備、そして

 二人で静かに鬼ころしへ歩いていく。二人してふわふわした気分で居るわけではない。

 俺は何を買うか考えてしっかり計画を立てているつもりだ。

 しかし、彼女はブツブツと「新しい服が買えるし槍も買える……それから」と、すでに目が¥になっている。


「これ文月さん、倹約するのではなかったのかい?」

「何をおっしゃいます安村さん、必要なものは必要なのだから買うんですよ。不必要なものを買わないのが倹約ですよ」

「つまり買う予定の物はちゃんとあると」

「メインウェポンがワイルドボア相手では少し耐久力不足に感じるんですよね。もうちょっとしっかりした材質の物が欲しいです」

「なるほど」


 何を買おうか考えながら、メモで買うものリストを確認する。

 パチンコ玉の補充は必須、中玉と大玉を倍の量仕入れてやってもいいだろう。


 普段使っているパチンコ玉が十一ミリメートルぐらいだ。百個単位で売られている。千個ぐらい買ってしまってもいいだろう。

 後、ダーククロウみたいな小さい獲物用の、より小さい六ミリメートル位のスチールボールを五百個単位でポイポイとカートに入れていく。これも安いから二千発ぐらい補充してしまっていいだろう。


 それと長らく忘れていた、ヘルメットの交換だ。いつまでも中坊自転車ヘルメットでは格好が付かない。もうちょい固くて、取り回しの同じようなものを探そう。


 キャンプ用品は素直に専門店で揃えよう。前もそういわれたのを覚えている。


 後は……今回は武器とツナギはそのままでいいな。ワイルドボアを相手にしても取り急ぎ問題が起きてない。問題が起きた時は前みたいに一回ぶつかってみて後は流れでお願いしよう。


 文月さんは槍を見ている。慎重に一本一本選んでは持ってみて重心を確かめて、振り回した時のイメージを思い浮かべているようだ。しばらくそっとしておこう。


 ヘルメットはフルフェイスから工事用の黄色いもの、軍用の現行の物など、いろいろある。

 バイキングヘルメットもあるが、こんなん被ってる奴いるのか?角が邪魔だろうに。


 コイフという、兜の内側に装着するチェインメイルのようなものまである。これはタオル巻いてその上にコイフをかぶってさらにその上に兜を被る。という感じだろうか。さすがにこれは買わないが。


 さてどのくらい視界をふさいでしまうかで購入するものが変わるかな。

 カーボンヘルメットの値段がいい奴なんか普通に六桁するな。今の帽子よりマシなのは間違いないが、果たして帽子にそこまで金をかけるべきか否か。


 ここで金あるし、経費になるし、バァァンと金を使ってしまう事も出来る。だが、それでいいのかという俺の中の貧乏性がその勢いを必死にせき止めている。その間に順番に整理しておこう。


 まず、視界がふさがるフルフェイスタイプの帽子はNGだ。視界は広いにこしたことはない。

 防弾レベルがいくつという基準があるが、少なくとも銃弾を受ける可能性は今のところないので、気にする必要は無いだろう。何より防弾ヘルメットは重いのだ。首と肩に来るのもNGだ。


 とはいえ、頭部は全面が急所であり防御するのは大事だ。となれば、重さは一キログラムぐらいで押さえておきたい。そうなるとタクティカルヘルメットの中から選ぶのがベターだと思われる。


 一万円から十万円ぐらいまで種類がある。ここは中間の五万円辺りのラインナップを攻めてみよう。

 試しに被ってみる。視界は前と変わらないな。あまり隙間が出来ないサイズを選ぶと、カートに入れておく。


 全身のツナギよりも帽子一つのほうが高くなってしまったが、ツナギは今のところほつれこそあるものの決定的なダメージは受けていない。そのままでいいだろう、ここは節約しておく。


 これで、ツナギにタクティカルヘルメットという怪しい服装の男が出来上がったことになる。探索者でなければ通報ものだろう。


 他に何か新しいものはないかと店内を見回る。前も来たからな、一通り見回っては見たはずだが。

 と、トランシーバを見つける。ペアで一つ買っておいて良さそうだな。もしも五層以降にはぐれた際に使うかもしれない。ワンセット入れとこう。二万円なり。


 手袋も軍手じゃなくてちゃんとしたのが欲しいな。ラインナップを見ていると、薄手の手袋でワイルドボア革の手袋というのがあった。お値段は一万円ほど。ちょっとお高いスーツを買う店で売ってる手袋とそう大差無さそうだ。革が薄い分、手になじむ。これも買っておこう。


 うわぁ、なんかすごいことになってきちゃったぞ。なんだかんだ他人のことを言いつつ、俺もちょっと浮ついているな。これ以上の買い物は控えよう。


 文月さんはどうやらお気に入りを見つけたようだが、まだ悩んでいる。


「決まった? 」

「う~ん、どっちにしよう? 」


 手元には、二本の槍があった。片方は柄の部分が黒い木でできたもの。石突には金属が使われている。

 もう一本は総金属だが、二つに分解してショートソード替わりとしても扱える一品になっている。


「強度的にはどっちがいいのかな」

「強度は金属のほうが多分丈夫。繋ぎの部分も丈夫に作られてるみたい」

「じゃぁ木のほうは? 」

「一本の木材から作られてるからそっちも問題ないと思う」

「じゃぁ持ち運びの問題? 」


 確かに短槍とはいえ長いもの一本持ってうろつくのは物騒だな。


「そうなると金属のほうが二つ折りみたいにできる分楽だとは思うんだけど」

「こっちの釣り竿みたいな伸びるやつは……これ多分折れるな」

「ゴブリン相手ならこれでも十分だろうけど、ワイルドボアとかその後を考えるとね? 」


 相手に依って状況を考えているらしい。両方買えばいいのに。


「じゃぁ両方買おう」

「えーでも結構お値段が」

「じゃぁ、好きなほう買って。もう片方は稼いだ祝いに俺が買おう」


 折衷案を出す。


「え、いいの? でもそっちも結構買い物してるんじゃ」

「必要経費だからまぁいいんじゃない? 使わないほうは俺が持ってれば邪魔にならないし」

「じゃぁ両方! 高いほうお願い! 」


 正直でよろしい。俺は高いほうを受け取るとそのまま会計を済ませる。今回もカードだ。十八万ぐらいの出費になったが、必要経費として落とせるなら問題ないだろう。


「二階は? 見て回る? 」

「う~ん、今日はいいかな。安村さんは? 」

「用事ある。ウルフカレーとボア肉のチャーシューが食べてみたい」

「まぁ、今日ぐらいは贅沢してもいいでしょう」


 大蔵省の許可が下りた。一通り一個ずつ買っていこうと思う。しばらくは家での飯が豪華にできるな。


「後はキャンプ用品を一通りそろえようと思うんだが」

「それってもっと深く潜るってこと? 」

「見越して用意しておいても問題は無いかなと」


 多分、二人ともDランクになった関係上意外と早く七層に潜るチャンスは来るんじゃないかと思う。その為の準備は早いに越したことは無いだろう。


「二人分お願いします。料金は折半で」

「と言っても、ダンジョンの中だから目隠し代わりの簡易テントと寝袋の代わりに床に敷くシートぐらいしか買わないけど。あと簡易コンロ」


 コンロとまでは行かなくても、小型のバーナーは欲しいところだな。


「温かいもの食べたいですからね。コンロは大事ですね。寝袋は使わないんですか? 」

「もしもの時、ササっと立ち上がれる必要があるでしょ? 」

「そうですね。それにダンジョンの中ってあんまり寒いって感じじゃないですし、寝袋をわざわざ使う理由は無いかもですね」


 納得してもらえたようだ。まぁ、必要だったら次回寝袋を買えばいい。


「大体直近で必要そうなものは買ったか。結構な買い物になったな」

「急にお金があるとつい使ってしまうのは人間の性なのでしょうか」

「それをグッと我慢するのも人間の性ではないでしょうか」


 店を出る。荷物が一杯に見えるかもしれないが、物が小さいパチンコ玉の類は購入してバッグにしまう時点で保管庫に入れてしまったので、見た目ほど重い荷物じゃない。

 木製の槍のほうは俺が預かることにした。誰にも見えないところでコッソリと保管庫にしまう。


 お互いラフな格好で探索者用の荷物を買いあさるのはデートに見えるのだろうか、それともパパ活に見えるんだろうか。まぁ、パパ活と呼ばれても俺は気にしないが、彼女はどう思っているんだろう。


「これ、はた目から見たらパパ活に見えるんですかね」


 向こうから爆弾を放り投げてきた。どうキャッチすべきか。


「解らん。他の探索者でも年齢差があるパーティーとかあるかもしれんし」

「そうですよねー。じゃぁデートになるんでしょうか」

「こんなオッサンとデートでいいのか? 」

「まぁ、私が納得してるんでいいです。その分奢っては貰いましたから」

「ま、これだけ人が多いから気にする人もそう居ないんじゃないかな。パパ活でダンジョンデートなんて色気が無さすぎるしな」

「もしかして、期待してます? 」


 今のところそういう気持ちはない。もしかしたら今後あるかもしれないけど、今はないと断言できる。


「十年早いな」

「十年もたったら私アラサーですよ。若い子よりそっちのほうが好みだったり? 」

「相手による」

「まぁともかくですね。これからもよろしくお願いします」

「金づるとして? 」

「秘密の共有仲間として、です。おかげで楽してダンジョン探索できてますから」


 そういえば彼女はダンジョンに何を見出しているんだろう?


「なぁ、ダンジョンに潜る目的って今のところ何? 」

「どうしたんですか急に」

「お金も稼いだし、しばらく生活には困らなくなってしまった」


 二週間そこらで五百万も稼げば十分稼いだことになるだろう。今後も続けるならその額はどんどん膨れ上がっていくはずだ。


「そうですね」

「じゃぁ、何をモチベーションにこれからダンジョン探索をするか、という事に少し悩みつつある」

「う~ん、ダンジョンの謎を解き明かす、とか? 」

「そういうのは先行探索者に任せる。今のところはそうだな……もっとうまい肉が食えるなら食ってみたいというのがあるかな」


 世の中にはワイルドボアの肉よりもうまいとされるオーク肉があるそうだ。ぜひ味わってその美味しさに酔いしれてみたい。


「食欲ですか」

「悪くはなかろう?」

「悪くないですね」

「なら、そこまで潜ってみたいという当面の目標はあるわけだ。ならまずはそこを目指して、その後考えようかな」


 ワイルドボアより美味い肉を落とすモンスター。何が居るんだろう。


「じゃぁ目標は十一層ですか」

「十一層から美味しい肉が出る? 」

「らしいです。十層以降の探索データベースはそんなに充実してないんですが、十一層にはオークが出てきて肉が美味いという話があります」


 十一層か。つまりランクを上げなきゃいけないな。


「じゃぁ、目標はそこだな。頑張っていこう」

「とりあえずですね。これからもよろしくお願いします」

「こちらこそ、お互い生活に無理のない範囲で」

「ですね。行くときは連絡入れあうって事で」

「じゃぁ、また」


 握手をして別れる。

 さぁ、今夜こそはウルフ肉のカルビ風を作って食べるんだ。

 明日はキャンプ用品を一通り巡って、目に付いた安価でお得なものを購入しに出かけるとしよう。


 俺のダンジョン生活はこれからも続いていく。

 モンスターを相手に戦い、まだ見たことのないダンジョンを巡り、時には報酬を手に入れ、時には休む。時にはピンチになるかもしれない。が、一つずつこなしていけばきっと大丈夫だろう。


 ダンジョンがもし消えてなくなってしまう事があったらそこまでだが、それまでは今の生活を続けていくのがどうやら俺にとっては楽しいらしい。

 もうしばらくこの生活を続けるのも悪くないな。




 ダンジョンで潮干狩りをしながら。



一応ここまでが第一章みたいなものです。

ここまで読んでくれた皆様、本当にありがとうございます。


第二章は全量投下済みですが、2,3日遅れて開始しますのでその間だけしばらくお待ちください。


ひとまずここまで、処女作を読んでいただき重ねてありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
色々粗はありましたが このまま完結としてしまっていい程度にきれいに締めましたね
[良い点] オッサンのおっさん感がリアルで良い! [一言] 追いかけている最中ですが、応援させていただきます!
[良い点] 年下の女の子に財布握られてるの良いよね… ゾクゾクする
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