743:一人でもいけるもん 2/3
暫く読みふけっていると到着したらしい。いつも通り三十五層にリヤカーを放置。机を置いてお菓子を並べ、パンパンと二拍。するとミルコごと現れた。
「今日は一人なんだね。てっきり一層で一緒に居たパーティーと潜るのかと思っていたよ」
「ちょっと自分の限界にチャレンジしたくなったんだ。一人でどこまで潜れるか……と言っても深くても三十八層までしか潜る予定はないけどね」
「まあ君なら大丈夫なんじゃないかな。僕としては今のうちにあちこちうろうろしておいてくれたほうが、ダンジョンの先を作る作業に集中できるから良いんだけど」
「俺達はともかくとして高橋さん達はどんどん先へ行くだろうから彼らを足止めするような情報なりなんなりをよく耳に入れさせておかないと厳しいかもしれないぞ? 」
俺達はダンジョンマスターに待てと言われたら待てができる立場にいる。しかしダンジョン庁としてはどんどん深く潜っていってほしいだろうし、D部隊にも同じく深く潜り強い敵を倒し、魔素を含んだドロップ品を運び出すことを率先してやっていくだろう。現状国内最深層であるところの小西ダンジョンが他のダンジョン探索の参考資料になるってことだ。
ドロップ品にしろ、階層の様子にしろ、モンスターの種類にしろ、他のダンジョンに比べて一段階分深く潜ることのできる現状では色んなダンジョンについての基準となる。その為には他のダンジョンを待つ必要なく、出来るだけ早く、細かく、調査していく必要があるはずだ。
その為にも進捗が滞って進まないのはあまり思わしくないということになるだろう。今何層を潜っているかは解らないし、もしかしたらさっさと次のセーフエリアまで進んでいく可能性だってある。こっちが週一か週二で潜っているのに比べて、その気になれば一週間丸々探索に費やすことが出来るのが彼らだ。流石に休日は取るだろうが、ダンジョンアタックに使える時間は圧倒的に多い。
あ、詳細に調べるためにはD部隊はすべての階層の地図を作っていく必要があるのか。だとしたら焦って攻略を進めていく必要もないか。そもそもツンドラマップがワープしているかどうか、とかそういう部分も含めて調べていく必要があるだろう。
四十二層という一つの区切りに達したところで細かい所を調査するのを優先する事になるだろう。多少サボってても引き離される事は無さそうだな。
「そうだね。そう言えば彼ら、エレベーター以外の報酬は一旦固辞したよ」
「へえ、やはりダンジョンからとはいえ、個人の利益供与に関わってきそうなことはしないように教育されてるのかな」
「謙虚だよねえ。ダンジョンがすることなんだからそのぐらい許されるとは思うんだけど、先発隊だからと言って我々だけそういうものを享受する訳にはいかない、だってさ。まぁ、彼らに見えない形で少しばかり便宜を図るのは問題ないよね? 」
「良いんじゃないかな。彼らが欲しそうなスキルの一つでも見繕ってあげれば良いと思うよ。自然ドロップの形で渡せるならそれも一つだしな」
早速目の前でお菓子をつまみ食いしながら最近の情報を交換し合う。探索者のランクが変わった事、それによってより深く潜ってくる探索者が増加する分、魔素の持ち出しも加速するんじゃないかという話は重要なので確実に伝えておく。
「じゃあ、これからは二十二層に入ってくる探索者が増えて来るって事でいいのかな? 」
「ああ、今二十一層でキャンプを張っている探索者がまとめて入ってくることにはなりそうだ。俺は今まで通り自分のペースで潜ることになりそうだけど」
「まあ、無理はしないでくれたまえよ。せっかくレアなスキルを拾ってもらったことだし、出来るだけ長く楽しめるようにしてほしいね」
「ならもっと若者が拾った方が安心だったんじゃないか? 俺だって潜れて精々あと二十年だぞ。君らからすれば短い楽しみなんじゃないか? 」
「それはそうなんだけどね、ダンジョンで拾ったスキルをほぼ純粋にダンジョンのために使ってくれている分で釣り合いが取れてると思っているよ」
中々うれしい事を言ってくれる。うちのダンジョンマスターは懐が広くて助かる。もしかしたら持ち上げてやる気を出させているのかもしれないが、それでも喜んでしまう事には違いない。チョロいな俺。まぁチョロくてもいいや、やる気が出た事には違いない。今日は見せ場を一杯作ってみよう。
「じゃ、ちょっと行ってくる。一人で行くのは初めてだからどこまで行けるかもわからんが精一杯やってみよう」
「期待してるよ、僕はポップコーンだっけ? これを片手に観戦することにするよ、じゃあね」
ミルコは転移していった。ポップコーン片手に楽しむという海外の単語は確かにあるんだが、それを無意識に使ったらしい。まあのんびりしててもらおうと思う。早速三十六層へ向かう。
いつもはただの通り道の三十六層だが、今日は違う。一人しかいないのだ。割と厳しめの行程で背中を預ける相手が居ないというのは寂しいものがある。さて、一人の俺はどのくらいまで行けるのか。試してみるのも面白いし、久々に全力全開でスキルを使って戦う。射出の方法は、パラメータは、精度は。衰えてないかどうかテストだ。
早速現れたダンジョンウィーゼル。一匹を全力雷撃でスタンさせて二匹目を射出で対応。ゴブ剣は無事に打ち出され、ダンジョンウィーゼルの頭に刺さった。三匹目をいつも通り雷切で近接対処して、最後にスタンしている最初の一匹目を撃破。うん、忘れてないな。
次はワイバーンだ。いつもは地上に落ちた時に雷撃して動きの鈍ったところを芽生さんに処理してもらっているが、今回は処理までが俺の担当だ。体は上手く動いてくれるかな。
ワイバーンがブレスを吐きながら降下してくる。薙ぎ払いのようなブレスを回避しつつ、着地地点に全力雷撃。ワイバーンの動きが鈍くなったところで雷切で突っ込み、両翼を切り落として飛び上がれなくなったところで首を刎ねる。一匹ならこんなもん。二匹来たらどうしようね? この後確実に二匹を相手にする場面があるのでその際どうするか今のうちに戦略を練っておこう。
続いてダンジョンウィーゼル二匹が来たが、後から来る方を全力雷撃でスタンさせて残り一匹に雷切。その後で残りを処理。三匹で楽なら二匹はもっと楽だ。ダンジョンウィーゼル相手なら避けることも容易くなった。これもツンドラマップで鍛えてきたおかげだ。スノーベアに比べればかなり相対し易い相手だ。
ダンジョンウィーゼルは三匹でも同じ手順を繰り返すことでやりくりできることが確認できた。むしろ流れが出来た分だけやりやすくなったとも言える。これなら三十六層は、あとはワイバーン二匹のセットさえ何とか出来ればここはなんとかなる。
しばらく戦いを続けて、ワイバーン二匹が同時に来る場所まで来た。ここが最難関だ。ワイバーン二匹が同時にこっちを見つけブレスを吐いてくる。逃げ場は少ない、まずは回避に専念。ワイバーンの首の角度とこっちを見る目からブレスが着弾するタイミングを計らって徐々に移動範囲を狭めてくる。ちょっとぐらいならブレスに触れてみても大丈夫だろうか。三百万掛けたスーツが焦げたり破れたりしないだろうか。
若干俺でも躊躇するが、逃げ場が無くなったら出来るだけブレスの薄い所を狙って回避行動に出なければいけない。そう考えながらひたすら地面を逃げまどっていると、逃げる場所がほぼ無くなったところでワイバーンが二匹とも着地する。ブレスの打ちっぱなしは終わったようだ。スーツの燃焼テストをせずに終わってホッとする。
ワイバーン二匹を同時に相手にするなら手段はもう択ばなくていいだろう。ゴブ剣を射出してワイバーンの頭部に二匹纏めて射出。刺さったが、一発でトドメとはいかなかった。流石ワイバーンといった所だろうか。続いて心臓めがけてもう二射。ワイバーンの動きが緩やかになり黒い粒子をまき散らし始めたが、まだ息があるようなので近寄って雷切でそれぞれきっちりとどめを刺す。
さすがに空中に居る間にゴブ剣を当てるほど器用ではないので、最初のブレスをどう潜り抜けるかがカギだな。次に活かしてみよう。
次に二体のワイバーンが来た時、ブレスを吐きながら迫ってくるタイミングでゴブ剣を射出してみた。当たって喉を貫通したが、そのまま黒い粒子へ変わり弾き飛ばされるように撃ち落としてしまいゴブ剣も巻き添えにして谷底へ転がっていった。これではドロップが拾えないではないか。やはりブレスは回避するか、地上部分がある場所へ誘導して射出するのが良さそうだ。
三十六層を無事に抜けられたところで昼食とする。しばらくは湧き直しも無いだろうし落ち着いて飯にしよう。今日も作り慣れたお手軽昼食だ。生姜焼きのたれは自作する必要はないんだが、市販の生姜焼きのたれに一味加えて更にうまみを引き出すことにしている。
一から自作するのはさすがに手間が多すぎるので市販に自分なりのアレンジを加えてより自分好みにしている。具体的にはニンニクを追加してショウガを割り増しにして少量のみりんを足し込んで辛味と甘みを少し増やす。ダンジョンに潜るだけなら問題ないが、その後人と出会うような事が有ればちょっと気になるかもしれないな。まぁ今日は一人だ、気にせずに味変して使う事にした。
相変わらず米によく合う食べ物だと一人満足しながら飯を食べる。いつもの生姜焼きと言えばそこまでだが、その日の気分で多少味付けが変わるため、味付けによって体調が悪いのか気分が悪いのか、色々と解るようになればいいな。今のところ味に問題はないので、体調不良や精神的な変化が訴えてきている事はないらしい。
いつも通り食べ終えてコーヒーを飲む。温かいコーヒーを飲むなら、家でコーヒーを沸かしてきて保温ポットに入れてそのままこっちへ持ってくると淹れる時間がもっと時短できるな。ミルクや砂糖は別で持ってくればいいから取り回しも悪くない。一つメモって後で考えておこう。
高山の気持ちいいとは言い切れない程度に強い風を受けながら食べる飯もまたキャンプっぽくて悪くない。テントとタープを張って焚火をしながら……というキャンプ番組を先日見かけたが、あれも悪くは無いだろうな。ただ、保管庫のおかげで不便さがかなり軽減されてしまってはいるが、一切使わずに車に積み込めるものだけでキャンプを偶に楽しむことは良いかもしれない。休みの日にでも……休みの日? 毎日だな。
キャンプは……その気になれば庭でもできるしわざわざ遠いキャンプ場まで出かけて楽しむという趣味には何となくだが俺には合ってないような気がする。ここでこうやって涼んだり悩んだりしているだけで充分じゃないか。直線的距離で言えばここも立派に遠いキャンプ地だ。そう言う意味では既に俺はキャンプを楽しんでいる。それでいいじゃないか。そういう事にしておこう。
休憩を終えて無事に三十七層まで下りてきたがやはりツンドラマップは寒い。チョッキを着ていても隙間から少し冷えた空気が入ってくる。これは動いてないと冷えて仕方ない奴だな。出来るだけ体を動かそうと思いはするものの、動かすための相手になりそうなモンスターはほとんど近くに居ない。とりあえず今日の目標はスノーオウルなので、三十七層の並木道に沿って西へ向かう。
三十七層は南西方向にまっすぐ行けば階段へ直接アクセスする事ができるが、今日の目的であるスノーオウルの羽根が欲しい場合、並木道が途切れるまでスノーオウルと偶にいるスノーベアと戦う事で時間効率の良い戦いが出来る。今日は出来るだけ多くスノーオウルを倒したいので階段へは直行せずに確実に一対一で戦えそうな並木道沿いに進んでいく。
いつも通りスノーオウルを雷撃でおびき寄せたところで投網を放ち、投網で包み込んだ後地面にたたきつけて雷切でトドメ。この流れで投網漁を続けていこう。魔力の消費量はそれなりに多いが、尽きるほど連続した戦いがあるわけでもなく、尽きたところで回復手段であるトレントの実のドライフルーツは充分すぎるというか作りすぎというほどある。事前準備は万全だ。このまま突き進んでスノーオウル製品を世の中に広める布教活動を続けていこうと思う。
スノーオウルを木ごとに雷撃して呼び出し、投網をかけて雷切、パターン化したこの作業を黙々と続けて三十分、並木道が途切れた。ここから真南に行くことで階段が見えてくる。ここから先はスノーベアの領域だ。同時に二匹かかってこない限りは苦戦はしない。一対一なら問題ないだろう。一対二になった時にどうするかだなー……と考えている矢先に二匹同時にかかってきそうな局面に出くわした。
仕方がないので片方を全力雷撃し呼びつけ、射出二連発で両方のスノーベアにゴブ剣を突き刺す。一発では倒れなかったので二射目を準備しつつ、近づかれた時の対処を頭の中で思い浮かべて整理、二射目を体に貫かせたところで片方を確実に全力雷撃で黒い粒子に還させると、もう一体が迫りくる。攻撃をバックステップで確実に下がって避ける。
手負いのスノーベア相手にもう一度冷静に全力雷撃、動きが鈍ったところで更に雷撃。スノーベアを両方片付けたが、ちょっと火力の使い過ぎか。いや、一人なんだし今日は出し惜しみなしなんだ。眩暈が来るギリギリのラインを攻めるのも良いが、今日は冒険しているが冒険せずに確実に今日の儲けを溜めていこう。
スノーベアと出来るだけ一対一で戦いをし、雷撃だけでなく射出も織り込んで近づかれる前に確実に仕留めながら階段へ歩いていく。無事階段にたどり着けたのでこれで第二目標達成か。第一目標は三十六層を横断できるかどうかだった。やはり射出は強いな。だが、【雷魔法】のスキルの熟練度が上がってきたおかげか、射出の攻撃力よりも極太雷撃の威力のほうが上回りつつある。これ以上の火力を求めるなら射出の速度を更に上げて雷魔法を纏わせてのレールガン式射出ぐらいだろう。
ただこいつの問題点は射出した物体が何処かへ飛んでいく可能性が非常に高いということだ。射出武器としてそれなりの数を有しているとはいえ、この階層でゴブ剣とはいえ今更入手しづらいアイテムをポンポン放り出せるかと言えばそれは否だ。大事に使っていきたい。その面でも、レールガン式射出は出来るだけ封印する。次のボス戦には出番があるだろうから、それまで待っててもらおう。
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。





