73:お気づきの方は多いと思いますがサブタイトルに深い意味は持たせていません。
「フンがついてるかどうかも判別してくれるらしいぞ、この保管庫」
「間違って使わないようにって配慮ですかねぇ」
「まぁ、乾いたタオル欲しい時に出たのがフン濡れだったら最悪な気持ちになるだろうし」
お互い気を取り直してモンスター探しに出かける。
「どこかにダーククロウの巣でもないかな」
「あるとしたら木の上とかじゃ?」
「んじゃ、とりあえずあの少し遠くに見える木まで行こうか。それまではワイルドボアが定期的に襲ってきてくれることを祈ろう」
「そういえばワイルドボアは皮を偶にくれるそうです」
「大きさは?」
「五十デシぐらいだそうですから嵩張りますね」
「五十デシ?」
何か聞いたことない単位だ。
「一デシは十センチ角です」
「じゃぁ七十センチ四方ぐらいってことか。結構でかいな」
「ちなみに革業界ではスクエアフィートという単位のほうをよく使うそうですが」
「なんでデシの単位を使ったんだろう? 」
「さぁ。いずれにせよ、保管庫に入れられない品物が増えてしまいましたね」
「四つ折りにしちゃだめ?」
「癖がつくと商品にならないんじゃないですかね。丸めてカバンにそのまま刺しておくしかないかと」
「まぁ、一品ぐらいならいいだろうけ……来たよ」
ワイルドボアが四頭来た。二人距離を取る。オスが二頭、メスが二頭だ。牙の大きさで判断した。
そしてこっちに三頭、向こうに一頭。パチンコ玉を音速手前で二個射出する。
どちらもワイルドボアの眉間に命中し、速度を落とす。こいつ正確に狙えて便利だな。
ステータスブーストをかけると最初に突撃してきた一頭をギリギリで躱し、相手の左側面に一撃。すぐさま反転して追いかける。ワイルドボアがスピードを殺しきってこっちを向いたときには俺は相手の目の前に居た。そのまま目を狙ってグラディウスを突き立てる。両目をうまい具合に抜けきったのでそこで死亡判定。ワイルドボアは消滅する。まずは一つ目。
残り二頭へすぐに意識を持ち直す。再び加速し始めた二頭の片方にもう一度パチンコ玉をお見舞いする。またも体勢を崩した一頭のスピードが落ちる。常に一対一の体制で戦えば問題なかろうなのだ。
加速して二頭目に接近し、衝突の威力を生かしてグラディウスを突き立てる。眉間に刺さった。骨ごと割ったらしい。グリグリ入れ込むことなくワイルドボアは消滅した。これで二つ目。
三頭目はすでにダメージを十分受けているのか、前の二頭よりもスピードが遅い。がっしりと受け止めると、そのまま持ち上げ、地面へビターンと叩きつける。そして腹部にグラディウスで穴をあける。これで三つ目。こっちの戦闘は終わりだ。ドロップは無かった。まぁそんな時もあるさ。
文月さんのほうも戦闘は終わったようだ。あっちには魔結晶のドロップがあった。
パチンコ玉は……さすがに探しにくいな。磁石ぶら下げながら回収するわけにもいかないので、大人しく諦める。
「槍折れそう」
「買い替え時? 」
「そうかも」
今度清州のショップ行った時に、どんな槍があるか見に行こう。取り回しのきくような短槍があればいいんだが。
目標地点に達するまでに十回ほど戦闘を行った。革は一枚出た。確かに邪魔である。買い取り価格がそれなりであることを祈ろう。
目標だった木に近づいた。巣があるかどうかまでは解らないが、そこには羽を休めるダーククロウの集団が居た。
「まだ気づかれてないかな」
「気づかれてると思うよ。鳥は目がいいから」
「つまり、まだ向こうの射程範囲外だという事? 」
「ここから撃ち落とす。準備するから待って」
「え、全部撃ち落とすの? 」
「何羽できるかどうかわからないけど、マルチロックオンは出来そう。一応耳ふさいでて」
「わかった」
イメージは大事だ、イメージは大事だ、イメージは大事だ……
脳内で、ロボットアニメで出てきそうなロックオン画面をイメージする。その中で、目に見える範囲すべてのダーククロウをターゲットする。ターゲットマークがついた気がする。
数は……十五羽ぐらいはいるかな。それら一つ一つに向けて、できるだけ同時にパチンコ玉を射出する……今だ。
プシュン!音が響く。
木にとまっていたダーククロウがパタパタ落ちていく。どうやらうまくはいったようだ。そのまま木の根元にパタパタと落ちていく。ダーククロウの群れは黒い粒子になって消えていくが、消えていかないものもあった。
どうやらこの舞い散る羽根がドロップの羽根という事か。黒く艶があり綺麗だ。なんだかいい匂いもする。それが結構な量落ちていた。魔結晶も五つほど手に入った。
「これが枕の材料か。一つ分集めるには手間だな」
「とりあえずバッグに詰めましょう。肉はパックされてくれてるのに羽根は一枚一枚手作業回収なのは面倒くさいですね」
「いっそのこと枕ごと落としてくださいとか? 」
「枕の外側の布は何処から調達されてくるんでしょう? 」
「それはダンジョンの不思議とかでなんとかなる」
「いいのかなぁそれで」
「いいんじゃないかなぁそれで」
とりあえず、次の目標が見つからないので元の階段の位置に戻ることになった。
「五層までは完全に地図が出来上がってるんだよね」
「そのはずですよ。よくこんな目印の少ないマップを踏破したなとは思いますが」
「それも探索の醍醐味かな。地図が埋まってないと精神的に落ち着かない人も居るし」
「しかし、不思議ですね」
「何が不思議? 」
「ダンジョンは四層まで水平なマップでしたよね」
確かに、高低差は多少あれど水平だった。つまり平たいマップという事だろう。
「なら、五層は何もない分果ての果てまで見えててもおかしくないんですよ」
「なるほど?でも実際は次の階段すら見渡せないぐらい広い、もしくは丸くなってると」
「そうですそうです。なぜ五層は地面が球体なのか」
「多分ダンジョン作った人そこまで考えてないと思うよ」
「真顔でなんてこと言うの安村さん」
だってそうとしか考えられないじゃん。それに地面に対して曲率がおかしい。地球と同じ曲率なら水平方向に何もない場合、三キロメートル先が見渡せてないといけないからだ。
「俺だったら、こうダンジョンの行ける場所をすべて大きな山脈か何かで囲ってしまうと思うな」
「まぁ、実際はループしてるんですけどこの五層」
「え、これ終端じゃなくてループなの?」
「ループしてるんです。だから地図端っこに、ほら」
よく見てみると、地図の下の端っこには上へ続くと書いてある。これそういう意味だったのか。上下左右がループしてるのか。
「で、ループしてるのに私たちの姿が見えないという事は、ある一定の曲率を持ってると言えるのではないでしょうか」
「なるほど」
「そのせいで、たまに五層で遭難者が出ます」
「そうなんですか」
「そうなんですよ」
ここでは風の音もしないので無音の時間が流れる。
「……目印は木以外に無いの」
「木と階段が埋まってる岩ですね。位置関係で表せるものはそれぐらいしかないので、地図なしでここに来るのはいい度胸してると思います」
良い度胸どころかただの自殺志願者ではないのか。死体も残らないし……あ、探索者証は残るな。
「はぐれた場合の連絡はどう取るんだろう」
「パーティーだと、トランシーバーか何か持ってるんじゃないですかね」
発煙筒か何かが必要になるな。念のため二本ぐらい今度買っておくか。
「しかし、何もないってのも精神的にクるものがあるな」
「北海道なんかを自動車で旅するとこんな感じなんですかねえ」
「目標物が見えてはいるものの、近づいてる気がしない」
「こういう所こそ乗り物があったほうがいいですね。なんかないんですか」
「自転車はあるが二人乗りすると多分パンクする。俺の重さで」
「もう一台持ち込んで自転車で移動しません? 」
「そうすると敵が来た時に問題が……そうそう、こうやって突然草むらから出てきたときにぃ! 」
と、会話しているそばから奇襲を受けた。とっさにジャンプする。
「と、避けられないのが問題だ」
「じゃぁ、自動車、は? ひき逃げぐらい、できそうですけど」
「バンパー凹むじゃん。それに、自動車入れたとして、どこまでが自動車と認識されるのか試す、のが怖くてまだ試してない」
お互い対応に慣れてきて、会話しながらの戦闘だがまだ余裕が無いせいか切れ切れの会話になる。
「例えば、どんな感じに? 」
「改造マフラーが外されるとか、交通安全のお守りとかクッションとか」
「そこまで気に、します? 」
「他人の車ならいいけど、自分の車で試すのはなぁ」
「その辺、にいい感じの、放置車両とか、ないんですか? 」
「まだ、探してないんだよ」
無事に粒子に還ったワイルドボアを目にし、ドロップの肉を確保する。肉はいくらあってもいい。なんせ食えるからな。
「とりあえず被害額の小さそうな自転車でやってみたけど、こんな感じ」
と、保管庫から自転車を出す。
「なるほど……特に問題はなさそうですね」
「今のところは、ブレーキもちゃんときいたしライトも点くし」
「色々考えてるんです……安村さん、あれ」
「あれってどれ? 」
「あれですよあれ、光ってる! あれ! もしかしてこれ」
そこには一度見たことがある、眩い光を放つ玉がドロップしていた。
「……スキルオーブだな、これは運を使い果たしたかもしれん。俺たちはきっとスキルオーブを抱えたままここで永遠の時を」
「物騒なことに巻き込まないでください」
「まぁ、それはさておき何のオーブだろう? ワイルドボアから出そうなスキルって」
「うーん、突進とか熟成とか? 」
「熟成って何だ。人間だったらただの加齢でしょそれ」
「でも何のスキルが出るかはランダムらしいですよ。統計取れるほどデータ無いですが」
「まぁ、とりあえず手にしてみればわかるって」
一度拾ったスキルオーブだ、もう一度拾ったところで怖くはない。
「【火魔法】を習得しますか? Y/N 残り二千八百七十八」
頭に例の文字が流れこんでくる。
とりあえず、彼女にも持たせてみる。
「うわっ、なんですかこれ。頭に文字が浮かびましたよ。えっと、とりあえずNOで」
「うっかり読み上げてYESって答えてたらスキル習得するところだったぞ多分」
「とりあえず価値が知りたいところですね。ダンジョン出たら相場調べましょう。それから売るかどうか決めるんです」
「海外につてが無いから国内でギルド経由で売り捌くことになるけどいい?」
「奨学金全額返せるかな……そしたらもうダンジョン潜る理由も無くなる……でもダイエットのためには……」
だめだ、もう自分の世界に入っていらっしゃる。
とりあえず保管庫には入れずに、バッグにそのまま突っ込んでおく。保管庫に入れるとおそらくタイマーの時間経過が百倍にのびることになるだろう。
そうするとドロップからの時間が妙に短いスキルオーブが存在することになるので、どこで拾ったか、どうやって運んできたかを細かく聞き取られる可能性があるからな。
「どうしましょう、このスキルいっそのこと」
「落ち着け相棒。まずはダンジョンを真っ直ぐ出よう。それからだ」
「オーケー相棒。まずは無事にダンジョンを出ましょう。それからですよ」
急いで戻ることにした。ステータスブーストをかけて文月さんのペースに合わせる。
五層で二回、四層で三回、三層で二回、二層で一回の戦闘を挟みここまでは帰ってこれた。
およそ一時間半で一層まで戻ってきたのである。
「はぁ……さすがにちょっと疲れました」
「そうだな、一層までくれば出口は近い、ゆっくり落ち着いていこう」
「ちゃんとオーブはありますか」
「もちろん、バッグにしっかりと入れてある」
バッグの中身を確認させる。
「ここにきてやっぱり折半無しとか言い出しませんよね?」
「そういうセコいのはしない主義だ」
高額だろうが低額だろうが折半と決めている以上折半だ。半分こずつ。ゼッタイ。
「どうしましょう、なんか怖くなってきたんですけど」
「そりゃ、もしかしたら一千万円超えるかもしれないもんが手元にあればそうなるよね」
「なんでそんなに落ち着いてられるんですか」
「一千万どころか億をはるかに超えてもおかしくないスキルを自分に使ってしまった俺だぞ、今更一千万で狼狽えるわけがない」
「その割にグラディウス構える手、いつもと逆ですよね」
「り、両利きなんだよ」
嘘、本当は若干震えている。今回は解ってて持ってる分、前よりも緊張している。
「まぁ、今日取引して今日お金貰って実弾のまま支払いってことはないんだから、安心してギルドまで戻ろうや。どんな高額になっても銀行振込だと思うよ」
「じゃぁ預金通帳と身分証と印鑑が必要ですね」
「準備だけはしておいたほうがいいかと」
話ながら一層を真っ直ぐに戻る。すまんなスライム達、今日は先約があるから君たちと語り合うのはまた今度だ。また今度、ゆっくり遊ぼうな。
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