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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第十章 ギルド外でもお仕事はする

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692:けじめ


 涼しい朝を迎えた。暑くなく冷えすぎずちょうど良い感じで、これぐらいなら布団から素直に出るのも吝かではない。気持ちいい寝起きに今日も感謝だ。


 昨日は文章を何か所か書きなおした後、印刷して保管庫に入れてから寝た。睡眠時間はしっかり取れているし、睡眠の質もいいので昨日の疲れは残っていない。むしろスライムを潮干狩りした分だけ体調がいいまである。


 朝食を摂った後、昨日考えた通りウルフ肉の唐揚げを作っていく。下味のたれを作るとウルフ肉をぶつ切りにして、たれに漬け込んでよく揉むと、百倍速保管庫で一分。これで一時間四十分たれに漬け込んだ肉の完成だ。一分待つ間に油を加熱し、まず低い温度で一回揚げる、二回目は温度を上げて二度揚げ。これが美味しい唐揚げを作るために必要な事だ。


 一人飯とはいえ気を抜かず、美味しさは追及していかなければな。しかし、最近またレシピがどん詰まりになりつつある気がするので何か新しいヒントを得て……普通の料理本を買ってみるか。家で作ってダンジョンで食べる。最近はいつもこの流れだ。現地でフライパンを振ったり肉を味わったりはあまりやってない。


 今はまだ一般に保管庫の事が知られていないので堂々とできるが、他の探索者……少なくとも重要機密に指定された保管庫の存在を知っている三パーティーが居るだけの間はまだいいとして、それ以外の探索者が小西ダンジョンの奥へ潜るようになったら隠し方も考えていかないといけないな。


 二度揚げされた美味しそうなウルフの唐揚げをとりあえず一つつまみ食いし、ちゃんと中まで火が通っている事と美味しい事を確認。これは今日の稼ぎにも期待が出来そうで楽しみだ。


 キャベツを千切りにしたものをタッパーの底に敷いてその上に唐揚げを乗せると、温めたパックライスを隣に詰め込んでこれで昼飯は完了だ。一品だけだが、その気になれば中で追加の肉は焼けるし野菜もいくらかは保管庫に入っている、食事に関して不満が出る事はないだろう。


 いつものダンジョンルックに着替えると、今日も指さし確認だ。今日でドライフルーツ集めも一段落……と、昨日作ったドライフルーツの回収を忘れていた。早速取り出して保管庫に収納しなおす。これだけ用意して全然使わないという可能性もあるが、有るに越した事はない。ちょうど良い感じに物資を持ち運ぶのも探索としては大事だが、保管庫という有限だろうがまだまだ中身には余裕がありそうなので全力で使って行こう。入りきらなくなってきてから次を考えればいい。


 万能熊手二つ、ヨシ!

 直刀、ヨシ!

 柄、ヨシ!

 ヘルメット、ヨシ!

 インナースーツ、ヨシ!

 ツナギ、ヨシ!

 安全靴、ヨシ!

 手袋、ヨシ!

 飯の準備、揚げたてでヨシ!

 冷えた水、コーラ、その他飲料、ヨシ!

 嗜好品、今日はナシ!

 枕、お泊まりセット、ヨシ!

 ドローン、ヨシ!

 バッテリー類、ヨシ!

 保管庫の中身……ヨシ!

 その他いろいろ、ヨシ!


 指さし確認は大事である。さすがに嗜好品の類も種類とネタが少なくなってきた。その内ミルコに好きだったお菓子についてリクエストを受けて、それらしいアイテムをチョイスしていこうと思う。


 とりあえず今日の分は家の近くのコンビニでいつものシュワッとする系のお菓子とミントタブレットを選択。コーラも忘れずに。そこそこのお値段分買い込む。つい先日豪華な差し入れをしてしまったから見劣りはするが、差し入れには間違いない。


 会計を終わらせると電車とバスでダンジョンへ。今日はゆっくり来たので朝一でギルマスに仕事を持っていく、という形にはならないようにした。まああのギルマスの事だ、朝から仕事が有るというのは月一の定例会議ぐらいしかないと思っている。後はコーヒー淹れたりお茶淹れたりフリーセルしたり、いろいろ忙しいだろう。


「お邪魔しますよー」


 もはやノックすらしなくなった。どうせ仕事してないだろうと思っての事だったが、なんと珍しい事に真面目に仕事していたらしい。パソコンに向かって何やら打ち込んでいる。


「お、来たね。そろそろ来ると思ってたよ。原稿のほうは順調そうかね」

「ちょっと趣向を変えまして。基本質疑応答に答えながら進めていこうかと思っています。そういうわけで、そこからどう話の流れを持っていけば良いか、というのを軽く図解してみました」

「なるほどね、どれどれ……」


 ギルマスが書類に集中している。真面目にきりっとしていて普段からそうしていれば威厳も保たれようというのに、そうしないのはこの人なりの人への配慮か、それとも真面目モードが数分しか持たないのか。


 一通り目を通すと、ギルマスはごほんと咳払いをした後、一言。


「良い出来だと思うよ。その上でだが、機密に引っかからない範囲……そうだな、Cランク探索者の範囲、つまり二十一層までの内容についてなら問題ない。それ以降については表向き潜ってない事になってるので許可は出来ないが、そこまでの範囲で自由に喋ってくれて構わない。是非数人ぐらいは探索者に興味を持ってくれるようにしてくれ」

「それを聞くと安心しますね。おかげでもうちょっとボリュームがある話が出来そうです」

「ただ、あくまで情操教育の一環としての講演会だ。ダンジョンの危険さや辛さは君が解ってる範囲で伝えてあげてくれ。ダンジョンの良さも大事だが、それ以上に危険性と今の探索者が置かれてる社会的立ち位置とか、そういうものも含めて」

「そこは任せてください。なにせ未だに……あ」


 やべえ、思い出した。失業手当の認定日今日じゃん。急いで行かないと。


「どうしたのかね、急に思い出したように」

「失業保険の認定日、今日なんですよ。終わったら一旦ハローワーク行かないと。この件もネタに使えそうなので含めておきますよ」

「君、失業保険受けるより一時間ダンジョンで仕事した方が金になるよね? そこまでして失業保険にこだわる理由は何かね」


 失業保険にこだわる理由か。こだわりは特にないんだよな。


「けじめ、ですかね。失業して保険が終わるまで頑張っても就職できなかった。だからダンジョン探索者として今後も活動していかなければならない。残念な事だ、っていう事で自分を納得させたいんですよ」

「なるほど、けじめか……それは大事だな。あと何回行くんだい? 」

「今日含めて二回ですね。それが終わったら、堂々と無職を名乗ってダンジョンに潜ることにしますよ」

「どこかの企業に所属するって手もあると思うんだけど、そっちのほうには興味無しかい? 君ぐらいの実力があれば引く手あまただとは思うけど」


 田中君みたいに専属探索者になるって事か。確かにそれも道の一つだろうし、手段としては充分にありだろう。なにせこちとらBランクだ、馬肉もワイバーン肉も取りに行けるし、保管庫があることを黙っていれば毎日呆れるぐらいの量の肉以外の素材も集めることが出来る。下手にギルドに全てを査定してもらうよりもより多くの収穫が得られるだろうし、それに加えて社会保険と厚生年金まで付いてくる。欲張りセットみたいなものだな。


「一応相棒がまだ学生なんでね。その間は今の形を維持していこうと思っていますよ」

「ああ、公務員になるかどうか長官に誘われているんだったね。それまでは今のままパーティー継続、日々の糧をそれぞれ集めるって事かね」

「そうなりますね。偶然とはいえ【保管庫】持ちの秘密というものに触れさせてしまった以上、この約束は俺から破棄できるものではないですよ」

「ちなみに何で文月君にバレたの? 私はその辺の流れを知らないんだよね。小話ついでに聞いてもいいかい? 」


 スライム大繁殖のときの流れと、芽生さんが気づいてしまった荷物の少なさ、そして俺の考えの至らなさによる誤魔化しきれなかった落ち度、結果的に良い方向に転がってきたからいいものの、どこか間違えてたら今頃は……


「あの時芽生さんが声高に【保管庫】を俺が持ってることを触れ回ってたらどうなっていたんでしょうね」

「そうだねえ。荷物運び要員として雇われていたんじゃないかな。各ギルドから各倉庫まで、コンテナを出し入れして移動し続けてもらう。それで給料が出る、というぐらいじゃないかな。後は秘密会談の時に言ってたみたいに、D部隊に所属してもらって兵站要員としての活躍……どっちかに転んでも今ほどの稼ぎは得られなかったんじゃないかな。君、もう億を通り越して稼いでるでしょ? 」

「調べようと思えば調べられると思うのではっきり言いますがそうですね。俺より稼いでる探索者が居たらどうやって稼いでいるのか気になりますね」

「あんまりお金には執着しないのか、稼いでる金額の大きさの割りに身持ちを崩してないというか、派手に使ったりしてないのは良い事だとは思うよ。是非そのまま自分らしく進んで欲しいね」

「まあ、Bランクで稼いだ結果身の丈に合わない生活をしてダンジョンに潜る回数が減ったりするのは誰にとっても得はしない話になりそうですしね」


 ダンジョンに潜って戦いを見せびらかす、という仕事もあるんだ。金を使うのに一生懸命になる必要はない。日々飯を食って気持ちよく眠れて……って、そういえばそろそろスーツの仮縫いの連絡が来る頃じゃないだろうか。なんか予定が少しずつ詰まってきてるな。


「派手に金を使うと言えば、ダンジョン素材で出来たスーツというのを注文してみたんですよ。精々それぐらいですかね」

「おー、あのスーツかね。私も知ってるよ。値段が張るだけあってスーツとしての出来も相応にいいらしいからダンジョン庁界隈でも話題になってるね。長官がとても気持ちよさそうに袖を通しているのを見て羨ましくなったもんだ」


 あの価格のスーツを買えるってことはダンジョン庁の長官はかなり給料良いって事か。それともダンジョン関連商品のサンプルとして経費として計上したのか。どっちかは解らんが、自分だけ着た事が有る、ということにならないのは一安心だな。ちゃんと儲けて溜めてるだけでなく、必要に応じて社会に還元もしてるぞ、というポーズもある程度は必要だとは思っているのでスーツはその一つの目安にはなるか。


「とりあえず、急いでハローワークに向かうので今はこの辺で」

「うん、講演会当日よろしくね。反響がどうなるかは解らないけど、みんなにとって実りのある話になるといいね、もちろんみんなには君も含まれてるけど」


 少し長話になったが、急いで戻らないとな。せっかくの失業保険が受けられなくなってしまう。ダンジョンへは後からでも潜れるんだ。今はただ一つ、十数万円の失業保険をもらいに戻る。バスは来ない時間帯なので自転車を駐輪場で出して、急いで向かう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] まぁダンジョンのおかげ(?)で将来も決まりましたし、昔の自分(ダンジョンと関わり無し)を過去にするけじめはつけたいですよね心情的に。
[一言] しれっと運び屋にされてたよって話だけどよく考えなくても実質奴隷だよなぁ……可哀想な保管庫もちとか世界にはいそう
[一言] 良くも悪くも若くないが故に大金を手にしても生活が崩れなかったのかねー 運び屋おじさんになってたらかなり忙しくあちこち行かされてたろうなあw
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