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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第十章 ギルド外でもお仕事はする

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689:ワーカーホリック再び

 今日のミッションは無事に終了してしまった。後やる事は……やろうと思えば一人でまたトレントを狩るぐらいだが、明日でもできない事はない。


「さて、今からどうする? 」


 多村さんも結衣さんも一応探索するという格好で来てはいるものの、なんか空気的にそういう気分じゃない事が伝わってくる。


「うーん、なんかこう、気が抜けたというか今日はもういいかなって言う気分」

「僕もそうだなあ。早く索敵を使ってみたいという気はしてるけど、多分これ慣らし運転が多少必要になるよね」

「そうですね、うっかり地上で使わないように注意しないと眩暈がひどすぎて気絶したりするかも」

「じゃ、切っておこう。次の探索まで実戦使用はお預けってことで」


 楽しみは後に残すタイプらしい。さて、俺はどうするか……


「帰りましょっか。どうせ私たちは明日また来ますし、今日は顔合わせだけだと思ってた部分もあるし」

「そうだね、ダンジョン行ったのに何も無しと言われるのもしゃくだから、ケーキ買って帰ってゴキゲン取りだけはしておこうかな」

「俺は……エレベーター分ぐらいは稼いで帰ろうかな。このまま本当に何もせずに帰ると明日が嫌になりそうだし、家に帰っても多分やる事が無い」

「じゃあ、私とイチャイチャしますか? 元気をもらえるならそれでもいいですよ」

「それもありだ……いや、イチャイチャするより今はトレントの実だな。ちょっとでも稼いで帰って一生懸命ドライフルーツ作って、みんなに早く下の階層まで来てもらえるようにバックアップするのが大事だ」

「それは少し残念。じゃあまた今度イチャつきましょう」


 そのままエレベーター前で二人とは別れた。二人は一層へ、俺はエレベーターで二十八層へ。そういえば結衣さん達はゴブリンキングの角複数本持ってるんだろうか。結衣さんだけが管理してるとかだと、結衣さんの具合が悪いとか都合が悪い時に深く潜れなくなるが、その辺どうやってるんだろう。各パーティーでゴブリンキングの角をどう管理しているのか。割と気になる所ではある。


 流石に人数分それぞれが持ったままダンジョンに来る、という可能性は低いだろうが、予備をちゃんと確保している可能性のほうが高いかな。多分結衣さんと横田さんあたりがそれぞれ管理しているんだろう。その辺は信頼しておくものとする。最悪他のパーティーに相乗りさせてもらうという手もあるしな。


 二十八層に着くと……しまったな、今日はリヤカー無しで来てしまった。エコバッグ両手に抱えて帰ることになる。今から取りに帰るのも時間の無駄だ、仕方ないから今日ぐらいは背中の重みを感じつつ探索をするとしよう。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 今日も三時間ほどトレントとじゃれ合ってきた。ちなみにまだ伐採した木は復活していなかった。そういえばこの木についてミルコに確認するのを忘れていたな。また今度にしよう。ある日突然リポップするかもしれないからびっくりしないようにだけ注意しないとな。


 背中のバッグには重みが詰まっている。トレントの実とポーションだけは潰さないように保管庫に入れているが、それ以外の素材は背中のバッグに詰めるだけ詰めた。どうやら普通は二時間から三時間の間で一旦探索が止まるぐらいのドロップ量を確保できるらしいということも確認できた。


 さっそくエレベーターで使用する分以外の魔結晶をエコバッグに詰め直し、樹液と枝、魔結晶、ポーションで仕分けする。結構な重さだが、多分これぐらいなら地上でも耐えられるだろう。


 両手に満載したドロップ品と共に、エレベーターで一層へ。そのまま出入口まで急いで、つぷんとした感覚と共に両手に来る重さ。よし、この程度ならギリギリ行けるぞ。


 退ダン手続きをして査定カウンターへ。査定カウンターにはまだ上がりには早いのか、列というほどの人はおらず、十分ほど待って俺の番が来た。いつも通り五分査定を待って本日の稼ぎ三百五十一万二千七百円也。時給に換算すると往復の時間込みで七十万という所か。


 時給百万稼げるようになるにはやはり一つ下の階層で戦う必要が有るか、丸一日戦い続ける必要があるな。その為にはドロップ品追加を待たないといけない。それまでの我慢だが、そもそも今の腕前で三十五層なり三十六層なり挑むことが出来るだろうか。不安はあるが、一度チャレンジするのもいいかもしれないな。危険を感じた時点で戻るということで。


 一人でダンジョンウィーゼル三体を相手に……立ち回れるかどうかはギリギリだな。先にこっちが気づいて雷撃を二発当てられれば勝ち確には持っていけそうだ。


 ワイバーンは一対一なら問題ないが、一対二となるとブレスの同時発射や交互発射で機先を制されると危険かもしれない。やはりしばらくは二十九層通いかな。今日も三十六個のトレントの実を確保することが出来た。これをドライフルーツにして三百六十枚。後四日ぐらい通えば目標の三千枚には届くだろう。


 支払いカウンターで振り込みを依頼したところで、バスを待ち駅から自宅へ。今日の夕食はコンビニ飯にサラダを付けよう。そういえばあんまりまともに昼を食っていない事に今頃気づく。ミルコのケーキの食べっぷりのおかげで自分も食べたつもりになっていたかもしれないな。夕食変更、ガッツリ食べておこう。勿論サラダも二個買って、栄養バランスには留意する。


 家に着き、着替え洗濯をして飯の準備をする。コンビニ店頭で作ってたかき揚げ丼大盛というのを買ってみた。今日は頭を結構使ったし、ケーキも結局食べられなかったからな。その分も食べよう。


 サラダを一気に掻きこんで胃袋を脈動させ、これから始まる食事の量を体に教え込みながら、かき揚げ丼を上から順番に食べ始める。まずはかき揚げだけを一口。コンビニ弁当にしては頑張っているなというその味付けは濃く、衣もそこそこ多いもののちゃんと具の大きさもある。見たところ具は三種類から五種類ほど入っている。エビが意外とぷりぷりしている。玉ねぎもしっかり事前に炒められていて、中途半端に生の状態で残っているという訳では無い。これは俺の好きなかき揚げだ。


 イカも入っていた。よくよくパッケージを見ると海鮮の文字。シーフードマシマシということか。よく見れば細切りにされた海苔も入っており、後はタコの足が入っているように見える。ここらでつゆを充分に含んでいるであろう米を一口。うん、ちゃんと味沁みだ。沁み沁みの沁みだ。これだけつゆだくなのは嬉しい。


 かき揚げを齧り、口の中に存在する間にご飯を一口二口含み、そのまま口の中で一つの味わいにさせる。コンビニ店頭販売でお値段そこそこしているだけあって、ちゃんとした美味しさを提供してくれている。かじりついたときに気が付いたが、思ってたよりもかき揚げがふかふかしている。大盛のご飯に押しつぶされる事なく柔らかさも保持している。店頭弁当も中々に捨てたもんじゃないな。今度は違う弁当も是非食べてみよう。


 そして、やはりご飯大盛の宿命か、かき揚げが途中でなくなってしまったので、後は天つゆご飯だけを食べることになった。食料をぶち込むペースを間違えたな。うむぅ……しかし、ご飯だけ食べるというのも切ない。ここは一つ肉を焼いてその肉でご飯を入れていこう。


 今日は肉体的に疲れるような作業もしなかったので、一番お安くて手軽なウルフ肉を薄切りにして軽く塩コショウ振って、そこに買い置きの天つゆのたれを絡めてフライパンで焼く。天つゆとかそばつゆとか出汁つゆというものはやはり一家に一本あると味わいを気軽にチェンジできてとてもいい。ついでに塩分も抑えられる。


 かき揚げ丼の物とは少し違うが、充分に味のついたウルフ肉を片手にご飯の踊り食いを再開する。ウルフ肉、たれご飯、ウルフ肉、たれご飯、ウルフ肉、ご飯。交互にモニュモニュと口の中に入れては、両方を同時に味わいよく噛んで飲み込む。やはり腹を満たすには肉だな。カツ丼だったら……いや、カツ丼でもご飯が余っていた可能性は充分にある、今日はウルフ肉とかき揚げ丼で正解だったんだな。


 綺麗に食べ終えると片付けをして、胃袋の満足さを充分に感じる時間を持つ。明日の昼は何にしようかな……悩める幸せが手元にある。せっかくだし、買ったばかりの月刊探索ライフから何か探すか。ここの誌面は食事関係が充実してるんだ。


 ざっくり眺めた結果、最近はオーク肉をいかに食べるか、というところまで話題が進んでいるらしい。どうやら読者にもCランク探索者が増えて来た、というのを感じ取っているんだろう。オーク肉か、食べるのは久しぶりだな。オーク肉の……大根煮。しっかり味沁みにさせた大根と、同じ調味料でしっかり煮込んだオーク肉。いいな。今から作って一晩寝かせて、朝もう一度火を入れて温めて完成。よし、早速作るか。


 オーク肉はそのまま切らずにまず下茹でして、その後フライパンで焼き目が付いたところで生姜とねぎを放り込んだ鍋にひたひたで水を入れて煮込む。一旦強火で沸騰させて、その後は弱火でトロトロと煮込む。煮込んでる間に風呂に入ろう。


 今日は特に考えることも無かった。というか煮オークの事で頭が一杯なので風呂にゆっくり浸ってる暇はなかった。早く煮オークの続きが作りたい。そんな思いで風呂に入る。いつもより体を洗うのもおざなりにして、とっとと風呂から出ると、鍋では良い感じにアクが出ていたので取り除き、再び煮る。


 タイマーをかけてそのまま煮続け、その間に月刊探索ライフを読み進める。薄切り肉の煮込みという手もあったか、しかし料理を途中まで作ってしまったな。ここから料理を変更する手段は……下味付けしかしてない今ならまだ間に合うな。急遽鍋の火を止めて、みりん、砂糖、酒、醤油、顆粒だしを混ぜた調味液をフライパンに流し込んで肉を薄切りにして並べると、そのまま煮直す。こっちのほうが手早く出来そうだ。鍋に残ったネギとしょうがは鍋から上げて、ねぎはそのまま大根と一緒に煮て、しょうがはフライパンのほうに移す。


 時間まで煮込んだら一口味見。……ちょっと味が濃いかな? でもこのぐらいのほうが大根と一緒に煮こむにはいいに違いない。大根のほうはアクが出てきたので取り、程よく柔らかくなったところで水を切ってフライパンのほうにまとめて放り込み、大根と一緒に投入するつもりだった分の調味液を入れて一緒に煮る。これで大根から水分が多少染み出て、煮オークの味の濃さも程よくなるはずだ。


 またしばらく弱火で煮込み、味がしみていくのを感じながら月刊探索ライフの特集記事を見る。今月の特集記事は、新ダンジョン発見の報だった。


 長野県内で、バブル期の投資目的で土地がしっかりと分筆され、別荘ブームで別荘を建てたもののバブルが崩壊して、その後誰も立ち寄らなくなった別荘地の隅っこにひっそりと出現しているのを、十数年ぶりに自分の別荘を訪れた一般市民が発見、通報された。


 ダンジョン庁は緊急で該当地域の部隊を移動させてダンジョン内部を調査した結果、見た事ないタイプのダンジョンではなく従来タイプ、つまり既存のダンジョン構造と同じであることを確認。新ダンジョンという訳ではないが、また人の集まりそうにない場所にダンジョンが出現していた、ということが解った。


 従来のダンジョンということはここで新しく探索を始めるには場所が悪く、また近くに補給物資を求めるだけのインフラが無い事も相まって、スキルオーブ狙いの探索者には一山当てるのに適しているのではないか……とのこと。


 従来タイプのダンジョンか。ということはこの三年放置プレイを決め込まれていたダンジョンマスターが居たって事だな。よほどのんびりしているのか、それともやっと見つけてもらえたと喜んでいるのかは解らないが、おそらく問題は分筆された土地のほうに問題があるだろう。これから各土地の所有者を割り出して国有地として引き取っていく旨を伝えて徴発、それからギルドの建物をここまで運んできて、おそらく住み込みであろうギルド職員を探して……大変そうだ。


 既に建っている別荘の取り壊し工事も……いや、むしろその別荘をそのまま使ってギルドハウスに流用する事も出来るのでは? そう考えると別荘地というのも悪くないのかもしれない。俺の別荘には近くにダンジョンがあって何時でも潜ることが出来るんだ。そんな環境がお安く手に入る、となれば金が余ってる探索者やこれから一旗揚げようという探索者には少しだけ見栄えが良く見えるのかもしれない。


 どこまでをダンジョンの土地として引き上げるかにもよるだろうが、場所が場所なので充分に駐車場は確保されるだろう。一からダンジョンのでき方やその周辺の開発状況を観察するにはちょうどいいダンジョンということになるんじゃないだろうか。


 また、ダンジョンには最初からエレベーターが設置されているのではないか、という勘違いを起こしている探索者にとってはその根拠をちゃんと探し出すために潜り込む事になるだろう。


 新しい古いダンジョン、と言うと語弊があるが、既存のダンジョンでもまだ発見されてない所があるんだな、ということが解っただけでも充分面白さがある記事だった。


 つい読みふけっている間にオーク肉の煮込みと大根の煮物も完成に近づいていた。あとは一晩そのまま保管庫に入れずに放置して、味が染み込んでいくのをじっくり待とう。


作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
かき揚げは炒めた玉ねぎなんか混ぜないで 油の温度と具の厚みのコントロールで火の通り加減が整っているのよ
[一言] ハーレム(仮称)
[良い点] 別荘地ダンジョン! 安村氏'sが小西から引退するには 良い環境では!? 日当たりの良い別荘でのんびり って憧れるなぁ(*´ω`*) [気になる点] 子供の通学がガガガ (;´∀`) [一言…
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