685:大事な相談 2/2
「まず、私は安村さんに好意を持っています。結構前からです。具体的には……そうですね、ひとめぼれだったかもしれません。もしくは、最初はパーティーにいてくれたら心強い人だなー、ぐらいの気持ちだったかもしれませんが、一緒に九層巡りした時には多分もう好きでした。でも、安村さんには既に芽生ちゃんという探索仲間が居ました。振られたのかなーと思ったけど、その後デートに誘ったらオッケーしてくれたので、まだ脈ありなのかな? と思ってました。で、前に一緒に小西ダンジョンの二十一層に潜った時、まだ芽生ちゃんに手も出していないって聞いて、これはチャンスだぞと。それで芽生ちゃんと二人話し合って、その後も色々やり取りして、二人の出した結論は、私たち二人以外は許せないけど私たちの間をフラフラしてるのはセーフという判断になりました」
結衣さんが一気にまくしたてる。二人の間ならセーフ……ということは今はセーフ状態ということか。
「二人は、それで良いと判断したわけか」
「そういう事になります。芽生ちゃんと取り合いしてお互いのパーティーの交流が悪くなるのは嫌ですし、私が原因でお二人の活動が制限されるのはもっと嫌ですから。それがダメなら大人しく身を引こうと思ってました。ですが、この間の秘密会談で安村さんがスキルの事バラしちゃったじゃないですか。それで解ったんです。この二人の間にあった秘密はこれだったのかと。でも、安村さんは秘密を理由に芽生ちゃんに迫ったりしてませんよね。だから、二人は誠実な関係でもって一緒に居るんだなあって事が解ったんです」
「まあ、最初は半分脅しというか注意みたいなもんだったんだけどね。だって【保管庫】なんて便利スキルの存在他人に知られたら、顎で使い倒されるか何かを人質にされて言う事を聞くしかなくなるわけで、その人質って多分うっかり保管庫の事を知っちゃった芽生さんの事になるんだよ。二人で活動し始めたのはそのカモフラージュでもあるし、仲良くスライム処理してたことが縁でパーティーに……という比較的自然な流れで組めるようになったのはある意味幸運だった」
確かに、あの日あの時芽生さんと出会っていなければここまで強くなることも無かっただろうし、出会ったり手伝いも無ければもっとうだつの上がらない所で未だに探索者を続けていたかどうかも解らない。もっと言えば、スライムのドロップが確定する事も、骨ウルフが広まることも、小西ダンジョンにエレベーターが設置される事も、清州ダンジョンや他のダンジョンで同じ現象を繰り返すことも、これらが無かった可能性がある。バタフライエフェクトと人は呼ぶが、どこまで影響が広がっていたかは解らないな。
「で、手を出してないなら安村さんもらっていい? って聞いたらダメって言われたんですよ。じゃあシェアならどう? って話になりまして」
「そのシェアならどう? にどう話が繋がったのかが一番聞きたいところなんだが」
そう、そこだよ俺が聞きたいのは。良いオッサン一人振り回して若い女性二人でシェアするって発想がどこから出て来たのかわからない。
「ほら、安村さんも四十一ですし、芽生ちゃんなんかまだ二十歳ですし、安村さん半分に割ったら芽生ちゃんと同じ歳じゃないですか」
「勝手に俺を等分しないで欲しい。それを言えば、二人ともまだ若いんだから同年代の男の子とちゃんとした恋をして、その上で同年代は面白みが無くてダメだから年上のほうがいい、という流れならわかる。でも何となくそうではないんじゃないかというのがずっと引っかかっていた」
「私自身の話で言えば、少なくとも男性とお付き合いをした事が有る……というのは安村さんがよく解ってると思うんだけど」
「私もそうです。洋一さんが初めてという訳ではないです。ついでに言えば、同年代の相手より年上のほうがいいなあというのはその相手のせいでもあります」
はい、二人とも解ってはいます。そして、俺が最初の男であると言い張るつもりもございません。そこはいいんだ。
「う、うん。それは解ってる」
「安村さんが私たちが初めてじゃないということも加味してですよ。それなりに人生経験を積まれてると見込んだうえでお話ししますが、私たち両方、という選択肢はだめですか? 」
ようやく本題に入り始めた。とりあえず深呼吸する。しばらく上を向いて心を落ち着けた後、話し始める。
「俺はもう四十一だ。恋人と付き合うなら真面目に結婚というものを考えなければいけない歳だと思っている。むしろ遅いぐらいだとも思う。だから、付き合うならその前提になってしまう。元々は一切の未来を捨てて死ぬまで結婚も子作りもしない。誰とも付き合わないしそういう関係にもならない。そう思って生きて来た。だから、俺と恋人として付き合ってくれるということは、これから子供が出来る分も含めて人生に付き合ってくれるか、もしくは残り人生女性としての魅力を俺が死ぬまで相手してくれるかだと考えてる。そこまでは良いかな? 」
一息に自分の気持ちを絞り出す。自分に自信が無いと吐露してるのと同じことだ。若干の恥ずかしさはあるが、それだけ信用に足る相手だと思っての告白だ。一旦投げ出した言葉はもう戻らない。
「じゃあ、もし洋一さんがボケたら二人で介護する事になりますかね」
「そうね。二人なら何とかなるわね。仮に子供が出来てもどっちかは働きに出られるから子守もなんとかなりそう」
「え……そこまで見越しての話になってるの? 俺抜きの話で? 」
なんか割と深いところまで話が進んでいたらしい。本当に大丈夫なんだろうか。二十年の差は大きいぞ。
「そりゃそうでしょう。私だって冷静に考えて、毎日会いに来てくれるのなんてダンジョンのモンスターぐらいだし、出会いを求めて探索って無理があるし、そもそも私たちと同等のレベルの人で……って考えるとこれ以上の物件は多分ないわよ。安村さんは優良物件なんですよ? 収入があって独り身である程度社会常識があって」
「そうですね。私も洋一さんとワリカンで探索してる以上収入に関してはもう稼がなくても問題ないぐらいのお財布事情があることは知ってるわけですし」
「あ、お財布事情で思い出した。芽生さんこれ、ダーククロウの羽根の取り分」
「あ、羽根と言えばダンジョンフクロウ(仮称)の羽根とか提出忘れてますね」
「そうだった。次ダンジョンに行ったらサンプルで提出しておこう。……っと、羽根はさておき俺の年齢の話だ。君らより二十年早く年を取って、二十年早く老いて、多分二十年以上早く死ぬ。それでも良いのか? 」
平均寿命からしても、俺のほうが先に死ぬのは間違いない。もしもダンジョンで老化防止ポーションみたいなものが発見されればそれで終わる話ではないが……そういえばキュアポーションのランク4は認知症にも効果があるのではないか? という分析がされていたような気がする。ボケ始めたと思われる段階でそれを使えば思ったより長く持つのか?
「いや、まてよ……もしかしたらボケずに済む方法が有るかもしれないな」
「だったらなおさら断られる事はないですよね? 一緒に居て、不満ですか? こんな素敵な女性が二人も好きに出来るんですよ? 」
「不満は無いです。むしろ男の夢みたいなところがあるのは否定しません。が、二人はそれで……良いんだったな」
「良いんですよ。私たちも後何年探索者続けているかは解りませんが、洋一さんには何ならミルク代を稼いできてさえもらえば」
確かに俺一人でもミルク代ぐらいは一日で稼いで帰って来られるが……今後も今の価格が保持されたまま探索が出来ると決まっている訳じゃないし、そんな先のことまでは考えられないな。いや、そんな先じゃなくて割と近い未来かもしれないけど。
「もし子供が出来たら……先に出来たほうに籍を入れるの? それとも序列は決まってるの? 」
「そこまでは決まってないですね。どうしましょう? 先に出来ちゃった方が結婚します? それとも両方とも内縁の妻? 」
「出来ちゃったら考えましょ。そんなわけで、どっちも愛してくださいね。日ごろの行動的に芽生ちゃんのほうが一緒に行動してる時間は多いでしょうけど、私もちゃんと構ってくださいね」
どうやら二人とも抱え込む、という結論に達するしかないらしい。もう腹をくくった。後は何とでもなれ。どんな評判が立とうとも、本人たちが納得の上でこうなったんだ。だったらそのまま突き進もうじゃないか。
「解った。両方に責任を取る。これから何を言われようが俺が表向き盾になって二人の名誉を守れるならそれが一番だ。しかし……ただの探索者が偉そうになったもんだな、俺も」
「スライムをぼちぼち潮干狩りしてた探索者が今や小西ダンジョンの顔ですからね。それだけ派手に活動してるなら若い女の子の一人や二人抱え込む甲斐性があってもいいんじゃないですかねえ」
そうか……そうだな。どこぞのベンチャー企業ほどに稼いでいる訳ではないが、一般から見れば一年で稼ぎ過ぎと言われてもおかしくないぐらいの金額を得ている。これを元手に色々できるし、何処かに新しく家を建てるなりマンションの一室に住むなり、選択肢はある。住み慣れた我が家を離れるのは悲しいものがあるが、これから女性を二人も囲い込もうというのにこんな古い家に住み続けるというのも心配する部分はある。今後はそういう部分も含めて考えていかなければならないな。
「考えることが増えたのは解った。考えなくて済むことも増えた。こんな男だが、よろしく頼む」
「洋一さんが変な所で律義なのは解ってますし、むっつりな事も解ってます。早速三人で仲良くしますか? 」
「そうしたいところだが、今からやる事が有るからちょっと後だな。今日取ってきたトレントの実のドライフルーツ作りを始めないといけない。寝てる間に完成するから寝る前に仕込んでおきたい。後風呂にも入りたい」
「何か手伝う事ある? 私もドライフルーツの恩恵を受けてる身なので作り方には興味があるわね」
ドライフルーツ作りは今まで一人でやってきたからな。たまの手伝いは嬉しい所だ。
「簡単だよ。トレントの実には芯が無いから、そのままスライサーにかけて皿に並べて、そのまま保管庫に入れて百倍速で一晩寝かせれば良い感じにドライフルーツになってくれる」
「便利で良いね、私も【保管庫】欲しくなってきた。何より、未来の出来事を手早く手元に引き寄せられるというのは他にも色々応用効きそうね」
「レアスキルは数十ダンジョンに一個ぐらいの確率でドロップするらしいぞ。それにレアスキルは多分【保管庫】に限った事じゃないと思うんだよね」
「えーと……たとえば【採掘】とか? あれも複数ポンポン出るようなスキルならダンジョン全体が崩壊しちゃうと思うのよね」
「あとは【鑑定】とかそんなスキルも有るかもしれないな。多分重要機密だから表向きに出る話ではないと思うんだけど、ダンジョンモンスターやドロップ品の名前なんかを鑑定して、正しい名前に変更する力が有るかもしれない」
「じゃあ、鑑定士に鑑定される事でダンジョンフクロウ(仮称)とかダンジョンベア(仮称)の名前も正式に決まるって事ですか。不思議な現象ですよね。ある日突然保管庫の中身の名前が変わることになるんでしょう? ということは各国かどこかの国に鑑定士が住んでることになるって事でしょうか」
ふむ……複数鑑定士が居た場合どうなるか、か。鑑定士同士が名付けについてバトルしているのはちょっと見物したくはあるな。
スライサーのほうは二人で二個を使ってどんどん輪切りにしていってくれるので、俺は皿に盛りつけて保管庫に放り込む作業に従事する事になった。おかげでいつもの半分以下の時間でドライフルーツ製造工程を終わらせることになった。
一通りのダンジョンの片づけを終わったところで風呂に入る。家の風呂は両親が一緒に入っていたおかげで、それなりに広い。二人で入っても問題ない広さを有している。
「で、俺は風呂に入るわけだが、なぜ二人とも脱衣場に居るのか」
「今日は三人で入りましょう。少々狭いかもしれませんが、全身洗ってあげますよ」
多少の押し問答があったが、結局三人で入ることになった。お互い体を流し合い、二人ずつだが湯船に浸かって温まることになった。俺と芽生さん、俺と結衣さんと順番に入ることになったので、俺が少しのぼせ気味になったことはご愛敬だ。
その後はお約束の……とはならず、お互い明日の予定があるということで三人で同じセミダブルベッドで寝た。俺が真ん中に寝て、二人が左右にくっついて眠ることになった。セミダブルなので少々狭いし布団も幅が狭い。芽生さんの豊かな胸が右腕に絡みつき、結衣さんのチョリンチョリンとした僅かな感覚が左腕に当たる。正直言って天国だ。ダーククロウの気持ちよさもあり、ここからはじまる大運動会ということにならず、素直に三人とも眠った。
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