682:三十七層チラ見 4/4
ともかく、一戦終えた。とてもじゃないが簡単に倒せる手立てを考える暇がなかったな。索敵に指向性を持たせず近寄られてたら、先手を取ることも出来ずにかなりの痛手、もしくは致命傷を受ける事になっていただろう。そうならなかったのは発想の転換と普段の努力のおかげだと考えておこう。
「大丈夫ですか? かなり苦戦してるように見えましたが」
「ダメージがない内はまだ大丈夫。さっきのを複数回やらにゃあならんことを考えると気が滅入るな。ダンジョンウィーゼル十体分ぐらいの苦労をした気がする」
さて、苦労の分のドロップをくれるかどうかだが……魔結晶と小袋に入った謎の粉を落としていった。なんだこれ。本当になんだこれ。ペロッ、これは青酸カリ!? みたいなものだったらどうしよう。さすがにこれを口に入れる勇気はないので保管庫に放り込む。
ダンジョンベア(仮称)の魔結晶 x 一
ダンジョンベア(仮称)の熊胆 x 一
「どうやら熊胆……熊の胆嚢だそうだ。記憶が間違ってないなら漢方薬か何かだったな」
「乾燥済みで小袋に入れておいてくれる辺り、ダンジョンの仕業感がプンプンしますが、これ信頼が無い人が持ち込んだらただの粉を持ち込んだと思われそうですね」
「うむ……とりあえずドロップには違いない。ちゃんと保管しておいて後で提出しよう。清州ダンジョンでも三十七階層に挑む探索者というかD部隊からも同じドロップ品の確認はされるだろうし、それで整合を取る感じにしてくれれば問題ないだろう」
「清州ダンジョンで三十七層を目指すって相当重労働ですよね。本当にそこまで行ける探索者居るんですかねえ? 」
あ、そうだ。芽生さんは清州ダンジョンにエレベーターができたって話をまだ知らないのか。
「芽生さんにはまだ伝えてなかったな。清州ダンジョンでエルダートレント討伐が無事終わったらしくて、エレベーターが設置されたらしい。今頃はD部隊が一生懸命今までため込んでいたドロップ品を搬出し終わって、落ち着いて三十五層から先へ進んでいるところだと思うよ」
「なるほど、そういう事ですか。それなら納得と安心が出来ますね。同じドロップ品が二か所から提出されるなら問題なく、そしてダンジョン庁の信頼厚い洋一さんからの提出なら間違いなくドロップ品と認められることでしょう」
「あんまり持ち上げられても困る。さて、ダンジョンフクロウ(仮称)をもう少し狩ってみて、他に何か落とすかを確認しておきたいところだな」
「せっかく飛ぶんですから羽根ぐらいくれても良いと思いますよ。それこそダーククロウよりも効き目のある奴を」
ダーククロウ以上の気持ちよさか。気持ちよすぎて本当にそのまま昇天してしまいそうだ。
「清州ダンジョンにエレベーターが付いたということは、えーと、高橋さんでしたっけ。D部隊の人たちもこっちに来ることになるんでしょうね」
「清州ダンジョンのほうは欠員補充中ってところかもな。だとしたら本当に三十七層に潜っているのは俺達だけ、という可能性が見えてきたな」
確かに、ここまで撮影していて撮影データも一緒に渡したところで、最深層を潜っているというアピール以外に身になるものは無い。アピールするなら金になるものをアピールした方が現実的である。
「別に誇れる内容でもないですしね。今日はチラ見ですし、ここを攻略するのはそれなりに、というかもう一段階ステータスブーストが上がってからでもいいような気がしてきました」
「もしくは、己の肉体を鍛えてステータスブーストの元になる素のステータスを上げていくかだな。腹筋が六つに割れるまで頑張るか? 」
まだ少しだけつまめる腹を気にしながら芽生さんに問うてみる。
「私も腹筋六つに割りますか? そんなムキムキな女性がお好みで? 」
「うーん、今のままの君でいて欲しいかな。そのほうが抱き心地が気持ちいい」
「それは嬉しい返答ですね。ではステータスブーストが上がるまで戦い続けますか。とりあえず次のダンジョンフクロウ(仮称)を探しましょう」
「ダンジョンベア(仮称)にも気を付けて。隠れてるから肉眼では見分けづらいかもしれない」
その後何本かの木を巡り、何回かダンジョンフクロウ(仮称)と戦う事でようやくダンジョンフクロウ(仮称)のドロップ品を見ることが出来た。戦いの苦労のわりにここは実入りが少ないかもしれないな。
「で、これがそうなんですよね。ダーククロウとは違ってポンと出ましたが」
「うーん、空を飛ぶからと予想はしてたが直球勝負というところか」
出たのは羽根。ダーククロウ以来久々に見る羽根。ダーククロウの時は既に快眠を得られるという事前情報があったのでこれは素晴らしいという意識が少しはあった……あったっけ? まあいいや。とにかく、今回は何にどう働きかけるのかさっぱり効果が解らないが、おそらく重さ的に百グラム分ぐらいがまとめてポンとお出しされた。ダーククロウみたいに羽根が飛び散るという形ではないらしい。
「うーん、とりあえず安全な所で色々試してみよう。ここで匂いかいで体が睡眠状態に入ったりしたらかなりヤバい一品ということになる。最悪を避ける行動をしていこう。今日はこんなところで帰っておこう。寒いし、体が冷えるし、知らない間に体が冷えすぎて体調が悪くなる可能性だってあるし、そうなれば三十七層に突入する前に一枚着込んでから来る、という選択肢もある」
「そうですね。チラ見としては十分な成果じゃないですか? とりあえずこんなん出ましたというサンプル品も手に入ったみたいですし。ただ、もっとレアで美味しい解りやすい物もあるかもしれませんから真剣に探索するにはもうちょっと先になりそうですね」
「よし、じゃあ戻るか。これ以上探索を続けることもできるが、今日の予定は三十六層往復だったところをチラ見しにいったんだ。いつもより一歩進んだ探索をしたということで納得しておこう」
三十六層へ戻る階段からはそんなに離れていない。視界に入る範囲に有るし、そこまでの間の木は全てダンジョンフクロウ(仮称)が生息していたが倒したばかりだ。安心して戻れる……と思うのが普段だが、ここは慣れない三十七層、念のために索敵をしながら戻る。もしかしたら異様にリポップが早いエリアなんかが設定されている可能性だってあるのだ。用心に越したことはない。
◇◆◇◆◇◆◇
結局何事もなく三十六層への階段へたどり着くことは出来た。心配が杞憂で終わって良かったとホッとするところ。さて、三十六層はリポップし終わっているだろう。また一時間ほど戦う時間が続く。三十五層に戻ったら遅めになるが昼食だ。今日の昼食は芽生さんに美味しいと言わせるだけの自信がある。
三十六層に戻ると、早速ワイバーン二匹。さっきまでのモンスターに比べるとなんとも倒しやすいモンスターである。ワイバーン二匹相手にする方があの熊一匹相手にするよりも圧迫感がない。これも慣れということだろう。
難なく倒すとそのまま一時間、三十五層へ向かって山道を巡るが、ダンジョンウィーゼルもワイバーンもこれと言って苦戦せず、むしろダンジョンフクロウ(仮称)のほうがよほど戦いづらかったことを痛感する。あいつらも戦い慣れれば楽になるのかな。そう考えていると、モンスターを倒したタイミングで全身にかかるフワッとした感触。これはいつものアレだな。
「どうやらステータスブーストが一段階上がったらしい。体がまた一つ軽くなった」
「おめでとうございます。一人で潜ってた分差が付きましたね」
一段階、と言っても数値で判断できるわけじゃないのでどこがどう、という説明はしづらいのだが、さっきまでより更にゆっくりモンスターや芽生さんが動いているように感じるので、ステータスブーストが上がったのは間違いない。
「テンションもちょっと高めになりつつあるな。やはりさっきまでと周りの動きが違って見えるのは毎回楽しいが、うっかり自分の体の動きに意識が付いていけなくて変な事故を起こしそうだ。落ち着かないとな」
「ステータスブーストが一段階上がった時に現れる症状の一つですねえ。自覚できてるということは心配しなくていいと見ていいですか? 」
「もう慣れたからな。毎回テンション上がってたらさすがに疲れる」
十層手前で一段階上がって十層行ってみるか! みたいになるのはもう無いと考えている。ステータスブーストの位階が上がるのも何回目か数えちゃいないが、毎回テンションが上がってるのを自覚できていれば誰しも慣れようというもの。
「さて、もうちょっとで遅めになったがお昼ご飯だ。今日のはちょっとした自信作なので覚悟しておいてほしい」
「ほほう、それは楽しみですねえ。毎回美味しいのに自信作と銘打たれてはこちらの腹も覚悟しようというもの」
軽口を叩きながらダンジョンウィーゼルを楽々と処理できるようになった今、三十六層までのあいだで明らかに強敵と呼べるものは存在しない事になった。ただし三十七層から先は戦い慣れてないのと敵が明らかに強いので、ここからしばらく停滞の日常が始まりそうではある。もう一段階ぐらいステータスブーストの段階を上げていけば形に出来るかもしれない。
今のところは強敵だとはっきり認識しておくことが大事だな。そこさえ忘れなければまたいい戦いが出来るだろう。そして徐々に相手の動きをハッキリ見極められるようになれば次のマップもうまくやっていけることだろう。足りないのは自己鍛錬と戦闘回数だ。また数日空けてから挑むことにしよう。
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