674:結衣さん達と 4/4
一層に戻るとエレベーター前には良い感じの人だかり。おそらくこれから宿泊での夜間狩りとしゃれ込むんだろう。こういう人達が増えたのもエレベーターのおかげ、というわけだ。リヤカーを引きながらちょいと御免よ、と道を開けてもらいながら入口の方へ行く。
しばらく進んだところで時計を見ると午後六時。三十分ぐらいはスキルを行使する時間的余裕はあるな。
「せっかくだし的が居る間にやってみますか。近くにスライムが比較的多く存在する小部屋があるんでそこで早速やってみましょう」
リヤカーを引きながら移動する。周辺のスライムが近寄ってこないかどうかを新浜パーティに監視してもらいながらなので安心して前へ進める。
暫く移動し、目的の小部屋に着いた。バニラバーの儀式を済ませて骨ウルフやより下層に向かった探索者も増えて来たため、スライムは前みたいにうろついても中々出会えないという状況にはなっていない。小西ダンジョンに入り始めた当初からすると五分咲きと言った所だろうか。
「ここでやります。とりあえず……横田さんからやろうか。スライム一匹一匹にオーバーキル上等でスキルを打ち続けてください。眩暈が来たらさっきのドライフルーツを食べて、また続けてください。本当は二十一層でやるのが一番安全なんですが、前にやってて怒られましたし、音がする都合上他の探索者が寝てる場合起こしてしまいそうですからね」
「やってみます」
横田さんは了解すると精一杯の出力であろうウォーターカッターではなく、水の弾を作り出しそれでスライムの核を一つ一つ射抜いていく。スライム程度には十分すぎる威力だが、モンスターを倒すことが目的ではないので問題ない。スライムの核をきっちり打ち抜いている辺り、狙いも確かだ。二分ほど経つと、横田さんがふらついてきた。
「じゃ、スキルブートキャンプ行きますか。ハイ食べて」
横田さんの口にドライフルーツをねじ込む。横田さんはしばらく身もだえした後元に戻る。
「終わったみたいなので、続きをやりましょう。はい、撃ち続けて」
また横田さんがスキルを打ち続ける。途中でスライムを全部倒し終わったので、壁の一点に向けてそのまま連射してもらう。また横田さんがフラつく。ドライフルーツを食べさせる。
「これ、風邪ひいたりしませんよね。大丈夫ですよね」
「体の感覚が一時的におかしくなるだけなので問題ないですよ。回復したらまた撃ち続けてください」
横田さんが打つ、ふらつく、食わせる、悶える、元に戻る。それを十数回繰り返したところで、横田さんがついに膝をつく。
「もうだめそうですね、お腹が空いてるのにドライフルーツが受け付けなくなってきました」
「なるほど、このぐらいが限界ですか。しばらく、毎日これを繰り返してみてください。徐々に効果のほどが解ってくるはずです。後、結衣さんの分もまとめて渡しておくので戦闘中に魔力が枯渇した際にでもいいので、使い続けてください」
チャック袋にパンパンに詰めたドライフルーツを渡しておく。三百個ぐらいにはなったはずだ。二人分で一日二十枚ずつ消費するのでも、一週間分。それだけの時間が有れば充分に効果のほどが解ってくるだろう。
用事も終わったし終了時間も近づいてきたので、スキル強化レッスンは一旦終わって出入口へ向かう。
「私も明日の朝やってみようかな」
結衣さんも興味が出始めたようだ。これは二十九層まで潜らないとできない、いやもしかしたら保管庫でドライフルーツを作ろうとした俺だからこそできるスキルの強化かもしれない。
「そう思って多めに渡しておきました。仲良く使ってみて、徐々に伸ばしていってください。スキルは使えば使うほど、イメージを強く持てば持つほど強化できます。使用するための魔力量は欠乏状態であればあるほど最大量が増えていくようです。これは体感なので数字で表すことができないんですが、ざっくり調べたところだとドライフルーツで回復できる魔力量は自分の最大魔力に対する割合ではなく固定値で回復していくみたいです」
「なるほど。とりあえず今の安村さんの強さの秘密の一端がこれなわけですね」
「頑張りました。と、言ってもそんなに長い時間特訓し続けた訳じゃないんですけどね」
「では、他に何かあるって事ですね。そっちのほうが公開される日を楽しみにしておきますよ」
そっちのほう……二重取得の成長条件の事かな。こっちは……まあ黙っておいても喋ってしまってもどっちでも良いんだが、これが原因ということにしておく事によってスキル多重化のほうは表ざたになる事にはないだろう。
「あ、念のため言っておくけどドライフルーツで魔力が回復できる件は秘密で。でないと俺がドライフルーツ業者になっちゃうからダンジョンに潜れなくなるし、ドライフルーツに変な高値がついてバブル化するかもしれない」
「そこは信頼してもらってると思ってますので口を堅くしておきますよ」
使い方を教えて実践して……あとは次に魔力が回復した時にまた試して、魔力の最大使用時間と魔力回復量がドライフルーツ一つ分よりも多くなっていたら、実感できるようになるだろう。一日五分からできるスキル強化実験訓練……これは金にもできるし、ダンジョン探索者の強化にも使えるし、なんなら深層探索者を増やしてダンジョンのドロップ品を持ち帰らせる頻度とスピードを上げさせるにもちょうどいい。
ふむ……有りかもしれんな。まずは知り合いから順番に試してもらってからだな。もしかすると自分だけにしか効果が無い手段かもしれないし、しばらくは経過観察と行こう。その間に俺も二十九層へ潜ってドライフルーツ用のトレントの実を集めなければならない。今日の分だけでトレントの実を三十個分ほどを消費したことになる。在庫がなくなったわけではないが、要求された時に素直に分けられる程度の在庫量にはしておきたい。明日は布団屋に行ったりと予定がそれなりに立て込んでいる。明後日行こう。
ダンジョンをでて退ダン手続き。
「ご一緒ですか。中で臨時パーティーでも組みましたか? 」
「そんな所です。まぁいつもよりは少ないですがちゃんと稼いできましたよ」
二、三言葉を交わすとリヤカーを引っ張ったまま査定カウンターへ。少し待ってから自分たちの番。
「今日は六等分でお願いします」
「わかりましたー……と、臨時パーティー組んでたんですねー」
俺がカウンターに行くときは全て綺麗に整理された後なので仕事がやりやすいと判断したのだろう。ササっと終わってササっと結果が出て来た。本日の収入九十一万六千百二十五円。お値段はそこそこ。午後しか働いてない事を考えれば少ないとは言い切れない金額だ。それでも二十七層を往復するだけで六百万ほどを稼ぎ出せる今を考えると、やはり少ないか。まあ預金の残高は充分だ。一日二日肩慣らしをしたり結衣さん達のサポートをしたりしながらでこの金額を稼げたんだ。充分ヨシとしておこうではないか。
皆にレシートを渡し、各々支払いを受けると、トイレと冷たい水を補充して、早速とんぼ返りで戻るらしい。
「じゃ、安村さん。私たちはダンジョンに戻ります。今度会う時には成果のほどを見せられると良いんだけど」
「うん、頑張って。そして【索敵】を無事に手に入れてきて欲しい」
「これなら清州ダンジョンを引き払わずに向こうで手に入れて来てからでも良かったかなあ」
そこは俺も少しだけ思うが、来ちゃったものは仕方がないな。頑張ってもらおう。
帰り道のバスに乗り明日の予定を考える。午前中に布団の山本に行く事は決まっている。それに加えてかなり大量に渡したのでドライフルーツの在庫が少し減った。材料であるトレントの実集めもしたいな。そうだな……明日も昼からダンジョンだな。明後日は多分芽生さんも込みでトレント狩りとしゃれこむか。これは忙しくなりそうだ。
夕食は疲れては居ないが続けてダンジョンに潜ることも考えて、馬肉の刺身を生姜醤油で頂こう。このまま真っ直ぐ帰って家事一式を済ませて夕食、その後は早めに寝るとしよう。
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