672:結衣さん達と 2/4
ドローンを飛ばすと次にモンスターが居そうで探索者が居なさそうな方向を指さし、次の目標へ向かう。さすがに毎回うまい具合にダンジョンハイエナが出てくれるわけではない。次に一番近いのはレッドカウ三匹だ。肉が出てくれればそれなりに美味しい。
さっさと近寄っていくと柄を手に戦闘態勢。
「安村さん、それ刃ついてませんで。持ち手だけでっせ」
「刃はこれからひねり出します」
そういい、雷切を出現させるとレッドカウの金棒ごと斬ってレッドカウを倒す。他のメンバーはあっけにとられているが、顎でしゃくって戦闘を促すと近い順に向かっていった。
「かっこいいなあ。それだと武器要らないじゃん。【雷魔法】は応用が効いていいなあ」
横田さんがすごく羨ましそうにしている。いいだろ、これ。
「一応相手に対して使い分けては居るんですけどね。魔法耐性持ってると効きが明らかに変わるでしょうし、多分スケルトンなんか相手にする時はこっちよりも直刀そのまま振り回す方が早いと思いますよ」
ブォン、ブォン、とどこかで聞いたことのある音を鳴らしながら雷切をクルクル回す。
「スターウォーズですか?それともビームサーベルですか? 」
「スキルがフォースの力なら前者、時代の流れ的には……呼吸? 」
「どっちにしろ、イメージの力が大事って事がよく解りました」
索敵と目視で次の目標を確認する。周りに他のパーティーもモンスターも居ないようなので、ドローンを飛ばして更に視界の外を確認し、モンスターの多そうな方向へ進む。
「ぶらついてますけど、迷ったりしませんよね? 」
「うーん、大体今自分がどの辺に居るかは解るし、ドローン使えば階段も比較的楽に見つかるから問題ないんじゃないかな。それより数を多く狩って少しでも確率を上げるほうが大事だと思うよ……と、あっちだ」
ドローンで確認してモンスターの多そうなほうに誘導。たまにはこうやってのんびり探索を楽しむのも悪くないな。収入にはならんが気晴らしとしては充分だ。だが、せっかく一緒に居るんだから何かしらのイベントは発生してもいいなあとは思っている。
たとえば【索敵】が落ちたりとか、ほかには【索敵】がドロップしたりとか、後は【索敵】が出てきたりとか。物欲センサーを最大限に発揮しながら探索を続ける。
◇◆◇◆◇◆◇
モンスターの湧き具合は悪くなく、暇な時間がそれほどできない程度に湧いてくれている。これはチャンスでもある。何処のダンジョンハイエナがスキルオーブを持っているかは解らないが、できるだけダンジョンハイエナが居る所を探しながらグルグルと回り始めた。ちょっと焦りが傍から見ても見えたのだろう、結衣さんがねぎらいの言葉をくれる。
「安村さんが居るからって出るって決まってるわけじゃないですから、そんなに一生懸命にならなくてもいいですよ」
「ありがとう、確かにそうだな。俺が責任もって今日中に出して見せるなんてそれはただの思い上がりだな。出るようにしか出ない、そうだな。最近スキルオーブを好き放題してたから感覚がマヒしてたのかもしれない、いや、マヒしてるな。一旦落ち着くよ」
深呼吸して落ち着く。他のメンバーも少し心配そうに見ている。俺が一人で昂っていただけか。ここは一つ平静を装うとするか。そもそも結衣さん達のほうが探索者として先輩なんだ。俺が先導を切ってるように見せつけるのはなんか違うな。もっと落ち着いていこう。
「ごめん、落ち着いた。なんか先走ってたな俺。冷静になったよ」
「元に戻った感じがするね。なんかさっきまでかなりギラついてたよ」
「別に安村さんが気負う事は無いんちゃいますか。出るときは出る、出ないときは出ない、それでええやないですか」
「そうですね、本来スキルオーブは二、三か月ひたすらに通って出すようなものですから、早い者勝ちとはいえ一日やそこらで状況が改善するわけじゃないですから」
横田さんがいつも通り冷静に状況を判断している。平田さんは気にするなと言ってくれている。多村さんはなんだかんだで周りをちゃんと見ている。それぞれ役割があるからこのパーティーは成立してるんだなと感じた。
「それに誰が覚えるかもまだ決めてないしね。だから安村さんは今日は我々に楽をさせてくれている。それだけでいいんですよ」
「よし、俺は支援に回る。また先に先に行ってたら同じことをやらかしそうだ。次の目標がどっちに居るか、それぐらいの手伝いに徹するよ」
「あ、別にそれはええですよ。楽できますし」
「今日の稼ぎは安村さんの奢りみたいなもんですわ。精々稼いでかえりましょ」
平田さんはいつものおどけた調子で気持ちを落ち着かせようとしてくれているらしい。どうしよう、ちょっと泣きそうだ。
「じゃあ、気を取り直して時間まで探索しましょう。次のモンスターは……あっちですね」
◇◆◇◆◇◆◇
草原マップはドローンを使い放題なので上からモンスターの様子を見放題だ。それがメリットとして非常にでかいが、逆にドローンでもないと迷ってしまうのがネックだ。ここのマップは他の探索者が埋めてくれた最新のマップが有るので、周りにどんなオブジェクトが見えているかで大まかにどこにいるかを把握する事が出来る。が、見えてるオブジェクトのその先を見ようとするとやはりドローンが活躍する。
怪我も無くアクシデントも無く、ただひたすらモンスターを探してはドロップ品を集めていく。今のところスキルオーブのドロップは無い。十九層も自分達だけで占拠している訳ではなく、他の探索者の姿もドローンから見えるため、できるだけバッティングしないように移動経路を確保しつつ、戦闘に入れるように調節していく。他のパーティーがどっちに動いているかも把握できればより円滑に探索を進めることができる。
今までは階層を使い放題だったため、視界に入るモンスターは全部自分の物だと思って探索をしていた。しかし、二十一層に滞留する探索者が増えたため、二十層十九層はヒールポーションで稼ぐにしろ、レッドカウの肉で稼ぐにしろ、中々熱いモンスターの取り合いが起きている。いがみ合いも当然発生するだろうが、今のところギルドで問題になっていない以上、それぞれで譲り合いの精神が発生しているんだろう。
バトルゴートの毛もレッドカウの肉も中々の量が集まり始めた。今日の収入はそこそこいいものになるだろう。それに加えてダンジョンハイエナを優先して倒しているので、ヒールポーションの収入も大きい。
「二十二層ってここと比べてどのくらい収入が増えるんですかね」
横田さんの何気ない一言にみんなの興味が集まる。
「えーと……確かどっかにメモした覚えが有る。ちょっと待ってね……」
メモ帳の稼ぎの欄をめくり、十九層、二十層、二十二層の一時間当たりのおおよその稼ぎの金額をはじき出す。
「二十二層に関してはここよりも安いですね。二十二層って階段周りは複数で出てこないんですよ。ちょっと階段から離れれば徐々にモンスター数も増えてきてそこそこの収入にはなりますが、金額としては二十二層は美味しくないかもしれません」
「深くなるほど収入は多くなるとは思ってましたが、順番にそうなるって訳ではないんですなあ」
「でもまあ、派手に暴れればここと同じぐらいに稼げると思いますよ」
「なら何としても索敵を手に入れてモンスターが隠れてる、挟まってるところを見つけるのが重要ですね」
「【索敵】が有るとその辺便利すぎるんですよね。二十一層と似たようなマップになりますから」
「ますますほしくなりましたね。でも六千万円をポンと出してギルドのスキルオーブ順番待ちに賭けるのはちょっとハードルが高そうですね」
「ただ、ヒールポーションも出ますし、割と稼げるのは違いないです。帰り道にへとへとになっても、階段周りは数が少ないですからその点ではかなり楽な階層と言えるかもしれません」
ダンジョンハイエナを処理しながら会話が出来るようになったのは体が慣れてきた証拠だ。結衣さん達もこの階層に慣れ切っている事を感覚で理解する。
「ここの戦い方は結衣さん達のほうが長く戦っている分慣れてる気がする」
「数日ここで戦いっぱなしですからね。相手の攻撃パターンも素早さも、段々慣れてきて、ステータスブーストも何段階か上がりましたから、負けることは無いと自負してます」
「どのくらいの強さになっているかどうかは解りませんが、怪我の可能性は低そうで安心しました」
「時々攻撃を喰らってヒールポーションを使う事はありますけど問題になるほどではありませんし、順調に進んでいると思ってくれていいですよ」
「二十二層以降は毒持ちの敵がいるんで、キュアポーションのランク1があるならそれに越したことは無いと思います。最悪鬼ころしなんかで売ってるのを補充してその分稼ぐ、というのも有りかもしれませんね」
「鬼ころしだとキュアポーションランク1でも三万するんですよね。日々稼いでる金額からしたら払えない金額ではないんですが、できるだけ経費は使わないほうが収入になりますからね、ちなみに安村さんはどのくらい在庫を持ってるんですか? 」
横田さんに質問されて、保管庫を確かめて在庫を確認する。
「今のところ八本ぐらいですかね。でもそのモンスターに後れは取らないと思うので本当に緊急事態用ということになってますよ」
「結構持ってますね。もっと少なくていざとなったら自分で稼ぎに行くもんだと思いましたよ」
「二万円で体調悪くするぐらいなら、即座に使って他のモンスターにすぐに対応できるほうが稼げますからね。保管庫に入れておけば戦闘中に割れたりする心配も無いですし」
「やっぱ便利ね保管庫。私の手元にも【保管庫】出てきたりしないかなあ」
結衣さんが羨ましそうにこちらのスキルが欲しいと希望を出す。
「どうやら数十ダンジョンに一個出るか出ないかぐらいらしいですよ。もし全ダンジョンから保管庫が出るなら、国内には六人ぐらいいても不思議じゃないですね」
「気になってるんですけど、保管庫に入れた魔結晶ってどういう入り方してるんです?やっぱり重さで判別されるんですかね? 」
「そこが不思議でさあ。モンスター名の魔結晶、みたいな形で保管されてるんだよね。だからモンスターの魔結晶がどのくらいの価値があってエレベーターの燃料として動く基準になってる」
「じゃあ例えば、今日のドロップ拾った分の魔結晶やアイテムって」
「それぞれの名前で表示されてる。これはダンジョンというかスキルの不思議なんだ。誰がモンスター名を決めているかも含めて、一体どこからモンスターの情報が流れて来てるかが解らない」
そう、【保管庫】にはまだまだ不思議がある。その不思議も三十七階層に潜ったら解決されるんだろうか。少なくとも三十六層までのドロップ品は名前も確定されていた。モンスター名もそうだろう。
この先、未踏破エリアのモンスターを倒した際にも名前は表示されるんだろうか。ミルコが続きのダンジョンを作り始めたら是非味わってみよう。
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