表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第十章 ギルド外でもお仕事はする

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

670/1249

670:茂君は今日も元気です ~二十一層での様子~

 ギルマスルームを後にしてダンジョンへ向かう。今日もお昼は作ってきているので、このまま帰って家で食べるということも出来るが、それはそれで時間が勿体ない。せっかく来たのだから一円でも稼いで帰らないとな。まぁドロップ品の都合上最小単位は二十円ぐらいだが。


 いつも通り受付で入ダン手続き。


「今日はゆっくりでしたね」

「ギルマスと話し合いがありましたから」

「なるほど、ご安全に」


 いつもの他愛ない会話をした後、リヤカーを引きながらエレベーターからまず七層へ下り、茂君に会いに行く。芽生さんが学業に精を出している間は出来るだけ茂君に会うように心がけている。最小でも朝一回の茂君、余裕があるなら帰りにも茂君。一日二回の茂君で稼げるおよそ六万八千円と社会貢献。俺の力で世の中の不眠に悩む人たちを悩みから解決に導くのだ。


 そう考えると探索者の社会貢献度は低くない。ポーションで保険外とはいえ命をつなぐことだってあるだろうし、ウルフ肉でお腹が膨れ、真珠で着飾り、そして……後なんだろう。バトルゴートの毛で服を作ったりかな。


 二十一層以降の素材はおそらくそうそう出回ってないので、この間スーツを作りに行ったテーラー橘のように高級品にも使われている素材、これも二十八層まで探索許可が下りたり、Bランクがもっと増えたりすればきっと需要も供給も増えるはずだ。今はまだそこまでの段階ではなく、研究開発や試作品、一部の嗜好品としての立場は崩せないんだろう。だがちゃんと出回っているあたり、Bランクだからとひっそりダンジョンに潜ってドロップ品を回収しているパーティーは自分たち以外にも確実に居るんじゃないか。


 考え事をしているうちに茂君に到着。今日も良く茂っている。いつも通り投網で一網打尽にすると、誰も見てないのを確認してから保管庫に直接収納。


 そのまま踵を返して七層に戻る。時間的にちょっとばかり早いが七層で昼食を取ろう。二十八層では誰も居なくて飯を食うにも少し寂しい。かといって二十一層で中途半端な下車をするのもあれだ。そう決めると、自分のテントへ戻る。


 最近の七層は常に人がいる。話によると十四層もそうらしい。それに誰が持ち込んだか、自転車の台数も増えている。おかげで七層の交通事情は割とスムーズになったらしい。勿論知らないパーティーのほうが圧倒的に多い。知っているパーティーはほとんど二十一層に移住しているのでここにとどまっているのは田中君ぐらいのものだ。その田中君もちょうど出かけているようで、総合的な意味では一人飯であることに変わりはなかった。


 保管庫から弁当を取り出し一人もくもくと食べる。食べながら保管庫の中を確認すると、茂君の成果が十四キログラムほど溜まっていた。これは明日辺りに久しぶりに持っていくべきだな。他の探索者の当ても見つけたと言っていたし、俺抜きでどのくらいの商売が出来ているのかは気になる。これから寒くなるし、分厚いほうの布団の注文も増えるだろう。羽根の需要はさらに高まっていると言っても過言ではない。


 弁当を食べ終わるとコーヒーを淹れて一休憩。食い過ぎず少なすぎず、良い感じに膨れて来た。これは昼からの稼ぎに期待が出来るな。雑誌を片手に胃が落ち着くまで待つ。しばらくすると胃の重さも無くなってきたので早速二十八層まで行こうとエレベーターに向かうと、ちょうどエレベーターが開いたところだった。タイミングがいいな。


「すまん、下まで行くなら乗せていってくれ」


 快く返事をもらったので同乗させてもらう。彼らの目的地は二十一層だろう。五千円分浮いたな。


「あんた安村さんだろう? 初めて顔を見れたが俺達は最近小西に引っ越してきたんだ。何かあったらよろしくな」


 顔と名前が勝手に認知されている。俺の知らない所で何があったんだ。それとも実は古くから俺の事を知っていて……という可能性がある。探索者を始めたころにやっていたスライム虐殺動画を見て俺を認識しているのかもしれないし、二十一層より下へ行ってる可能性があるならそれは安村さんだ、みたいな話し合いが知らない間に行われていたのかもしれない。謎が謎を呼ぶ。


 二十一層に着いたのでとりあえず下りる。たまには二十一層のテントの様子も見学しておかないとな。そう思って階段を上がって自分のテントに戻ると、結衣さん達がちょうど休憩していた。


「あ、安村さんだ。どうしたの今日は」

「タダでエレベーターに乗せてもらって来たんで気が向いたから立ち寄ったってところかな。テントの様子も見ておきたかったし。どう、最近調子は」

「スキルオーブが出なくて……どうやら二十層では【索敵】がもう出ちゃったらしくて、十九層をメインに頑張ってみてるところ。それでも清州ダンジョンに比べたら密度もモンスター量も同じぐらいだから、移動の手間が省ける分やっぱり小西ダンジョンのほうがいいね」


 結衣さん達はあの後清州ダンジョンを完全に引き払い、小西ダンジョンに完全に腰を落ち着けた。小西ダンジョン付きのパーティーその……四ぐらいか。俺達、小寺さん達、相沢君達、そして結衣さん達。大まかにいうとこの四パーティーは小西ダンジョンで活動しているのがほとんどだと言っていい。さっきエレベーターでご一緒になったパーティーが小西ダンジョンをメインに活動していくなら彼らも小西ダンジョン付きとなる可能性はあるな。


 ちょっとジェスチャーで新浜パーティー全員を集めると、小声で会話を始める。


「ステータスブーストを全力で効かせておいて。かなり小声で喋るから」

「解った。要するにこの階層の誰にも聞かせたくない話って事ね」

「いいかな……? 清州ダンジョンにエレベーターが設置されたらしい」

「ということは清州ダンジョンで三十層のボス退治に成功したって事ですかね? 」

「そうなるね。高橋さん達がかなり頑張ったって事になる。俺もアレには苦労したからな」


 苦労したからな、と言い切ったところで、「あ」と思わず声が出る。


「大丈夫、安村さんと文月ちゃんなら倒してても不思議はないから。なんか変な戦法とか思いついてそうだし、保管庫のスキルが有ればかなりの有効打を打てても不思議はない」

「そうですな、それに三十五層まで行きはったんでしょう? 道中のボスを無視してそのまま行くとか思ってませんわ」


 平田さんと結衣さんがフォローを入れてくれる。信用があるのかないのかはさておき、やらかしてしまっているんだろう? という感じだ。


「まぁ、このメンツなら良いか……ちなみに次のボスが湧くまでの期間は一週間ぐらいだった。十五層みたいに二時間おきということはなかったよ」

「どれだけ強いボスかは解りませんが、安村さんと文月さんのお二人で倒せる相手なら、D部隊が総力を挙げたら何とかなるってのは何となくイメージが湧きます。多分全部隊招集して一斉に倒したんでしょう」

「ちなみにドロップはなんだったの? 」

「ドロップはヒールポーションのランク4が四本と魔結晶と、種だったよ。ヒールポーションはともかく、魔結晶と種は確実に出すとバレるから保管庫の奥底に仕舞ってある」

「魔結晶、みたいなあ」


 結衣さんが魔結晶を見たいとせがんでくる。


「宝石感覚だな。まあ、見せたところで減るわけでもないし良いけど後の楽しみは減るよ? 自分が倒した時の楽しみ」

「それもそうね……それに出さないにも理由がありそう。多分だけど、希少どころか前例が無いから査定価格が出ないとか」

「実は今、それで買い取り不能になってる品物がいくつかあるんだよね。それで最近はもっぱら二十七層と二十九層で戦ってる。この間食べたワイバーンの肉もその中の一品でさ。緑色の魔結晶……もっとありていに言えば三十三層以降のドロップ品は今査定にかけられない事になってる」

「それまで一気にため込んでおいてまとめて査定に出すとかしませんのん? 」

「やると保管庫バレちゃうから、何回も往復するフリをする羽目になるんだよね。だったらリヤカー一杯分の量で止めておいて、それ以外はお小遣い稼ぎって事にしてる」

「お小遣いって金額でもないでしょうに……私たちの合計額と同じぐらい稼いでるんじゃないの? 」

「稼ぎの金額については黙秘します。これは俺と芽生さんだけの秘密ということで。まあ以前打ち上げで話した金額ぐらいは稼げてるよとだけ言っておく」


 小西ダンジョンへ呼び寄せるために俺が出した概算金額。横田さんはあの金額を思い出しているらしく、なるほどなあと言っている。


「一体安村さんは今までにいくら稼いでいるの? もうFIREしてしまえるぐらいにはあるんじゃない? 」

「多分、そう。でもダンジョンで体が思うように動かせないようになってからでもいいかなって最近は思い始めた。というか体が慣れた。朝ごはん食べてから昼食を作るのも楽しいし、保管庫のおかげで夜の間に冷蔵庫で味付けしたまま寝かせておくことも不要になった。生活としては充分成り立ってるからこれ以上を望むなら更に奥へ探索に行きたいってところかな。ただ一人で突破するのはまだ無理なので芽生さんの学業の調子次第にはなるけど」


 ここで声量を元に戻すために咳ばらいを一つする。全員離れていつもの会話ペースになる。


「で、今日のご予定は? 一人で居る所を見ると二人で潜ってるわけじゃなさそうだけど」

「いつも通り二十七層を一往復して帰ろうかなと思ってはいる。ここに立ち寄ったのはもしかしたら居るかなーぐらいにしか思ってなかったから」

「付いてくる? 途中解散になっちゃうけど」

「六時ごろにここにいったん帰ってくる感じなら……でもそうするとそっちが中途半端な時間になっちゃわないかな? 」

「大丈夫、どうせその時間にいったんドロップ品の査定に行こうと思ってたから。 それにリヤカー持ってきてるんでしょ? 荷物の搬出が楽になるし」

「なるほど。じゃあ付いてくかな。食後の運動がてらだから結構動くけど、暇になっても問題ないよね? 」

「「「儲かるなら問題なし! 」」」


 コンセンサスが取れたところで俺もついていくことになった。さっきギルマスと話していたリポップの減少について、実地で感じ取ることができるいい機会だしこれを活かしていこう。


「と、行く前に……」


 保管庫からお菓子とコーラを取り出し、自分たち以外誰も見てない事を確認すると柏手を二拍。するとお菓子とコーラは虚空へ消えていった。今回のお菓子にはポップコーンも入れておいたので、ポップコーン片手に眺めているダンジョンマスターという構図は取れるはずだ。我々の世界では隠語を含んだ意味だが、読み取られない限りは大丈夫だろう。


「さて、準備が出来た事だし行きますか。念のため……よし誰も見てない」


 リヤカーも保管庫に入れておく。エレベーターに乗る前に荷物整理を終えて、エレベーターに乗ったらエレベーター内でリヤカーを出してそこに乗せればいいだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 平和だなぁ 最前線踏破もいいけど、こういう地固めと交流もすこ
[一言] おじさんいるしオーブ探しついでに索敵体験ツアーで一緒に22層以降に潜ったりしないのかな?どこでオーブ出たか忘れたけど
[一言] 安村さんが小西の顔みたいになってきてるねー みかじめ料とかないけどね!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ