67:克服
四層へ降りた。
俺は気持ちを引き締めると、体に入っていた余分な力を抜こうとする。
小寺さんは俺の緊張を解そうとしてくれているのか、適度に会話を入れてくれている。
「ソードゴブリンは自分の持ってる剣をドロップとして落とすらしいですよ」
「それ、高値で売れるんですか?」
「いえ、ギルドでも買い取りはしてないそうで、鉄くず屋に持って行って処分してもらうそうです」
「何か特殊な効果が付いていたりは?」
「今のところ確認されてないそうです。なにかあったらお値段もそれなりにつくんでしょうが」
「ゴミレアって奴か」
「苦労のわりに報われない相手ですね」
ゴミレアしか落とさない相手に苦戦することになったのか。ちょっと、いやかなり悔しい。
出会ったら必ず打ち滅ぼしてくれる。さっき抜いた余分な力が更に入ってしまった。
四層を巡るとゴブリン五匹の集団に出くわしたが、奴はいなかった。
「いきなり五匹ですか。歓迎パーティですかね」
「主催者は居ないようですが」
二人ともゴブリンに対して一対三でも後れを取るほど弱くはない。お互い相手をするゴブリンを決めるとそっちへ武器を向ける。まずは肩慣らしの第一運動からだ。
結果から言って苦戦する要素は今更なく、五匹のゴブリンは順番に黒い粒子となって消え去る。
「前菜はこんなところですかね」
「スープはまだかな」
「コース料理はスープからが本番らしいですよ」
「なるほど」
文月さんもそうだが小寺さんも軽口が好きなタイプのようだ。正直精神的に落ち着きができて助かる。
お互い軽口を言い合いながら探索を続ける。次に出てきたスープはゴブリンが四匹。前菜に比べて少し味が落ちるかも?と思ったが、ポーションが出たので美味しい結果となった。
「これは主食が楽しみですなぁ」
「まぁそう簡単には行かないとは思いますが、期待を込めて行きますか」
そしてついにソードゴブリンとお供四匹のグループとエンカウントする。
俺の手が少し汗ばむ。緊張しているのが自覚できる。
「落ち着いて。負ける装備じゃないので。剣が体に触れなければセーフですから、盾なり武器なりでうまく攻撃を往なしてください」
「……はい」
小寺さんからフォローが入る。ソードゴブリンはお前がやれというフリでもある。
小寺さんは俺の少し後ろに陣取った。おそらく脇から襲われても問題なくカバーできるようにという事だろう。
ソードゴブリンが剣を振り回す。盾で剣を弾く。ガキン、という音がする。おそらく盾の外側を覆っている金属に当たったんだろう。盾にダメージは……入ってないと思う。
もう一度ソードゴブリンは攻撃を仕掛けてくる。俺は落ち着いて剣の軌道を読む。
再び盾で剣を今度は大きく弾き飛ばす。ソードゴブリンは自分の剣の重みに釣られて体勢を崩す。今だな。
俺は相手のこめかみにグラディウスを突き立て、そのまま深くまで剣を差し入れる。ソードゴブリンはそのまま動かなくなると、黒い粒子になって消え去る。
勝てた。勝てたぞ。思わず声を上げたくなるが、ゴブリンはまだ残っている。だが、残るゴブリンからプレッシャーは感じない。どうやらトラウマは乗り越えられたらしい。
しかし、それでも油断はしないように慎重にゴブリンを叩いていく。戦っていた時間は十分にも二十分にも感じられたかもしれないが、実際のところはほんの二分程度だったらしい。
「気分はどうですか」
「最高です」
「メインディッシュのお味は」
「味わう暇も無かったよ」
小寺さんとハイタッチする。ソードゴブリンは魔結晶を残していた。魔結晶を拾い上げる。ゴブリンのより重いな。その分価値はあるのか?
「せっかくだからこいつの落とす剣も見てみたかったな」
「なら、でるまで挑んでみますか?付き合いますよ」
「あ、ホントに?じゃあやっちゃおうかなぁ」
よし、調子が戻ってきたぞ。顔を軽く叩くと、前を向く。
「じゃあ、目標ドロップソードゴブリンの剣……ややこしいな。何か名前ないんですか」
「ダメ剣とかゴミ剣とか呼ばれてますが、一応ゴブリンソードと呼んでるらしいです」
「じゃあそれで。目標ゴブリンソード。美味しくないけど」
美味しくないと口には出しているが、美味しい使い方を思いついている俺にはぜひ一本二本持っておきたい理由がある。
俺たちはレアドロップ目指して四層を回ることになった。
五層への階段に向かいながらも、ゴブリンだけの集団とソードゴブリン付きの一座との戦闘を適度に行っていった。
どうやらソードゴブリンは基本一グループに一匹らしく、同時に二体存在するグループは稀らしい。ただし必ずお供を連れていて、二から五匹ほどのグループで活動しているようだ。
昨日思い浮かべたとおりの戦い方で危なげなくソードゴブリンを往なすことが出来たり、剣で受ける羽目になってその後相手の刃に当たらないように避けるのに手間取ったりはしたものの、傷らしい傷は受けなかった。
ビギナーズラックかもしれないとも思っているが、局所局所で避ける速度を向上させたり、一撃で仕留められるように腕力を向上させたりしているおかげかもしれない。
ソードゴブリンの数で言うと三十体目ぐらいだろうか。ようやく剣がドロップした。ドロップはしたのだが問題というか疑問が発生した。
「これ、持ってた剣と明らかに違いません?」
「そうですねぇ。不思議ですよねぇ」
ソードゴブリンが振るっていた剣……ゴブリンソードは柄の部分になんの装飾もされていなかったはずだが、ドロップしたゴブリンソードには柄にひし形の装飾と、殴ったら痛そうな突起が付いている。
それに何より、鞘までついている。
「これも我々が扱いやすいように、というダンジョンの配慮かなぁ」
「ダンジョンの配慮、とは」
「ほら、スライムゼリーは容器に入って出てくるし、ウルフ肉だって殺菌真空パックでドロップするじゃないですか」
「そうですね。ダンジョンの不思議ですね」
「これ、我々が後で使いやすいようにわざわざ加工してくれているって事ですよね」
「そうな……るのかな。何の為に?」
「何の為でしょうね」
本当に何の為なんだろうね。
ダンジョン二十四の不思議はまだまだ空きがある。いくつ埋めたかも覚えてないが。
「まぁ、貰えるものは貰っておきましょう。この主食の一番美味しくないところは是非戦利品として安村さんが持ち帰って、苦戦の証として末代まで飾っておいてください」
「まぁ、一本ぐらいなら大した重さにもなりませんし……って、他の人たちはどうやって処分してるんでしょう? 律義に持ち帰ってる? 」
「大体の人はその辺に捨てて行ってますね。放っておくとスライムが勝手に食べて処理している、というのが通説です」
「実際に食べてるところを見たことは無い? 」
「らしいです。気が付くとスライムが居てゴブリンソードは無くなってるとか。そのせいで放置してたポーション食われたり休憩用のおやつ食われたりする人が居るとか居ないとか」
見てない間に消える現象……これは二十四の不思議に入れておくべきだな。
「で、目的は達成しましたけどどうします? もう少し肩慣らししていきます?それとも三層へ戻ります?それともスライム潮干狩りします? 」
「スライム潮干狩りするのはもうここに来るまでにやってきたのでいいです。個人的にはもう少し肩慣らしがしたいところですが、三層でもいいかと思います」
頭の中で計算し、結果として三層へ戻りたいと素直に申し出る。
「その訳は? 」
「ざっくりですが計算してみました。魔結晶がいくらになるかまではわかりませんが、ソードゴブリンはポーション落としてないですよね? 」
「そういえば落としませんね」
「ってことはゴブリンよりも一匹当たりの報酬期待値が下なんですよ。大体三分の一ぐらいですかね」
「計算速いですね」
「生活懸かってますからね。なので混んでない限りは三層に戻ってゴブリンとグレイウルフを狩るほうがうま味はでかいんです」
「四層が不人気なのはその辺が原因なんですかね」
「ゴブリンより苦労させられて利益が出にくいと考えると。ただ、一気に数が出てくるのでモンスター密度は四層のほうが三層より上だとは思います。後は……」
「後は? 」
ステータスに対する上昇係数が高いとかかな。
「いえ、何でもないです。三層へ戻りますか」
「五層は覗いていかないんで? 」
「楽しみは後にとっておく性分なので」
さぁ、目的は達したし三層に帰りますか。四層では一本の剣と三本のポーション、二十一個のゴブリン魔結晶、八個のソードゴブリンの魔結晶を手に入れた。
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