667：多重化スキルの変化考察
事後報告になるが、翻訳ソフトを噛ませながらの海外での情報によると、日本国内ではそれほど報告が無かったものの海外では多重化スキル、つまり同じスキルを二重に覚えるという行為はそう珍しい事ではないらしい。ただ、スキルを二重に覚えることよりも他のメンバーに渡したり売りに出した方が金銭効率がいい、という風に語られていた。
おそらくだが、スキルの習熟が充分でない間に多重化スキル化してしまうと、魔力使用量が増えただけ、という体感ぐらいしか得られないものなんだと思われる。
血のションベンを出し尽くすつもりで眩暈と戦いながら日々スキルを鍛えていたからこそ、多重化スキルの恩恵に与れた、と考えるべきなんだろうな。イメージ的には、十までスキルを鍛えた人には十の追加効果を、二十まで鍛えた人には二十、百まで鍛えた人には百の効果を追加で受けられる、というような仕組みになっているんじゃないかと推測している。
つまり、それだけ俺と芽生さんはスキルを鍛えまくっていたのだ。これでトレントの実のドライフルーツによる無理やりブートキャンプを行使する事で、今後多重化スキルを得るチャンスが出来た探索者に対しても充分な効果をもたらせることができるのではないだろうか。
七層あたりでスキル所持者相手にひたすらスキルを打たせ続け、眩暈が出てきたらドライフルーツを無理やり口に詰め込み、食べ過ぎで吐き気を催すまでスキルをひたすら使い続けさせる。そんなダンジョンブートキャンプに参加する人がいるとしたらどうなるだろう。ついでにダンジョン内のスキル使用者を把握できて一石二鳥じゃないだろうか。
そんなことを考えながら体はゴーレムと対峙し、見えないカメレオンダンジョンリザードに対して雷撃を浴びせ、ドロップを拾っている。この階層でも無の心を持ちながら頭をどこか遠くに旅立たせながら体を動かす、という作業に没頭できるようになった。俺も強くなったもんだな。
三十六層以降は出来ているかどうかわからない。今ミルコが頑張って作っているのだと思うと頑張れ、と応援する気分になってくるが、その先がどうなっているかは気になる所。実際のところ何層まで用意されているのかは解らないので、もしかしたら四十二層までできているのか、もっと先まで出来てはいるけど俺がそれを乗り越えて来るであろうことを考えて早めに作っているのか。
しかし、清州ダンジョンにもエレベーターか。横田さんが予測したように、清州ダンジョンに探索者が戻っていくという現象が起きるかどうかは解らない。小西ダンジョン近くに居を構えてしまった人にとってはどう受け取られるのだろう。せめて鬼ころしがこっちにも出店してくれれば探索者用の装備や小物なんかを販売するようになるだろうし、ダンジョン素材のお土産なんかを商品として広げることによって、地元の人たちにも探索者は怖い物じゃないんですよという印象を抱かせることができるんじゃないだろうか。
無いものをねだっても仕方がないが、期待は出来る。しかし、清州ダンジョンがより盛況になる可能性は確かに高い。ただでさえ利用者が多い清州ダンジョンなのだ。エレベーターで鬼殺しが瞬時に……多分十四層だろうな、まだ見たことが無い階層ではあるが、そこにキャンプが出来る可能性は非常に高いし、二十一層まで潜った探索者も少なくないだろう。交通事情も相まって利便性が遥かに高まったのは間違いない。
また静かな小西ダンジョンになるのか、それとも今の勢いを維持できるかは解らないので今後についてより深く注視していこう。とりあえずしばらくは……新しくＢランク探索者が生まれない限りはこの階層付近は結衣さん達と高橋さん達Ｄ部隊の三パーティーで独占できる地域だ。高橋さん達の実力を考えるに、二十八層付近までは割と早くたどり着けるだろう。
さて、折り返し地点である二十六層の階段まで来た。ここでドライフルーツを二枚口に入れ、魔力の回復をしておく。いざ戦闘中に眩暈を起こすよりもあらかじめ補充しておいたほうが安心できるからな。
折り返し前に水分も補給し、体調はまだまだ不調を訴えるには程遠い。もういっちょ稼ぎに行きますか。
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しかし、スキルを極めるというのはどのくらいのレベルになれば極めることになるんだろう。やはり、マップ兵器みたいに周辺全体を雷撃で焼き尽くすようなイメージでスキルを試してみればいいのだろうか。こう、頭の上に雷雲を発生させてそこから地上に向けて雷撃があちこちに降り注ぎ、周辺を一気に焦土と化すようなイメージか。
二十七層は下手に二十九層を回るよりも稼ぎは大きい。二十九層でスキルオーブを狙う、というのも有りだが、今思いつく限りでトレントが落としそうなスキルオーブについては思い浮かぶことが無い。どんなスキルがあるかもわからない所があるが、擬態とか蔓の鞭が出せるようになってもあまり俺には役に立たなさそうだ。そうなると、もっと浅い層でも出るようなスキルオーブが出るんだろうか。
スキルオーブで現状高額で取引されるスキルとなると、やはり【物理耐性】に軍配が上がるだろう。あれはどんな状況でもコンスタントに活躍してくれる。二人分確保できてよかったと安心するべきだろう。二十八層ノートに日付と出たスキルオーブを書き加えておくか。二十八層へきて【物理耐性】の効果のほどを確かめるにも、もうすでにドロップしてますからしばらく出ませんよ、という情報は共有して置いた方が良さそうだ。戻ったら早速書き込みに行こう。
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一往復が終わった。もう一往復と行きたいところだが、時間的に無理がある。今日はここまでだ。帰りには時間の余裕が有るのでもう一回茂君をするだけの時間はある。二十八層のエレベーターのところに作っておいた交換ノートに、日付と出たスキルオーブを記入しておき、しばらくは出ないであろうということをハッキリさせておく。
これで、二十八層にたどり着いたから周辺で耐性スキルと索敵を取ろうとする探索者の野望を打ち砕くことが出来るようになったわけだ。スキルオーブのドロップ間隔回復まで三か月。一ヶ月ほど前に取得したから後二ヶ月はスキルオーブのドロップは期待できない。そうハッキリわかることが何より大事だろう。
リヤカーを引いてまた七層に戻る。ただ、帰り道はリヤカーの上にドロップ品を置くことは気が引ける。テントに戻ったところでリヤカーの上に区分けされたドロップ品を乗せ切った後、リヤカーごと保管庫に放り込む。これで誰かが悪戯することも無いだろう。
また茂君をして戻ってくる。最近はタイムスケジュールが他の探索者と被ってないのか、それともみんなが手を出さないのか、茂君は毎回茂ってくれている。有り難い事だ。
戻ってくると陰でこっそりリヤカーを出し、エレベーターで一層に戻る。スライムがこっそりリヤカーに乗ってドロップ品を食べないかどうかに注意を払うため、頭の上に居るスライムは雷撃でぽつぽつと焼いていく。俺より先に査定に向かう探索者が居たのか、帰り道は非常にスムーズに戻ることが出来た。
退ダン手続きを終えて査定カウンターに向かうと、今日は空いていた。素直に査定カウンターに向かい、ドロップ品を渡す。いつもより少ない査定品のおかげで五分ほどで査定は終わり今日の収入が出てくる。五百七十四万六千九百五十円。ソロとしてはそこそこ。一日の稼ぎとしては少し少ないぐらいか。一人で二十七層を往復するのは割と寂しいからな。たまには二十九層でトレントを相手にする事もあるが、やはり稼ぎの金額としては二十七層のほうが稼げる。
二十九層のほうがいろんな方面にドロップ品が流通している可能性は高いので出来ればそっちを優先したいところもあるが、今のところ二十九層にはあまり近寄りたくない理由もある。
芽生さんと二人、最大出力で暴れたらこのマップというか森はどのくらい伐り広げることができるか試した結果、階段周りの二百メートルほどがはげ山になってしまった。リポップするトレントは見やすいし、切り倒した木は保管庫経由で片隅に積み上げてあるので移動に難は無いが、森の木が多いほうが視界が切れてリポップも早くなるということに気づいたのは、森の木を切り倒して木をまとめて山積みにした後だった。
仕方がないので木がリポップするまでの間、二十九層は休耕地ということになった。俺としてはドライフルーツを量産しにくくなったことは反省点だが、森の復旧を加速化させる手段はない。時々覗いて回復ぶりを観察しつつ、今度は真面目にやろうと考えることしかできない。調子に乗るもんじゃないな。
帰り道バスに揺られながらボーっと考え事をする。高校生の前で話す。彼らにとっては面倒くさい授業の中の一つだろう、なんせ授業中寝てられないんだから。そもそも人が話すのをただただ聞くというのは自分の興味があるジャンルや明らかに話し方が面白い相手じゃないと苦痛に違いない。そして俺はそれほど喋るのが上手ではないと自覚している。
だったらどういう話の組み立て方をするかを考えておかなければならないな。さて、どうするか……いきなり高額のドロップ品見せて、これがいくらぐらいの物か紹介しつつ、こういうものを取ってくるのが仕事だ、みたいな感じにするのがいいかもしれないな。掴みとしては良いかもしれない。
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