663:あれこれいろいろ
調べた結果、多重化スキルによるスキル威力の増加、使用時間の延長などは見られたが、具体的にどう、という例までは出てこなかった。おそらく一人で同じスキルを複数使うよりも一人が複数スキルを使えるほうが手数も平等になると考えている人のほうがはるかに多いのだろう。
「よし、多重化スキルの詳細は封印しておこう。ギルドにも報告しない。これはここの三人……じゃないな、今見ているはずの他のダンジョンマスター達と俺達だけが知ってれば良い事。そうしておこう」
「確かにポンポン新しい情報が出ても混乱するでしょうし、それを逆手にとって私たちが比較的安値でスキルを買いあさってから情報が公開される、というのでもいいかもしれませんが……スキルオーブってインサイダー取引の対象になるんでしょうか」
「うーん……多分ならないとは思うが、後ろめたい事は出来るだけしたくないかな。俺達以外の誰かが発見して広めてくれることを願うよ」
「たしかに、同じスキルを複数集めたら上位のスキルになる、というラノベのネタはあったような気がします」
「ライトノベルってのは以前安村の頭の中を覗いたときにチラ見した読み物の事かい? 」
ミルコはライトノベルというものについて気になるらしい。
「だいたいそれで合っている。ダンジョン物でスキルを多重に覚えたら……言われてみれば誰も思いつかないはずはないな。みんなわかってるけど声に出さないだけかもしれないし、やっぱりそれを触れ回ったところで得しない気がするな。そんなの当たり前じゃん、って言われて恥をかくのは俺も避けたい」
「じゃあ、今の威力の強さは努力の結果ということにしておきましょう。私たち二人で潜ってる分、それだけの実力があるんだから当然、という理由付けにもなりますしね」
「そうだな。それのおかげでさらに保管庫を隠し通せるかもしれない。強力なスキル持ちというのを表に出しておくから裏で保管庫を自由に操れることが出来て、そのおかげで温かいシチューがこんな奥地でこんな時間に食べられるし、ミルコも美味しいお菓子を食べられる。誰も損しない素敵な世界だ」
「一部にはバラシてしまいましたけどね。いいんですか、坂野ギルマスは結構口が軽いですよ? 」
「自分の首がかかってるからまあ大丈夫だろうとは思うよ。査定する時に保管庫から出さないんですか? みたいなコメントを求められたりしない内は漏れてないと判断できる」
あの坂野ギルマスは軽い所は軽いが、締める所はきっちり締めてると思う。なのでそこから【保管庫】の事がバレることは無いだろう。むしろ、俺が人前で使ってないかどうか自らを省みるほうが危ないシーンはいくつかあったはずだ。
「しかしあれだな、これは国内だけの情報だから海外の情報を漁ったらまた違う反応が出てくるかもしれない。家に帰ったら翻訳ソフトを噛ませながら調べてみるか」
「さて、昼からどうします? またもう一往復してから二十八層へ行きます? それとも今からもう行っちゃいます? 私はどちらでもいいですよ」
「そうだな……少なくとも査定嬢は査定不能品を持ち込むだけ深い階層に潜ることができる、と知ってしまっている事だし、あえて深い所へ潜ってアイテムを集めてました、と言う事は出来るからどっちでもいいとも言える。とりあえず、三十四層へもう一回行く前に三十六層への階段を見つけるだけ見つけておこうか。さすがに次の階層すらまだ出来上がってない……という訳じゃないんだろう? 」
ミルコのほうを見ると、ミルコはにっこり笑っている。
「次の階層があるかどうかと言われたら答えはイエスだよ。そこは安心してほしい」
「じゃ、階段探して三十四層一往復して……それから時間を見てどうするか考えよう」
「そうしましょう。三十六層を覗いていく、という手もありますしね」
ミルコに手土産を渡すとここでお別れ。こちらは再び探索に向かう。腹も落ち着いたし、ゆっくり三十五層を歩いて次の階段を目指すことにしよう。
◇◆◇◆◇◆◇
変わらぬ風景を横目にしながら高山帯を歩く。完全にハイキングだなこれは。襲ってくるワイバーンもダンジョンウィーゼルもいないので、ネコの子一匹見当たらない寂しい風景だ。
「何もない所を歩く、というのも物悲しくはありますが、風景を見ながら歩けばそう悪くは無いかもしれません……と最初は思っていたのですが、変化が無くて飽きますね」
芽生さんもだいたい同じことを思っていたらしい。
「さすがにな。セーフエリアは七層と二十一層は広めに作られていたから、ここも広いかもしれない……と思ったら階段ここにあるな。階段間三十分ってとこか」
あまりに変わらない風景だったから見逃しそうだった。しかし、予想よりは狭いマップだな。もうちょっと先に長く……いや、奥にもまだ少し行く場所があるな。そういえば三十四層側の階段も同じく、反対側に移動したら少しスペースがあった。階段それぞれの前に広い踊り場がある、というイメージでいいのかな。
「意外とあっさり見つかりましたが、どうします?三十六層覗いていきますか? 」
「そうだな……それぐらいなら問題なさそうだしチラッとお邪魔していくか」
三十六層の中を観察していく。ダンジョンウィーゼルの密度、ワイバーンの割合、色々調べることはある。油断ではないが、決して油断ではないが、今の俺達なら何とか出来るような気がする。
三十六層へ下りると、いきなりダンジョンウィーゼル四匹が現れた。以前みたいにあたふた対応して新品のツナギを消費しないように、落ち着いて前から二匹、全力雷撃で消し飛ばし、残りを一対一とする。すると芽生さんは自分の分をウォーターカッター……もはやカッターってレベルじゃないな。ウォータージェットと言える威力だろう。それでもってダンジョンウィーゼルの首を刎ねて終わらせる。
こっちの分残り一匹を雷切で倒すと、四匹でも問題ない動きは出来そうだと戦力評価。続いて頭の上を飛んでいるワイバーンを雷撃で軽くつつく。どうやら射程距離も伸びたようで、今までは届かなかった位置にいるワイバーンも、その雷撃でこちらに気づかせることが出来るようになったらしい。
ゆっくりに見えるが、確実に距離が狭まってくるワイバーン。一旦こちらの頭の上を取った後、急降下しながらブレスで体当たりしてくる。ブレスを吐こうとした段階でもう一度雷撃、雷撃でブレスが中断される。その間に芽生さんがウォーターカッターで両翼を切り落とす。ワイバーンはブレスもまともに吐けないまま地上へと叩き落された。間髪入れず近寄ると雷切でワイバーンの首を落とし、黒い粒子へ還る。
「一匹なら問題なく。お互い地面へ叩き落とすまでは出来るから、その気になれば同時に二匹来ても対応できそうだな」
「そうですね、切れ味も上がった事ですしダンジョンウィーゼルも一対二で対応できるようになったと思いますよ」
「この調子だとさらに下の階層でも、変な縛りや耐性持ちが出てこない限りは問題なさそうか。だが、とりあえず今日のところはもう少し三十六層に慣れてそれで終わりかな。出来れば三十七層への道まで作りたいところだが……時間的には一時間巡って見て階段が見つからなかったら戻りかな」
「じゃあ行ける所まで行きましょう。今日の査定はポーションだけになりますかね」
「そうなるが、ここまでで四本拾えている。査定の量は少なくても金額は充分ある。手ぶらで帰ることにはならなさそうだ」
◇◆◇◆◇◆◇
道なりに歩きつつ、周囲の安全を確保したらドローン、といういつもの流れで進んできた結果、階段を見つけることが出来た。これで三十七層までは無事にたどり着けるだろう。ただ、モンスターは中々の密度で、ダンジョンウィーゼルは基本三匹たまに四匹、ワイバーンは二匹いる所もある、という風だった。
おかげで三十四層を歩きとおすのと三十六層を歩くのは同じぐらいの密度であることが拾ったドロップ品の量からざっくり算定された。
階段の位置を把握したところでそのまま折り返して帰り、今三十五層に戻ってきた。
「さて、どうするかな。割と中途半端な時間になってしまった。二十八層に上がって二十七層か二十九層でお茶を濁してから帰るか。さすがに査定品がヒールポーションだけというのも寂しい」
「じゃあ二十九層で。トレントに今まで攻撃が効かなかった分どのくらいまで行けるか試してみたいです」
「俺もそうだな。雷撃一発でどこまで消し炭に出来るかは気になる」
三十五層から二十八層にエレベーターで上がり、そのまま二十九層へ。帰り支度を始める時間まで後三十分ほどある。その辺で適当にトレントを見繕ってはスキルの練習としゃれこむ。芽生さんはウォーターカッターで好きなだけ切り刻み、俺は好きなだけ雷撃する。あちこちで巻き添えになったただの木が倒れていく。おかげで階段の周りはちょっとした広場になっていた。
「これだけ使ってもまだ余力がある。いいですねこれ。力に溺れそうな感じです」
「力が強くなった分、鍛えるには一層努力しないといかんな。時間がかかるだろうがまた打ちっぱなしをやってさらに強化していこう」
「贅沢ですねえ。でもさらに強くなれるならやりたいところですねえ」
「周りは大体掃除し終わっただろうし、戻っていつもの打ちっぱなしをやるか。今日からはド派手な奴が見れそうだ」
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