66:準備運動と休息
今更ですが章題付けました。安直ですが。
三層手前で一五分ほど休憩を取った。その間に小寺さんと語り合う。
「四層へ向かわれるんですね。ソードゴブリンの剣、結構切れ味あるそうですから頭に受けないように気を付けてください。多分そのヘルメットだと割られる恐れがあります」
「そういえば更新するの忘れてたんですよねぇ」
「次に潜るときはヘルメットも本格的なものにしたほうが良いです。いくらなんでも中学生の通学ヘルメットでは危ないかと」
「ご忠告痛み入ります。今日は早めに上がって探しに行こうかと思います」
「んじゃ。私も四層にお手伝いに行きますか。パーティープレイのほうが安全率は上がりますから」
「助かります。正直一人で四層回るのはちょっと怖くてしり込みしてたんですよ」
俺は素直に内心を語った。強がっても意味はない。逆に自分の危険度を上げることになる。
「四層へ行く前にゴブリンを一定数狩って、ポーション拾ってから行こうかと思っています」
「安全策としてはそれがいいですね。三層なら私も慣れているので、お手伝いできると思います」
「助かります」
ここまでの自分のドロップをメモに書き残すと、小寺さんとパーティーを組むことにした。
お互いの装備と持ち物を確認したうえで三層へ向かう。三層の階段を降りたところに休憩してる人がいた。顔と名前が一致したことない人なので。多分初顔合わせだろう。
「小寺さんじゃないの。それに潮干狩りおじさんまで」
「どうも、潮干狩りおじさんこと安村です」
「この間のスライム大虐殺は凄かったですね。あの時私動画撮ってたんですよ」
「じゃあ、ネットにあの映像流したのは」
「私ですね。結構再生数稼げましたよ」
「それは何より。で、出演料は頂けるのでしょうか?」
「今日見たら八万再生回ってましたよ。安村さん様様です」
こいつか、動画流したの。これも何かの縁だ、しっかり出演料をふんだくっておこう。
「出演料は出ないんですか?」
「二千円ぐらいでいかがですか。広告収入もそこそこの実入りだったので」
「じゃあそれで。現金持ってます?」
「持ってますよ。ダンジョン内でも現金取引することはあるので」
そういえば大木さんにポーション譲った時も一万円ぐらいは持ち歩いていた。
ドロップアイテムの物々交換も重要だが、現金は裏切らないからな。
「じゃあ、これが出演料という事で」
二千円もらった。やったぜ。
「三層巡りますけど、そちらの予定は?」
「私は三層適当に巡ってきて今休憩中です」
「とりあえずこちらは四層に挑んでみたいかと」
「ソードゴブリンにだけは注意してくださいね」
「念のためポーションのドロップが出てから向かおうと思っています」
「無難ですね。ポーションケチってズタボロにならないように注意したほうがいいですよ」
小西ダンジョンはアットホームな職場です。お互いに情報共有できるのは強みだ。これが清州ダンジョンだとそう上手くいかなかっただろう。人が少ない事による連帯感はそれなりに強い。
動画撮影者さんと別れると、三層を四層に向けて進む。途中小部屋があったので中を確認するとゴブリンが繁殖していた。その場にいたゴブリンは四匹。こっちに気づくと二体同時に向かってくる。
「二体、任せます」
「OK。精々苦戦させてみます」
小寺さんは俺より少し長いロングソードの短い奴というか、とにかく俺よりも少し刃長が長いものを使用していた。このぐらいの長さだと、ゴブリンの棍棒やソードゴブリンより先に攻撃を加えることが出来るとかできないとか。
小寺さんの動きを観察する。ゴブリンに先に攻撃させてスキを作らせ、その間に一太刀二太刀あびせる、といった具合で、危なげない戦い方を見せてくれた後、更に一直線に敵へ向かいそのまま強打。
相手のバランスを崩したところにもう一撃加えて霧散させていた。
動きを真似してみる。残りの二体をこっちで引き受けるつもりで、まず一匹目を思い切りぶっ叩いてひざまずかせる。その間に残りの一匹の眉間にグラディウスを突き立て、抜き放つと最初の一匹目に向けて強打。こっちの威力に押されたところに止めの一撃を与えた。
「お互い似た動きになるもんですね」
「ちょっと参考にさせていただきました」
「お粗末様です」
四匹構成を危なげなく処理し終えた。ドロップは魔結晶のみ。こっちで出たのでこれは俺のものだな。
「幸先いいねぇ」
「ポーション出るまで粘りますか」
「そうしますか」
ポーションが出るまで三層を荒らしまわった。純粋に戦力が二倍になったので戦闘中の危険度も更に下がる事に。一方的虐殺者のエントリーだ。
およそ二時間ほど回り続けた結果、人数分のポーションを手に入れることに成功。魔結晶も二桁手に入った。
ポーションはどちらも俺の成果からのドロップだったが、お互いのためにと一本ずつ持つことにした。使いたくても使えないタイミングがあっては困る、という安全対策からだ。
落ち着いた我々虐殺班は四層への階段へ向かう。道中出てくるゴブリンとグレイウルフはおつまみみたいなものだ、丁寧につまんで差し上げる。
四層への階段にたどり着いて、小休止だ。
「安村さん体力ありますよね」
「そうですか?」
「普通もう少し休憩入れながら狩りますよ。それか、よっぽど集中してたかな」
「集中……はしてるかもしれません。自覚は無いですけどね」
言われてみれば、何時間もぶっ続けで狩りをし続けるのは精神的にも体力的にも結構な重労働だ。後ろを取られないように気を配らなければならないし、戦闘中にモンスターが援軍としてやってくる可能性もゼロではない。
常に安全策を取り続けるというのは一人より二人でやるほうがはるかに楽である。片方が戦っている間にもう片方が牽制、周囲確認、声掛けと分担ができる。
その二人で今まで狩りをしている小寺さんが結構消耗している。もしかしたら俺はペースが早いのかもしれない。
「四層行く前にじっくり休みますか。粉ジュースのみます?それともなんか胃に入れます?」
「じゃあ粉ジュース分けてもらっていいですか?味は何がありますか」
「イチゴ、コーラ、ブルーハワイ、マスカット、桃、グレープ、オレンジ、メロン、パイン」
「じゃあブルーハワイで。ブルーハワイって何味なんですかね」
「ブルーハワイの味だと思いますよ。多分ラムネ系のほうですね、メーカーによって味が違うそうで」
「ものによっては別の味の可能性もあるのか……材料は全部同じなんでしょ?」
「風味以外は同じでしょうねえ。まぁ、選択できるという贅沢はできますから」
「それも気晴らしにはちょうどいいですね」
「全くです」
俺はコーラをチョイスした。ただの天然水では味気が無いが、水分を取るだけならそれでいい。
しかし、疲労感を同時に拭えるなら味付きのほうがお得である。
小袋入りのチョコレートなんかを入れておけばお腹にも優しいかもしれない。メモっとこう。冷凍庫でキンキンに冷やした奴をそのまま保管庫に入れておけば、溶ける心配も無いはずだ。
そのままグッと伸びをして、軽く柔軟をする。体の疲労はまだ大丈夫みたいだ。水分のついでにカロリーも摂取してしまおう。……と、ここで気づく。昼食に買っておいたコンビニ弁当、時間的にまだ温かいはずだ。取り出してバレたりしないだろうか。
こんなところでアツアツのパスタとか食ってたらさすがに怪しまれるぞ。
俺は温かい昼食を断念していつものカロリーバーを取り出す。粉ジュースをもう一袋開けると、それで胃に流し込む。相手が文月さんだったら、半分取られるぐらいで済んだかもしれないのに間が悪いな。
休憩中に現れたゴブリンにすべての怒りをぶつけると、今少しの休憩の時間を取り、休息を終えた。
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