658:実食、ワイバーン肉
ワイバーンの肉。先日三十五層まで潜って帰ってきて、査定不能として戻ってきたドロップ品の中の一つ。そして、過去の類似品の肉とも違う、完全なファンタジー素材と言えるだろう。獣肉も豚肉も牛肉も馬肉もある。だが、ワイバーン肉、という存在は少なくともダンジョンが現れるまでは存在しないジャンルの肉である。
「ワイバーン……いいね、なんかテンション上がる。食べちゃっていいの? それ。後で芽生ちゃん怒ったりしない? 」
「確認取っとくか……いや、その前にまずワイバーン肉をどういう調理するかも考えよう。許可を取るのもその後で出来るし、許可はとったものの調理法思いつかなかったではしょうがないし、スーパーに居る内に決めたいところだ」
「そうね……やっぱり豪快にステーキ……ステーキにしても和風か洋風か悩むし、まずは刺身として食べてみるのがいいかも……あぁ、でも煮物も捨てがたいなあ。赤身が多いの? それとも脂身が多いの? 」
早速レシピを考え出す結衣さん。流石作る側である。
「脂身はそう多くないな。ただ旨味が凝縮しているような気はする。なにより、美味しくないならこんな深いところで取れる肉としては問題だ。美味しく作ってあるに違いない」
「肉が美味しく作ってあるという微妙な表現はさておき、旨味を最大限生かすなら……刺身とステーキと両方行きたいところね」
とりあえず芽生さんに連絡。ワイバーンの肉試食していいかどうか確認を取る。しばらくして返事が届く。
「次までに美味しい食べ方を研究しておくこと」
芽生さんからの連絡を見せ、結衣さんと二人考える。
「割と難題を突き付けられた気がする」
「大きさはどのくらいなの? 一パックいくらぐらい? 」
「それが、階層が深すぎてまだ値段が付けられてないドロップ品らしくて。真中長官には連絡して早めに対応してくれとは伝えてあるから今は待ちの時間だ。ただ、馬肉の査定金額が四千円という微妙な値段な事と、一番美味いと言えるカウ肉が一万五千円。どうやら深さと値段に関連性はないらしいという認識だ。サンプルは送っておいたはずなので、実食されていくらぐらいの価値があるのかが決まるんじゃないかな」
「その値段を決める食事会に参加したいところではあるわね。どんな味付けをされるのか」
「それも含めて今回は色々考えないとな。そう多く手に入ったわけじゃないんだ。貴重な肉、手元に二個しかないので実質この一個で勝負を決めなくてはいけない」
「牛丼みたいにするのも良さそうね。後はローストビーフみたいに外側だけ焼いて内側は熱だけでって奴」
「厚切りか薄切りか……他の肉に比べてサイズがでかいからどっちにしろ食べごたえはあるな」
二人で論議した結果、やはり生で食べてみるのと焼いて食べてみるのを両方味わうということにした。普通の肉なら脂が固まっていまいち美味しくないようになりそうだが、ワイバーンの肉にはそれほど脂は入り込んでいなかったという覚えが有る。この場で出すとややこしい事になるから出さないが、馬肉みたいに生でもいける口ではあると思う。
買い足す調味料なども無く、とりあえず手前味噌ではあるが出来る範囲の加工をしてみて考えるということになった。下手に調味料一杯使ったりするより、シンプルなほうが美味しい可能性だってある。今回はそれに賭けよう。
キャベツとそれ以外の食べ物を見繕い、結衣さんのおやつを買い、ミルコ用のお菓子を買い足し……ほとんどおやつになったな。とりあえずいいか。支払いを済ませると家に帰る前にたい焼きを買い、食べながら帰り路に着く。
◇◆◇◆◇◆◇
家に着いたら早速調理開始だ。今日は結衣さんという調理助手も居る。色々考えて楽しい夕食を取ることにしよう。台所に二人並んで調理を開始する。結衣さんには服を汚すとまずいので俺のエプロンをつけてもらった。これが彼エプロン……と感動していたがそんなジャンルもあるんだな。
「まずはこちらが本日のメインディッシュ、ワイバーンの肉になりまーす」
「わーい、って確かに大きいわね。他の肉の倍ぐらいの大きさがある」
「そうなんだ、なのでとりあえずワイバーン刺しと行きましょう。はい、口開けて」
筋を避けて薄切りにした生のままのワイバーン肉をあーんして結衣さんに食べさせる。決して毒見役ではない。
「はい……んー、生なのに美味しい。でもなんだろう、醤油が要らない刺身みたいな、不思議な食感と味ですね」
「どれどれ……たしかに、予想通り旨味が強いな。ただ、他の肉と食感が違うのは確かだ。なんと例えたらいいんだろう? 思い浮かばない。脂身もほとんどないのにほのかに脂の甘味も感じられる」
ファンタジー肉は食感も味もファンタジーらしい。なんか不思議な味だ。
「んー……とりあえず薄切りのまま焼いてみるか。焼いてみて、味を確かめて、足りない要素を足してみよう」
「了解、要は焼肉ね。いつもならここに塩コショウか焼肉のたれをぶち込む所ですが本日は素材の味をそのまま生かして……焼けた」
流石薄切り肉、焼けるのも早い。俺の薄切り肉を作る技術も向上したということか。
「じゃあ早速……うん、うん……うん? 」
「どうしたの? 味気ないとか? 」
「いや、美味しい、美味しいんだけど……ちょっと塩コショウを一つまみ」
何か至らぬ点があったか、もしくは焼くと旨味が逃げてしまうとかだろうか。
「うん、これは塩コショウが欲しい。有ればグッとくる」
「どれどれ、俺も食べてみるか」
試しに何も付けずに一口。旨味は逃げてない。焼いたことで香ばしさが更に加わって口の中に広がっていく。ただ、生に比べてちょっと物足りない感じはする。
「生のほうが軽く焼いたものより美味しく感じるな」
「なんか不思議……濃い味付けにしてみればより凝縮されるかも? 」
「と、すると……が焼肉のたれは濃すぎるな。やはり醤油から順番に行ってみるか。醤油、甘くない味噌、それから……」
「マヨとかどうでしょう。マヨマヨ」
「肉ならマヨよりもオーロラソースかタルタルで行きたいな。タルタルはチューブのがあるからそれを使おう。後は筋の入ったところがあるから、筋切りしてそこはステーキにしてみよう」
二人で色々試行錯誤をしてみる。普段は一人であれこれ悩んでいるので、それを二人でやると思わぬ方向から意見が飛んでくるので結構楽しい。こういう時間も良いな。食べ専の芽生さんとは……と、他の女性の事を考えるのは失礼だな。今は美味しく食べられる方法に集中しよう。
◇◆◇◆◇◆◇
色々試行錯誤を重ねた結果。
「えー、では結果発表です。ワイバーンの肉は唐揚げが美味しいということになりました」
「わー、パチパチパチ。手間はかかるけど確かに美味しかった」
ワイバーンの肉は筋切りしてステーキにするか、下味付けして唐揚げにするかの二大対決になった。タルタルソースがどちらにも合うということで中々伯仲したバトルになったが、どちらがより料理らしいかという点で唐揚げに軍配が上がった。
このわずかに残る筋っぽさが無ければステーキも悪くはなかった。そして、ワイバーンの肉の特徴というか、焼いたときの微妙な味加減の不安さの正体も解った。ワイバーンの肉は他の肉に比べて水っ気がなく、良く言えば身がしまっている。悪く言えば身が固い。
これはジューシーな肉を作るために塩水につけこんだりして柔らかくして筋肉繊維を破壊させてから調理にかかるべき一品だということに気づいてからの反応は早かった。
そう考えて塩水に入れて二時間、保管庫使って一分ちょいほど放置する事で水分が適度に入り込み、それから塩抜きして焼いたステーキは非常に美味だった。しかし、ダンジョン飯としては手間がかかりすぎる。その点で言えばダンジョン奥で油を使った料理が出来るか? というところでは唐揚げもステーキも同じであり、美味しく食べるべき方法としてはどちらも悪くはなかったんじゃないかと思っている。
「さて、肉のリクエストは? 全部あるけど」
保管庫からドサドサと肉を出して行く。これは全部秘密会談の打ち上げの残り物だ。つまり私的に使ってしまってもいい奴。ダンジョンでいずれ食べる肉だ、時間経過は遅いので勿論新鮮そのもの。
「売るほどあるね」
「売らなかった分なんだけどね。さすがにワイバーン肉だけではお腹もすいたし、軽く野菜炒めでも作ろうか」
「あ、じゃあ今度は私が作りまーす。調味料とか借りるね」
そういうと結衣さんはボア肉を選び、野菜を刻んで早速調理にかかった。調理を横目に見ながらお茶を飲んでじっと待つ。こういうのも、なんかいいな。幸せな感じがする。
数分待って出来上がった野菜炒めは結衣スペシャルとでも言うのだろうか。俺のやらない味付けをやっていて新鮮だった。勿論美味しい。
「これが新浜パーティーの味付けか。覚えておこう」
「いいもんでしょ? 食べさせがいがあるからうれしいわ」
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