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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第九章:ネタバレ

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655:テーラー橘

スキルはダンジョン内では十全に使えるけど、ダンジョンから出ると使い勝手が途端に悪くなる……という設定自体は特に変更を入れてないです。

単にスキルの扱いが上手くなって地上でもそれなりに扱う事が出来るようになったのと、多重化させた影響で地上で出来ることが増えた、という内容に対する描写不足ですね。

混乱させてしまって申し訳ないです。

 鬼ころし近くの喫茶店で昼食を取ることにした。昼食兼、次の目的地への事前確認予約みたいなものだ。もし今日がダメだったら昼食食べて解散、後日ということになる。


「しかし、フルオーダーするほどの理由が見つからないような気がします。パターンオーダーでも良いのでは? 」


 小倉サンドとクリームソーダというコテコテのおやつに見える昼食を取りながら芽生さんが確認する。具体的には値段を気にしているようだ。パターンオーダーでも素材の都合上百万から上は解らず、ということになっている。これがフルオーダーだと底値が二百万ぐらいになるんだろうか。


「体にぴったり合うサイズの物が一番良いのは確実だ。体のラインがしっかり出て、着こなしてる感が出る。芽生さんは中々良い体をしているから、強調するにも逆に落ち着いて見せるにも、フルオーダーのほうがいいとは思うけどな」


 対して俺はナポリタンにアイスコーヒー。こちらも中々に喫茶店のお決まりメニューという感じだ。


「目線がやらしい気がします。最近少しスケベですよ」

「その目線を隠すためにも、ちゃんと体に合わせてしまう事が必要だと思うよ。下のボタンのサイズがギリギリで胸が強調される事もあるし、逆にぶかぶか過ぎたら太って見えるかもしれない。体のラインに合わせるってのは、どっちにもならない上に動きに制限が無いような形で作っていくということだろうからな。しかも、今回訪問してみる予定のところは探索者向けスーツというのを理解した上で作りますよーと旗を振ってくれているんだから、体の動かし方なんかにも対応した激しい運動用のスーツ、という所を的確に攻めて来てくれるだろうさ」

「ううん……そう言われると納得してしまいそうになります。既に業者から袖の下をもらってたりしません? 」


 芽生さんが俺の説得に対して不満げである。まだもらってないよ。


「一応就活生を長年眺めてきた立場からすれば、吊るしのスーツとオーダーのスーツって、もう見た目からして違うんだよ。肩・胸周り・腰周り・尻のライン辺りが特に顕著かな。俺が居た会社では吊るし以外のスーツを着てくる就職希望者なんてめったに居ないが、親が奮発させてセミオーダーのスーツなんかを着せたりする場合がある。そうなるともうスーツの段階で印象が決まると言っていい。就活用にはまだ早いかもしれんが、体型を崩すような理由がない限りは今の形で持っておいたほうがいいよ。それに、いざとなった場合の調整方法もあるしな」


 俺もフルオーダーで作って貰う場合でもズボンのアジャスターはつけてもらおうと心に決めている。そうしないと油断してすぐにサイズが戻ってしまいそうになるからだ。かといって、ここから劇的に体型が変化するとも思えない。


「オーダーメイドって結構時間かかるから、その間の繋ぎのツナギは手に入れた事だし、こうなったらフルオーダーで……と俺は思っているんだけど、その辺はどうなの」

「詳しく説明聞いてからでいいかなって。多分、オーダーするなら途中で着あわせしたり微調整したり、何回か店に行く事になりますよね」

「まあ、そうなるだろうね。その分のお値段と手間暇かけてもらう訳だし」

「時間がねー……うーん、でもまあ丸一日潰して微調整するって事もなさそうですし、一度は体験しておいて損はないってところですか」

「体験は出来るなら若いうちに、買い物は金があるうちに。年取ってからだと感動も薄れると思うぞ」

「じゃあ……試してみますか、フルオーダースーツ。スリーシーズンスーツになるんですかね」

「多分ね。夏は暑くてやってられないとは思うが他の季節は結構快適でいられると思うよ。まあ詳しい事は実際に聞いてみて……ってところじゃないかな」


 食事を終えると早速鬼ころしで教えてもらった番号に電話。丁寧な電話口で対応をされた後、店の詳しい場所を教えてもらう。どうやら今日は予定や予約が入っていないそうなので、こちらが到着次第詳しい話をしてもらえる、ということになった。


「予約なしで通してもらえるのはついてるな。早速行こうか」

「なんかドキドキしますね。一品物ですよ、オートクチュールですよ。適当に店に並べられてて号数と見た目で選ぶわけじゃないんですよ」

「心配しなくても向こうもプロだ。安心して身を任せるといい。途中で再採寸する場合もあるし、最終的に体に合ってればそれで良いんだ。今日はお互い顔の見せあいで終わるかもしれないし、向こうの手が空いてるなら早速採寸となるかもしれないが、行ってみて感想を素直に知らせて、それからでもいいんだ。向こうもそれが商売なんだからきっと伝わるはずだ」

「よ、よし。行きましょうか」


 会計を済ませてテーラーへ向かう。清州から名駅方面へ車を走らせ、いよいよ交通危険地帯を突破する事になる。小西ダンジョンの十層みたいなもんだな。岐阜・三重・愛知各ナンバーがそれぞれ思い思いの交通ルールで走り回る。だがこの時間帯は仕事で走っている車が多いのでまだ余裕がある。危険なのは通勤退勤ラッシュと休日だ。今日はどちらでもないので比較的安全率は高い。


 が、バックミラー越しに交差点内で進路変更をする車を見かけることで一気に緊張度が高まる。これが次に俺を追い抜こうとしたら一悶着有るに違いない。そんなスリルあるドライブを楽しみながら、電話をかけたテーラーに到着した。名古屋駅前はそこそこの駐車料金を取られるが、これからやる商談に比べたらしょうも無い金額だ。気にせず払っていこう。


 大通りから一本路地に入った、名古屋の駅前という主張からは少し外れた、交通量のわりに静かな通り沿いにその店はあった。どうやらかなりの老舗らしいが、どんな環境でも着れるスーツというのが開業以来の方針らしく、新しい生地や素材、製法が有れば試しにやってみて、上手くいけば商売のタネとして活用していく。古さにとらわれない開明的な店、という口コミを食事中に店について調べている間に見かけた。


 紳士服でございます、という佇まいを失わない程度に整然とした店構えに小さく幟で「ご相談だけでも承ります」と出来るだけ雰囲気を纏いつつ、でもフランクに応対しますよ、ということを見せつけている。早速店に入ると、整然と並べられた生地や小物がまず目に入る。こういう所にも気を配るのが真のおしゃれさんということだろうか。


「なんか緊張しますね」

「立派な店だな。もうちょっと着飾ってくるべきだったかな」

「いえいえ、これから着飾っていただくのですから今の装いが劣っているとかみすぼらしいとか、そういう事を考えていただく必要はございませんよ」


 気が付くと背後に店員が居た。いつの間に……こやつできるな。


「おお⁉ 失礼、先ほど連絡させていただいたものですが」

「安村様ですね。お電話の後のご来店ありがとうございます。おかげでこちらも店を綺麗にしておく用意が整えられました」


 若干お年を召した外見だが、それを感じさせないのは佇まいゆえか、それともきちりと整えられた正装のおかげか。敵意や悪意を感じず、優しく受け止めるような出迎えにこちらも委縮するではなく、安心してそのまま話を進められるように感じる。これもサービス精神ということだろうか。


「まずは、スーツを作る目的、からお聞きしてもよろしいですか。実際に作り始める前に少しお話を致しましょう、それでイメージが固まる事も多々ありますので」


 そう言われ、そのまま二人とも質の良いソファーに誘導される。無理やりではなく、ごく自然にそういう方向へもっていくスキル的なものを持っているんだろう。まずは話から、それから盛り上がったところでスーツを作る目的、用途、それらをまとめていくんだろう。


「まずは……当店にご連絡、ご来訪いただきありがとうございます。私、接客を担当させていただきます橘と申します。名刺はこちらに、どうぞお持ちください」

「ご丁寧にありがとうございます。こちらからも名刺をお渡しするのが礼儀正しい所ではあるのでしょうが、あいにく名刺を持ち歩くような職業をしてませんもので」

「いえいえ、そういうお客様もいらっしゃいますのでお気になさらず。……まだお連れ様は緊張していらっしゃるようですが」

「ああいえ、あの。こういったその落ち着いた雰囲気のお店に来るのが初めてなのでちょっと」


 芽生さんが慌てふためいている。こういう店に入り浸っている大学生というのも珍しいだろうから不思議ではない。


「少し世間話でもしませんか。どこで当店をお知りになったとか、ご予算のお話ですとか、色々です」

作者からのお願い


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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 安村氏の背後をとる橘氏は何物?! [一言] アジャスターは大事!絶対!! (*´∀`)
[気になる点] はたから見たらカップルよりも、浮気中の男女になりかねない年齢差だし、その聞き方は無いと思う 特に高級店なら
[一言] 「少し世間話でもしませんか。例えば……お二人のご関係とか、どこで当店をお知りになったとか、色々です」 2人の関係?服を買いに来て、店の人から尋ねられる話題としてふさわしいとは思えない。とて…
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