650:いざ三十五層へ 8/8
ワイバーンとダンジョンウィーゼルの出現率は以前一対九ぐらいか? と戦力分析をする時に見た動画内で目算をつけていたが、流石小西ダンジョンというべきか、ワイバーンはもうちょい湧きやすいようで、ここまでの比率を考えると二対八ぐらいじゃないだろうか。もしかしたら次の階層へ行けば三対七になっているかもしれない。難易度にある程度の定評がある小西ダンジョンだ、そのぐらいは覚悟しておこう。
ただ戦い方を考えると、ワイバーンが増えてくれた方がこちらは楽が出来るので、ワイバーンが多いほうが難易度が上昇しているとはいいがたい。百聞は一見に如かずとでもいうのだろうか。
今のところダンジョンウィーゼルのほうが素早く、小ぶりで正確な攻撃をしてくる。ワイバーンは逆に大振りで重たい攻撃をしてくる。ワイバーンのほうが落ち着いて対処できるし、雷撃を長時間当てて居ればその内蒸発してくれるので楽。
逆にダンジョンウィーゼルは雷撃を当てている間にも近寄ってくるので、単発で二発繰り返した後どうにかこうにかする、というイメージだ。なんとかなれーっ! って叫んで何とかなるのはワイバーンのほうなので、やはりワイバーンが多いほうが稼ぎがいもあるような気がしてくる。
三十四層も結構歩いてきたしワイバーンもダンジョンウィーゼルも数をこなしてきた。一発こそ受けたものの、その後はうまく型にはめてあしらえている事からもそうだろう。そもそもこのマップに踏み入って二時間と経っていないのだ、上手く戦えなくて当然ではなかろうか。
そんな考えをよそにダンジョンウィーゼルが索敵内に発生したらしい。索敵範囲が広い芽生さんのほうが先に反応し、そっちに向く。芽生さんが指で三を示している。崖下から先頭を駆け登ってくる一匹は登り切ったところで雷撃二発同時発射の着弾で足止めをし、その間に二人が一対一。これが理想形の戦闘だ。今回はうまくハマった。
ダンジョンウィーゼルは結構ヒールポーションをくれるので、魔結晶の価格はさておき結構な収入にはなってくれている。有り難い事だ。これでまた査定の楽しみが増える。ワイバーンはまだ数を狩ってないので詳しくまでは言えないが、それぞれの品目でドロップ率三分の一ぐらいでどれかのアイテムが落ちる。運が良ければ全部、悪ければ魔結晶だけ。数が少ないので倒すたびに一喜一憂するというイベントが発生するものの、おおむね悪くはないんじゃないかなあと思えるところである。
周囲のワイバーンを警戒して、ドローンで確認するがいつもの範囲には居ない事を確かめる。その後ドローンを飛ばし、ドローンの視界内をまた探り始めると、階段が見えて来た。こっちもきれいに崖に埋まっている。
「みえた、アレが目指すべき階段だ」
「やっとなのかようやくなのか、意外と早くたどり着けたのか。色々思う所はありますがあそこで一区切りですか」
「到着するまでが探索だ、より気を引き締めていこう。ダンジョンウィーゼルもワイバーンも見えて……あ、やべ」
反応範囲外だと思っていたワイバーンにドローンが気づかれたらしく、ワイバーンがドローンのほうへ寄っていく。急いで回避行動を取ろうとするが、ワイバーンも中々の速さで追いついてくる。そしてそのままワイバーンがブレスを発射し……ドローンは崖の下に墜落していった。さようならドローン。君の勇姿は忘れない。
二人そろってドローンの落ちていった先に敬礼する。損害は出た。高い損害ではないが、思い入れのあるアイテムが失われた事に違いない。思えば十七層からチョコチョコとお世話になっていた。次はもうちょっと……いや、モンスターに襲われたら同じだな。耐久力や高性能を考えず、使いまわしの良さとお値段で相談して新しいドローンを見繕おう。
視界を奪われたデメリットを背負ったものの、目指す目標である階段のおおよその位置は判明している。君は最後まで仕事をしてくれたな。どうもありがとう。
お別れを済ませたところでさっきのワイバーンがこちらに向かってきている。弔い合戦をせねばなるまい。ワイバーンがブレスを吐くもこちらは回避態勢バッチリ。ワイバーンはそのまま旋回して離れようとしているが、その前に俺の雷撃が着弾し片翼を焦がす。続いて芽生さんのウォーターカッターが逆側の翼を切り裂き、ワイバーンはそのまま地面に滑り込むように落ちる。
落ちたらこっちのもの、全力で雷撃を放ちドローンの仇! という気合を入れながら雷撃を浴びせ続け、芽生さんもウォーターカッターを乱舞する。ワイバーンはそのまま黒い粒子に還っていき、魔結晶と肉と爪を落とす。この魔結晶で新しいドローンは買えるだろうか。だとしたら肉と爪の分だけお得な戦闘だったな。
「惜しいドローンを無くしましたね……」
「次のドローンはうまくやってくれるだろう。悲しみを乗り越えていくぞ」
悲しみを背にドローンが命を懸けて教えてくれた方向に向けて進む。と言っても一本道なので行き先はどうせ同じ。違うのは後何分ぐらい進めばたどり着くだろうかという予想がつくことだ。終わりの予感がひしひしと近づいている。だがそういう時こそ危ない。
ダンジョンウィーゼルの強襲を打ち払い、ワイバーンを叩き落しながら進む。三十分ほど進んだところで先ほどドローンが示した階段のところまでたどり着くことが出来た。
「ここが旅の終着点か。思えば遠くに来たもんだ」
「遠いのは二十九層と三十一層だったような気がします」
「そんな気もするな。でもここも割と長かったぞ? 一時間半ぐらい歩いてる」
「緊張してたんで時間までは計ってなかったですね。そんなに経ってましたか」
「久しぶりにボロボロにされた気もする。二人そろって被弾したのは初めてじゃないか? 」
「かもしれません。ゴブリンキング戦では私でしたし、エルダートレント戦では洋一さんでしたし、後は……私たち割と防具に力を入れてないですね、もっとこれからは防御力にも力を入れていくべきでは」
「そうだな、今後を考えるとやはりお高い装備をそろえていくか」
二人そろって袖がボロボロだし俺は負傷もした。いや、これだけ深く潜ってもこの程度で済んで良かったと思うべきだろうな。他の探索者がどうしているかはさっぱりわからないが、ここで一つ装備をそろえなおす、というのは悪くない選択肢だろう。
「ここで休憩しててもしょうがない。三十五層に下りてゆっくりしよう」
階段を下りる。三十五層の領域に入った瞬間、風が止んだ。セーフエリアでは風は吹かないのか、それとも位置的な問題か。階段を下り切ってみたが、風が吹きなおす様子はない。どうやら風は吹いてないようだ。違和感を覚えるが、同時に安心感もある。ここでは風に飛ばされる心配はないらしい。
テントもそのまま立てて放置できるし、机もノートも置ける。非常用の水と、気分的に念のための酸素ボンベも放置できる。結局ボンベの出番はほぼ無かったな。せっかくなのでここに置いていくか。
とりあえず、見渡した限りセーフエリアで間違いないようだ。三十五層だけ実はセーフエリアじゃありませんでした! 崖下見ればダンジョンウィーゼルは居るしワイバーンも居ます、残念! ということはないらしい。他のダンジョンで潜っている人たちも、ここまでは来れているという認識で良いだろう。つまり、最深層に並んだ、と見ていい。
ここまでエレベーターも使わず来るのは大変だろう。自分ならとてもじゃないが……いや、保管庫あるからなんとかなっている訳であって、保管庫が無ければ途中のドロップ品は各セーフエリアの拠点に置き去って次へ次へと行くしかない。それを運び出して上まで戻る……その苦労を考えたら何とも楽な事か。
今後は小西ダンジョンでも下層まで徐々に……たとえば二十八層までだれでも潜れるようになるかもしれない。その一歩を踏み出したという感覚はここに立ったものしか味わえない気持ちよさなんだろう。とりあえず……ミルコを呼ぶ前にエレベーターに良さそうな解りやすい壁を探すか。
現在時刻は午後五時。一層に戻って六時という所だろうか。あぁ、二十八層に戻ってリヤカーを引いてくる作業もあるな。あんまり時間がないぞ。
「うーん……ここは三十四層の近くにエレベーター設置をお願いするのが早いかな。ここより先に行くのはしばらく自分達だけだろうし、そこそこの広さもある。とりあえずミルコを呼ぶか」
「その心配はご無用だよ。もう来てるから」
「おおう、早いな」
どうやらきっちり見ていたらしい。ミルコの登場は早かった。
「解りやすいので階段からあんまり離れてない……この辺でよろしく」
「解った。早速作業を始めるからしばし待ってね。後、ここは風が吹かないようにしたほうが便利だと思ったから風が吹かないようにしてあるから、安心してテントを立てると良いよ」
「至れり尽くせりだな。エレベーターから少し離れて設置するか。エレベーターが出来たら机と水と酸素ボンベの全部を置いていこう」
ミルコが後ろで作業している間に十四層で使っていたテントを丸ごと召喚し、早速テントの中を整備する。芽生さんの分のテントも出して二人でごそごそと作業を始める。と言ってもエアマットの設置ぐらいしかない。ここは高山のわりにそう寒くない。十四層みたいに寝袋とシュラフが必要という訳ではないようだ。念のため寝袋だけは置いておいたほうがいいのかな。
エレベーターがある階層でもあることだしもし四十二層があるなら四十二層から取りに来てそれからでもいいな。
しばらく待っていると、ミルコから出来たよーという反応。ゴブリンキングの角をもって確認すると、いつものエレベーターがそこに口を開いている。時間的には割とギリギリになったな。
「さて、ミルコには悪いがダンジョンの閉場時間が迫っているんだ。とりあえずいつもの奴を……はい、これは三十五層に設置してくれたお礼ということで」
保管庫に入っているお菓子を渡す。ミルコは笑顔でお菓子を受け取る。もちろんコーラも入っているぞ。両手いっぱいにお菓子を抱えたミルコはとてもうれしそうだ。今度は和のスイーツでも仕入れて持ってくるか。アイスバッグに入れておけば冷えたままで手渡すことも出来そうだ。
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