641:次マップの戦力分析
まずまっすぐ家まで帰って、それから買い出しに出かける。芽生さんにそう伝え、バスと電車で我が家へ。それから車を出していつものホームセンターまで出かけた。
ホームセンターに着くと、毎度おなじみアウトドア関連のコーナーへ行く。芽生さんもトコトコついてきた。どうやら今回は興味を引くようなものはあまりないらしい。
「三十五層用のテントですか? 」
「いや、十四層から撤収したテントが有るのでそれは今回は買わない。今回は……これだ」
手に取り見せたのは手持ち型の酸素ボンベ。念のため六本ぐらい買い込んでおく。
「本当に高山帯マップなら酸欠になる可能性も考えておかないとな。必要ないなら必要ないで放り込んでおけばいいし、ただ実際に行って高山病を引き起こす場合だって考えられるからそこにだけは注意を払っておいても良いと思って。後ついでに隣のスーパーで食材の買い出しもする」
酸素ボンベ六缶セットで六千円。まあこんなものか。さすがに常時使いながら行くものでもないから、六缶あれば足りるだろうと思う。足りなかった場合は……どうしよう、念のためもう六缶買っておいたほうが良いか? 経費で落ちるから問題が無いと言えば無いし、財布から小遣い絞り出して買うというほど金には困ってない。というか金には全く困ってない。どう使って行けばいいか悩むぐらいだ。
ここは六缶セット一つだけでいいか。本当に必要になった時に買い足せばいいからな。あくまでこれは予備の予備。必要がないならそのまま保管庫の肥やしだ、率先して肥料を増やす必要もないだろう。他に買うものは……最近ダンジョン内で煮炊きをしないのでコンロのカセットボンベもそれほど消耗してない。
後はパイプ椅子と机、それからノートにボールペンに……いわゆる事務用品入れ。これは三十五層用の書き込みノートセットである。合計経費が二万二千円ほどかかったが、トレントを一体倒せばそれで元手は返ってくる。気にせずに行こう。
続いてスーパーへ。ほんのちょっとの距離だけ車を移動させるのは面倒くさいなあと思いつつも、隣の敷地の二百メートル先まで車を転がす。その間に芽生さんには酸素ボンベの包装をはがしてもらっている。はがれた先から保管庫へ一つ一つ入れていく。
全部はがし終わったところでスーパーへ入る。スーパーの現金自動預け払い機コーナーで通帳の記入。三億を超えていた。もはやこの先はいくらになっても驚かない気がしてきた。今年一年で二億稼げればいいや程度に考えていたのに、すでに半年足らずで三億。つまり、もっと稼げるということだ。おおよそ四割を自由に使えると考えても一億二千万。これだけあればダンジョン近くに居を構えることも全く不可能ではないだろう。
今のところ実家を出るという選択肢は俺にはない。生活リズムの崩れはきっとダンジョン探索にも影響してくるだろうし、慣れない家や部屋で不都合を生じるぐらいなら多少遠くても確実にリズムを整えられる四十一年の間過ごし続けた実家の方がいい。よほどのことが無い限りは毎日ダンジョンへ自宅から通おう。
さて、今日の昼食、夕食と明日の昼食、夕食の分のレシピを考えなければいけない。二日連続シチューもの、というのは避けたいからな。スーパーに入ってすぐにあるいつもの店舗の横を通り……お好み焼き、いいな。今日の昼食はこれにしよう。
「お昼食べてくでしょ? 入口でお好み焼き買って帰るけど」
「いいですね、お好み焼き。最近ご無沙汰です」
今日の昼食は決まった。後三種類なににしようかな。まず必ず買うものとしてキャベツを二玉と食パンと卵、それからパックライスを箱で買うと、こまごまとした野菜を補充していく。芽生さんがお菓子を取って戻ってきた。許す。ドリンク類は……うん、まだ色々あるな、ドリンクは良いや。後はスーパーでしか売ってない系のお菓子を買って、捧げもの用として用意しておく。
メインディッシュがなかなか決まらない。ここは一つ、巻かないロールキャベツと行くか。トマトを買うとコンソメの顆粒が家に無かったことを思い出しそれも買う。後はミンチを買って……わざわざ大量に作らないのにミンチマシンを使う必要も無いだろう。買うときは素直に買う。トマトとキャベツとミンチ肉にコンソメと塩だけのシンプルな一品、これを夕食に回そう。これで二品。また芽生さんがお菓子を取ってきた。許す。
明日の昼食と夕食はなににするか……三十三層三十四層とどのぐらいの広さが有るか解らない上に、三十五層のエレベーター設置やらミルコとの会話なんかで帰り時間に間に合わない可能性を考えておいたほうが良いからな。
さて二品、世の中の主婦の苦労がしのばれる。今ぱっとこれが食いてえ! と思うものがあればその材料を集めればいいんだが、一泊明けの頭のせいなのかぼんやりともやがかかっていて強烈にこれが食べたいと思えるようなものが無い。そんな時に役立つのが外付けの脳みそこと芽生さんだ。
「何食べたい? リクエストに出来るだけお応えする」
「そうですねえ……なんでもいいと答えるのは一番困るでしょうし、ここは肉系を攻めたいですね。明日のお昼の話、で合ってますよね? 」
ちゃんと外付け脳みそは働いてくれた。昼食、夕食共にリクエストにこたえる形となったので、その材料を探して見つけて買い物して、更におやつも余分に買ったりなんかして会計を済ませる。
家に戻ると冷やすものは冷やして、少し早めの昼食としてお好み焼きを味わう。やはりソースの香りが食欲を掻き立てるな。上昇気流の発生による鰹節のダンスは割といつまででも見ていられるので目も楽しませてくれる。はふはふと出来立ての熱さを楽しみつつ、ひそやかな昼食は終わりを告げた。
さて、三十三層以降のマップの検証の続きだ。動画を見る限りダンジョンウィーゼルは体格に似合わずかなりのスピードを有している事が解っている。動画の再生時間をゆっくりにしてみながら、自分たちの動きの早さと比べてどのぐらいの物か、について話す。
「この速さなら目で追えるのは確実です。攻撃パターンもひっかき、噛みつき、【風魔法】の三種類ですから、どういう動作をしてきた時にどの攻撃が来るかを事前に予測できればいいんですが……? 」
「【風魔法】を使うときは一瞬溜め動作に入るみたいだ。その際左右に大きく体を振れば回避できそうじゃない? 」
「避けた先でこっちが加速すれば相手はしばらく動けないようですから、そこが一つ攻撃チャンスですね」
「ひっかきや噛みつきは動作を見てから動くのでも遅くなさそうだな。こいつは場当たり的な行動でもなんとかなりそうだな」
ダンジョンウィーゼルはそれほど大きく脅威になりそうな動きはしそうにない、というあたりで意見の一致を見た。後は同時に何体出てくるかだろうが、動画を見る限り基本一匹、多くて三匹、という所らしい。
「小西ダンジョンの難易度を考えると二匹出てくるのが普通、と認識して良さそうだ。一対一には持ち込めるな」
「三匹出てきたら残り一匹が同時に向かってくることになりますがその時はどうします? 」
「その時はいつも通り雷撃で痺れさせるのが定石だが、上手くかかってくれるかどうかはやってみないとどうもわからないな」
「これも戦ってみないと解りませんね。もしかしたら後ろから【風魔法】繰り出してくる専門になるかもしれませんしね。このシーンもそうです。後ろの一匹が【風魔法】を打ち出してきています」
動画撮影者も含め四人パーティーがダンジョウィーゼル三匹と戦っているシーンが映し出されている。二体に対して二人が前衛として前に出て戦っているが、控えているダンジョンウィーゼルが後ろから【風魔法】で支援しているのが見える。
「イタチって集団行動する生き物だったかなぁ? イメージだと一匹狼って感じだが」
「そこはダンジョンの不思議ということにしておけばいいのでは」
またダンジョンの不思議が増えてしまったのか。いや、この場合不思議というよりモンスターの生態としてはおかしくは無いと思う。バトルゴートだって本来ならもっと群れてても良いはずだからな。ダンジョンの不思議には入れないでおこう。モンスターリポップの都合とかそういう事にしておけばこれ以上増えずに済むな。
「で、問題のワイバーンだが……とりあえず攻撃が届かない、という可能性は無さそうだな」
「的が大きいですし、高機動飛行って感じでもないですねえ」
目算で百メートルぐらいの距離に四メートルの飛行物体。的は小さくは無いし、射程距離もそう遠すぎない。こっちの手持ちのスキルでも届かない訳じゃない。
「空中からブレスを吐かれるぐらいならスキルで叩き落して飛べなくしてから格闘戦を挑むほうが難易度は易しそうにもみえるが、地上でブレス吐かれた時が問題かな」
「その後どうするかですねえ。ひたすらスキルを叩きこんでみるか、近接して噛みつきや爪のひっかきを避けたり翼の弾き飛ばしをどう避けていくか……あ、翼に当てられて吹っ飛んでますよ」
「ダメージはそんなに無さそうだな。……と、ブレス来るぞ」
地面に引きずりおろされたワイバーンがブレスを吐く。空中からのブレスに比べて地上からのブレスのほうが当たり判定が大きいのか、大きく回避して、腕で体をカバーしながら避けている。薙ぎ払い系のブレスはサッと避けてその間に近寄る、ということは難しそうだ。
ブレスの継続時間は……およそ十秒。十秒間逃げ切った後、ブレスを終息させて数秒ワイバーンの動きが止まる。近寄るならこのタイミングだな。
「ブレスを打った後溜めではないけど残心みたいなタイミングがあるな。この隙に攻撃をするのが良いらしい。もしかしたらもっとベターな方法が有るかもしれないが、それは戦っていくうちに学習していこう」
動画内ではこのブレスのスキにいくつかのスキルを……【水魔法】や【風魔法】、【火魔法】等を打ち込んでいるが、【水魔法】の切断属性にあたるような攻撃はよく効くらしい。その後両翼を刎ね落とし、地面に完全に叩き落した後、リンチにしてワイバーンを倒している。耐久力から察するに、ワイバーンはゴブリンキングといい勝負が出来るぐらいの実力があるんじゃないだろうか。大量の雑魚の代わりに翼とブレスがある、ぐらいの気持ちで挑めばいいだろう。
昼食のお好み焼きを食べながら、ワイバーンのドロップについても調べる。特に肉だ。獣とも鳥とも豚とも牛とも違う、一般流通はもとよりそもそも存在自体がファンタジーであるワイバーンの肉。いったいどれほどの味わいを見せてくれるのか。お好み焼きのワイバーン玉、なんてのもありだろう。鱗や爪も気にはなるが、やはり肉。肉はすべてを解決する。
昼食の後二人でダラダラと過ごし、軽くお昼寝をしたところで芽生さんは満足して帰って行った。さて、パソコンとドローンのバッテリーを充電して、一泊分の片づけをして、枕と布団を軽く外で叩いた後寝床に再設置。洗い物と夕食の準備を済ませたら後はもう寝るだけとなってしまった。眠るまで時間はある。スレでも見て過ごすか。明日の昼食夕食は何にしますかね……
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