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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第一章:四十代から入れるダンジョン

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64:清州ダンジョン 3/3

 敵は来ぬ黒い粒子はダンジョンに降りしきぬ道踏み分けても人ばかり。そもそも黒い粒子は虚空の彼方へ消えてしまっているから踏み分けるも何もないのだが。


 気持ちを新たにしたことで多少気は楽になった。しかし相変わらず人が多い。やはり三層あたりが一番よく稼げるのか、それとも装備をそろえなくともなんとかなる採算ラインなのか、ゴブリンはみんなに好かれているようだ。人気者はいいなぁ、俺もゴブリンに人気になりたいなぁ。


 清州に人が多いんじゃなくて小西が少なすぎるのでは?と疑問を投げかけても一人。たまに出会うゴブリンに訊ねても返事は「ギギッ?」と、要領を得ない。返事が無いのでオヌシはコロス。


 漸くありつけた魔結晶という生活費にホッと胸を撫でおろすと、また一歩ずつ歩みを進める。小部屋に三匹ぐらい固まっていてくれると大喜びで勇んでしまうぐらいだ。


 スマホを取り出し今日の日付を見る。……平日だ、つまり平日でも清州ダンジョンの規模ならこれだけの人が居るのか。こうなったら移動速度を上げて少しでも多く遭遇できるようにしてしまおう。


 俺は脳に直接働きかける。もっと素早く歩くように両足に力を籠め、高速歩行を始める。うまくいったことを確認し、この現象はダンジョン共通で起こせるものなんだな、と理解した。


 歩く速度を上げればその分他のパーティとも出会う回数が増えたが、同時にモンスターとも会える回数が増えた。俺は喜んでモンスターに駆け寄ると、久しぶり!としばらく出会わなかった親友の肩を叩くようにグラディウスを振り下ろす。


 あぁ、親友が消えてしまった。短い再会に俺は悲しむも、後に残る親友の忘れ形見に思いをはせる。短い付き合いだった親友は黒く光る結晶体になってしまった。この形見、ダンジョン出るまでは無くさないからな。


 さて、どうやら迷ってしまったぞ。ダンジョン出入り口を前後方向としてみると、今は右方向に居るはずなので左方向へ行けば人通りの多いところへ出られるだろう。それが解っていればまぁ何とかなるんじゃないかな。


 と、見覚えのある小部屋に出た。たしか最初に他のパーティーとモンスターの取り合いになったところだ。地図を見ながらここの場所を確かめる。うん、自分の位置を再確認できた。ここからなら十五分ほどで階段までたどり着けるだろう。安心したのでもう一本奥の道に入る。


 すると、グレイウルフ三匹が出て来てくれた。ありがとう寂しかったよ。


 一匹ずつ丁寧に向かい合う。前足、後ろ足をそれぞれ一発で切り落とし、ほぼ戦闘不能状態にした後残りの二匹を相手にしていく。二匹目は噛みついてきたので顎にグラディウスを打ち込み即死。三匹目はこちらから駆け寄って首を刎ね飛ばす。最後に、足が無くなって地面を這うだけになった個体の首を刎ねて楽にしてさしあげる。南無。


 この手順が一番手間がかからないし危険が少ないかな。ゴブリン相手に同じことをするのは多少骨だろう。棍棒持ってる手を切り落とすには、棍棒に接近することが必須になる。


 殴られる可能性が上がる以上褒められた戦法ではないだろう。ゴブリンが持っている棍棒を、ソードゴブリンの剣だと見立てて、四層に降りた時の練習をしていきたい。


 そう思って歩いているとゴブリンが前から迫ってきた。練習のチャンスだ。ゴブリンが振りかぶる棍棒を盾でしっかりと受け、受け止めた瞬間弾く。ゴブリンは体格が俺と比べて小さいので弾き飛ばした衝撃で後ろによろめいてくれた。腕に隙がある。試しにやってみるか。


 俺はゴブリンの懐に入り込むと棍棒を持ってる側の腕を切り落とした。ゴブリンは切り落とされた腕を必死に押さえているように見える。これで戦闘力はほぼ失ったか。ゆっくりとゴブリンに近づくとゴブリンに止めの脳天割りをお見舞いする。ゴブリンは消滅して、魔結晶を落とした。


 剣持ち相手に同じことが出来るだろうか、と脳内シミュレーションを繰り返しながらダンジョンを回る。脳内では華麗にシールドでソードゴブリンの攻撃をうけとめ、空いた手でグラディウスを突き刺した後一旦距離を取りその後の行動を待つ、という流れが出来つつあった。


 もう三つぐらい攻めに掛かるパターンが欲しいな。その為にはまず何回か戦う必要があるが、動きがゴブリンと同じで武器だけが違うなら、やりようはいくらでもある。


 逆に剣で防御に回られたりするとこっちが動くパターンがそれだけ多くなる。賢さの違いがあるのかどうか、そこも見極めないといけないな。


 パターン化されたグレイウルフとゴブリンとの戦いをしながら、更にシミュレーションを煮詰めていく。文月さんがその間どう動くのか、ソードゴブリンのお連れ様がどうなるのか、それも計算に入れなきゃいけないな。


 気が付くと割といい時間になっていた。ここから出口まで戻って十八時といったところか。

 荷物は中々の重さになっている。ここで探索を打ち切って戦果を確認することにしよう。


 三十分ほど歩いて二層への階段を見つけた。同じように二層へ帰ろうとする探索者たちの列が見える。ここからはもう迷うことはまずないだろう。安心して二層へ、そして二層から一層へ戻った。


 一層の階段ではかなりの数の探索者がドロップの分け前について相談しているようだ。出口を出てから行わないのは、カウンター周辺を混ませないためだろうか? よく訓練されている。


 そのまま一層を抜け出口まで到達する。今日の実入りはいくらほどになったかな。


 ダンジョンを出ると背中の重みが主張し始める。やはりダンジョンの中だと背中の荷物も軽く感じていたんだろうか。今まではカウンターで保管庫からそのまま出していたから感じる必要が無かっただけか。ISSから地上へ久しぶりに降り立った宇宙飛行士もきっとこんな感じなのだろう。

 退ダン手続きを済ませると、そのまままっすぐギルドの建物へ向かう。その三百メートルの距離が少し長く感じた。


 査定カウンターはドロップ品の査定待ちでいっぱいの人混みだ。清州はやはり大きいな、査定カウンターが五つも設置されている。一番荷物の少なそうな列に並ぶと、順番が来るのを待つ。十分ほど待って俺の番が来た。


「査定ですね、では査定する分の荷物をお出しください」

「お願いします」


 バッグから文字通りざらざらと回収したドロップ品の山を出す。


「分割ですか?一括ですか?」


 リボ払いのようなことを聞かれるが、パーティで分配しますか?という意味だろう。


「一括でお願いします」

「では、番号札をお渡ししますので、呼ばれたら戻ってきてください」

「はい、解りました」


 どうやら、査定カウンターと実際にカウントする係は分担制らしい。カウンターの奥をちらっと覗くと、重さを測ったり品質を見たりしている人が複数人働いている。 十五人ぐらいは居ただろうか。


 査定カウンターから離れ、バッグに残っていた最後の水を飲み干すと、潰したペットボトルをゴミ箱に入れる。


 なんだか今日は精神的に疲れたな。他人とモンスターを取り合うことがこんなにストレスだとは思わなかった。同時に、このぐらいの密度なら四層へ潜っても安全にモンスター狩りを楽しめたのかもしれないとも。


 もしかして、チャンスを逃したのか?そう思ってしまうのは、金に目がくらんでいるからだろうか。

 それとも、単なる冒険心からだろうか。ただ、リベンジをするなら文月さんと一緒がいいな、と思っても居る。やったぜ!というのを共感できる仲間が欲しいのかもしれない。


 ソロ探索者気どりがいつの間にか仲間とつるんで楽しんでいやがる、俺らしくないな。


 暫くすると、LEDパネルに俺の番号札が表示される。査定が終わったらしい。早速査定カウンターへ赴く。おいくらまんえんになったかな。


「こちらをもって支払いカウンターへどうぞ」


 渡されたレシートには四万二千九百十二円と書かれていた。ダンジョン税は何処のダンジョンも共通で十%らしい。

 スライムのゼリーが六個、魔結晶が全部で九十個、グレイウルフの肉が八パック、それからヒールポーションが二個。


 昨日の半分か、と若干落ち込むところはあるものの、一日の収入としては十分過ぎる価格だ。

 俺がソロで挑んでこれだけの収入を得られるんだから、パーティーで奥へ行けばもっと収入は増えるんだろう。


 支払いカウンターで金額を受け取ると、そのまま財布に突っ込む。そして思う。


 しばらく清州ダンジョンはいいな。こっちでなければいけない理由というのは現状存在しない。


 純粋にお金だけを稼ぎたいなら小西ダンジョンの三層でいいのだ。たとえばどうしても五層六層七層と深く潜らなければいけないような事態に陥った場合、清州ダンジョンに来ればいいだろう。そのほうがモンスター密度が同様に低ければだが、安全に探索することが出来るような気がする。


 と、査定カウンターでなにやらざわつきが発生している。なんだろう。

 近くに寄ってみると、どうやらスキルオーブがドロップしたらしく、ダンジョンギルドで査定が出来るかどうか、オークションにかけられるかどうかの確認作業が行われているらしい。


 どうやら、スキルオーブのドロップは清州でも珍しいようだ。清州で珍しいのだから俺が手に入れたのは天の采配、いやダンジョンの采配だろうな。何のスキルがドロップしたかまでは聞こえてこないが、良いものを手に入れたのは間違いないはずだ。俺にも二個目が出るように拝んでおこう。


 帰り支度を始める。今になって自動車通勤の面倒くささに気が付いた。ここから自分で運転して帰らなければいけないのである。


 バスや電車なら道中うたた寝もできるから楽なんだが、家に着くまでがダンジョン探索だ。うかつに寝たりボーっとしては命の危険がある。ただでさえここは路上で気を抜くと命まで取られる愛知県なのだ。気を張って運転しなければ事故につながる。


 俺は疲れを感じ始めた体を無理やり動かし帰路につく。途中のスーパーでコーヒーと夕食の弁当と明日以降分の食パンを確保し、朝飯に足せそうな総菜を買うと家に着いた。


 夕飯を食べ、風呂に入りながら今日の反省会をする。


 清州ダンジョンのモンスター密度は低かった。これが休日ならばもっと人が増える分更に低いだろう。


 双方のダンジョンへの距離があまり変わらない以上、ダンジョンに費やせる時間もほぼ同じ。ならば小西ダンジョンの現状のモンスター密度のほうが俺には有利に働くことになる。


 なにより、ああ人が多くては清州ダンジョンのほうがスキルがばれやすい。うっかり使ってる最中にバッティングしない分だけ小西ダンジョンのほうが活動がしやすいだろう。


 次に危険度だが、どうやら俺が潜れるような階層まではモンスターの種類に差は無いらしい。三層だけを巡るなら小西ダンジョンがベストだとさえ言えよう。これはそのままで問題ないな。


 四層は……いつ行こう。一人で足踏みしている気がする。いい加減覚悟を決めてもいいんじゃないか。そういえばソードゴブリンが何を落とすかまだ知らないな。後で調べておくとしよう。


 五層に関する情報も仕入れよう。もしかしたら四層を通り越して五層に行くような可能性がある。ソードゴブリンが苦労のわりに美味しくなかったら、三層にとどまり続けるか、五層に行くかになるからな。


 早速風呂から上がると、ダンジョン四層以降の情報を集める。どうやらソードゴブリンは魔結晶とたまにヒールポーションと、自分の持ってる剣をドロップするらしい。しかし、剣のほうは大きさのわりに査定額が低すぎてあまり人気が無いようだ。


 剣を何本も持ち歩きながらダンジョンを徘徊する姿を想像すると、確かに人気が無くても仕方がない気がする。今のところは最終的に鉄スクラップになるらしく、スライムゼリーと大して変わらない査定額であるようだ。


 だが、俺にとっては予備武器として使える可能性があるため、少なくとも邪魔にはならなさそうだ。最悪保管庫から剣をぶん投げてしまえばいい。


 ……ん、これって大玉よりも大きくて安くて威力がある武器としてベターなのでは?保管庫の肥やしにしてもさびないし、邪魔になったらまとめてスクラップ工場へ持っていけばいい。


 ソードゴブリンにもそれなりにうまみがある事が確認できた。ただ、ヒールポーションを落とす割合と戦いにくさについては解らないな。ちょっと試験が必要だろう。


 五層からは洞窟みたいなマップではなく、大空の広がるサバンナ地帯のようなマップになるらしい。

 天井までの高さは不明。空があり常に昼であり、足元には短い草が地面を覆っている。そして、たまに大きな木が点々と生えていて、その木を目印にしてマップを埋めたのだとか。


 ダンジョンに天井が無いとはどういう事だろう。四層までは目に見えて手に届く範囲で天井が存在して、俺も頭をぶつけた。


 だが、階段を下りた先に天井が無い?どういうことだろうと画像を見ると、どうみてもサバンナだ。その広大なサバンナに大岩がちょこんと存在する。不思議な岩だ。


 大きさは六メートル四方ぐらいあるだろうか。どうやら、階段を下りた先が岩の中になっているようで、岩の中に階段がくりぬいて彫り付けられたように埋まっていた。


 これもダンジョン二十四の不思議に加えておこう。後謎の天井もだ。


 五層からはワイルドボアというイノシシみたいな魔物が出るらしい。当然のようにパックされた肉を落とし、たまに革も落とすそうだ。ドロップ率は 肉>魔結晶>革 みたいな図式らしい。肉は極上の豚肉みたいな味わいらしく、ジューシーで脂も多いそうだ。


 いいな、肉。四層ほっといて肉取りに行きたいな。回鍋肉なんかにしたら良さそうだ。あるラーメン屋ではワイルドボアチャーシューのラーメンを出したところ人気が出すぎて完売してしまい、暴動寸前になったらしい。それほどの威力がある肉か。


 肉か……肉食いたいな。腹減ってきた、夕食もう一品多くすればよかったと何日か前に同じことを考えたな。明日は肉食おうか。


 あ、レインきてた。文月さんからだ。

 今日も「?」だけか。

「……」と返しとこう。詳しい話は今度会った時にすればいいだろう。


 五層にはほかにもダーククロウというモンスターがいるようだ。普段高いところを飛んでいて、時々下りてきてはクチバシでつついて行動を邪魔したり、フンを落としてくるらしい。休憩中に弁当を取られた奴もいるようだ。最悪だな。魔結晶と黒い羽根をドロップし、黒い羽根は枕にいれてやると何故かよく眠れるらしい。


 俺にはあまり必要が無さそうだ。体をよく動かしてよく眠れるのは健康な証拠だ。体を動かしすぎて眠れない夜も来るかもしれないが、とりあえず睡眠障害の兆候はない。


 等と考えているうちに眠気が俺を襲う。明日はまた小西に戻って三層を、できれば四層を巡ろう。

 いい加減四層恐怖症を克服しなければ……

作者からのお願い


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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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作者のギャグセンが小学生がする殺す死ねと同レベルでおもんない
[良い点] 狂気入ってるけど、おじさんの心の声が文学的で面白い。 よくあるおじさんの俺TUEEEかと思って読み始めたので得した気分。
[良い点] 文月さんからの連絡のやりとりがベテラン夫婦と同じレベルですね 阿吽の呼吸に近い?!
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