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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第九章:ネタバレ

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636:一泊二日三十二層ツアー 4/8 小休止

 現在時刻は午後四時。昼間から仮眠か? と思われるかもしれないが、未踏破の場所でいつまで続くか解らない戦いの後の気の抜けるこの瞬間が一番危ないとも言える。その間に休憩を取って頭と体をリセットするのは大事なことだ。


 川から離れドローンで周囲を確認し、階段があることを確認すると階段までまず歩く。階段のそばで設営を開始した。と言っても今出すのはテントとエアマットとダーククロウの枕と布団。特に枕と布団は重要。仮眠に使うと思ってわざわざ家から持ってきた。


 交代仮眠は短時間になるが、その間にどれだけリラックスできるかが重要だ。その為に多少枕が汚れることになっても疲れが取れないよりは取れるほうが確実に大事だ。今回はセーフエリアでのんびり休憩を取る暇がないと思っていたので布団も持ってきた。


「じゃ、先に仮眠取ってて。俺は索敵しつつ雑誌でも読みふけるよ」

「じゃあお先に休憩いただきます。適当に雑誌は散らしておいてください。私が仮眠から起きた後読むんで」


 そう言い残すと水分と用意しておいたカロリーバーを食べ、仮眠のためにテントへ入っていった。エアマットの上にダーククロウの羽毛布団と枕。俺の匂いが残ってるかもしれない以外は完璧な仮眠環境が整っている。


 さて、暇が出来たので今のうちに最近仕入れた雑誌でも読むか。後は芽生さんにこの間押し付けられたファッション誌や女性誌、マンガなんかを山積みしておく。俺は自分が読みたいサイコロ本を取り出すと熱心に読書に入り始めた。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 話が佳境に入り始めたところでアラームが鳴った。出来れば読み終わりたかったな。また後で続きを楽しむことにしよう。しかし、分厚すぎるのも困りものだな、止め時が難しい。


 読書の間にモンスターは現れなかった。いつものスライムの行列が来るかなと楽しみにしては居たんだが、どうやら今回はお流れのようだ。もしかしたら何処かの階層に一定時間ごとに湧く特殊リポップかもしれない。だとしたら今日あの行軍を見ることはもうできない事になる。残念と言えば残念だ。


 布団にくるまって熟睡している芽生さんを起こす。


「時間だぞー」


 ガバッと起きる芽生さん。テントから出るとあちこちを見回し、体をぐりんぐりんして体調のほどを確かめているようだ。


「短い仮眠でも布団は効果あるということが解りました。これはセーフエリア外での仮眠に必須ですね」


 最後にうーんと伸びをして、体調の万全感を全身で表現している。これは俺も仮眠に期待できそうだな。


「どうする? 今夕飯にする? それとも俺が起きてからにする? 」

「そうですね、今食べておきましょう。起きて食べて少し時間を空けたほうが活動には問題なさそうですし、洋一さんもお腹を満たしてから眠れることになりますからより気持ちよく眠れるかもしれません」


 芽生さんの意見を採用して、仮眠前に早めの夕食を取ることにした。どうせ残ったら夜食に回すのだ、今食べても後で食べても問題ないし、正直な話俺も少しだけお腹が空いている。


 パックライスは結構冷めてしまっていたのでコンロで温めなおし、シチューは別皿に盛る。確か芽生さんはシチューはご飯にかけない派だったはずだ。


 俺はかける派なので皿にパックライスを盛り付けて上からシチューをかける。シチューをかける派にも、全部混ぜて食べる派と混ぜて食べない派があったり派閥争いがあるが、俺はかけるが混ぜない派に属する。この辺は割とややこしいから覚えておいて損はない。テストに出る。


 今のところ索敵に感知はない。安心して胃袋を満たすことが出来ている。この時間は貴重だ。しっかりと食事を取り、そしてしっかりと眠る。十五分ほどかけてゆっくりと消化し、シチューの残りは朝食か夜食にもう一度温めて食べよう。食べ終わると片付けて今度は俺が二時間の仮眠をとる。


「大丈夫だとは思うけど緊急時は起こしてね」

「はい、ゆっくり休んでください。ここまで来て帰れないということにはなりたくありませんが、多分なんとかなると思います。この後どうします? 」

「三十二層を探索して、川の手前までは行けるようにしたいな。川を渡るのはまた今度にしよう。次回はもっとスマートに攻略できるはずだからその時に三十三層の様子を見に行けばいいさ。焦る必要はない、着実に階層を重ねていこう」

「そうしましょうか。じゃ、おやすみなさい」

「お休み、しばらくよろしく。スライムがもし現れた時のために熊手を渡しておこう」


 テントに入ると布団にダイブ。この布団なら短時間でもゆっくり疲れも取れそうだ。ほのかに芽生さんの残り香があってちょっとアレな気分になるが、それ以上に疲れていたらしく、すぐに瞼が重くなった。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 side:文月芽生


 洋一さんはすぐに寝入ってしまったらしいです。ほのかないびきが聞こえます。きっと橋の上で無理してドライフルーツを食べながら戦ってきたので見えない疲れとか言う奴が溜まっていたんでしょう。その間の安全は私が確保しなければなりません。


 索敵には何も感知が無い。まだ私のほうが洋一さんよりも広い範囲を索敵できるので、安全は担保されているようなものです。気楽でいいですね。尤も、出てきたところでスライムですから手こずったりすることはないとは思いますが。


 雑誌を読むのも飽きたのでテントをそっと覗きこんで洋一さんの寝顔を見る。どうやら本当に疲れていたようでグッスリと眠っている。少しよだれも垂れている。いい顔で眠ってますね。


 いたずらは……しないようにしないと。これだけ寝姿を披露してくれているということは信頼を置かれているという証拠でもありますから、しっかり索敵だけはしておかないといけませんね。それに、いたずらをしようとすると索敵が反応しますからそれを合図に飛び起きる可能性だってあります。私に同じ芸当が出来るかと言われると解りませんが、出来た時に睡眠を邪魔する事になるのであきらめましょう。


 ファッション誌も読み飽きたので適当にマンガか雑誌を読みましょう。探索・オブ・ザ・イヤーも月刊探索ライフも最新号から買い始めたナンバーまできっちり用意されています。適当に……この辺を読もうかな。


 手垢がついているのはやはり料理欄。ペンでチェックを入れられていたり……あ、この料理は前に作ってもらったことがありますね。ツルシコ食感で美味しかった記憶があります。『芽生さんはもうちょい辛めが好き』などと丁寧に次回向けのメモまで貼り付けられている。そこまでしなくてもいいのにとは思うのだけれど。でもちゃんと考えてくれている事に幸せを感じます。


 この人は絶対に逃してはならない人、ということを再認識する。保管庫があるから楽に稼げて楽しい……という初めのころの打算があったのは確かです。【水魔法】を渡された時、洋一さんも打算でこの関係を崩したくないための一手か、と考えたことも間違いないですね。


 でも今はどうだろう。打算から始まった関係でも、今は居てくれないと困る存在になっている。他の人とパーティーを組む機会は無いが、洋一さんなら保管庫の事が有ろうと無かろうといくらでも引き取り手は数多いでしょう。その点私はどうだろう。洋一さんについてきてBランクにまでなって、その気になれば二十七層でソロで回れるぐらいの実力を身に付けることが出来た。


 途中くじけそうになったことはある。主にゴキ。でもそこで見捨てずに慣れるまで付き合ってくれた洋一さんに打算はあったのだろうか。おそらく、そういう考えはなかっただろうと考える。だとすれば純粋に私のためにスキルアップを目指してくれた、ということになる。


 楽しい探索を続けて居られるのも、こんな深い階層で温かいものを食べてゆっくり仮眠が取れるのも、何より気楽に探索に挑めるのも洋一さんのおかげという気持ちは強い。私はちゃんとお返し出来ているんだろうか……いや、落ち着こう。お返ししなきゃと思う行動自体がすでに打算ではないだろうか。私はこの先もどうやって洋一さんと関係を続けていくのか。損得勘定で動く事よりもいつも通りに接していつも通りに戦って、いつも通りにお金を稼いで時々夜の探索もする。


 いずれ終わりは来るのかもしれないし、もしかしたら永遠にこのままかもしれない。今はそういう事を考えずに、目の前のダンジョンをひたすら進んでいくのが一番なんじゃないだろうか。パートナーである以上貸し借りは発生する。あまり気にしすぎない事が大事かもしれない。


 楽しい事、そう、楽しい間はその楽しさを充分に発揮して、足手まといにならないように努力する。今できることはそれぐらいじゃないだろうか。手持ちのスキルでは苦手なこのマップではあるけど、次では活躍できるかもしれない。それに期待してもらおうっと。


 その為には大学のほうもしっかりしないといけない。成績不振で心配されるようならダンジョンに通う回数が減るかもしれないし、その分洋一さんに負担をかけてしまうと思う。よし、頑張ろう。もうすぐ夏季休暇も終わってしまう。そうなれば潜る回数はぐっと減るし、それまでには三十五層まで潜ってみたい。今の目標はそれだ。夏休みが終わるまでに出来れば潜ってしまいたいところですねえ。

作者からのお願い


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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱ芽生さんってカワイイなぁ! おっさん爆ぜろ!(笑)
[一言] ダンジョン用の枕カバーと布団カバーを用意しておくと良いですね。
[良い点] おじさんと若い娘のカップルなので、おじさん視点だけよりは娘視点があったほうが良いね。 一方通行より双方向が良いよ(^^) [一言] というわけで今後も時々めーたん視点のお話もお願いします(…
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