631:打ち上げ 3/3
結局さらに十パック程いろんな肉を消費し、全員が動けないといった具合になってきた。ミルコも手持ちのお菓子を順番に要求しつつ、俺が味付けしたウルフ肉に満足したりと楽しい時間を過ごしていたように見えた。
「ふぅ。みんなで食べると楽しいね。いつぶりだろうこれだけ大勢で卓を囲んで食事をしたのは。じゃあ僕はいつも通り監視と管理に戻るとするよ。今日はありがとう。後コーラもう一本あったら頂戴」
食後のコーラを要求したところでミルコは帰って行った。どっちかというと台風一過ってところだが、便利な助言もしていってくれた。総合的に見れば秘密会議も打ち上げも上手くいったって事でいいのかな。
「さて、腹も膨れて一息休憩も終わったところで、この後どうしようかね? 」
「私たちは一旦戻りですかね。先ほど話していた小西ダンジョンへの異動、正式に受けようと思います。小西ダンジョンだけでなく清州ダンジョンとも詳しい話をボヤッとした形で詰めなければいけないので、しばし時間がかかるかもしれませんが、それが終わったら十四層と七層の荷物も引き上げてくる必要がありますし、挨拶回りもありますし」
新浜パーティーは小西ダンジョンに専念する事で一致したようだ。向こうで築き上げた人脈も一旦リセットという事か。こっちはこっちで仲良くやって欲しいと思う。もし向こうからこっちへ来る人が居たとしてもその人たちも受け入れられると良いな。
「表向きはこっちのほうがしっかり稼げるから、という理由にしようと思います。実際そうですしね。仮に清州ダンジョンにエレベーターが出来る事態になった場合でも、同じようになると思います……そうだよね? 横田君」
「そうですね、どっちにもエレベーターがあるなら居住を決め込んだ探索者でもそれ以外の探索者でも、清州のほうが衣食住どれをとっても軍配が上がることになります。再び小西ダンジョンの人口密度は下がることになる可能性が高いです。先ほどの会談でD部隊の中でもボス戦へ挑もうという気概がより高まったと言えるでしょうし、そう遠い将来ではなくなったと考えるほうがいいと思います。なら、小西ダンジョンで儲けを得るという方針は悪くないはずです」
横田さんの分析が入る。小西から清州へ戻る、か。移動予測を言われてみるとその可能性は高いようにも見える。鬼ころしも近くにあるし、その点こちらは消耗品の類は専門店が無い分だけ不便だ。
「ただ……気になるのがスキルオーブですかね。安村さんが言う範囲で言えば、この先索敵スキルの有無で難易度が相当変わるように聞こえます」
「あー……俺が覚えた分の【索敵】、残しておけばよかったな。俺も使えたほうが便利だからと使ってしまったのは誤算だったか」
「いや、出たからと言って使わずに残し……え、もしかして、もしかすると保管庫って」
横田さんがうろたえている。珍しいものを見れた気分だ。
「そう、保管庫に入れておけばスキルオーブの経過時間も百分の一に出来るんだ」
「なるほど……今更ですが保管しておいてもらった方が今となっては良かったかもしれませんね。でも過ぎたことは仕方ありません。地道にそろえるしかないでしょう。ダンジョンハイエナでしたっけ。ちょっとノートを観察してきますね。もしかしたらドロップ情報が書き込まれているかもしれません」
横田さんはこれは自分の仕事だとばかりに急いでエレベーターホール前の机に設置してあるノートを確認しに行った。
しばらくして戻ってきた横田さん曰く、二十層ではまだドロップ報告は無いが、十九層では【索敵】【物理耐性】がドロップしたという報告があったらしい。
「見た感じでは二十層ではまだ可能性がありそうですね。日付からしてまだ十九層でドロップを狙うというのは現実的では無さそうですし、二十層でしばらく粘ってみるか、二十二層を体験して慣れるか、どっちかが良いでしょうね」
「うーん、焦って奥の階層へ行こうという訳ではないですからね。より稼げる方ならそれで良い、と言ったところでしょうか」
「ちなみに、二十七層まで索敵と遠距離攻撃スキルを持って潜ると、一時間で……このぐらいの収入になりますよ」
スマホの電卓をポチポチと叩く。算出された金額時給三百万。六時間働いて千八百万。五人で割って一日ざっと税抜き三百二十万。横田さんに皮算用を見せてみる。
「マジで! そんなに!? 」
横田さんが思わず素になる。そういう言葉遣いも出来たんだね君。
「そんな美味しい環境で働いてたんですか二人とも。一体いくら稼いだんですか」
「あんまり大きな声では言いたくないんですが……」
横田さんにだけ耳打ちで教える。
「……なるほど、大体理解しました。前向きに検討させていただきます。その前準備と思えば二十層をひたすら巡るのも悪くない選択じゃないかと思いますね」
額に汗を流しながら横田さんが納得をする。どうやら自分たちは周りに比べて予想以上に稼いでいるらしい。
「広めないでくださいね。無理に奥へ行こうとして怪我人が増えるのはあまりいい気分になれないので」
「こんな美味しい情報を広めるのは自殺行為みたいなものでしょう。これは我々だけの秘密ということで」
「ただ、保管庫で荷物を常に重さゼロ体積ゼロで巡っている前提でこれですから、実際に荷物が発生する事を考えると効率はもっと落ちると思いますよ。まあ、履歴が残ってる以上ギルドも知ってるはずなんだけどね」
俺のスマホの電卓が全員に回され、金額を見て全体的に喜んでいる。こんなに貰っていいのか、そんな表情だ。
「気になるのはこの先ですかね。さっき真中長官に耳打ちしてた発電方法の情報、それの効率がどのくらい良いものになってくるのか、です。もしかしたら今のペースと価格で発電を行ったらコスト的に割に合わないと判断されるかもしれませんし、そうなれば魔結晶の買い取り価格も下がるでしょう。発電施設が実際に稼働する前に費用対効果の情報は必ず上がってくるでしょうし、そうなった時に我々の収入がどう変化していくのか、そこを注視しておく必要があるでしょう」
「さすがに価格改定が行われた直後ですし、どんなに早くてもあと半年は魔結晶の価格の上下は無いと考えていいはずです。その間に精々稼がせてもらうのが良いと思いますね。もう充分稼いでいらっしゃるようにお見受けしますが」
「FIREした後の老後の資金を考えるともうちょっと稼いでおきたいところですね。それに……まぁ、色々と覚悟をしておく準備も必要だと思いますし」
そう、色々だ色々。責任取ったり責任取ったり、そういうのも込みで考えなければならない。金額を上乗せして用意しておこう。更に引退が遠のいた気がする。
「まだ四十でしょう? リタイヤには早すぎますよ。せめてあと十年ぐらいは頑張りませんか? 」
芽生さんからブーイング。いいじゃないか早めのリタイヤ。
「実はもう四十一になった。なので後九年だな」
「あれ、いつの間に誕生日なんて来てたんですか。おめでとうございます」
「ありがとう、誕生会とかする歳じゃないし嬉しい事は何もないからな。日々あの世への階段が続いていることを実感するだけだ」
「大分擦れてますね。これは何かしらのねぎらいが必要かもしれません」
「芽生ちゃん、これ終わったら安村さん連れて何処かへ行きましょう」
「いいですね、洋一さんには遅めの誕生会という形で何かしら騒ぎましょう」
「それ、俺の誕生日にかこつけて騒ぎたいだけじゃないのか? それなら今のコレが誕生会ってことにしといてくれ」
「他人の誕生日をダシにして騒ぎたいってのはみんなそう思ってますよ。じゃ、安村さん誕生日おめでとうございまーす! 」
「「「「「「おめでとうございまーす! 」」」」」」
祝われた。ありがとう。でも俺は置いてけぼりである。みんな好きに騒いでいる。誕生日って大体こんなもんだよな。
「酒がもう少し多ければ楽しめたかな」
「次回に期待しておいてください。今はあるだけ出しましたので」
「ミルコさんに渡す以外のお菓子は無いんですか? 」
「ちょいまち、まだいくつか残ってはいる」
「コーラお代わり! 」
「これで打ち止めだぞ、流石にそこまで本数は入れてないんだ」
「焼肉お代わり! シンプルに塩で」
「あいよ、ちょっと……やっぱり俺がねぎらわれてないな」
そんなもんだよな……と諦めつつも注文の焼肉を塩だけで焼き始める。まとめて三人分ぐらい作ると、一緒にもやしも炒める。肉だけではバランスが悪いからな。出来上がった焼肉を大皿に盛って出す。
「お疲れ様です。散々な誕生日会ですね」
結衣さんがそばに来た。
「全くだ。これなら打ち上げせずにさっさと潜ってしまうべきだった」
「まあまあ。じゃあ私からのプレゼントです」
頬にキスしてきた。みんな食事に夢中で誰も気づいてないようだ。
「デートって言っただけで照れてた娘にしては急接近って感じだな」
「芽生ちゃんに負けていられないと覚悟を新たにしました。なので覚悟しておいてください、近々私も貞操を奪いに行きます」
「ところで今のキスもミルコに見られてるということは覚えてるか? 」
「覚えてますとも。でもいいんです、自分の欲に素直になることにしましたから」
「あー、なんか二人だけで良い雰囲気になってる、ずるい」
気づいた芽生さんもこっちに来る。左右を挟まれてしまった。
「まあ、誕生会だから、ということにしておくか」
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