63:清州ダンジョン 2/3
250万PVありがとうございます。
三層への階段が見えた。三層の境目で休憩している人はそれなりの多さを保っている。もしここでモンスターが出現しても誰かが対応するだろうという安心感があるんだろう。
俺もここで小休止しよう。いつものカロリーバーを胃に流し込み、粉ジュースでのどを潤すのだ。
ソロアタックとはいえ、もう少し食生活に潤いがあってもいいのかもしれないという思いと、今回は試しで保管庫なしで潜っているのだから、贅沢はあまり言えないなという気持ちがせめぎ合っている。
とにかく今日は色々と制限が多い中での狩りだ。普段探索者がどのぐらいの生活水準でダンジョン内を巡っているのかも情報としてほしい。
休憩してる人の中には蓙を敷いてピクニック気分で来てるような人も居る。きっとこなれているんだろう、冷めていそうな弁当をかき込み、談笑しながら休憩している。それなりに儲けを出しているんだろうな。
俺も小休止を取ろうと水を取り出す。今はまだそんなに腹が空いてはいないし、昼を取るには少々早い時間だ。何味の粉にしようかな。保管庫からあらかじめ取り出してあったのは九種類の粉ジュース。その中からストロベリー味をチョイスした。この手の奴は風味だけ違って後の材料はほとんど同じようなものだが、選べるというのは味気ない食事に花を持たせる。ぼそぼそのカロリーバーを齧りながら、一休憩する。
ここまでのドロップを確認する。一層二層合わせて二時間半ほど費やしてここまでやってきたが、ドロップはスライムゼリーが六個、グレイウルフの魔結晶が十個、グレイウルフの肉が二個だ。普段の小西ダンジョンでのペースに比べたらとてつもなく遅い。ここから挽回しよう。バッグの中身はまだまだ余裕がある。
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休憩を終えて三層に降りる。ソロで潜っている人がだんだん減ってきているように見受けられる。やはり、ここらへんからはパーティープレイでないと厳しいのか、それとももっと深く潜る人たちが真っ直ぐ四層を目指しているのか。
今日はソロだが四層に潜るときは文月さんが随行していないとまだ不安が大きい。ソロでコッソリ挑んでリベンジのチャンスを狙うのもいいだろうが、対処できる自信がまだない。焦ることはないんだ。一歩ずつ行くときは一歩ずつ、一気にいくときは全力ダッシュ。今日は一歩ずつの日だ。
三層も広いらしい。さすがに二層より人口密度が高いという事は無いだろうと考える。
ゴブリンは小柄とはいえ人型だ。モンスターとはいえ人型をしたものを倒すというのは精神的ショックを受ける人が少なからず居るらしく、二層を延々と回る探索者も居るとか居ないとか。
俺としては、悪ガキをゲンコツで思い切りぶん殴る程度の気持ちでしかないのだが。
などと考えていたら、曲がり道でばったり悪ガキと出会ってしまった。また悪さしおってからに。
俺は思い切りゲンコツを振り下ろす。凹む頭部、ふらつく足取り。あぁ、この悪ガキはもうだめだな。今楽にしてやろう。グラディウスで一刀のもとに頭の上から首まで断ち切る。悪ガキは成仏した。
この階層は悪ガキか野良犬しかいない。野良犬なら保健所に連れていくかここでどうにかするかだ。どっちにしろ殺処分されるので、ここで殺処分してあげたほうが保健所も手間がかからないだろう。
しばらくすすむと悪ガキがペットの野良犬二匹を連れてやってきた。殺処分のご依頼かな?俺は保健所の職員じゃないが殺処分は得意だぞ。
悪ガキより先に突撃してきた野良犬二匹を順番に一薙ぎする。一匹目は足を全部失い、二匹目は首筋を切られ命を失った。交戦能力が無くなった野良犬を尻目に悪ガキに集中する。悪ガキはペットを失った怒りからか、棍棒を振り上げてこっちへ向かってくる。
冷静に棍棒をバックステップでかわすと素早く近寄り、がら空きの首筋にグラディウスを突き刺して命を奪う。黒い粒子に変わっていくのを命を失うという表現で良いのかどうかは解らないが、とにかく後はだるまさんになった野良犬だけだ。早く楽にしてあげよう。
その後も清州ダンジョン治安パトロール隊(自称・一人)は近所巡りをして悪ガキと野良犬の捜索に全力を尽くした。地図を見ながらの巡回なのでペースはそれなりに落ちるが、それでも昼までにはヒールポーション二本、肉四パック、魔結晶合わせて四十個の凶器を没収することができた。
保管庫の中に入っていればグレイウルフの魔結晶とゴブリンの魔結晶は別物としてカウントできるんだけれど、普通にバッグに放り込むと手にして重さを比べない限り解らない。それゆえ致し方なしだ。
一度二層側の階段へ戻って休憩だな。段々バッグが重さを増してくるのでここらで休みは必要だろう。
さてどっちへ行けばいいんだったかな……若干迷いながらも二層への階段を探す。
文字通りダンジョンを迷い歩く。人に出会えば道を聞きお礼を言い、悪ガキが出ては道を聞いてから殴り、野良犬は蹴飛ばして一時間ほどしてようやく二層の階段までたどり着いた。
その間にもバッグの中身は膨れ上がっていく。追加で十個ほど魔結晶を手に入れただろうか、その頃無事上り階段を見つけた。
休憩するにも場所を選ぶ必要があるのか、作りが広いと大変だな。やはり俺には小西ダンジョンのほうが向いてるんじゃないか。階段の周りでは若干名同じように休憩を取っている探索者が見える。
残りのカロリーバーを全部胃に入れる。味さえ気に入っていればカロリーバーだけの昼食のほうが手軽で時間もかからない。満腹まで腹を満たさないことで食後の運動にも影響が出にくい。やはりカロリーバーは偉大だな。水を三口分ほど残して、粉ジュースで味を付けた後飲み込む。
帰り道でのどが渇いて集中が切れるのはよろしくない。少しだけ残しておこう。
小休止を取った後はもう一度三層に迷い込むことにした。午後のパトロール開始だ。午前中より探索者の人口密度が上がっていると感じる。思ったより人以外のものと出会わない。もうちょっと奥へ行かないと理想的な密度での戦闘は難しいだろう。
だが、清州ダンジョンは広い。迂闊に奥へ入ったはいいが出られなくなる可能性が無いか。ソロ探索者の場合その行きつく先で手詰まり、もしくは大量エンカウントに出会ってしまって対応しきれずにそのまま死亡事故、という事にもなりかねない。確実に倒せる相手でも用心するに越したことはない。ちょっとだけ奥へ行くぐらいに留めておこう。
ちょっとだけ奥に来た。周辺に探索者は多分居ない。戦闘音が聞こえてこないからだ。このぐらいの場所ならそこそこの実入りが期待できそうだ。
考えながら歩いていると早速来たグレイウルフ三匹。
俺にとってはもはやパターン化された手順で攻撃を避け、攻撃を当て、確実に仕留める。
後れを取る相手ではない。そのぐらいの相手との戦闘で細かく稼いでいくのだ。
ゴブリンのアベックを次の目標として見ながら軽く走りこむと、向こう側から探索者のパーティーが現れた。どうやら同時に目をつけていたらしい。
お互いをみて、ゴブリンを見て、再びお互いを見る。
ゴブリンは両方を素早く見る。
譲るか、それとも譲ってもらうか。それともゴブリンに選択させるか。
ゴブリンは両方を暫く交互に見た後、こちらのほうが弱そうだと判断したらしく、こちらへ向かってくる。ここは申し訳ないが譲ってもらおう。
あっちのパーティーにアイコンタクトを送る。リーダーらしき人が顎でしゃくりあげる。こちらへどうぞ、という事らしい。ごっちゃんです。
構えるとゴブリンに向かって素早く攻め寄り、棍棒を振り回す隙を作らせずに脳天へグラディウスを突き立てる。すぐさまそれを抜くと二匹目のゴブリンへ。後ろで黒い粒子となって消滅するゴブリンを確認するまでも無く、二匹目の首を落とす。魔結晶が落ちる音がした。
魔結晶を拾うと、まだこちらを見ていたパーティーに向かって頭を下げると、俺は元来た道を戻ることにした。このままお互いまた鉢合わせをするのも気まずいからな。譲ってもらった分こっちは道を譲ろう。それが狩場のマナーってものじゃないだろうか、そう一人考える。
来た道を戻って違う道へ。スマホにダンジョン専用地図アプリとかあればいいのに。でも、GPS使えないから意味ないか。紙の地図を広げるか、スマホをみるかの違いだけだ。
左から来たはずだから、今度は右へ行こう。……と、また違うパーティーと出会った。狭い道お互い頭を下げてすれ違う。人通りがまだ多いなこの辺は。もしかしたら俺と同じ理由で人混みを避けて来たのかもしれない。
十分ほど何者とも出会わない道を進む。気づいたら三層から四層へ向かう道へ出てきてしまっていた。
こうなったら四層側まで歩いて、それから探してみるか。
四層側の階段まで早足で歩いていく。道なりに行ってもモンスターは出ない。どうやら俺より前を歩く人が狩り進んでいるらしい。なんだか自分の取り分を取られたようなもどかしさを感じる。
ただの気のせいであり悪感情を抱くのはお門違いだとは解ってはいるものの、金にならない時間をただ消耗していくのは精神的に良くない。
もっと盛大に、かつ無理のない範囲でモンスターを屠っていきたいものだ。そうなると深層に潜っていくためのパーティーメンバーを募るか、いつも通り細々と小西ダンジョンで過ごすか。
うん、後者だな。あまり目立って探索をしていくようなことは俺には向かないんだ。
片田舎のダンジョンで日々の糧を得られれば今はそれでいい。
苛立ち紛れに近くにいたスライムを素早く素手で握りつぶすと、一つ深呼吸をした後また別の道へ進む事にした。落ち着いて行こう。今日は半分休暇のようなものなんだったよな。
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