629:打ち上げ 1/3
一層を歩きエレベーターに乗り二十一層へ。途中まで同行する探索者グループも乗せてなので少々せまっ苦しいが十分少々の辛抱だ。大人しくいつも通りの振る舞いを見せよう。
待たせて済まないという思いもあるので、俺が全員分の燃料を放り込みエレベーターを起動させた。二十一層まで潜ってくる探索者はたまたまなのか、存在しなかった。みんな七層や十五層で下りていき、二十一層まで同行するのは新浜パーティーと俺達だけとなった。
「そろそろ、ぽつぽつと話し始めてもいい頃ですかね」
「着いてからにしましょう。お腹もすきましたし、ご飯食べながらゆっくり歓談、でもいいんじゃないですか?」
「それがええと思います。しかし、D部隊の人たち、あんまり驚いている雰囲気には見えませんでしたな」
「薄々感じていたのか、それともあっけにとられて今自分たちがどういう状況に置かれているのかわからなくて軽いパニックを起こしていたのか、驚くのが命令に入ってなかったのかまでは解りませんが、彼らなら冷静に今日の出来事を受け止めてくれたものだと考えておきますよ。彼らも軍規というものがあるでしょうし」
「つまり、実質私らが漏らしてしまうかどうか……ってところですが、まだなんだか実感が湧きませんね」
二十一層に到着し、自分たちのテリトリーに到着する。二十一層に来るのも久しぶりだな。テントがボロボロになっていないかどうか心配だったが、最後に来た時と変わってないような気がするのでおそらく大丈夫だろう。
「さて、スキルの証拠を改めて見せますか」
他の探索者の目が無い事を確認すると、保管庫からペットボトルの箱買いしていた水をドン、ドン、ドンと出して行く。そして長机を出し、机の上に携帯コンロを二つコロン。さらにフライパンをパンと出して料理の準備を見せる。さらに追加で調味料を色々出し始めたところで、結衣さんから待ったがかかった。
「嘘じゃないことは解りましたからもうその辺で良いですよ。芽生ちゃんは狡いなあ。こっちで調理もせずに安村さんの手料理を毎回ご馳走されてたって事ですか」
「そうなります。洋一さん結構料理上手ですから、飽きないように色々レシピも考えてくれてたんですよ。七層に居るころは隠すためにその場で調理したりはしてたんですが、二十一層以降に潜るようになってからは人の目が無いんでって、家でわざわざ作って持ってきてもらってます」
「家で作ってから来た方が探索時間を多めに取れるし、調味料類はともかくダンジョンで揚げ物を始めるわけにもいかないのでそういうのも込みで……後最近はエレベーターのおかげで宿泊で潜ることも減ったしね」
家で時短して保管庫で時間を遅らせて温かいまま食べる。ケータリングの仕事をしたとしてもそこそこの収入が見込めるだろう。傾いたりしないしな。
「それでも料理の準備を時短できるのは……いいなぁ。芽生ちゃんは」
「ちなみに今日のメニューは何ですか? 」
「今日は堅苦しい話し合いで疲れただろうから馬肉を焼いていこうと思う。在庫もあるから結衣さん達の分もあるよ。後は作って持って来た角煮がそれなりの量。」
「馬肉……それって二十一層以降の敵のドロップ品よね」
「そう、二十九層からでてくるケルピーが落とすんだ。疲れも取れるし美味しいし、生でもいける。汎用性が高い肉だと思うよ。カツにしたときのはなかなか良かった」
「ではどう調理しましょうかね……醤油ベースで焼くのも中々良さそうですが」
結衣さんは説明を聞いて何を作るか考えているらしい。他のメンバーは机を用意して綺麗にしたり、人数分の食器を用意したりしている。芽生さんは既に座り込んで料理が出来上がるのを待ってすらいる。
「とりあえず人数分の米はこっちで用意しますんで馬肉のほう任せていいかな」
肉は結衣さんに丸投げ。こっちは鍋で人数分のパックライスを温める作業に専念する。それで時間が余ったら刺身でも作るとするか。
結衣さんと並んでお互いの料理を作る。他の人たちは暇そうなのでお通しでも出すことにした。
「待ってる間にこれでもかじって待ってて。結構キマるよ」
米を温めつつドライフルーツを配りまわる。配り終わって簡易炊飯に戻ったところで、後ろから叫び声が聞こえてくる。しばらく耐えててもらおう。
「安村さん、これ危険な食べ物じゃないよね? 」
「少なくともダンジョンのドロップ品で、知る限り摂取を禁じられている物ではない……が、今後はその限りではないってところでしょうかね。疲れがとれたでしょう? 」
「そういえば肩が……おぉ、グリングリン回る。最近肩こりで悩んでたところが吹っ飛んだみたいだ」
「ね、キマるでしょ? 」
肩こりに悩んでいたらしい多村さんの肩が全力でグリングリン回っている。横田さんは腰を、平田さんは腕をしきりに不思議そうにチェックしている。
「あれもドロップ品……を加工した奴? 」
「トレントが落とすトレントの実をドライフルーツにしてみた。どうやら保管庫の時間軸を百倍にすると、保管庫の中で一晩寝てる間に出来上がるみたいなんだ。時間的に言うと一ヶ月陰干ししたみたいになるのかな。保管庫の中の温度とか湿度とかどうなってるのか細かい事はよく解ってないんだけど、とりあえず出来る事だけは間違いないみたい」
「持ってる割に謎が多いんですね」
「後回しにしてほったらかしのままだったけど、容量上限がどのくらいあるかもまだわかんないからね。体積で限界が来るのか、重量で限界が来るのか……それを試したところで上限いっぱいまで何かして、という予定も無いし、いざ問題が出た時に何とかしようかなって」
「便利だけど割と判断に困るスキルですね。あ、でもドロップ品がどれだけ出ても重さを感じられずに戦えるのはやっぱり便利ね。もしかして大きいバッグに換えたのも」
「ドロップ品を毎回大量に持ち帰るのにバッグが小さかったら怪しまれると思って。そういう細かい努力をしながら隠し続けてきたのです」
「私はだめだなー。全然気づかなかった。もっと早く知れれば良かったな。そしたら……」
何か考え付いたのか顔が赤く染まっていく。何かやらしいことを考えたのだろうか。黙っていることを条件に俺に何かやらしいことをさせようとでも考えたのだろうか。
「少なくともダンジョンの中では俺周辺は誰かに見張られていると思った方がいいよ。いわばここは舞台の上だ。役者の一言一句が記録されていると思っていい。例えばポーション飲ませるために口に突っ込むんじゃなくてキスで口移ししたりするとかな」
後ろでコーラを飲んでいた芽生さんが盛大にむせている。今更ながら思いついてなかったのか。パックライスを温め終わったので全員分盛り付けていく。多少まばらな所はあるだろうが人数が人数だ、仕方がないだろう。
「え、何、ダンジョン内でそんな事してたの、芽生ちゃんからは安村さんの身体をモノにしたとしか連絡来てないんですけど」
結衣さんが若干声量を上げてわざと芽生さんに聞こえるように話す。芽生さんのほうを見ると耳まで赤くなっている。
「なんです、安村さんついに手出しはったんでっか」
「思ったより時間かかったね。俺はもうとっくにそういう仲だと思ってたよ。息ぴったりだし」
「そうだなぁ。二十歳差か。ほぼ二回り違うってのも凄いといえば凄いね」
「そういうのは個人間の話ですし、リーダーの気持ちを考えたらあまり大きな声で騒ぎたい話ではないんですが」
「私はほら、お妾さんでもいいから。最終的に私か芽生ちゃんかどっちか選んでくれたらそれでいいし、その間適度に構ってくれればそれでいいわよ」
なんか俺抜きで相当爛れた話をしている。どっちかで良いってどういうことだ。俺の知らない間に二人で話にケリをつけていたらしいが、俺の心境は無視されているようだ。若い子が二人も……いやそれはそれでとてもうれしいが、そんなどっかのラノベの主人公みたいな状態で許されるのか。
「多分安村さん混乱してるからほどほどにしておいたほうがいいよ。料理中だしそれで指切っちゃったりしても困るし」
今馬肉の刺身を作ろうとしてる間にそんな手元の震える話をされても困るのだ。というかそこまでおっぴろげに会話をされると俺がすごく照れる。パーティー公認とはいえ自分たちのリーダーが他所のパーティーの男に夢中になっているのはいいんだろうか。
「なんか俺の意思の介在しない所でとんでもない提案と承認がされている気がする」
「これは結衣さんと私の協定なのです。なので洋一さんは好き放題ヤンチャすれば良いと思いますよ」
「そういうこと。なので私はいつでも待ってるわね」
少し顔を赤らめつつ、結衣さんがそう隣でつぶやく。そうか、どっちも好きにして良いのか……社会的には抹殺されても文句は言えないんだろうな。
「ちなみに君ら、その会話もダンジョンマスターに筒抜けだと思うんだけど、仮に次にミルコにあった場合平然としていられるの? 」
「「うっ」」
一瞬、忘れていたらしい。二人ともテレテレしつつ、芽生さんは先にご飯を食べ始めている。そしてお待ちかねの結衣さんの馬肉の醤油焼きが出来上がったらしく、それぞれの皿に盛りつけられていく。こちらも馬肉の刺身を切り終わったので生姜醤油と一緒にまとめて大皿に盛る。
「では、いただきます。お代わり欲しかったら言ってね」
「いただきまーす」
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