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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第九章:ネタバレ

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628:ダンジョン内会談 5/5

 少し考える時間が置かれた後、真中長官が口を開いた。


「前半については私から答えよう。元々ダンジョンマスターの存在を知ってる前提で招集された、ということは理解されていると思う。今日はそれにもう一つより機密に近いものを知ったことで君たちのパーティーの重要度も上がったということになる。そうだな……まとめて小西ダンジョンで管理運営してもらえるような形になれば一番情報漏れが少なくなりそうな案件ではあるけれど、その辺は坂野課長、どう思うね」

「そうですね、彼女たちは小西ダンジョンにもかなり協力的に接してくれていますし、こちらで引き受けることでより小西ダンジョンの利益になる、という面では非常に助かる話ですね。清州ダンジョンの前沢課長には申し訳ない事になると思いますが」

「だ、そうだよ。良かったら正式にダンジョン庁から辞令として小西ダンジョン付きのパーティーとして活動をしてもらう事だってできる。もちろん、安村さん達に出されている二十二層以降の自由探索の許可も出す。そんな所でどうだろう? 」

「小西ダンジョン付きということであれば、今交渉中の少し離れた所にある駐車場を優先的に利用してもらう事も考えていい。小西ダンジョン念願の車通勤ができるって事だがそのあたりでどうだろう、うちの子にならない? 」

「ちなみに後者の質問だけど、僕が答えておこうか。安村の視界、というか周囲は常に僕らが見ている、と思ってくれていいよ。例えば二人で清州ダンジョンでデートしてた時の会話の内容とか、君が自分のパーティーに文月と一緒に誘ったこととか、そういうのは見てきたかな」


 ミルコから無慈悲な発言。結衣さんは少し赤くなる。赤くなるほどの内容を話していた覚えはないが、結衣さん的には恥ずかしくなるところがあったようだ。


「なるほど、以前から打診してたパーティー合体の件、断ってきたのはそういう理由でしたか。一緒に潜った時に重量でちょっとズルしてたという印象はぬぐえませんが、その分の収入を得られたのは安村さんのおかげですね」

「とりあえず聞かなかったことにする……というので一つ納得しておこうかな」

「そうですな、安村さんには貸しより借りのほうが多いですから、ここでチャラにしてもらえればこっちにも都合がええ話やと思います」

「聞かなかったことにするのは少し勿体ないですが、軽い引越しの手伝い……ぐらいはお願いしても良いんじゃないですかね、巻き込まれた分の軽い補填みたいなもので」

「じゃあみんな、小西ダンジョンに本格的に移動するって事で良いの? 」


 新浜パーティー全員が頷く。向こうの意向は定まったらしい。


「真中長官、同じ理由であるなら我々の分隊も小西ダンジョンに異動したほうが良くありませんか。うっかり漏洩してしまう事を防ぐ意味でも、今後より奥へ進むための条件としても小西ダンジョンの環境は整っていると考えますが……あぁ、でもできればエルダートレントを撃破した後に引継ぎをしてその後、という話にはなりそうですが」


 高橋さんが真中長官に自分たちも移ったほうがいいのでは? という提案をする。保管庫については情報を封鎖するのは当然として、この後どうしていくかというほうに会話の流れは傾き、俺を責めるような話はない。これまでの努力はそれなりに実を結んだと言ってもいいのだろうか。


「とりあえず、保管庫の件は重要機密扱い、安村さんに対しての褒章や罰則は特になし、ということで良いかな。そうだね……黙っていたことによって期待できたであろう損失は、むやみやたらに所持していたことを放言してややこしい事態にもっていかなかった功績と相殺って形にしようかな。保管庫にかまけて何の努力もせずに今の階層まで潜ってきた……という訳ではないんだろう? 」

「それは相棒として身内びいきですが保証します。出来るだけ使わないように、使ったとしても最悪のパターンを回避するための手段として使っていたことは事実ですが、基本的には拾った他のスキルやステータスブースト……この際身体強化と言い直した方がいいかもしれませんが、そちらを全力で鍛えてきた結果としての現在です。荷物軽くして全部持ち帰ったおかげでお金稼ぎ過ぎ、と言われたらそれまでですが、そこはダンジョンマスターの方針としても、ダンジョン管理運営の在り方としても問題はなかったと思います」


 芽生さんが援護射撃を入れてくれている。真中長官も手で制して解った、というポーズをとる。


「じゃ、この話はここまでだ。他に何かお互いで確認しておくような事項はあるかな? 」


 他に確認しておく事項か。気になることはあるからこの際聞いておこうかな。


「私以外に希少スキルを持っている探索者がいる、ということをダンジョン庁が把握してるかどうかはちょっと気になりますね。個人情報を教えてくれ、という訳ではありませんが他にも居るのかなーと」

「個人情報なので詳細は話せないが、居るとだけ言っておく。君は一人じゃないということだ。もしかしたらいずれ出会うかもしれないね」


 俺以外にも居るのか。それはちょっと安心だな。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 それからしばらく、ダンジョン探索とは直接関係ない所で話し合いを続けていた。あちらの世界の話をメインに聞きとり、こちらの文明との差、それぞれの強みと弱み、それから経済規模、物流の規模、それからどの程度まで科学というものが発達していたのか。


 代わりにどの程度スキル……いや、魔法の力で隆盛を誇っていたのか等、聞いたところで国家に利益が認められる内容ではなく、どっちかというと真中長官の趣味の範疇の質問をメインにし、ミルコが答えられる範囲で答える。代わりにこちらの科学力とインフラの太さや情報の伝達の速さなど、色々とやり取りを続けていた。


 真中長官が段々ツヤツヤになっていく。自分の趣味について存分に情報をやり取りして満足したところで会話はいったん止まる。


「大体話題は出切ったかな。今日はとても良い会談になったよ。ミルコさんもありがとう、こちらの意向を受け入れてくれて」

「よりダンジョンや僕たちについて知ってもらう事が出来て幸いだよ。それじゃあ僕は自分の住処に戻ることにするよ。また何かあったら安村を経由してやり取りをする事になるだろうね」

「そうですね……あるとしたら発電機構が上手く動いたかどうかのご報告になるのが最初になるかもしれません」

「ダンジョンについては真中さんに一任します。私は報告を待って発表のタイミングを考える事にしますよ」

「そうしてもらえると助かります。こちらもまた書類仕事が増えそうですが今回の件は優先的に処理する事にしますよ。折衝は副長官に一任してますからね」

「じゃあ、そういう事で僕はお先に失礼する。安村、いつものお菓子はまだあるかい? 」

「あぁ、今出すよ」


 保管庫からお菓子を山のように出してエコバッグに詰め込み、ミルコに渡す。クーラーボックスに放り込んでおいたコーラもまとめて渡す。


「これだけあれば暫く楽しめるかな。じゃあね」


 そう言い残すとミルコは転移していった。自分の分のお菓子をしっかり抱え、会談中に食べていたお菓子もしっかりと回収していった。


「さて、我々も地上に戻りますか。思ったより濃いし意外な話を聞くことになったが……面白い会談だった。何より、国家として異文明との初めての接触になって、非常に和やかな会談が出来たのは何よりも収穫だ。そういう存在が居る、ということは申し送り事項として口頭で伝えるのみになるだろう。私の次の総理が誰になるかは解らないが、それまでは私の心の中にとどめておくことにするよ」


 会談に参加した一同は再び荷物をまとめながら帰り道へ差し掛かる。どうやらミルコが転移した段階でスライムたちの挙動も元に戻ったようで、部屋に侵入してくるスライムが出始めた。


「帰り道も安全に行けそうで何よりだな。ここにはある意味ダンジョン探索者の最高戦力が揃っていることになる。安心して歩いて行けるかな」

「その辺はお任せください。傷一つ付けることなくエスコートしていきますよ」


 高橋さん達がやる気を見せる。時刻はちょうど正午に差し掛かる所だった。入口まで戻ってみんなが帰ることを選択して、その後は二十一層で打ち上げだな。


「皆さんこの後どうするの? そのまま帰るの? 」


 坂野ギルマスが予定を聞く。さすがにダンジョンまで来てスライムだけ倒して……というのは問題があるだろう。一稼ぎして帰りたいところだ。


「二十一層で結衣さん達と打ち上げしますからまだしばらくは小西ダンジョンに居ますよ。連絡のし忘れみたいなものがあったら受付嬢にでも言づけておいてください」

「私も参加したかったが、残念ながら二十一層まで潜れないからね。君らは楽しんでおいで」


 坂野ギルマスはそのまま仕事に戻るらしい。多分清州ダンジョンに対して、パーティーを引き抜くにあたってどう言い訳しようか考える仕事があるんだろう。


「今日は良い肉を出そうと思う。後馬肉は未体験だろうから楽しんでもらう事にしようかな。打ち上げの後は軽く二十七層で運動する予定だ。稼ぎが無いんじゃダンジョンに来た意味ないしね」

「しかし【保管庫】かあ。実在するだろうという話は知ってましたが身近にそんな人がいるとは思いませんでしたよ」

「大事になるとは思っていたけど、案外すんなりと受け入れられて安心したというか気が抜けたというか。ともかく一つ肩の荷が下りたのは確かかな。受け入れてくれてありがとう」

「そうですね、後はお家デート一回で約束は果たしてもらいますから。今度こそ安村さんをモノにして見せます」


 結衣さんは粘り強いようだ。すると、芽生さんが俺の左手をつかんで離さない。


「これが人生に三回訪れるというモテ期なのかもしれないな。良いんだろうか? 俺明日ダンジョンで死んだりしない? 」

「良いじゃないですか、モテ期。来てるうちに精々私たちを好きにしてください。私は芽生ちゃんが相手なら細かい事を気にするのは諦めました」

「そういうことです。なのでいつでもお誘いお待ちしてます」


 結衣さんがデートの話をする時に毎回赤くなっていたことを考えると、数千歩前進しているような気がする。


「俺の意思はともかくとして、俺にかまけてダンジョン攻略をおろそかにしないってのは約束してほしい。俺が原因でパーティーに亀裂が入るような事は避けたい」

「その点は大丈夫です。みんなそれぞれ奥さんと彼女いますし、むしろ私が一人だということのほうが肩身が狭かったんです。覚悟しておいてくださいね」


 横田さんと平田さんにも彼女が居るらしい。彼女いないと思ってたんだが意外だ。平田さんはともかく、横田さんの相手が思い浮かばない。平田さんはなんだかんだおしゃべり好きで人懐こい所があるからな。


「この会話もダンジョンマスターに聞かれているんだとしたら、ミルコは今頃どんな顔をしてるんだろう? 」

「それは……まぁ、実際ダンジョンの中でべたべたするわけではないんですし、良いんじゃないですかね。肝心の……その……あれを見られてるわけじゃないなら」


 今日の結衣さんは攻めの姿勢だ。下手に誘われた芽生さんに比べて攻撃的というか、積極的というか。俺の知らない間に二人の間に協定でも結ばれたのだろうか。


「そんなわけで芽生ちゃん、今度安村さん借りるね」

「ちゃんと返してくださいね」

「それはもう。二人で安村さんを私たち抜きでは成り立たないぐらいにしましょう」


 俺は果たして体が持つのだろうか。


 出入口に差し掛かると、受付で終わりましたので一層の封鎖は解除してもらっていいです、と伝えておく。受付の周りには封鎖解除はまだか、と探索者が一杯集まっている。申し訳ないね、待たせてしまって。


「安村さんだ。それと……あの人何処かで見たような気がする」

「あれは森本総理だな。総理自らダンジョンに入るなんて何があったんだろう。ダンジョンについて説明するなら高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンでも良かったのでは」

「最近小西ダンジョンは活発に稼働してるからな。エレベーターについて見に来たのかもしれない」

「でも総理が十五層まで潜るような暇はないだろう? 話題のダンジョンを直接目で確認したかったのかもしれないな」


 待っていた探索者が口々に自分の意見を言い合っている。森本総理は手を振って探索者に自己アピールしている。乗ってきた黒塗りの高級車に真中長官や高橋さん達も含めて乗り込むと、出発していった。


 用意していた机と椅子をギルド内に片付けると、もう一度ダンジョンに入るために入ダン手続きの列に並ぶ。入ダンを待ってる探索者が多い分、入場に時間がかかったが再入場する事が出来た。


「じゃあ、約束通り打ち上げしますか。安村さん達がここから下の階層でどんなものを入手してきたか興味がありますし、色々聞かせてもらってもいいですよね? 」

「答えられる範囲ならね。とりあえずまずは二十一層へ行こう。話はそれからにしよう」

作者からのお願い


皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。

続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ハーレムものの解決策としてのトレントのドライフルーツ…
[一言] もげろ
[一言] 毎日とても楽しく読ませて頂いておりました。 芽生ちゃんだけにしておいて欲しかったなぁ… 結衣さんともっていうのは気持ち悪い。
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