627:ダンジョン内会談 4/5
「まず、このスキルがダンジョン外でも問題なく使えてしまう事。そして取り出すときに物体に与えられるスピードにおそらく上限が無い事です」
「ふむ……ということは、今出した肉を高速でぶつけられてたら私たちは全員怪我を負っていたということになるかな」
「そうなりますね。それを利用した攻撃も可能です。たとえば……こんな風に」
部屋の外に居るスライムに向けてパチンコ玉を発射。パチンコ玉はスライムの核を射抜き、一発で爆散させた。おぉっと声が上がる。
「なるほど、使い様によっては暗殺者にも危険物や禁止物の運び屋にもなれる。それに、この能力を使えばダンジョンの上から下まで大量の物品を運び込むことも運び出すこともできる。いわば兵站部門として一人で莫大な荷物の量の運搬ができる。そして、その能力を公開する事で良いようにダンジョン庁に使われることを嫌った。そんなところかな? 」
真中長官がそう指摘する。
「そんな所です。黙っていて申し訳ありませんでした」
深く頭を下げる。一時的な無音が場を支配する。しばらくしたあと、真中長官が話を切り出す。
「事情については解った。スキルを隠していた事については誰も責めることはできない。誰でも秘密はあるものだしね。これだけは今確実に言う。ダンジョン庁として、兵站任務やその他の事に関して、安村さんを扱うような真似はしない。そしてこの事は重要機密事項として情報を漏らすことを禁ずる。坂野課長、そういうことでいいね? 」
「正直に言ってくれた勇気とこれまでダンジョンに尽くしてくれた貢献を考えればそれが妥当でしょう。それに、保管庫スキルを持っているからここまでダンジョンに深く潜ってこれた、という訳ではないんだろう? 」
真中長官と坂野ギルマスは正直に使った内容についてある程度詳細に話せば問題にはしない、という考えらしい。ここは素直にどう使ってきたかを話すべきだろうな。
「そうですね……レンジでアツアツに温めたパックライスを昼食にそのまま出したり、フルーツを時間加速させてドライフルーツにしたり、冷えたコーラを階層深いところで飲んだり……あれ、俺結構ろくなことに使ってないな? 」
「洋一さん、最初にゴブリンキング倒した時」
「あぁ、そうだった。最初にボスを撃破した時はこいつを高速で射出して火力として扱いましたね」
試しに手元にスケ剣を出してみせる。いきなりの武器の登場に一瞬ざわついたが、ミルコだけは涼しい顔をしている。
「安村は良い奴だよ。僕に冷え冷えのコーラをちょくちょく持ってきてくれたりするし」
「そうですな。少なくとも悪用はしてないようですし、このままこの話は無かったことにしてもいいぐらいですな」
「ん、ってことはあれかい、エレベーターが出来る前に七層に自転車置いたり布団置いたりしてたのは」
「あ、それも俺ですね。誰かがびっくりすると思って」
「悪用してますな」
森本総理の鋭いツッコミが入る。
「ただ悪いほうに作用してないのは確かかな。移動が楽になったようだし、そのせいで治安が悪くなったりはしてないようだし。ところで高橋さんに質問なんだが、彼が居た場合、清州ダンジョンはどうなると思う? 」
坂野ギルマスが高橋さんに質問を投げかける。おそらくは俺が馬鹿正直にスキルの所持を認めて、スキルの作用する効果や行える行動についてつぶさに報告していた場合、どのような可能性が見いだせたのかという事だろう。
「そうですね、我々の任務の四分の一ほどが減ることになりますね。水や食料、燃料の配送は欠かせない任務の一つですから、それが一気に解決するとなると膨大な手間の削減になります。ただそれも三十層のエルダートレントを倒せれば一息つけるだろう、というのが実情でありますし、是非とも倒したいところではあります。そのためには輸送任務にかかっている人員を前線攻略に充てたいところではあります」
正直に答える高橋さん。しかし、たった今真中長官の一言で崩れることになったわけだ。が、この年で今から自衛隊に入って基礎訓練をクリアして部隊員として肩を並べられるかというと非常に難しい所だろう。
「なるほど。つまり安村さんはこういう事態を予測してスキルの隠ぺいを決めたと。そういう事で良いんだね」
「おっしゃる通りでございます」
「だ、そうだよ。申し訳ないが清州ダンジョンの攻略にはもう少し頑張ってもらうしかないみたいだ」
真中長官が諦めてくれ、という意味で言葉を放つ。
「そのようですね。努力します」
高橋さんは短くそう答える。思う所は色々あるかもしれないが、ごめん。
「ですが、やりがいもあります。一人のスキル所持者にチームで立ち向かえば同等の戦果を得ることができる。我々はチームワークで仕事をしていますので、その点では安村さんに出来ない事も出来る。そう信じています。ですから安村さんはご自分のやり方で今後もダンジョンに挑んでください。我々は我々のやり方で清州ダンジョンを攻略して見せますよ」
チームTWYS一同が頷くと、腕を前にしてポージング。ハッと笑顔を見せてくれたことでその場の張りつめた空気が少し緩んだような気がした。
「そう言っていただけると、罪悪感も少し軽くなった気がします」
「そもそも、罪悪感を持つ必要もないんだけどね。拾っちゃったものは拾っちゃったんだから仕方ない。そのせいで背負っていたメリットデメリットはあるだろうが、便利に使えるものを使わずに過ごす、というのは結構ストレスがかかるものだよ」
逆に心を見透かされたかのように安心させてくれた。
「ダンジョンマスターとして、安村の動向を見つづけてきてこれだけは確実に言える。彼は悪意を持ってそのスキルを使ったことはない。基本的にダンジョンの目的に合致しているものだし、むやみに使って見せびらかしたりもしていない。探索中は荷物を軽くするために使ったり、テントを持ち運んだり、自分が楽をするために使っているのがほとんどだ。誰にも迷惑をかけていない、と言っていい。大目に見てやってくれないかな。彼にはダンジョンに関してもう一つ仕事をやってもらっているというのもあるしね」
ミルコがぶっちゃけついでに、と俺に課せられたダンジョン側からの使命みたいなものについて話し出す。
「ダンジョンに関する仕事ですか。具体的にお聞きしても? 」
「【保管庫】に限らず一部のスキルをもつ探索者は他のダンジョンのダンジョンマスターからもその動向を捕捉して観察する事が出来る。彼はいろんなダンジョンマスターの注目の的って事だ。いわばダンジョン攻略というショーの俳優なんだ。【保管庫】以外にも希少スキルを所持している探索者は幾人か居るが、同じく我々ダンジョンマスター業界では娯楽の一つということさ。だからそちらの都合で退場されると、楽しみがなくなってしまう。そういう面もあることも考えてほしいな」
「なるほど、彼は見世物の役割もはたしているわけですか。だったらなおさら裏方作業なぞに回すわけにはいきませんな。精々今まで通り活躍してもらいましょう」
椅子に座る三者が同時に頷いて、ダンジョンマスターからの要望を聞き入れる。
「せっかくの技術提供に対するお礼を何かしたいところですが……我々のほうから何か出来ることはありませんか」
「そうだねえ、ダンジョンへより多くの探索者を、そしてより多くのダンジョンでの活動を。それぐらいだね。例えば法的に優遇されるような制度を作るとか、そういうものがあればよりうれしいね」
「なるほど。そのような草案を考えてみることに致しましょう。今日は実りの多い会談内容ですな。色々聞いてはいけない事も聞こえてしまったが、真中さんについて来てよかったね」
「新聞の首相動静欄にどう言い訳をつけるかが気になる所ですが、その辺は上手くごまかしておいてくださいね。そこまで私にどうこう出来るわけではありませんので」
「何、真中さんの出先に同行しての会談ということにしておくよ。何かあったら真中さんに全てお任せするということで。それに、こうしてお会いできた以上、その成果を何らかの形で発表できる場が欲しい所ではあるね」
「ということは、ダンジョンマスターの存在について、我が国から情報開示に持っていく……という方向性に持っていくと? 」
真中長官はバラシちゃっていいの? という風に森本総理に聞き返す。
「先ほど教えてもらったという発電技術、これの確認と実験が終わり次第、国際特許の申請が出来るように調整して、その後というのがベターなタイミングであると考えています。その時にダンジョンマスターから技術提供を受けた、この発電システムについては日本として特許を取った上で全世界で平等に扱えるようにする予定です、と会見を開きたいね。出来れば私の任期中にそれが出来るよう、急ぎでやってもらいたい」
「まあ必要なものはおおよそ見当はついているのでそれほど時間がかかることは無いと思いますが、特許の取得に関する書面のやり取りをいかに効率化するかというあたりでしょうかね」
「あのー、一ついいですか」
結衣さんから質問が飛ぶ。一斉にそっちを見る。
「聞いてしまった以上仕方ないとはいえ、私たちみたいな民間の探索者がこんなことを知ってしまっていいのでしょうかということが一つと、安村さんが監視されてるって話ですが、安村さんが行動してる際の周りの様子についても見られてるって事で良いんでしょうか? 」
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