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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第九章:ネタバレ

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624:ダンジョン内会談 1/5

 一層に入るといつものつぷんとした感覚を覚える。真中長官は以前潜ったことがあるという話らしいし、この感覚には慣れているのだろうが、森本総理には初めての感覚だろう。


「お? いまのがダンジョンに入ったって合図かね」

「そうです。現実と異次元の境界線、というところでしょうね」

「では我々は既に異次元の中に居るのか……なるほど」


 真中長官は総理に各階層の特徴なんかを解説し始めている。総理はなるほどね、と頷きながら、所々すれ違うスライムに興味津々らしい。


「このスライムってのは私でも倒せるのかな? 」

「スライムは核を潰すと倒せますからこういう器具で以てこう、プツッと核だけ取り出してやれば後は靴で踏むだけで気軽に倒せますよ」


 とりあえず期待に応えて潮干狩りをしておく。


「子供のころよく浜で貝を集めたっけなぁ。なんだか懐かしい」


 何か思い越すような心象風景があったのだろう。森本総理が感慨にふけっている。


「このようにスライムならゴテゴテとした仰々しい装備が無くても退治する方法はあるもんです」


 熊手をクルクルと回すと腰にひっかけなおしてビシッとポーズを決める。が、誰も見てなかった。


「ちなみにこのスライムを一匹倒すといくらぐらいの収入になるんだい? 」

「平均するとダンジョン税込みで十円ぐらいですかね。ドロップアイテムが出なかったらゼロです。ただスライムには必ずアイテムを落とす秘策というものがありますのでそれを使えば一匹当たり五十円ぐらいでしょうか」

「毎分一匹倒して時給三千円ってとこか。かなりの高給取りだな、下手な官僚より多く稼いでいるんじゃないか? 」

「ただ、前準備もありますし秘策を使うには支度金もいりますし、何より腰に負荷がかかるのでそうそううまくいくとは限らないという所でしょうかね」

「以前ダンジョン庁が緊急価格改定を行ったスライムのドロップを確定するって奴です。私も実際に現場を見た訳じゃなく、動画を通して拝見したという範囲でですが、確かに特定の動作を行わせることでスライムが落とすほぼ全てのドロップアイテムを落とすという結果が解っています」


 真中長官が補足説明を入れてくれる。ここで確定情報を流した犯人は俺ですと言い出したら会談どころじゃなくなるんだろうな。


「試しにやってみますか? そのドロップ確定の現物を一応持ち歩いてはいるんですが」


 と、プラプラとバニラバーを取り出す。


「ほう、それは是非目にしたいところだね。ダンジョン界隈を騒がせた騒動の原因がここで見られるわけだ。立場上ダンジョンに立ち入ることがまず無いからね」


 どうやら森本総理からリクエストが出たらしい。それならお見せするのが礼儀というもの。


「では、ちょっとスライムを……こいつでいいな」


 少し進んだ先にいたスライムをそっと持ち上げる。きっとスライム的には急に何するの? といった具合だろうか。バニラバーを半分に折って与えると、美味しそうに咀嚼し始めたので熊手をサッと腰から外し潮干狩る。スライムは黒い粒子に還り、後には魔結晶とスライムゼリーを残していった。


「これがドロップ確定現象の全てです。この企業の……あぁ、今は海外製品も出回ってるんでしたね。特定の製法で作られたバニラバーでのみ、この現象を起こすことが可能ということになっています」

「それは何とも不思議だね。なぜこうなるかということもダンジョンマスターに聞けば教えてもらえるのかな」

「貴重な対話の機会をそれに費やすのは少々勿体ないのでは」

「下手すればギルド機能がマヒする寸前だったんだろう? 大事な質問じゃないのかね。今後同様の事柄が起こるかもしれないし、そのためには質問しておくことも重要だよ」


 森本総理と真中長官でちょっとした意見の違いが発生する。


「あー……それについては、バグみたいなもんだそうですよ。具体的にどういう作用でそうなるか、という詳しい事は聞いてませんが」

「それは君がダンジョンマスターから聞き取りを行った内容の一つ、ということでいいのかな? 」


 真中長官から確認を取られる。


「まあ、そうなります。雑談ついでに聞いてみたって感じだったので報告も上げてませんし、報告を上げたところで何かが変わるわけではないと判断したので」

「なるほど。バグか……他にもそういうバグはあるのかな? 」


 ダンジョン初体験で何事でも知りたそうな森本総理。本当にダンジョンについては深く知らないようだ。


「どうでしょう。我々はバグフィックスのためにダンジョンに潜っている訳じゃないので。ただ、特定の動作をさせるとドロップが確定で落ちる、というのは他にもありますね。こちらはダンジョンマスターが設置した仕組みのようですが」

「それも気になるね。出来れば実際に見たいところだが……どうも時間がそれを許してくれないから後で動画か何かで確認を取ってみることにするよ」

「おそらくネット上に動画として公開されているものがあるはずですのでそちらをお教えします」


 ガヤガヤと騒ぎながらスライムを横目にしながら目的の場所へたどり着いた。いつものスライムが大量に居る小部屋だ。いつも通りスライムが百匹以上うようよとしている。今日の会談場所はここだが、このままでは騒がしいので、少々掃除をする事にしよう。


「ちょっと部屋から出ててもらえます? 掃除するので」

「スライムの駆除なら我々も行えますが」

「いえ、ちょっと出ててくれれば一瞬で終わるので、どうぞお下がりを」


 全員を通路側へ放り出すと、部屋全体に広がるようにサンダーフィールドをバチッと弾けさせ、部屋の全体に電撃を通してその範囲に居るスライムを全て黒い粒子へ還す。


「お~」

「ちょっとしたお目汚しでした。楽しんでいただけたなら何よりです」


 D部隊も含め、見慣れている芽生さん以外はみんな感心している。


「今のが君のスキルかね? 【雷魔法】と言った所か」

「ですね、イメージで形や効果を変えたりできるので自分の想像力によっては結構応用が利くんですよ」


 今度は雷の玉を十ほど出して自分の周りをクルクルと回してみたりする。


「では、机と椅子をセッティングしてドロップ品を片付けたらダンジョンマスターにおいでいただくことにしましょう」


 椅子と机を並べ、会談というよりはバーベキューの一幕のような形で参加者が座る。座るのは総理、真中長官、坂野ギルマス、そしてミルコの予定だ。他のメンバーは外を向いて待機するなり、新しくスライムが現れないか確認したりしている。芽生さんには【索敵】で異常がないかを確認してもらう役に徹してもらおう。


 セッティングが終わったところで俺の仕事だ。まず注意事項だけ伝えておくべきかな。


「会談が始まる前に注意事項がありますがよろしいでしょうか」

「なんだい安村さん。何か問題でもあるのかい」

「問題という訳ではないですが、一つ参考にしておいたほうが話し合いを円滑に進められる内容ですので聞いておいて損はないかと」

「うん、多分君がダンジョンマスターについて一番よく知っているだろうからね。聞けるものはあらかじめ聞いておこうか」


 森本総理も事前知識を完全に頭にたたき入れてから来たわけではないらしい。そういえばダンジョンマスターについて事細かく説明した事も無かった気がするな。


「まずダンジョンマスターの見た目ですが、ぱっと見少年です。中学生ぐらいです。なので彼の発言は目上に対して失礼な物言いに聞こえる可能性があるかもしれませんが、少なくとも……そうですね、ファンタジー的に言えば神に近い存在にあたる人物だと言えます。そこは最低限念頭に置いておいたほうがいいかもしれません」

「なるほど、見た目で判断するなということか。それは事前に聞いておいてよかった。思えばダンジョンマスターの容姿について細かい事を聞いたことは無かったな。そこのすり合わせが事前に出来たことは良かった」


 席に着いた三人ともが頷き合い、こちらを向く。俺も頷き、頭の中の自分に向けて声を出す。


「ミルコ、こちらの準備が出来た。こちらへ来てほしい」


 数秒後、いつもの格好でミルコが姿を現す。俺と芽生さん以外は初めて見るダンジョンマスターの転移に驚きそしてミルコをみてまた驚く。


「たしかに事前に聞いておいてよかった。もし機転を利かせてくれなかったら子に接するように対応していたかもしれないな」

「ミルコ、予定がちょっと狂ったが……えっと、この場合どっちがお客さんになるんだ? ダンジョンに来たからこっちがお客さんになるのか? 」

「そちらの文明からすればダンジョンマスターである所の僕らのほうがお客さんだと言えるんじゃないか? とりあえず自己紹介はこちらからしたほうがいいだろうね。僕はミルコ。この……小西ダンジョンのダンジョンマスターだ。まずは無断でここにダンジョンを開いたことにお詫びをするべきかな? 」

「いえ、それは結構です。おかげでこちらも得るものはありましたし、今更ダンジョンがあることに文句をつけるのはもともとここを持っていた地主ぐらいでしょう。我々の立場としてはお会いくださったことにまずお礼を言うべきでしょう。私がダンジョン庁……えっと、探索者の統括と言った方がいいかな? 真中と言います」


 真中長官が音頭を取ってまずの挨拶をする。


「そしてこちらが……」

「私がちょっと予定が狂った原因の森本と申します。内閣総理大臣……簡単に言えば日本国で一番偉いという立場を拝借しています。民間人代表ととらえていただければいいかと」

「私は坂野と申します。小西ダンジョンのギルドマスター……いわばダンジョン外側の管理役です」

「これはご丁寧にどうも。では、始めましょうか」


 会談が始まった。で、この会談一体何を話すんだろう。話す内容を俺は知らないぞ?

作者からのお願い


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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] そうですね、ファンタジー的に言えば神に近い存在にあたる人物だと言えます。そこは最低限念頭に置いておいたほうがいいかもしれません がっつりサイコロは振りそうですけど
[良い点] 日本国で一番偉い民間人って表現は ダンジョン外の情報が入らない 別の世界から来た人には分かりやすいですね。 [一言] あくまでも民間人の中だってところもポイントなのかな?
[良い点] オラわくわくするぞ! [気になる点] どっちが、というかどちらも やらかしそうですね~ (*´Д`) [一言] オレに近寄るとビリビリするゼ! by 安村
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