620:三日後
朝だ。涼しい。今日は特に涼しい。冷房を消し忘れたかと思う程度に涼しい。いつものお祈りを済ませてから早速天気予報をつけると、今日は涼しいが明日はまた暑くなるらしい。どうやら今年はかなり気分屋の天気のようだ。
一昨日はオーク肉を補充しに十二層へ、昨日はカウ肉を補充しに二十層に出かけた。おかげでオーク肉は五十ほど、カウ肉も三十ほど仕入れることが出来た。それ以外の物は全部査定に出したので収入もそれなりに得ることが出来た。ウルフ肉は三桁あるし、ボア肉は何時でも取りに行ける。これだけ肉があれば足りないと言われる事は無いだろう。ビールもしっかり冷やしている。このまま当日まで冷えてもらっておこう。今日の予定は二十七層だ。
久しぶりに二十一層より浅い階層に潜ったのだが、清州ダンジョンほど目立つわけでもないが、やはりCランク相当の探索者がかなり増えたという印象を充分に与えるほどだった。
おかげで肉集めも順調という訳にはいかなかった。俺が知っている小西ダンジョンの範囲では人が近寄ることがまず無かった、森のすぐ近くのモンスターが多めに出るゾーンですら人がいる始末だった。おかげで予想された量の半分しか肉を得ることが出来なかったし、その分実入りも少なかったが、これで打ち上げの分の面目は立てることはできるかな、と言った所である。
十四層も中々の混み様で、もう一ヶ月もしたら立てたままのテントで一杯になりそうな気がしたので、テントを回収する事にした。おそらく十四層で休憩するという行為をする可能性は非常に低い。隅っこのほうで邪魔にならない所にテントを張ったのだが、それでも邪魔になりそうな気配すらあった。
それに、元々十四層のテントは本当にテントだけ張ってあり、エアマットもシュラフも全て撤収していたため、俺達が居た! という痕跡以外は残らない状態だったのも幸いし、全て背中のバッグに詰め込んで活動できる状態になっていた。
いざ用事が出来て休憩したくなったらポン立てテントを空いたところに一つ立ててそこでなにかすればいい。ここで仮眠をとる、という可能性が低い事を考えるともうそれでいいんじゃないか、というのは芽生さんの言である。
おっしゃる事もご尤もなので、テントを片付けてそのままオーク狩りに向かった。今更のオーク狩り、俺も芽生さんもスキルでも物理でも一撃で倒せるようになった相手、今更多少の相手が増えたところでどうということはなく、最も森に近い場所で狩りを続けた。他にも同じ所を回っていたパーティーが居たが、お互い邪魔をしない形で狩りを続けることが出来たと思う。高ランク探索者が下の狩場を荒らしに来た、と言われるのもあまりよろしいことではないからな。
翌日はレッドカウ狩りに勤しんだが、こっちも中々盛況だった。Cランクで足踏みしている探索者がかなり増えたのか、今までの階段と階段を往復する、という手が使えないほどにそこそこの探索者とすれ違う事になり、お互いに美味しくない状況になるという結果になった。なのでドローンを使って階段や樹木の位置を把握しながら狩りに勤しむ……という方法なら上手くいくだろうという算段を立てた。
しかし、他の探索者も同じことを考えていたのか、あちこちにドローンが飛んでいる様を見かけることになる。草原マップには空を飛ぶモンスターが居ない。そして目標物を見失いがち。となればドローンを好き放題飛ばすこともできる。
その最中に分かった事だが、ドローンが視界を取っている場合、その視野内でもリポップ現象は発生するということが分かった。ドローンを通じてマップの様子を見ながら、モンスターがリポップする様を目撃する事が出来たのである。
何とも不思議な現象だった。何もなかった空間に黒い粒子が集まり始め、やがて一定の濃度になった黒い粒子はモンスターの形を作り始め、ドローンの目の前でバトルゴートがリポップしたのである。空気中の黒い粒子が固まってリポップをするという現象はもしかしたら他の人でも目撃してる人はいるかもしれないが、俺には初めての体験だった。録画をしておけばよかったと今では後悔している。
探索者の間でもレッドカウは大人気らしく、レッドカウとバトルゴートが同じ距離にいる場合、みんなバトルゴートを後にしてレッドカウを先に倒す傾向がある事が分かった。身に着けられない毛よりも食べられる肉、ということだろうか。そもそも自分たちも肉目的で来ているのだから人の行動にケチをつけることは出来ないところではあるが……肉の買い取りは高いしな。俺も同じくそっちを選ぶだろう。
以前の記録なら一時間に七個ほど肉を仕入れられるところ、四つ取れればいいほう、という中々に厳しめの戦果の中でも飽きずに頑張った自分たちを評価してやりたいと思う。
昨日一昨日と苦しい戦果であったので今日は稼いで帰りたいところ。昨日今日と息抜きみたいな狩りをしたおかげでここらでちょっと体も心も休めよう、というのが今日のだらっとした狩りだ。と言ってもやる事は決まっている。二十九層の橋を渡りまわるか、二十七層で純粋に収入を得るかだ。
とりあえず昨日のうちに作っておいた追加のドライフルーツを保管庫から出し、いつも通り経過速度を百分の一にして中身を入れなおす。そろそろこの手間も何とかしたいな。これでドライフルーツの在庫も四桁近くなってきた。しばらく作る必要は無さそうだ。
しばらくはこのまま維持かな。荷物を一つ一つではなくまとめて出し入れする事で多少手間を省けさせては居るもののタイマーが個別設定できるようになればもっと簡単にドライフルーツが作れるようになるんだが。
保管庫の中身を整理したついでに、先日持って帰ってきたテントをちょっと干しておこう。まだそこそこ暑いおかげで日陰でゆっくりと乾かすということが出来る。今日の予報も晴れのままだし、適当に固定したまま軽く水洗い、水気を切って干しておく。夜帰ってきた時に取り込めばそれで良いだろう。
一通り作業を終えたところで今日はボア肉を照り焼きのたれで焼く。焼肉にキャベツ、それから……使い終わりに近い大根を剥いて小さくした後千切りにしてツマに。食べやすく消化にもいいだろう。パックライスも温めて弁当の準備が出来たところでいつものアレをやろう。
万能熊手二つ、ヨシ!
直刀、ヨシ!
ヘルメット、ヨシ!
インナースーツ、ヨシ!
防刃ツナギ、ヨシ!
安全靴、ヨシ!
手袋、ヨシ!
飯の準備、ヨシ!
冷えた水、コーラ、その他飲料、ヨシ!
嗜好品、ヨシ!
枕、お泊まりセット、ヨシ!
ドローン、ヨシ!
バッテリー類、ヨシ!
保管庫の中身……ヨシ!
その他いろいろ、ヨシ!
指さし確認は大事である。今日もいつも通り抜かりはない。すぐそこのコンビニでコーラやお菓子を買い足して、二十八層で捧げものをしてから向かおう。今日のおやつは何を渡そうか……たまにはカップラーメンとかでもいいかもしれない。二十八層でお湯を沸かしてその場で作って、指定時間分経った頃にミルコを呼びだす。せっかくだし高級路線のラーメンを買っておき、コンビニではフォークと箸をつけてもらった。
現地で作るカップラーメンというのも探索者からすればわびしい食事ではあるが、ダンジョンマスター的には珍しい食べ物と認識されているかもしれないし、他の探索者が食べているところを見ているだろうから、いざ食べてもらってみるのもいいかもしれないな。
おやつというには少々重たいかもしれないが、普段あれだけお菓子を供給しても次を納品するまでには全て食べてしまっている事を考えても、胃袋の容量を心配する事は無さそうだ。カップラーメンと海苔系のおせんべい、そしてコーラ。ジャンルがバラバラではあるがあまり気にすることは無い気がしてきた。
だんだん供物に慣れてきて、これとこれの組み合わせが美味しい、などと言い出すぐらいで改めて持ち込むお菓子の構成を考えることで良いだろう。それまでは味わったことが無いお菓子を色々と出して行こうと思う。禁断の粉がまぶしてあるお菓子なんかはまだお出ししたことは無いし、同会社が出してる製品同士で争いが起こるようなお菓子もまだだ。
コーラも何種類かあるし、今度飲み比べみたいな感じで色々渡してみるのも面白いかもしれないな。このお菓子も交際費ということで経費で落ちるように後でレシートは別にしておこう。
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