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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第九章:ネタバレ

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615:会談前打ち合わせ

 涼しい。久々にそう言える朝だ。冷房をつけっぱなしにせずに寝たが途中起きることが無かった。今年は急激に秋が来るらしい。というよりは、冬の準備を既に始めているような、そんな気温差だ。例年なら夏の暑さが十月ぐらいまで続くものだが。


 今はまだ九月の頭。それでもこの朝の涼しさはどうだ。だが、日中はまた気温が上がるのだろう。ダンジョンに潜っている間なのでどれだけ日中が暑くなってくれても仕事にそう関わりは無いが、仕事が終わって家に到着した時のムワッとした感触があるかどうかの違いぐらいか。


 いつもの朝食を食べて昼食の準備だ。いつも通り気軽に持ち運べるような胃に詰められるものを準備してしまう。サンドイッチ系は一通り作ったな。BLTサンドのベーコンの代わりに各肉を使った一品はもう作った。


 今日は鶏肉の切り落としを使った照り焼きにした。多少喉が渇くかもしれないが、水分はちゃんと持ち込むので味のほうを聞いてみよう。その後でそれぞれどの肉に何がベターなのかを確かめてみることにしよう。予想では鶏肉の次に馬肉が一番なじむと思うんだがな。


 いつも通り二人で三人分ほどを準備すると、今日の昼食の準備はできた。後はラップに包んでまとめて保管庫へ。着替えると点検開始だ。


 万能熊手二つ、ヨシ!

 直刀、ヨシ!

 ヘルメット、ヨシ!

 インナースーツ、ヨシ!

 防刃ツナギ、ヨシ!

 安全靴、ヨシ!

 手袋、ヨシ!

 飯の準備、ヨシ!

 冷えた水、コーラ、その他飲料、ヨシ!

 嗜好品、途中で買うのでヨシ!

 枕、お泊まりセット、ヨシ!

 ドローン、ヨシ!

 バッテリー類、ヨシ!

 保管庫の中身……ヨシ!

 その他いろいろ、ヨシ!


 今日もおやつをコンビニで見繕っている。昨日のお礼にミルコにも捧げておこう。袖の下は通せるときに通すのが一番だ。後自分の分も気になった物を数点放り込むと会計、そこからスキを見て保管庫へ。自宅近くのコンビニだとこれが他人の目線が少なくて済むので便利だ。小西ダンジョン近くに出来たコンビニは小西ダンジョンの営業時間の都合もあって、開場までの時間は混むし他人の目が多すぎる。


 不便でもあり便利でもあり、足りない物を買い足しに行くにはちょうどいいが持ち運びを考えると難あり、という感じだ。


 バスで芽生さんと合流し、小西ダンジョン前まで横に座る。


「昨日結衣さんから連絡が無かったので、今日か明日ぐらいに一度戻ってくるんじゃないかと思うんだよね。その時に打ち合わせしたいからちょっと二、三日は日帰りで行く事になるけどいいかな? 」

「そっちの方が大事ですからね。いざ当日になって連絡が間に合いませんでした、とかだと申し訳が立ちません……とはいっても、会場って一層なんですよね? 索敵で周囲を確認しながら護衛するってのじゃダメなんでしょうかね」

「それで良いとは俺も思うんだが、政府高官のご招待って形だからな。俺たちはダンジョン慣れしてるから良いが、真中長官は初めてかもしれない。多少の不安を取り除くためには人が増えても仕方がないと思ってる……が、なんで新浜パーティーをほぼ名指しで指名してきたか、という所だ」


 疑問は確かにある。なぜ結衣さん達をほぼ指名の形で護衛として要求してきたか。


「そこは坂野ギルマスの希望があったと? 」

「うーん、多分だけど間接的に引き抜きをかけたいんじゃないかな。彼女たちも二十一層まで潜ってる記録は残ってるわけだし、小西ダンジョンとしても自分のダンジョンに利益をもたらしてくれるのがほぼ決まってるようなもんじゃん? きっと会談の内容をこっそり聞き取らせることで小西ダンジョンで活動せざるを得ない何かを教えてしまうとか、やり口はありそうな気がするんだよね」

「そこまで考えてますかね、あのギルマス」

「ああ見えて結構考えてるぞ。自分たちを見てみろ、なんだかんだでそこそこ深くまで潜ってしまっている。誘導されたわけではないが、何となくギルマスの期待に添うような形で協力をしてしまってる以上、もう小西ダンジョンから離れられないのかもしれないな。自分達だけ二十二層以降に潜れる、という話の流れになってしまっているということは、暗に潜ってこいという示唆だ」

「そういえばそうですね。別にBランクになったからって二十二層以降に潜る必要はなかったとも言えますね。意識してませんでした」


 意識せずそういう形に持っていくような自然に誘導する。何となくそういう特殊技能があのギルマスには有る気がする。自分たちが稼いで帰る金額を目的に唯々深く潜っているだけとも受け取れるが、そもそも自由に探索しても良い、という条件とそれなりにスムーズなBランクへの昇級。


 これらをこちらが勝手にもっと深く潜って来いと受け取ってしまったのかもしれないが、いずれにせよ内緒とはいえ三十層のボスを倒すまで潜ってきてしまっているに違いは無いのだ。


「冷静に考えるとあのギルマスは相当の狸か、天然の人たらしである可能性が高いな。伊達に管理職やってないってところだろう。普通なら職務怠慢で他の職場に回されたり降格させられてても不思議じゃない。そうならないあたりにあの人なりの能力があるんだろうな」


 バスが小西ダンジョン前に止まり、バスを降りる。さぁ入ダンするか、というところで結衣さんからのレインが入る。ベストタイミングと言えばベストタイミングだな。早速直接通話に切り替えてそのままギルマスルームへ行く。


「もしもし結衣さん? 送った通りの話があるんだけど」


 中に入るとジェスチャーでギルマスに連絡がついたことを伝える。


「ダンジョン庁の長官護衛ですか……私たちで良いんですか? それ」

「ちょっと待ってね……ほい、ギルマス、パス」

「ほい、受け取った。もしもし、私、小西ダンジョンの坂野です。お久しぶりですね」


 俺のスマホでそのまま話し始めるギルマス。話が終わるまで身動きが取れないということを失念していたので仕方なくそのまま逗留し、コーヒーサーバーから勝手にコーヒーを拝借、芽生さんの分も淹れる。


「えぇ、そういうことです。こっちが会場でやりますが、ある程度事情に明るくて実力があって、小西ダンジョンに土地勘があるパーティーって事で……実際に日取りはまだ決まってないんですが出来るだけ近いうちに、ということは確定しています……はい、ダンジョンマスターのほうにはもう話は付けてあるので後はこちらの都合だけということになるので……えぇ、ですから予約という形になります……あ、ちょっと待ってね」


 ギルマスがスマホを戻してくる。


「なんか言いたいことがあるみたいだけど」

「そうですか……もしもし、用事って? 」

「条件があるからそれを安村さんが呑んでくれるなら付き合おうかなという話らしいよ」


 結衣さんから何かしらの条件があるようだ、俺個人に。


「俺の出来る範囲でなら話を聞くことにするよ。何? 」

「そうですね、お家デートなんかいいかもしれませんね。後は、会談が終わった後二十一層で打ち上げしましょう。それが条件です」

「お家デートか……横で芽生さん聞いてるんだけどそれはいいの? 」

「良いですよ、じゃあ了承されたって事で良いですね。もう一回坂野課長に変わってください」


 お家デートを強制されてしまったようだ。これはあれかな、手を出せって暗喩なのかな。芽生さんのほうを向くと目が据わっている。怒っては……いないみたいだ。ただ何か引っかかるものがあるというのはぬぐい切れない。とりあえずギルマスに再びスマホを渡すと、また会話の続きを始めた。


「じゃ、決まり次第予定を送るということで良いですね。はい、安村さん経由で確実に送ってもらうようにする予定ではあります。それまではちょっと不便をさせてしまう事になりますが、そこはどうか……はい、はい。ではよろしくお願いします。じゃあ安村さんに戻しますね」


 ギルマスからスマホが帰ってきた。


「受ける事に決めました。なので打ち上げの準備はお任せします。人数分の食材と特にお肉、お願いしますね」

「解ったよ、今のうちにため込んでおく。じゃあ連絡するまでよろしく」


 通話を切る。今頃結衣さんはどういう表情をしているんだろうか。


「安村さんも隅におけないねえ。すぐ隣に相棒ちゃんがいるのに二つ返事で了承するのもどうかと思うけど」


 芽生さんのほうを見るのが少し怖い気がする。そっと芽生さんのほうを見ると、いつもの表情に戻っていた。さっき一瞬目が据わったのは何だったんだろう。そして今何故落ち着いているんだろう。理由が解らないぞ。

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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
一歩リードした事を連絡済みだったかどうか・・ ラウンド2ファイッ!
[一言] これは後でシメられてもしゃーない
[一言] 修羅場か、修羅場が発生してしまうのか!?
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