605:実質半休
おはようダーククロウ。まだまだ効果的であることを保証された神……いや、ダンジョンの遣わした魅惑の布団で目覚める。昨日は考え事をしている間に寝てしまったようだ。寝る前の事を思い出しながら朝食を作って食べる。
食べ終わって昨日考えたことをメモに書きだし、その前に考えていた事と照合。違いを洗い出して、情報を繋いでいく。
大まかな戦術は決まっている。後はぶっつけ本番で細かい調整を入れるだけ……と考えれば気は楽だが、その分現場での苦労が多くなるので、事前準備は出来るだけやれるうちにやるほうが最終的に楽が出来るのでお得だと考える。
今日は探索はお休み。なので布団屋へ羽根の納品をしたら明日の昼食を考えて買い出しと、残りの時間をすべてエルダートレント対策のシミュレーションに費やす。
休みの時まで仕事の事を考えるのを心の残業と呼ぶらしいことを最近知る。そうなると俺はずっと残業をし続けていることになるのか。なんとも仕事人間に育ったものだ。
ネットニュースを見たら衝撃とも言っていいニュースがあった。他所のダンジョンでもエレベーターの設置が行われたらしい。場所は……どこだ? 地名でパっと浮かび上がるほど他所のダンジョンに詳しくないので解らないが、少なくとも東海地方ではない事は確かだ。
エレベーターは小西ダンジョン特有の移動設備ではなくなったようだ。探索者の移動と周辺開発がまた進むんだろうな。そしてエレベーターが設置できたという事はダンジョンマスターの説得に無事成功したらしい。よく説得できたな。もしかしたら事前情報をあらかじめ知らせておいて、倒せたらこのように説得を行ってほしい、と当該ダンジョンのギルマスが探索者に言い含めて攻略させた可能性もある。
小西ダンジョンにエレベーターが出来て二ヶ月ほど経つが、エレベーターの設置と検証、それから利用方法についても徹底して調査した結果としてニュースでの公表になるのだから、元々そう大きいダンジョンではないんだろうな。それこそ小西ダンジョンみたいな地方の零細ダンジョンの可能性が高い。
最新版のネット地図を見て場所を確認する。どうやらそのダンジョンは東北地方にあるらしい。宮城県と岩手県のちょうど中間あたりに出来たそのダンジョンは東北新幹線の駅から乗り換えて一駅のうらぶれた田舎って感じ……そこについては小西ダンジョンも人の事は言えないが、駅前すぐという意味では小西ダンジョンより利便性は高そうだ。きっと新幹線駅から直通のバスか何かも出ていくことになるだろうし、自家用車で通勤するのも自動車道のインターがそれなりに近くにある都合上難しくないだろうな。
距離計で計測してみると、東北自動車道から下りて車で三十分以内の距離にあるらしい。新幹線の駅前にも宿泊設備はあるだろうしダンジョン周りを再開発するにも空き地は多そうなのでこの先栄えていく可能性は充分ありそうだ。
どうやらあっちのダンジョンは七層と十四層に止まるらしい。その先について触れられない事を見ると、まだ到達していないのか、それとも俺みたいにこっそり潜っているのか。どっちかは解らないが俺みたいな奴が他のダンジョンにも居るというのは親近感がわくな。
この先他のダンジョンでもエレベーターは設置されていくんだろう。それも、あまり進捗の喜ばしくないダンジョンのほうが早く、だ。進捗がある程度進んでしまっている大手のダンジョンほどエレベーターの設置は難しいかもしれない。もしくは、ダンジョンマスターと既に誼を通じているダンジョンならこっそり使っている可能性すらある。
もしかしたらもっと多くのダンジョンがすでにエレベーターの存在を認知していて、公開していないだけかもしれない。可能性は色々考えられるが、少なくとも小西ダンジョンだけにエレベーター狩りの負荷がかかるという事態は低くなりそうではある。既にこちらに定住する気満々のパーティーはともかく、関東以東の探索者にとってはそっちのほうが近く行動しやすいかもしれないが……東海道新幹線の足の速さを考えると微妙な所ではあるか。今後の地方創生事業に期待ってところだな。
◇◆◇◆◇◆◇
良い時間になったので布団屋へ連絡、エコバッグに羽根を詰め替えて布団の山本へ。今回は八キログラム、手持ち全部を放出しての取引となった。締めて二十七万二千円。俺の取り分は十九万四百円だ。
いつも通り、次はちょっと先行き不明であることを伝えるとどうやら羽根を仕入れる伝手を自分なりに開拓したらしい。どうやらエレベーターを使って上手い事運んでいるグループがあるようで、探索者を俺以外に確保してそこからの仕入れも試みているらしい。少し寂しい気もするが、俺一人が独占していた茂君を俺以外が倒すことができるならそれに越したことはないんじゃないか、とも思う。
「何にせよ、安定した供給が為される事をお祈り申し上げます」
「安村様のほうも、どうぞいつでもお持ちになってください。無理をせず、出来る範囲で構いませんので」
店長も別に俺に当てつけて他の探索者の話をしたわけではなく、他からも仕入れてるから無理に探索行程を変えてまで持ってこなくてもいいですよ、という意味で話したんだろう。これでエルダートレントにより集中できるな。
保管庫もきれいになったし臨時収入も手に入った。後は取り分を芽生さんに渡せば後顧の憂いは無い。昼食に近くのファミレスで丘盛りポテトを二皿とサラダとチキンステーキを頼んで気合を入れる。
チキンステーキにナイフを入れながら考える。このナイフを雷撃で加熱すれば、きっと切り口から焦げていく。試しにナイフを差し込んだままピシッと軽めの雷撃を入れると、ジュワッとソースが蒸発し、若干焦げたことによりソースの香りがより際立つ。これを巨木規模でやるためには……ナイフの形に軽く焦げ目がついたチキンステーキの側面を見て考える。これを全面で出来れば全部焦がせるんじゃないか。やはりこの手だな。
焦げたチキンステーキと丘盛りポテトを胃に詰め込んで、少し苦しくなったところをサラダで消化を促進させつつ、食事量に満足して家に戻る。
家に着いて休憩だ。まずは胃袋の中身をしっかり消化させて、ボーっとした頭を落ち着かせる。三時間ほど睡眠をとり、さっぱりしたところで水分を補給しながら続きを考える。
全面に対してナイフを突き立てるにはどう動けばいいだろうか。最初に後ろから回り込んで……いや、ダメージを当て続ければいずれはこっちを向くだろうから、背中から数えて二百七十度の角度に関しては何とかなるな。残り九十度分、芽生さんに囮になってもらって気を逸らしてくれれば残りの面にも突き差し切ることができるだろう。
その後は正面からお互いに蔓と雷撃の勝負になるか。雷撃が何分持たせられるか……そこで勝負が決まる、な。
ドライフルーツを口の中に仕込んでおいて、順番にかみ砕いていけば持続力は上がる。試しに口の中で邪魔にならない程度に……そうだな、舌の裏にでも入れてみるか。
試してみると四枚程度までなら問題なく含んだままでいられることが分かった。過去の調査から考えるとプラス二分ほどは全力雷撃をし続けることができる。その後も芽生さんからの供給ももらえれば長く続けることができるだろう。後はどれだけ妨害が来るかだけを予測しておかなければならない。
蔓の太さはどのくらいになるのか、威力は、蔓の本数は。未知数の事が多すぎる。そこだけは一発勝負だな。もし芽生さんで対応しきれないなら俺も全力雷撃を少し緩めて雷撃を横飛ばしする事で支援は出来ると思う。その分限界時間が早く来てしまうが、芽生さんとエルダートレントの撃破を天秤にかければ芽生さんを取るに決まっている。
そうなった場合、芽生さんが自力復帰できないほどの怪我を負う可能性が生まれてきた場合はまた撤退するのが大事だろう。後は……考えることが色々ある……色々あるが考えが上手くまとまらない。同じことを堂々巡りで考えている気もする。
一旦頭をリセットする。そして同じことを考えている頭を落ち着かせるために頭から冷水を浴びる。よし、シャキッとした。
とりあえず決まった工程を紙に書きだす。そして自分で読み上げ、違和感や抜けが無いかを他人視点から確認する。よし、これでいいな。夕食はちょっと豪華にかつ丼でも食いに行くか。
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