602:エルダートレント
階段はすぐ見つかった。橋を渡って、北東側に二十分ほどの距離にあり、ドローンですぐに見つけることが出来た。解ってる以上むやみに動くのも時間の無駄なので、しっかりと水分も取って万全な状態にする。
昼休憩が終わると階段のほうに向けて歩き出す。方向は解っているし道中には何も居なかったので気楽なものだ。スライムも居なかったので少し寂しくはあるが、ともかく目標の三十層階段は発見した。帰り道はもっと手早く進めるだろう。
三十層への階段を下りる。マップが変わるとはいえ同じ構造のはず。という事はやはり森から始まるんだろうな。階段を下りていくとやはり薄暗い場所に出た。どうやら三十層も森スタートらしい。考え方を変えれば、森スタートのほうが平地側スタートよりも後で迷う心配がない分だけ楽なのでは? とも思う。最初の森さえ抜けてしまえばあとはどうとでもなる。
さて、早速まずは階段の周りを……まわ……ま……なんだあれは。巨大なトレントが空にそびえている。三十メートルはあるだろうか。これか、これがボスなんか?
「でかい、な……」
「距離感がバグりますね。とりあえず眺めてる間に周囲のトレントを処理しましょう。それからゆっくり眺めればいいです」
「そ、そうだな。よし、まず周囲確認……あれ、リンクして襲ってこないよね? 」
「襲ってこない事は動画でも確認したから大丈夫じゃないですかね」
とりあえず階段の周りに居るトレントを確実に倒し、その後で木の隙間から見えるエルダートレントらしき物体をガン見する。
エルダートレントは動いていた。とてもゆっくり、に見えるんだろうが、実際にはかなりの距離を移動していると思われる。移動に巻き込まれて踏まれたら一発で終わるな。後は体から蔓が生えているのが見える。ここから見える太さの蔓という事は、トレントに比べて太いんだろう。あれ、倒せるのか? そもそも倒れるのか? ボス戦が強制イベントでなくてホッとしている自分が居る。
「ふむ……むぅ……うぐぅ」
「あれはちょっと倒せる気がしませんね。攻略法は思いつきましたか? 」
「はっきりは言えんが……あれが普通のトレントと同じ構造で出来てるなら、木の根元と本体を切り離すことが出来れば倒せると思う。ただ実際に近寄ってみないとどのくらいの太さか解らないし……近寄ってみる気、ある? 」
「間近で見たいという気持ちはありますが今日のところはもし近づいてきたら見る、程度にとどめておいたほうが良さそうですね」
今日は何も見なかったことにしようかな。ダメだろうな。エルダートレントに対しては対処法が思いついたら戦う事を考え始めよう。今日は出来る範囲の事を出来るだけやる。まずは……どっちへ行ったらいいだろう?
頭の上は晴れている。つまりドローンで周りを見回すことができるという事だ。まずは森の切れ目を探すところから始めるか。
周辺のトレントは排除できているし、仮にエルダートレントがこっちに反応したとしても、この距離では問題ないだろう。よし、飛ばすぞ。
◇◆◇◆◇◆◇
可能な限り探った結果、南西方向に少し森の開けたような場所があることが分かった。問題があると言えば、そちらにエルダートレントが居る、ということだろうか。
「というわけで、奴がいる方向に行きまーす」
「あんまり行きたくないんですけどー? 」
「行くだけ、行くだけだから。ついでに見物をしたいという気持ちは嘘ではないけど、手を出すには情報が足りない。今回は前のボス戦みたいに称号が欲しいという訳じゃない。称号貰ったって木こりとか与作なんて二つ名欲しくないだろ? 」
「与作が誰かは解りませんが、確かに今更二つ名貰ったところで特に意味があるとは思えないですね。エレベーターが各階層ごとに使えるようになるというわけでも無さそうですし」
与作は通じないのか……時々古いネタにも反応してくれる芽生さんだが、どうやら偏りはあるらしい。ただ、倒せたらまたダンジョンマスターから何らかのアクションがある可能性は高い。いまだに貸し一つある状態だが、貸しを二つにするチャンスでもあるのか。そうなると倒す意味はあるっちゃあるな。
「とりあえず、開けた土地に出そうな方向には率先していく。それがここのマップの攻略法の気がする。行ってみなければ解らないがとりあえず向かおう。たとえ橋から遠かったとしてもそれは何日か後の自分らにとって得にはなるはずだ。ドローンで見える範囲だからそう遠くも無いし」
「結局、エルダートレントが見てみたいだけなのでは? 」
「そそそんなことないよ」
是非根元でマジマジと視姦したいとかそんなことはないんじゃよ。本当なんじゃよ。嘘だけど。
エルダートレントの足元にたどり着くまでに居るトレントを順調に焼きながら倒していく。足元にたどり着くまでに二十体ほど倒した。エルダートレント自身も動き回っているため、追いかけるにも結構手間が必要だ。
エルダートレントが足を止める。どうやら自分の周りのトレントの数が減っている事に気づいたようだ。そしてこちらもエルダートレントの足元に到着する。
デカイな。キレてる。そういう感想がまず最初に思い浮かぶ。幹の太さも二メートルから三メートルある。とてもじゃないが物理的に斬れる太さではない。おそらく堅さもトレントよりも一枚二枚上手だろう。さて、どこをどう攻めるか……
「でっかいですねえ。顔まで飛び上がって攻撃をするのは諦めたほうが良さそうですね」
ジャンプでも届かない高い所に顔がついているのを見て感想を漏らす。そうだなあ……と目線を上に揚げると、エルダートレントと目が合った。こちらを睨み付けているわけではない。どちらかというと見下してる、という風だ。実際見下すような位置に居るので仕方は無いが。
これだけでかいと自然回復力も高いだろう。生半可な攻撃をしたところでダメージは入らないだろう。入らないどころか、完全無視される可能性だってある。どうすればこっちに意識を向けてくれるか、から考えなきゃいけないな。
「何かいい案は浮かびましたか? 」
「今のところ何も。とりあえず普通のトレントの倒し方で色々考えてそれからかな。今日のところはガン無視してくれることと、射出しないとまず傷一つ付けられそうにない事が解っただけでも収穫かな。本筋の三十層探索に戻ろう。時間は……まだいけるな。開けたところでドローン飛ばして、そこまでは出来る。その後は微妙な時間になるから折り返しだ」
今日の目標であるエルダートレントの視認は出来た。三十一層の階段は拝めなかったが、何日かかけて探索すればまた橋があって向こう側に階段があるだろう。
「ここから先は時間かかりますから宿泊申請のお時間ですかね。さすがに二十九層が広すぎるおかげでここまで来るのに大体三時間として……途中休憩どうやって取りますかね」
「交互に仮眠する、ぐらいしか思いつかないな。あとはトレントの実のお世話になるぐらいか。あれは疲れが取れるからな。まだあまりお勧めできないが、栄養ドリンク飲んで無理やり行軍するようなものになる。毎回使いたい手ではないから、三十二層を抜けるまでは普通の休憩にしておきたいな。ここは森と川に近づかなきゃスライム以外に脅威になるモンスターは居ないし」
「ここにきてまともなダンジョン探索方法を模索するとは思いませんでした。もっと清州ダンジョンで練習しておくべきだったかもしれませんね」
「かといって今更浅い層に潜ってキャンプ練習というのもなんだかなあ。とりあえず三十二層を突破するまでは一泊安全な所にキャンプ張って交互に仮眠、三十三層以降はまた別で考えるのが良さそうだ」
エルダートレントがもぞもぞ……実際はもっと豪勢にだが、それ以外に擬音が思い浮かばなかったのでもぞもぞと表現するが、ずももも……といった感じで動いて去っていく。歩く速さは素早くはない。こうして時々見守ることでエルダートレントの動きを学習していこう。戦うのは……まだ早い。
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。





