6:初日の成果
ダンジョンで潮干狩りを
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しばらくして、腰の痛みが引いて動けるようにはなった。スライムしかいないので襲って来る者もおらず休憩してても危険がないのが助かった。
次こそは奴に勝って見せる。
そう気合を入れた俺はスライムを探してみたが、さすが地方のダンジョンで人気が少ないおかげでかわざわざ気合を入れなくてもその辺に一杯ぽよんぽよん転がっていた。
「よし、今度こそ倒してやるぞ」
意気込みを新たに、目の前で跳ねている新しいスライムに目標を定めた。
ゆっくり近づいて目の前に来たところでもう一度バールを振り下ろす。今度は狙った場所に当てることができた。
スライムは体の中にある核が弱点である。
スライムの核はほぼ一定の場所にあるわけではなく、定期的に核の位置が移動するようだ。
打撃はほとんど通じないが、正確に核をとらえて攻撃することでスライムは黒い光とともに粒子化消滅するんだと、講習会で習った。
その通りの現象が目の前で起きている。不思議なもんだ。
スライムが消えた後に何か石が落ちている。これが魔結晶と言うやつだろうか。
黒くて小さい、黒曜石にもよく似た輝きをはなっている。
それとゼリー状の物体が一つ、謎の容器に入った状態で落ちていた。確かスライムゼリーって呼ばれてたな。何に使うかはあとで受付で聞いてみよう、何か教えてくれるかもしれない。
それ以外に何も出て無いことを確認すると、俺は一息ついた。
「スライム一匹倒そうとするだけでこれか。でも何事も慣れだな。次は上手くやろう」
俺は次のスライムを探すために、地図を頼りに歩き始めた。
じっと見ていると非常にかわいいスライムではあるが、俺の生活費のためだ。申し訳ないが養分になってもらう。現実は非情なのだ。
◇◆◇◆◇◆◇
おそらく、ダンジョンに潜り始めてから一時間ぐらいたった。
ダンジョン内は電波が通じない。
次元が違うからというのが通説だが、スマホの電波も通らないので、電波時計の電波も通らないらしい。やはり有線は勝つる。そのため、わざわざ千円払って電池式の腕時計を手に入れておいた。きっちり時間を計らなければいけないという事は無いだろうが、うっかり狂ってしまって閉場時間に間に合わないと困るからな。
スライムを倒すため、俺は攻撃方法を変えることにした。
スライムを見つけたら核をバールの先で引っ掛けて取り出して割るという戦法だ。
そのへんをぽよんぽよん歩いているスライムに目をつけると、またそろそろと近づいて、バールの先っちょだけをうまく核のあたりに振り下ろし、バールの釘抜きの部分で引っ掛けることに成功した。
すると、スライムの体内から核だけがポロっと転がり出る。
その核を俺は靴の底で踏みつぶした。
するとスライムは黒い粒子となって消滅した。
今回は何も落とさなかったらしい。しかし、これで俺は効率的なスライム狩りの手段を手に入れたことになる。
このテンポでどんどんスライムを駆除していこう。
バールをスライムのセンターに入れて核を引き抜いてつぶす。アイテムが出たらひろう。
スライムをセンターに入れて核を引き抜いてつぶす。アイテムが出たらひろう。
俺はひたすらこの作業の繰り返しをしていた。
近くで戦闘を行うと時々複数のスライムがこちらに向かってくることもあったが、流れ作業として認識していた俺にとっては近づいてきた順番に同じ作業を繰り返す。
この作業……クビにされた仕事でやってた目視検査のライン作業に似ている!
ひたすらじっとベルトコンベアを見つめ、不良品があったらピンセットで弾き出す。
これを人力で八時間延々繰り返すのだ。正直苦痛である。
この作業をしてた時は、ある種の才能がないとこの仕事は務まらないんじゃないかと思っていた。なんせ、ひたすら流れてくる商品を見つめているのだ。目は回るし眠くもなる。時々寝てしまってピンセットを落とし、その音でハッと目が覚めて再びその作業に没頭するのだ。
だんだん感覚が麻痺したせいか、楽しくなってきたぞ。
脳内麻薬が分泌されるような快感を覚え、俺はただ無心にスライムを狩り続けた。
◇◆◇◆◇◆◇
気が付くと時間は十八時を回っていた。どうやら六時間近く作業に没頭していたらしい。背中に背負っていたリュックには入手できたアイテムがそれなりの数溜まっていた。
確かな重さを確認した俺は出口へ向かうことにした。多少の疲れはあるものの一仕事終えた気分で胸が一杯だ。さぁいくらになるのかな、楽しみだ。
出入口に差し掛かり、例のつぷんという感覚を覚えると、とたんに体に疲労が襲い来る。よほど集中していたんだな。
出口で探索者証を取り出し退出時間を記入する。入るときに対応してくれた人が手続きをしてくれた。
「結構長い間潜られてたんですね。体のほうは大丈夫ですか?」
「今のところ疲れたぐらいですかね。スライムにちょっとたかられたぐらいですがツナギしっかり着込んでたんで傷を受けたりはしてないみたいです」
「それは何よりですね。また気が向いたらダンジョンに潜ってください。初日だけ入って二度と来ない人って結構居られますので」
「はい、今日はお世話になりました」
短い会話を終えると俺はプレハブのギルドのほうへ向かうことにした。
◇◆◇◆◇◆◇
探索者ギルドと言うのは通称で、正しくは「ダンジョン庁管理部事業課」と言う。
主な業務内容は探索者からの成果物の査定・支払い・ダンジョン内情報の提供等、主にフロント作業を担当する。
査定部門は買い取る品物が多岐にわたるため、そこそこ多い人員が働いてるようだ。
奥で暇そうにしているのは過疎ダンジョンだからか。
受付に行くと、ショッピングセンターのインフォメーションセンターに居るような感じの女性が応対してくれた。
「今日初めてダンジョンに潜ったのですが、こちらでドロップ品の買い取りをしてくれると聞きまして」
「あぁ、それは査定カウンターのほうのお仕事ですね。まずはあちらの査定カウンターのほうへ行っていただき、そちらでドロップ品の査定を受けてください。査定が終わったら買い取り表をお渡ししますので、それをこちらへもってきていただいたときに買い取り分のお金をお渡しいたします」
どうやらこっちは査定じゃなく支払いのカウンターだったらしい。たしかに、査定と支払いをまとめて一か所のカウンターでやるのは効率が悪そうだもんな。
査定カウンターのほうへ行くとまた別のお姉さんが対応してくれた。
「それでは査定を行いますのでー、希望する物をこちらへお出しくださいー」
ザラザラザラーっとスライムのドロップ品をカウンターに出す。初日にしては頑張ったほうじゃなかろうか。
「数を数えますので少々お待ちくださいねー」とさっそく数を数え始めた。
目の前で査定を行わないと、査定時に盗んだ盗まないの言い合いになることが初期にあったらしく、それ以来ちゃんと目の前で査定するように定まったらしい。大変だなぁ。
しかし慣れているのか、ものすごいスピードで捌いていく。
これも前の仕事場でやった選別作業に似ているな。原料の大きさで出荷先が変わるので、一目見て大きさを判別し、それぞれの大きさを基に別の箱へ入れていく。TVで見た果物の出荷場で似たようなことをやっていたがそんなイメージであってるだろう。
待ってる間手持無沙汰なので、ちょっと質問をしてみようかな。
「初めてダンジョンに潜ったのですが、このスライムゼリーってどういう用途に使われてるのかご存じですか?」
お姉さんにダメ元で尋ねてみる。
「あー、これはですねー。化粧品の化粧水に混ぜたりするらしいですよー。うるおいとハリを与える効果があるとかでー、ダンジョン産を謳ってる安い保水液には大体これが少量混ぜ込んであるそうですよー」
「じゃあそこそこ需要があったりするんですかね?」
「スライムですからねー。誰でも倒せるようなモンスターですから供給のほうが上回ってたりした時期もありますけどー、今はそこそこバランス取れてるんじゃないですかー。おじさんみたいに初めてダンジョン入った人が取ってきてくれますのでー」
「なるほど、じゃあなんか頑張った感じがしますね」
「そーですねー。初めて潜られたにしてはちょっと多めかもしれませんねー」
◇◆◇◆◇◆◇
どうやら数え終わったらしく、パソコンにササっと数を入力すると、バーコードの印字されたレシートを手渡してきた。
「これをもってあっちの支払いカウンターへ行けばお金になりますからねー。税金はもう天引きされてるので、そのお金はもう綺麗なお金、クリーンマネーですよー」
まるでダーティなマネーが行き来するような言い様である。そのまま支払いカウンターにレシートを持っていくと、バーコードを読み取り金額が表示される。俺は四千円ぐらいの今日の稼ぎを手に入れることができた。
前の職場の日給には及ばないけど、それなりになったんじゃないだろうか。初日としては上々の成果だと思っておこう。酒はあまり呑まないのでこの後冷えたビールで乾杯という趣味も無い。なんかいいもの食うことで英気を養っておこうと思う。
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