595:名前は可愛いケルピー
小道をそのまま道沿いに真っ直ぐ進む。中々森の切れ目みたいなものは姿を現さない。方位は……微妙に東へずれてきている。このまま東に抜けきるんだろうか。
この森の茂り具合ではドローンも迂闊に飛ばせない。周りが全部トレントに囲まれていて、全て木こることで小さな広場でも作れたなら別の話だろうが、今のところそういう感じではない。ここでドローンを飛ばすにはまず森を抜ける必要があるな。
まずは正規ルートを見つけて、正規ルートから沿うように抜け道を探す。まずはその正規ルートに近いような道を探さなければならない。というわけでこの小道を選択したんだが徐々に不安になってきた。
「道、まだ続きますね」
「だんだん自分の選択に自信が無くなってきた。本当にこの道で良いんだろうか」
「こんなマップですし、一発で正解引けるような事がそうそうあるわけないじゃないですか。次は次で潜りましょう。ダンジョンはまた来れるんですし」
芽生さんの励ましを受けながら道を進む。さらに三十分ほど進んだところで、森が終わり始めた。結構長かった。
森を抜けるとそこは川のすぐ近く、川には目の前に橋こそないものの滝があり滝の落ちる先は小さな泉のようになっている。泉の中には二、三どころではなく複数のモンスター反応がある。どうやらこれ以上川上に行くのは厳しいらしい。
「居ますね」
「居るな。さて迂闊に近づくとまとめて寄ってくる可能性もある。どうしたもんか」
「ここで無理に手を出さずに、まずは橋を探すために南下しませんか。その道中でもう少し数の少ない所を見つけてそこで初戦闘という事にしましょう」
「そうするか。しかし気になるな、どのぐらいの強さなのか」
「一体ずつ釣りだす方法も確立してるわけではないですし、うっかり雷魔法で全部来られても対応しきれないかもしれません、ここは安全策で行きましょう」
芽生さんの言う事が尤もなのでここはその安全策を取る。川沿いに南下し、橋を探す。歩いてきた方向と距離を考えると、一時間分ぐらいは真っ直ぐ川に沿って歩いても、真西に森へ向かえば小道と合流できそうである。
暫く川沿いに、索敵を強めつつ南下すると、ちょうど良い感じの川幅でこっち側に寄ってきているモンスターを二体、感知できた。ここが戦いどころか。
「丁度一対一で良さそうだ。さてどうやって釣りだすかな」
「試しに雷撃打ち込んだら怒って出てきませんかね? 」
「まずはその辺からだな。それでも寄ってこなかったらこっちから近寄ってみるか」
丁度相手の真上あたりに雷撃を落とす。雷撃は水面に飛び散り、ある程度の範囲に広がった後消えたように見えた。すると、水中から水色の馬が突然飛び上がってくる。前が馬、後ろがひれ。伝承通りに出来ているな。着地する瞬間、モンスターは後ろのひれを馬の脚に変え、地面に降り立った。どうやらケルピーご登場である。
「伝承だと背中に乗ったら水深の深いところまで連れていかれるんでしたっけ。さぁ、乗れ! というわけでもないでしょうから攻撃してくるとすれば」
「噛みついて無理やり背中に乗せるパターンかもしれない。文字通り馬力がありそうだからな。噛みつかれないのと蹴られないの、後何に注意すればいいんだろう」
こちらが出方をうかがっていると、ケルピーのほうがしびれを切らしたらしく、ゆっくりとにじり寄ってくる。
「まずはちゃんとダメージが通るかどうか確認からかな。その後で斬れるかどうか試してみよう」
まず雷撃一発。すると全身に雷が通っていくのが見える。半分透けたようなその透明感の中を紫色の光が走って綺麗。感想を述べている間にもがくケルピー。
芽生さんもウォーターカッターで攻撃してみたが、やはり属性相性が悪いらしく、表面でパッと弾かれる。水耐性あり、といった具合か。
「雷は通る、水は通らない。これで一つ解ったな。こいつは俺向きの相手だ」
「私向きではない事は解りました。仕方ないので物理で行きましょう、やっぱり物理が一番です」
そう言い切るが早いか、ケルピーのほうへ自ら突っ込んでいく。ケルピーが前脚を盛大にあげて威嚇のポーズから踏みつけに入ろうとするが、その蹄先から足の関節にかけて芽生さんの槍が斬る。
どうやら全身が水で出来ている訳ではないらしく、半透明のその足が綺麗スッパリと斬り落とされ、ケルピーは体勢を崩す。その間に首に一度突き刺し、槍を引き抜いたらもう一度今度は目を刺す。的確な急所狙いだ。
刺さったところから水が飛び散り、水が黒い粒子に変わっていく。表現が二段構えになってなんか豪華。
と、冷静に芽生さんの戦いを観察していたら、こっちのケルピーがしびれ、つまりスタン状態から脱したらしい。ケルピーは怒ったのか、こちらに向けて突進してくる。追加の雷撃。再びケルピーがダウンする。ちょっと今観戦中だから邪魔しないで欲しい。
もう一度雷撃を浴びせてより感電させておき、芽生さんの戦闘風景を観察する。急所を二か所抉ったがどうやらケルピーというモンスターはそこそこに耐久力があるらしい。片目と首筋を狙われただけではまだ息がある、結構しぶといな。
芽生さんはもう一度槍を突きなおし、今度は首筋を完全に断つ動きに入る。目を潰した方から迫った芽生さんが下から上に斬り上げる形で首筋に刃を入れそのまま刎ね飛ばす。胴と首が生き別れになったケルピーが血の代わりに水みたいなものをまき散らし、それが空中で黒い粒子に還っていく。胴体のほうもそのままさらさらと黒い粒子に還った。ドロップは魔結晶。おし、こっちも終わらせるか。
雷撃がかなり効いているのか、ハァハァ言いながらケルピーがこちらに向かってくる。残り体力は少なそうだ、雷撃に相当弱いと見える。そのまま雷撃で押し切ることもできるが、戦力評価はしておきたい。
前脚の蹴りをまともに受け、【物理耐性】の効力を改めて実感すると共にこの蹴りでは体勢は崩されないという事を感じ取った。これならイケる。前脚をそのまま跳ね返して二歩踏み込むと腹に当たる部分におもいっきり直刀を斬りつけて、腹から背中まで斬りとおすぐらいの覚悟で打ち込む。
刃の長さの都合で背中までバッサリ切りぬくことはできないが、腹を完全に断ち切った。骨があれば骨まで達しているだろう。ケルピーは斬られた部分からそのまま折れるようにして倒れ込み、黒い粒子に還った。今度は首を落としてみよう。よりスマートに戦えるかもしれない。ドロップは魔結晶と……肉だ。
見た目は赤身に細い筋で脂のようなものが見えている。赤身一色ではなく、脂がほんの少しだけ乗っている、というイメージか。そのままずるっと食べるのにちょうど良さそうな具合である。
「これはまた美味そうな肉だな。是非持ち帰って中華屋の爺さんに捌いてもらうべきだな」
「そのまま食べてもいけそうですが、楽しみですね。是非数を持って帰りましょう」
「じゃあもうちょっと気合入れてケルピーを探すか。戦い方は大丈夫そう? みてたけど苦戦してるようには見えなかったが」
「そうですねえ。結構タフだな、という印象は残ります。やっぱりこのマップは相性悪いかもしれません。もっと槍で突きやすい場所を厳選して、それからスマートな戦い方を学習していこうかと思います」
とりあえず初対戦は完封勝利に終わった。俺も雷撃に頼らない方向でスマートな戦い方でも見つけるとするか。
そのまま川にそって南下。ケルピーが出そうな位置と、橋を探してそのまま歩く。川はそこまで急こう配ではなく、緩やかな流れがずっと続くような形になっている。行きつく先ではどういう形になっているのか気になる所だが、マップを全部埋めて達成感を得るのは迷宮以外では俺にはどうも向いてないらしい。そういうのは他人に任せた。俺は俺の道を行く。
ケルピーが居そうな反応が出た。というか川底にトレントがいるはずもないので確実にケルピーである。出て来るまでじっとしてるのも面倒くさいのでまた水面に雷撃を放ち、出ておじゃれという合図を送る。
軽く痺れたケルピーがたまらず水面から川べりまで躍り出てくる。水中での雷はそれなりに効果があるようなので釣りだしにはちょうどいいな。今度はこっちから攻める。雷撃を使わず肉弾戦に持ち込み、ケルピーが足を出してきたところで足を切断。足を切断されてガクリと前のめりになったところで首を一気に刎ねる。よし、スマートだ。
芽生さんのほうは……首を落とそうとして避けられ、一発蹴りを受けている。ただ、完全に入れられたわけではなく少し後ろへ飛ぶことでダメージを最小限にする事は出来たようだ。手こずっているな。だが支援は入れず、他にケルピーが居ない事を確認するとそのまま芽生さんに一体任せることにする。
暫く蹴りと槍の応酬が行われる。蹄だけは硬いらしく、槍を蹄で受けられるとケルピーにもダメージが入らず焦れた戦いになっている。すると、ケルピーが【水魔法】らしき攻撃を仕掛けてくる。スキルも使えるのか。しかし、【魔法耐性】完備なおかげで目の前にシールドみたいなものが発生して弾けた。威力的にはあまり強いものではないらしい。【魔法耐性】が無かったら切り傷なり打撲なりしていた可能性がある。
素早く槍を前後させ、フェイントの形で槍を動かす。ケルピーが反応して体を槍から逃げるように動かす。その動きのスキをついて一歩踏み込み槍を横薙ぎさせるとケルピーの首筋に一撃が入る。深く入った槍は確実にケルピーの体力と黒い粒子を奪っていく。そのまま動きを止めずに芽生さんが攻撃を重ねる。芽生さんは素早く槍を持ち替えその間に払いから突きに姿勢を変えた。突きがケルピーに入る。首筋から胴に向かって真っすぐ槍が沈み込み、手元にケルピーの体が来るまで槍を突き刺しきった芽生さんが槍を引き抜き、一連の動作を終わらせると同時にケルピーは黒い粒子に還った。
「ふぅ……やっぱり支援してもらった方が楽ですね。時間をかけ過ぎました」
「雷撃挟んで多少痺れておいてくれた方が楽できるなら今後はそういう事にしよう」
「数にもよりますが長引きそうだと判断したら適宜入れておいてください」
魔結晶を拾い次へ向かう。さて、橋は何処にあるのかな。
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