587:物理耐性を探して
午後からも引き続き二十六層。午後四時ぐらいまでならこの階層をぐるりと回り続ける事が出来る。その間に倒せるゴーレムが四十体強。カメレオンが二百匹ほど。ゴーレム換算で千体に一体ぐらいの確率で出るとして、過去に倒した回数を含めると一ヶ月以内にはドロップしてくれる計算にはなる。早ければ今日中に、遅くても芽生さんの夏季休暇中にはドロップしてくれるだろう。その後は二十九層をひたすら巡り、俺はある程度トレントの実を集めてドライフルーツづくりに邁進する事になるだろう。
しかし、ドライフルーツを作るにしても保管庫でやるのとドライフルーツマシンを買うのとどちらが手早く多く調理できるんだろうか。機械の手入れをする手間と、保管庫の中身を出し入れする手間を天秤にかけて、どれだけの量を作るかによって変わってくるな。まとめて大量に調理するなら保管庫のほうが便利そうだが、今回みたいに一回分を作るだけなら機械を買ってしまうほうが多分楽だろう。
保管庫を使ってスキルを鍛える、という意味でも出し入れする機会が増えるし百倍速を使うのもこれぐらいしかない。保管庫の出し入れとスキル使用時間のどちらを使うと効率が良いのかは今のところ把握は出来ていないが、百倍速で使い続けたことはないので試しに大量にドライフルーツを使う事でスキルアップもできるかもしれない。何事もまずやってみる、だな。
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ダメージの点で恐れる個所がほぼなくなったゴーレムに対して舐めプではないがかなり余裕が出てきたので正面から殴られるふりをしてギリギリを避けて、ゴーレムの頭の位置が下がったところへ飛びかかって目を潰す。多分これが一番早いと思います。
これでこの階層で大体通算四百匹目。後七百体以内で出てくる可能性があるか。延べ七十時間、日にちにして十八日以内。うん、まだ時間的余裕があるな、焦ることはないぞ。
「焦る必要がないとはいえ、たった一つのドロップのために粘って同じ動作をするってのも中々辛抱が必要なものですね」
「あえて訂正すれば二つかな。カメレオンが【物理耐性】を落としてくれても良いんだ。スケルトンから【魔法耐性】を手に入れるまで粘ったのを思い出しても一度通った道だ。一回やったことをもう一回するのは慣れてるはずだからな」
「そう言われてみればそうですね。移動に往復三時間かかることを除けば前にやったのとほぼ同じ、ということですか」
「慣れた作業は効率化できる。効率化できれば作業はもっと早くなる。作業が早くなればかかる時間も短くなる。そうやってどんどん手早く狩って行けば十八日かかる予定の作業が十四日ぐらいになるかもしれない。そうすれば四日間、新しい階層を十分楽しむことができる。前向きに考えていこう」
実際に四日間も短縮できるとは思わないが、そのぐらい出来る、と信じてやれば二日ぐらいは短く出来るんじゃないかと考えている。それに無心で作業をしていると、あるかどうかは解らないが物欲センサーが反応しなくて済むだろうと思っている。
現にここ十日間、ほとんど無欲のままひたすらにゴーレムを狩り続けることが出来ていた。普通同じ作業をひたすら毎日繰り返し続けるのは精神的にクる。本当にクる。途中で休憩を取らないと普通集中力は続かない。
その点芽生さんを見ると、目的があるとはいえ長時間の同じ作業の繰り返しにもかかわらず俺よりも集中している。ライン工として働く才能はあるな。もっともライン工として働くよりも探索者として働く方がよほど稼げることは間違いないのだが。
そうして芽生さんのほうをぼおっと見ていると、何かついてますか? という顔をして、その後顔を拭いている。
「よくできた相棒だなぁ、と思ってたところだ、あまり気にするな」
「そうですか、てっきり昼食の残りかすでもついているのかと思いました」
口元をもう一度チェックしつつ芽生さんは元の作業に戻る。他に戦闘音の聞こえないダンジョン作業のほんの一時だった。
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「しかし……稼いでるな俺達。保管庫の中身をざっと計算しただけでも今一千万ちょいのドロップ品で埋もれている」
「今更ですか。下手なベンチャー企業の社長より稼いでますよ私たち」
「そう考えるとちょっと嬉しいが、同時に辞められなくなってしまったような気がするな、それだけ稼いでるのに探索者を辞めてしまうのか、と言われると世間の風当たりが強そうだ」
「私たちの稼ぎを今一番理解しているのはダンジョン庁でしょうからね。ダンジョンマスターとの仲の良さも含めて、手綱は握っておきたいところなんでしょう」
「帰ったらニュース見たり各地のスレッド見たりしてみるか。ここの所潜りづめだったし、明日一日保管庫の日干しとドライフルーツ作りも含めてちょっとお休みを取って、色々調べ物をしてみる。もしかしたら何処かに情報は落ちていて拾い損ねているだけかもしれないし」
他のダンジョンでもエレベーターが設置されたとなれば探索者同士のローカルニュースとして取り上げられているかもしれない。調べておいて損は無いし、ここの所やや過密気味の小西ダンジョンからも人口が流れて程よく住み分けられるようになるかもしれない。
「小西ダンジョンより広くて交通が良くて、周辺地価が安くて賃貸住宅がそこそこあって、インフラも整っていてもまだ十五層までたどり着いてないダンジョン何処かに落ちてないかな」
「そんな所が有ったらとっくに鬼殺しが出てますよ。それこそエレベーターは思いつかなかったけど二十一層へ潜る時にでもお願いする方向性でまとまってるんじゃないですかね。他のダンジョンでも探索者の話し合いみたいな場所が設けられているならの話ですが」
それならこっちに話が通ってこないのは当たり前か。何処のダンジョンも自分のダンジョンでキーマンを抱えたいだろうからな。ご近所にそういう予定のある……そもそもご近所は清州ダンジョンだ、それなら結衣さん達にも多分声はかかっているだろう。
ということは、次に会うときは結衣さん達はBランクになっている可能性はあるということだな。楽しみだな。
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さらに時間は経ち、帰る時間に近くなった。ちょうど階段の近くまで来ている事だし、少し早めだが上がりにしよう。
「良い感じの時間になった。ここから無理に粘っても得られるものは少ないし、明日には明日の楽しみとして取っておこう」
「私たち以外に潜っている人がいないという事は、今もしスキルオーブを持っているモンスターがうろついていても倒すのは私たちという事になりますね」
「そうなる。なので心配せずに明日に回せるって事だ。さあ帰ってしっかり眠って体力を回復して、ついでにトレントの実もドライフルーツにしてより楽な姿勢で探索に挑めるようにしよう」
「あ、ドライフルーツ一つください。今なら気持ちよく疲労回復が出来るような気がします」
ドライフルーツを一つ渡すと一口で放り込んでブルブルと全身を震わせ始めた。傍から見ててちょっとえっちぃ。
「さては癖になりつつあるな。これ、危ない成分とか混じってないよな」
「混じってたとして、バレるまではセーフですセーフ。今のうちに中毒者を増やすか、自分たちで使い切ってしまうようにしましょう」
「帰って量産するつもりなんだが……まあご利用はほどほどにな」
階段を下りて二十七層経由で二十八層へ帰る。二十七層を通り抜けなければ二十八層には到達できない。当たり前の事なのだが、エレベーターに慣れて贅沢になってきているようだ。いかんな、これはいかんぞ。これで稼げる階層じゃなかったなら通り抜けるだけでこう、口にできないもどかしい気持ちになっているだろう。
今一層から十五層まで歩いてたどり着いてくれと言われたら、難しくはないが精神的にちょっとクるものがあるかもしれない。俺達はよくあそこまでたどり着くことが出来たな。今の自分の探索がいかに楽をしているかが再認識される。
スキルオーブは落とさないが中々の収入をもたらしてくれるゴーレムとカメレオンにこのもどかしい気持ちをぶつけつつ、一時間半かけて二十八層へ戻る。戻ったらいつも通りエコバッグに荷物を仕分けてリヤカーに積み込む予定だ。今日も中々の収入になった。二十七層に潜りっぱなしの時期に比べれば多少効率は落ちるが、充分な収入であると言えよう。
通いなれた道と見慣れた配置のモンスターを索敵で感知し先制攻撃の雷撃をお見舞いしていく。この片道一時間半の作業で二十六層の二時間分ぐらい儲かるので二十六層を巡る分収入が多少減っても美味しい。ゆっくり狩る理由も無いので時間優先でどんどん戦っていく。相変わらずゴーレム三体の場所だけは時間がかかるが、二人とも【物理耐性】を身に付けることが出来たらもっと楽に早く倒せるようになるだろう。
あっという間に時間が経ち、二十八層への階段までたどり着いた。階段を下りて二十八層に着くと早速エレベーター前で仕分け。魔結晶とカメレオンの革とポーション、それぞれの袋に詰めていく。ザラザラと保管庫から出すだけなのでこれはこっちに、それはそっちに……とやるわけではない。正直言って楽な仕分けだ。仕分けが終わるとドライフルーツを口に入れ、あの熱い疲労回復効果を味わった後、冷えたコーラを飲む。これは癖になるかもしれん。
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