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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第八章:関係前進

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582:飽きた。二十九層行く

 二人でバラバラに潜った日から十日間が経った。ただひたすら二十七層に潜り、ゴーレムを殴り飛ばすだけの日常が過ぎ去っていく。この間に殴り倒したゴーレムの数はざっと計算して千体。その間に出たスキルオーブは【物理耐性】が一個。七日目に無事にゴーレムから出てくれた。


 どっちが先に覚えるかの話し合いの機会は設けたが、結局ゴーレムの相手を常に率先してやっている俺が先に覚えることになった。次まで何日かかるかまでは解らないが確実に効果が見込めて、ゴーレムを倒す時間が短くなれればその分探索も進むという事で受け取ることにした。


 何ともあっさりした出来事だったので、そのまま二十六層へ抜けて狩り続けて、三日たった。さすがに三日やそこらで出るとは思っていない。二十七層で戦った時間を考えると、二十日間ぐらいかかるのかなーと思っている。


「さすがにまだ出ないですよねー」

「さすがになー。考えればここ一ヶ月ほどで三つドロップ拾ったことになるんだし、出すぎってほうが状況に合ってる気がする」


 二十六層でまだカメレオンとゴーレムを相手にしつつぼやく。ここ十日間カメレオンとゴーレムしか目にしていないのだ。そろそろ話題も尽きる事だろうとは思っているし、何なら無言でひたすら探索をしている事もある。


 そして、肝心の【物理耐性】についても調べることは一通り調べた。【物理耐性】は結果から言うと斬撃、打撃、突撃、刺突、あらゆる物理的手段に対しての耐性が上がることが確認された。


 斬撃は試しに自分の腕をゆっくりと直刀で切り開こうとしたが、その上に薄い膜が張ったような状態になり刃が入らなかった。おそらく全力でやればできない事は無いだろうが、そこで腕を斬り落として大変なことになる可能性を考えてそこまではしなかった。そして、刺突、打撃については芽生さんにゆっくりと槍を突き刺してもらったり、軽く槍で叩いてもらったりして体感する事が出来た。


 限界がどこにあるかまでは試していないが、実戦テストでゴーレムのパンチを受け止めきることが出来るようになったことで、およそ体感で半分ぐらいのダメージはカットできているんじゃないか? というのが結論を示すところだった。


 このダメージのカット率が、いわゆる自分の防御力を合算する前のダメージなのか、防御力を超えた段階でのカットなのかはまだ解らない。なにせ防御力というステータス項目があるわけでもない。とりあえず異様に頑丈になった事だけは確かだ。パッシブスキルなので、おそらく地上でも効果は出ているのだろう。


 もしかしたら、今トラックに轢かれても俺が無事でトラックが大惨事、俺じゃなくトラックの運転手が異世界に転生する羽目になるかもしれない。異世界へ行ける可能性が一つ潰れた気がする。


 とはいえ頑丈になったのは間違いないので、二つの意味で死ねなくなったな。一つは今死ぬと勿体ない。もう一つはそもそも死にかけるまでダメージを受け続けることができるかどうかだ。今の俺ならダンジョンハイエナに噛みつかれてもダメージをうけそうにないし、ゴブリンキングの剣も指先で受け止められるかもしれない。


 ゴーレムに対して精神的にも肉体的にも余裕を持って接する事が出来る分、より短時間で撃破できるようになりその結果探索一周のサイクルは短くなる。時間当たりのモンスター数も増えればそれだけスキルオーブドロップガチャが回る。この場で探索をしている探索者は自分達しかいないので、スキルオーブドロップガチャが早く回れば早く回るだけ入手も早くなる。いいことづくめだ。


 そんなわけで二十六層に潜り続けて三日目になるわけだが……


「さすがにちょっと私も飽きが来ましたね……そろそろ二十九層をチラッと覗きに行きませんか」


 芽生さんからついにギブアップの申し出が来る。


「気晴らしにはちょうどいいかもな。トレントとケルピーの強さのほども知っておく必要があるしドロップ品にも興味がある」

「トレントの実って美味しいんでしょうかね? ぱっと見リンゴみたいでしたが」


 二十九層以降の情報として添付されていた資料にトレントの実についての情報はあった。黄色く、それでいてリンゴに似た形の物体だった。食用かどうかは確認済みで罠とか毒とかもないらしいので食べても問題ないだろう。


「おやつにトレントの実齧って水分と栄養分を補給しながら……というのも悪くないな」

「そうと決まればまずは二十八層に戻りましょう。戻って小休止してそれから二十九層探索としゃれこみましょう」


 二十六層の真ん中あたりに居たのでここから一時間半、またカメレオンとゴーレムを倒す時間がかかるわけだ。現在午後二時。戻って三時半。休憩込みで四時。五時半には撤収しないと間に合わないので往復で四十五分ほど二十九層に潜れることになるか。


「戻る時間を早めても一時間半ぐらいか。結構短い時間しか潜れない事になるけどそれでも気晴らしにはなるか」


 急いで道を戻る。まだ湧きなおしていない部分も含めて予定よりも十分ほど早く二十八層に戻ることが出来た。テントで軽く休憩した後二十九層への階段へ向かう。


「さて、大分遠回りをした気がしないでもないですが、お待ちかねの二十九層ですよ。ここから未知の領域ですよ」

「実際は情報があるから未知ではないんだが、このダンジョンで言えば未踏破であることは確実だな。小さな一歩だが人類にとっては……そう偉大でもないな。本当に最初に足を踏み入れた人の努力や苦労を考えたらこんなに簡単に同じところまで上がってきてしまってなんだか悪い気がする」

「宇宙開発も同じですよ。地球から先に飛び立っても、技術が進めばそれを追い越すように新しい探査衛星がより早いスピードで飛び去って行くのです」

「そういう事なのかもしれないなぁ……さて、行くか。一応下りてすぐ戦闘の準備」


 二十九層への階段を下りる。階段の途中で湿度が急激に変わるのを感じる。今までカサカサだったお肌に瑞々しさを感じるほどに湿度が違う。一応森の中に階段がでるということなので、それだけ周囲に木が多いということだろう。


 階段を下り切ると、早速索敵に反応がいくつかある。どうやら階段下りてすぐのところには何も居ないが、索敵範囲にはモンスターが居る。つまり、木に擬態したトレントが既に居るという事だ。


「ついに来ましたよ森と川のエリア。まずは川を探すんでしたっけ? 」

「そこまで今日は時間が取れそうにないからな。まずは階段が見える範囲で、周囲に何かがあるかどうかを確認しよう……と」


 周囲を確認と言い切る前に、足元の草に筋が見える。小道というほど広くなく、かといって獣道と言い切るほどには狭くない。ここを通って行けという話なのだろうか。結構奥まで続いている。


「この道と呼べるほどには広くない細道を通りつつ森の抜け道を探すか。ただ、それなりに索敵に反応してるからまずは周囲の刈り取りかな」


 とりあえず一番手近な位置に反応している木に軽めに雷撃を加えるとギェェェェェェエという声が聞こえてきた。どうやらトレントの鳴き声らしい。お前、しゃべれるのか。


 居所がバレたとばかりにうねうねと器用に足代わりの根っこを動かしながらトレントがこちらに近づいてくる。素早くはない。よく見ると両手のような蔓が伸びている。太さは……そんなに太くない、女性の腕ぐらいの太さだ。


 そんな太さの蔓が鞭のようにうなりを上げながら俺に近づいてくる。試しに手で受け止める。【物理耐性】のおかげか、ちょっと手が痛いぐらいの被害で済んでいるが、もしなかったら手袋を貫通して皮膚が裂けていたかもしれないな。そのまま蔓を抱え込むと、トレント相手に力勝負を始める。


 流石にトレントのほうが重量があるのか、それとも蔓が丈夫なのか。トレントが引っ張り上げる力のほうが強く、俺は観念して手を離した。その間にゆっくり近づいてきたトレント相手にまずは直刀一発、どのくらいまで傷をつけられるかを試す。


 直刀は木を切ったというよりも薪を割ったような、スコッとすり抜けるような感触がした。木を模しているとはいえ、生木そのものを切る時のような重い感覚ではなかった。おそらく黒い粒子で出来ている都合上、硬すぎるものやその粘り気を表現するのは苦手なのか、それともわざと切り落としやすくしてくれているのか、とにかく触感は予想より柔らかかった。


 傷をつけられたトレントはまたも叫び声を上げる。それなりにダメージは効いているようだ。切り口から黒い粒子が血のように噴き出る。もう一度切り込みを入れると、トレントは片方の蔓で切り口を押さえ始めた。どうやら出血を止めようとする動きをトレースしているらしい。


 暫く黒い粒子が噴き出ると、しばらくして粒子の噴き出しは止まった。さっきまで悲鳴を上げていたトレントは明らかに元気がない。おそらく黒い粒子の流出を全力で止めるのに力を使い切ったかのようにも見える。


 力が抜けていくトレントにトドメとばかりに、近寄って両手で直刀を持って横におもいきり薙ぐ。上下に分割されたトレントがそのまま黒い粒子に変わりつつ消えていく。トレントは魔結晶を残して消えた。どうやら初回特典ボーナスで全ドロップ品が落ちる、という事はないらしい。


「どうですか、一発当たった感じは」

「ゴーレムよりも戦いやすそうではある。全身にダメージを与えやすいのも含めてゴーレムよりは戦いやすい。ただ【物理耐性】のおかげでなんとかなったのかもしれないあたり、実感としてはあまりないな。カメレオンほど美味しい思いは出来そうにないなあとも思う。金稼ぐだけなら二十七層のほうが稼げそうだ」

「カメレオンは擬態に全振りしてるような奴ですからね。こっちは耐久力が高そうです」

「後はスキルがどのくらい効果あるかと、モンスター密度だな。密度のほうはそんなに悪くは無さそうだけどモンスターを追いかけていたら迷子になりそうなマップでもあるし……ともかく、戦いやすさはゴーレムよりはるかに楽。ただ、ここから落ちるらしいヒールポーションがどのくらい出にくいか、で決まると思う」


 戦力評価第一弾はこんな所か。次は芽生さん的にどうか、そして最大出力のスキル攻撃でどこまで相手を削ることができるか。あと五回ぐらい戦ってみて強さのほどを確認しよう。索敵にはまだまだトレントが引っかかっている。トレントを相手にどこまでやれるかを検証していこう。

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[良い点] 物理耐性取得で最早スーパーマンな安村氏 (*´∀`*) [気になる点] 安村氏を轢いたトラック運転手は 異世界転生するのかなぁ (´・ω・`) トレントの発声器官 (ノ≧⊿≦) ギョエー…
[一言] 運転手じゃなくてトラックが異世界転生する場合も有るのよ?
[一言] > 十日間が経った > 倒したゴーレムの数はざっと計算して千体 頑張りましたね(収入含む) > 試しに自分の腕をゆっくりと直刀で切り開こうとした もうちょっと加減を > ゴーレムのパンチ…
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