580:問題発生
七層へ戻りついさっき使ったばかりの自転車を乗り回しすぐそのまま六層へ。六層へ上がるとワイルドボアは湧き直していた。これは茂君も期待できるな。
ちょっとだけ駆け足で、ワイルドボアを蹴とばすように雷撃を纏った状態で動いていくため、足に当たったワイルドボアから順番にドロップ品に変わっていく。茂君に到着するときちんと湧き直してはいた。ここはワイルドボアのほうが早く湧きなおすからな。茂君が塊になるには少し時間がかかるが、八層へ行った分の時間が良い感じに時間調整になってくれたらしい。
周りを確認し、投網をかけて木の根元を範囲収納。今回はそのまま保管庫に入れておいて、代わりに背中のバッグにワイルドボアのドロップを背負って戻る。何してきたの? と言われても問題ないように、だな。とりあえず今のところまたダーククロウからスキルオーブをドロップ、という事にはなってないらしい。
出ていたら出ていたで何が出ていたか気になる所ではあるが、そういうイベントは発生していない。残念ではあるがこれもダンジョンのみぞ知るところ、ここで出た分本命であるところの【物理耐性】が出ない可能性だってある。そもそも【索敵】を拾ったばかりなのだ、そうそう続いてドロップしてくれるとは思わない。
七層へ戻ると、なにやら中央部が騒がしい。ステータスブーストのおかげでガヤガヤとしているところは聞き取れるが、個々に聞き取る事は難しい。とりあえず近寄ってみるか。自転車で急いで駆けつけると、探索者同士で何やらもめ事らしい。もめ事の中心になっている両者ともにらみ合っている。
「何かあったの? 」
「あ、安村さん。どうももめ事らしくて。狩場が被って充分に戦えないとかなんとか」
田中君が事情を説明してくれる。狩場問題か。
「狩場が被って諍いになるほど人が増えたのを喜ぶべきか、小西ダンジョンの狭さを嘆くべきか悩ましいところだね」
ほんの少し前なら同じ階層にパーティーが居たとしても二か三ぐらいだった。それが人口が増えたおかげで探索者が過密になって、特に戦いやすい九層は軽く渋滞を起こしているようだ。
「ここは官営じゃないから公平に判断する人もいないからな。かといって外野がそれを判断するのも公平じゃないだろうし、悩みどころだね」
「安村さんだったらそういう場合どうするんです? 」
「逆方向に回って行くかなぁ、どっちに回るか決まってるわけじゃないし。もしくは一歩内側に入って濃い所を進むかかな……あ、同じぐらいの実力で同じ階層で戦うんだったら、いっその事臨時パーティー組んでちょっと深い所で戦えばいいんじゃないかな」
「なるほど、そういうやり方も有りですね。ちょっと外野意見として放り込んできますよ」
田中君は諍いを収めるべく両者の間に突入していった。流石管理者、頼りになるぅ。
暫く言い合っていた両者だったが、しばらくすると静かになっていった。これは田中君に飯でも食わせてやるとしよう。バーナーを準備してウルフ肉を厚めに切って塩コショウ、それから焼肉のたれを少量。焼き始めると良いにおいが立ち込め始めた。そして匂いに釣られて寄ってくる管理者が一人。
「お疲れ様。これはうまく取りまとめたご褒美って事で」
「いいんですか、ありがとうございます」
割りばしと紙皿に乗せたウルフ肉ステーキを渡す。田中君は素直に受け取り食べ始めた。
「ああいう諍いも今後は増えていくのかなあ」
「そうですね、十四層あたりでも同じような話は発生しているかもしれません。安村さんはずっと最下層に居るから出会う機会がないのかもしれませんが」
「エレベーターの弊害みたいなもんか。それでも清州ダンジョンに比べればまだ少ないほうなのかなあ」
清州ダンジョンも最近とんとご無沙汰だ。そういうイベントが発生する事に出会うには、いや出会わないほうが平和なのか、それとも発生自体しないほうに願うのが良いのか。難しい話だが、人のキャパシティに限界があってそれを超えたときに発生する問題というものはどうしても起こる。この先も小西ダンジョンに通う人は増えるだろうからそうなった時にダンジョンとしてどういう行動を取っていくことになるのか。一度ギルマスに話を通しておくべきかもしれないな。
「田中君、一度ギルマスに相談してみてはどうだろう? こういう諍いが増えつつあるんで運営管理者として何かできる事とか伝えることがありますか? 的な感じで」
「そうですね、それがいいかもしれません。今度地上に上がった時に相談してみようと思います」
「民間用とはいえギルドは一応ダンジョンの管理者なんだし、そういう苦情や出来事があったと伝えておくこと自体が大事だと思うよ」
とりあえず俺はノータッチだ。俺の意向だという事が知れると物事が大げさになりやすい。ここは俺以外の人がギルマスとの縁を持って、それを取り次ぐような形を取ったほうがいいだろう。そもそも俺だってダンジョン代表とかそういうわけでもないのだ。毎回出張るのもお門違いだと思うしな。
「とりあえず、何でもかんでもダンジョンについて俺がギルマスに相談していたら俺が民間代表みたいな形になってしまう。俺がダンジョンの秩序を決めるわけでもない、あくまで主体はギルドでないといけないからな」
「なるほど。そういう意味では僕が行くのもまずいのでは? 」
「田中君はまあ、七層の看板? 大体ここの様子は聞けば答えてくれそうだし」
「それを言ったら安村さんはダンジョン全体の看板だと思うのですが。二十一層まで気軽に潜ってるみたいですし、Bランクですし」
「そこが悩ましい所なんだよね。Bランクだからって威光があるわけでも無し、ただ二十二層以降に潜る資格を持っているってだけなんだよね。それに今何人小西ダンジョンを利用しているか解らないけど、それのほとんどは七層から十五層にかけての利用者が多いと思うんだ。それに比べてこっちはたった二人隅っこで活動してるだけだからね。そのたった二人が全体に何らかの発言権を強く持つってあまりよろしい事ではないと思うんだ。民間なら特にそうだ、官民共同ならそれこそポリスメンたちに任せてしまえばいい話なんだが」
出来れば厄介事は手元にないほうがいい。運営を任されている訳でもないし、ダンジョンマスターとギルド両方の橋渡しになることができるが、ダンジョン内の治安まで口を出すのはなんだか違う気がする。せめてダンジョンマスターの存在が世の中に公表されていて、そのダンジョンマスターとの取次の一環という事なら……いやいや、それでも二人で取り締まりまでしていたらダンジョン攻略が進まないではないか。
他人に面倒ごとを押し付けるわけではないが、探索に集中したいところ。ここも清州ダンジョンみたいにいくつかのパーティーがそれぞれ話し合いをしながら自治の形で運営していってほしいものだ。
田中君はペロリとウルフ肉ステーキを食べ終えた。まだ胃袋に余裕があるらしいので、もう一パック開けて焼き始める。田中君は頭を下げてお礼を言いつつ、次の肉を待つ。餌付けは完璧だな。
「理想は小西ダンジョン自助会かな。普段このあたりの階層で探索してるパーティー間で情報共有。ローカルルールではないけどお互いが住み分けしやすいように簡単な決め事をして、出来るだけそれに沿う形でお互い譲り合えればいいね」
「なかなか難しい所ですね。いろんなところから人が集まってきますから……そういえばちょっと離れた所に突貫工事で作った探索者向け賃貸住宅、全部埋まってるらしいですよ」
「らしいね。目ざとい探索者もそうだけどそこに住宅建てた不動産業者も目の付け所がいいし素早いよね。田中君はもし近所で家借りれたらそっちに住んだりするの? 」
素直な感想を聞いてみる。気軽に通えて気軽に帰れるなら、七層に住む理由も薄いのではないか? そこまで稼ぎが少ないとも考えづらいので田中君的にはダンジョン周辺で家を借りるという選択肢も取れるはずだ。
「あー、実はそのつもりで賃貸入居抽選申し込んだんですけど落ちちゃいまして」
「なるほど、そっちの理由でダメだったか」
「でも新規じゃなくて古い家で賃貸で借りられそうなところがあるんでそこを狙ってますね。安村さんは近くに借りたりしないんですか? 」
「俺の場合生活リズムが狂うのはあまり精神的によろしくないらしいんだよね。生まれてこの方自宅から出たことが無いぐらいだからもう死ぬまで今の家に住もうかなって」
実際に資金面の問題なら土地ごと買い切って新築の家を建てるぐらいの資産はあるし、これからの収入をあてにしても充分すぎるほど稼ぎには問題がない。ただ、新しい家に馴染むまでの違和感が探索にどんな影響を与えるのかを考えると心配で夜もダーククロウの布団でグッスリだ。
肉が焼き上がり、追加の皿を田中君に渡す。ついでにコーヒーも奢ろう。湯を沸かしだし、二杯分のコーヒーを淹れる。
「生活リズムの変化とか大事ですからね。気持ちはわかります。なので今度の家も見に行って、うまくいかなかったらいつも通り七層の住人になろうかなって思ってます」
「お互い無理せずに行こう。さて、俺はダーククロウの羽根を仕入れにもう一回八層へ行くかな」
「今日は羽根曜日ですか。頑張ってください。僕はちょっと仮眠してから九層ですかね」
コーヒーが出来上がり二人で一服すると、お互いの行動に分かれ始めた。さすがにもう八層のダーククロウも湧いているだろう。早速歩いて八層へ向かうとダーククロウを処理して戻ってきた。帰るまでにもう二回は六層チャレンジできるかな?
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