577:ばらしますか、ばらしませんか
ギルドマスターからの質問に対して全力で脳を働かせる。
はっきりここで実は保管庫というスキルを拾ってまして、今までごまかすために色々四苦八苦してきましたがこの場で白状してしまいます、とぶっちゃけてしまうか。この場合レアスキルの所持者としてギルドにはデータとして確実に残り、場合によってはこの命尽き果てるまでダンジョンに向けて終わらないかもしれない行軍を続けることになる可能性がある。
それとも何の話です? と思い出すようなそぶりをしてうやむやにしてしまうべきか。ただ言質を取られたり足元をすくわれる可能性も充分ある。その場合一つ目の選択肢と同じ結果になったあげく隠した分だけ印象が悪くなるだろう。
それとももっと上手い方法があるのか。より上手い方法とは何か。隠し事をばらすかばらさないか、それ以外に選択肢があるとしたら……隠し事があるうえでそれを隠し通しきる。
ここで三秒間ほど悩み、選択したのは第三の選択肢だった。
「確かに隠し事はあります。ですが隠し事なので秘密です」
口元に指を立ててちょっと可愛らしくポーズを決めてみる。しかし可愛く見せても所詮はおっさん。鏡を見たら自分で自分が嫌になるだろう。しかし、相手は冗談がある程度通じるギルマスだ。意図を読み取ってくれると嬉しい。
「そっかー、秘密かー……まあ秘密ならいいや。ただ一つお願いがあるんだけど、出来れば秘密を打ち明けるときは筋を通してくれると嬉しいかなって」
「解りました。お伝えできるようになったら真っ先にお伝えしますね。では」
どうやら理解はしてもらえたようだ。こっちも平然とした感じで伝える事が出来たはずだ。秘密はある。秘密だから言えない。とりあえず今のところはこれで行こう。
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話し合いを終えて戻ると芽生さんはまだ居た。帰ってなかったのか。
「待っててくれなくても良かったのに」
「すぐ終わると思って待ってましたが思ったより時間かかりましたね」
「とりあえず移動しながら話すか。そろそろバスが行っちゃう」
移動しながら、専用のリヤカーを置くことを承認された事と、保管庫についてぼかしはしたが隠し事はありますとギルマスに伝えた事を共有する。
「先にバレるのは結衣さん達だと思ってましたけど、あのギルマスも中々に冴えてますね」
「伊達にギルマスやってないって事だろうな。さて、どうしたもんかな……バラすにしてもタイミングとか色々考えてからの発表にしたい。一番良いタイミングがあるとするならダンジョン制覇のタイミングで実はこんなスキル持ってたんでうまくいきましたー、ってなるのがベターかな」
事が全部終わってから保管庫スキルを打ち明ける。それも一気に全情報を出すのではなく、射出に関する事だけは黙っておいて、ただ荷物を可能な限り収納、取り出ししておくことができる。内容としては小出しにしていきたい。保管庫スキルを鍛えてる間にこんな事も出来るようになりました、と段階的にバラしていこう。
「随分と先の話になりそうな気はします。ダンジョンが何層まであるかもわかりませんし」
「より奥深く進むために【物理耐性】を出して覚えて二十九層以降へ向かう。そのスタンスは崩さなくていいと思う。ただ、ミルコが前にダンジョンによって深さは変わると言っていたから、小西ダンジョンは規模が小さい分浅いかもしれないな」
小西ダンジョンは小中大で区別するなら小ダンジョンだ。清州や高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンは大ダンジョンに値するだろう。大きいほどマップも広くなり、深層に到達する難易度は高くなっていると思う。そうなると、小西ダンジョンや他のいくつかのダンジョンでまず潜って見て最下層を見届けてからそのダンジョンをどうするか、について議論が始まるはずだ。
その判断基準や議論の内容によっては数か月単位で打ち合わせや決定事項が決まっていく可能性が高いし、攻略されて消滅したダンジョンの代わりに新しいダンジョンが生まれる可能性だってある。考えることは結構多いだろう。
「さて、帰ったら早速リヤカーを探しに行くか。場所を取らないような折り畳み式のリヤカーがあるといいな。エレベーターに入れてしまえば保管庫に収納できるし、ごまかすのは一層だけになる。道中スライムが降ってくるかどうかが悩みの種だが、これもいつもの重さに比べたら楽なもんだ」
「その辺はお任せします。リヤカーを引くのも多分洋一さんの仕事になるので」
「なんか経費で一発で落とせて良さそうなのを見繕ってくるとしますかね。今から時間はあるし、ホームセンターとか農業用品扱ってるところを何軒か回ってみるよ」
駅で芽生さんとお別れし、自宅への路線に乗る。道中スマホでリヤカーの値段を色々調べると、一発経費で落ちるギリギリのラインなら折り畳み式のリヤカーなど色々種類が選べることが分かった。大きさも程よく、ホームセンターで軽トラを借りれば直接ギルドへもっていってそのまま設置させてもらう事も出来そうだな。
家に着いて片づけをし、一息ついた後で車を出して目星をつけておいた農業用品のお店へ行く。エレベーターの中の広さはあらかじめ測っておいたのでその寸法のうちに入る大きさなら問題ない。
何個か折り畳み式の物を見繕った後、大きさ的にも最大重量的にも手ごろなものをチョイスした。経費では落ち無さそうな値段になったが、一日使えばおつりがくる。俺の指の痛さにこれだけ金をかけるのか、という問いに関しては、元々頑張って素手で持ってきていたが量が多くなってきたので持ち歩きの手段を増やしましたという理由付けにはそんなに無理はない。
実際それだけの量を査定にかけているのは他の人にも見られている事だし、エレベーターも世に広まっている。エレベーターまで運び入れるために自分専用のリヤカーを置かせてもらう許可も取った。他のパーティーも競って自分用のリヤカーを配置し始めるんじゃないだろうか? という懸念はあるが、その辺はギルドが考える問題だし、もしやっぱダメと言われたらまた指の痛い思いをしていこうと思う。
指の痛さを解消するスキルみたいなものは無いんだろうか。そもそもの力が強くなるスキル……後で調べてみるか。もしかしたら存在するかもしれない。
どうやら持ち帰り用の軽トラの貸し出しをしているようなので軽トラにリヤカーを積んでそのままギルドに向かう。軽トラ運転するの久しぶりだな。昔はあちこち行って荷物積んで帰ってくるのに重宝したんだが、いつからか使わなくなったので売った。こういう時のために残しておけば良かったか? いや、でもこんな時しか使わないから売ったんだった、購入特典で貸してもらえた事だし問題はない。
そう滅多に軽トラを使って動き回ることも無いんだしレンタルで済むなら儲けもんだ。最悪保管庫で運べばいいだけだしな。今日も保管庫を使えば事が済んだんだが、流石にリヤカーを引っ張って持ってきたと思われるのは一気に怪しさが増す。カモフラージュを完璧にするためにもこの軽トラはマストアイテム。軽トラから荷下ろししてギルドに話を通しておいて、後は適当に何とかすればいい。
クリアファイルに安村専用と印刷してテープで封をして、ダクトテープか何かで貼り付けておけばほかの人が使う事はまあ無いだろう。仮に誰かが使ってたとしても、俺が使う間以外なら問題あるまい。
久しぶりのマニュアル運転の感触を思い出しながら、道中エンストすることも無くギルドに到着。早速荷下ろししてリヤカー置き場にリヤカーを置いておく。明らかに見た目が違うので間違えて持っていくことは無さそうだ。受付には話を通しておいたほうがいいだろうな。
「すいません、リヤカーの追加を置いたのですがうちのパーティー専用のリヤカーとして正式に置かせてもらう事になったのですが話通ってます? 」
「あ、安村さん。話は聞いてます。見分けやすいように何か記載するなりしておくことは出来ますが……どのようなものがいいですか? 」
「そうですね、単純に安村専用みたいな書き方をしてある物を貼り付けておいてくれればそれでいいんですが、特に思いつかないならこちらで明日にでも用意しようかと」
「他の探索者さんに聞かれたら個人パーティーが自腹で買った専用品なので使わないように連絡しておきますね」
そこまで考えてくれていたなら、こっちも考えていた通りの物を用意しておけばいいかな。ダブったらその時考えればいいや。
その後、そこそこ減っていた軽トラの燃料を満タンにして返却。店からはお礼を言われた。使わせてもらったのはこっちなので細かい事は気にしないし金はある。そう、金はある。配送料代わりと思えばそう変わりはしないしな。
店に止めっぱなしにしておいた自分の車に戻ると早速いつものホムセンとスーパーに寄って食料品を買い足して帰ることにする。昼食はお好み焼き、夕食は……なににするかな。
ホムセンと言えば、二十八層用のノートと椅子、机のいつものセットを用意しておいたほうがいいな。型番も大きさも覚えているからこのタイミングで買い足して設置しておこう。後はいつもの水分。水分だけは人間必要だからな。お腹が空いて仕方が無いなら浅い階層まで戻って自分でなんとか都合してもらうしかないし、水よりも賞味期限が短い。
とりあえず夕食の前にパックライスと水、それから……んーと……お総菜にタルタルチキンでも買って帰るか。今日の夕食はシンプルに米と簡単なサラダ、それからこのタルタルチキンにしよう。念のため野菜ジュースの一日これで充分みたいな奴をケースで買い、家で冷やしておく。野菜が少ないと感じた時に飲むように心がけよう。野菜そのままを摂ることに比べたら効果は薄いだろうが、飲まないよりは多少健康的だろう。
明日はのんびり羽根集めだ。気を張ることも無く索敵の練習と羽根集めにぶらぶらと七層付近をうろつこう。最近寄りついてないしな。もしかしたらテントも誰かに乗っ取られたり破却されているかもしれない。その確認にも七層と十四層にはたまには顔を出すようにしないといけないな。
作者からのお願い
皆さんのご意見、ご感想、いいね、評価、ブックマークなどから燃料があふれ出てきます。
続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。





