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ダンジョンで潮干狩りを  作者: 大正
第一章:四十代から入れるダンジョン

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57:買い物

 中華屋でそのまま文月さんと別れるのかと思ったが、次の武器を探しに行くのについてきてくれるらしい。


「また変な買い物しそうだし、まともな装備扱ってるところ知らなさそうだし」


 ごもっともであった。素直に付いていって買い物することにする。

 行く先は清州ダンジョンの近く、ダンジョン探索者向けの専門ショップがあるらしい。

 ここからだとバスと電車を三回乗り継いで行く必要がある。片道一時間半、帰りは三十分という所か。


「道中自動車じゃダメ? 」

「車取りに行く時間がもったいない。清州行くまでの電車は本数あるから」

「それもそうか……まぁ今日は財布に余裕もあることだしこのまま行きますか」

「自宅からは清州と小西どっちが近いの? 」

「清州のほうが近いですね」

「えっ、こっちのほうが近いから来てるわけじゃないの? 」

「大学からも近いのよ。回ってる間に探索者サークルのメンバーに出会ったりしたら勧誘されちゃうでしょ? そうなると色々と人付き合いが面倒くさくて」


 それなりに理由があるらしい。深くは突っ込まないことにした。


「ちなみにその専門店の名前は? 」

「鬼ころし、って言うんですよ」

「大丈夫なのその名前」

「日本酒に同じ名前の銘柄がありますけど、あれどこも「鬼ころし」で商標取ってないんですよ」

「へぇ、初めて知ったわ」


 会話しながらスマホで検索してみる。なるほど、たしかに「鬼ころし」という名称の酒は全国各地にあり、辞典に掲載されている単語であることもあって商標が取れないらしい。たとえば愛知で有名な鬼ころしという名前のパックの日本酒は正式名称は「清州城信長鬼ころし」である。勉強になった。


「ちなみにダンジョンに鬼……は出るの? 」

「出るとしても私たちが出会うのは遥か先になりそうですね。高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンの下層辺りになら入れる範囲で居るかもしれません」

「高輪ゲートウェイ官民総合利用ダンジョンってよく噛まずに言えるね」

「寿限無寿限無五劫の擦り切れ」

「どこぞの損保会社も似たようなものか」


 電車の窓の外を景色が流れていく。そういえば、県外に出るのも久しぶりな気がする。

 前に県外に出たの何年前だっけ……確か行動圏内でやってない映画をどうしても見たくて出てったのが最後じゃないか? 四年ぐらい前か。


「出不精ここに極まれり、だな」

「なんです? 久しぶりの大都市にしり込みしてるとか?」

「割と近い。迷子になったらどうしよう」

「手つないで行きます? 多分パパ活と間違われますよ」

「やめとく……」


 電車を降り夜の道を歩いていく。さすがに駅ナカにあったりはしないらしい。そういえば最近日が落ちてから活動することが少なくなっていることに気づく。ダンジョンから帰ったらすぐに寝てたからかな。なんだか久しぶりに夜更かしをしている気分にすらなる。今時の小学生でももうちょっと遅くまで外をうろついている気がする。


「どうしたんです? 」

「おじさん悪い子になっちゃったよ……こんな時間まで出歩いて」

「四十前後のいい歳した大人が何言ってるんです、夜はこれからですよ」

「そんなTVCMあったなぁ」


 駅から歩いて数分、雑居ビルの一階二階に店はあった。ただ入口に「鬼ころし」とだけ書かれたのが目印らしい。探索者と思われる人たちがせわしなく出入りしている。どうやら今の時間帯がかき入れ時らしい、ただ見ている間にも人が大小様々な荷物を運び入れ、運び出している。


「これが専門店かぁ」

「そう、探索者が使いそうな物なら大体手に入るよ」

「熊手も? 」

「熊手は無いんじゃないかなぁ。鉤は置いてあった気がする」


 一般探索者は熊手を使わない。また一つ賢くなった。


「で、何使う予定なんです? メインウェポンは」


 どうするかな。マチェットの肉厚の奴があればそれがベストだが、似たような長さだとショートソードになるか。両刃より片刃で、ついでに受けもできるようなの……



「すいません、片手剣を買おうと思っているのですが、体と戦い方にあったのを選ぶコツみたいなものってありますか?」


 と、手の空いてそうな店員を呼び止める。


「そうですねぇ……武器で攻撃を受けるつもりがあるかどうかですね。受けるつもりなら片刃の物が良いかと思います。刃の長さに目途は付けられてますか? 」

「う~ん、片刃・ショートソードタイプ・刃長が六十センチぐらいの奴かな」

「日本刀なら脇差ですね。人気はありますよ」

「それはちょっとお値段が高すぎる。ロマンはあるけど」

「最近はかなりお安くいけるものもありますが」

「両刃だと自分に当たって切っちゃいそうで怖いんですよね」

「しっかり握ってれば大丈夫だと思いますよ。それに片刃だと選択肢がとっても狭くなりますね」


 と、ショーウィンドウを指さす。片手剣に分類される物は幅広く、種類も大きさも色々選べる。その中で片刃の物は……三種類ぐらいしかないな。


 バッグからマチェットを取り出す。


「これの代わりにしたいんですよ。ソードゴブリンと殴り合ったら凹んでしまって」

「この刃の薄さでは難しいでしょうね。ただ、芯までは曲がってないようなので研ぎ治せばまだ使えますよ。ウチで研いで行かれますか? 」

「え、そんな事できるんですか」


 捨てるしかなかったと思ってたが、まだ使えるならサブウェポンとして持っておける。

 さて、本命をどうするか……


「グラディウスなんてどうです。そのマチェットと大きさもそう変わりませんし、重さもあまり変わらずに済みますよ」

「もうそれにしてしまおうかな。握りの部分って変えることはできます? 」

「追加料金発生しますが、大体ご希望通りには」

「じゃぁそれ貰います」


 武器は決まった。ほったらかしにしてた文月さんは……防具というか服装コーナーを見ている。あれは自分の服を選んでいるようなもんだろう。下手に声をかけると「どっちがいい? 」と聞かれそうなのでもうしばらく放置だ。多分決めるまでは集中してみているだろうからそっとしておこう。


「いいんですか? お連れ様は」

「気が済むまでそっとしときます」


 持ち手を自分好みにセッティングしてもらう間に、他にどんなものがあるか見回ってみる。

 二階は小物売り場のようだ、見に行くのは文月さんが現実に戻ってからでいいだろう。……お、スリングショット用の弾が置いてある。


 大きさは……今持ち歩いているパチンコ玉より小さなサイズから大きなサイズまで選べるようだ。大きいのだと十センチぐらいのものまである。大きいのを少しだけ補充しておこう。一応今のと同じサイズの物も二百発ほど補充しておこう。この間少し使ってしまったからな。保管庫のおかげでいくら持っていても重さに関係が無いのは嬉しいところだ。それとその中間の五センチぐらいの玉も二十発ぐらいあれば囲まれそうになっても牽制になるな。なんだか楽しくなってきたぞ。


 手投げ用のダーツも種類がある……が、とりあえず手持ちを使い切ることはなさそうだし今は良いだろう。後は……おっと、そういえば盾を見繕うんだったな。忘れてはいかん。


 盾のコーナーを回る。ポリカーボネートとか木とかジュラルミンなど、いくつかの材質と大きさで種類分けされている。いわゆるタワーシールドもあるが、これは完全な盾役が持つためのものだ。俺には大きすぎる。どうしても防御が必要という局面が出るようなら買っておいてもいいかもしれないが、前に使ってた奴は腕に装着するアームシールドってタイプだった。同じような奴があればいいのだが。


 しばらく悩んだ末、多少重くなったがほぼ同じ大きさで肉厚の木製。外側に金属の留め具がしてある。


 ぱっと見は古臭そうなデザインだが、肘から殴りつけることでシールドパンチの真似事が出来るし、手のひらをフリーにできる。これにしよう。


 文月さんは……まだ悩んでいる。声をかけるべきかどうか俺も悩んでいる。取り急ぎ必要なものはもうカートに入れてしまった。研ぎに出したマチェットは精算時に受け取るとして……やることがないな。


 いずれ使う事になるかもしれない物でも見に行くかと宿泊用品を確かめに行こうとしたが、ちゃんとした宿泊用品が欲しければ他所のキャンプ用品コーナーへ行ってくれとのこと。


 確かにここはキャンプ用品店ではないし、テントを飾っておくにもスペースが必要だ。中途半端に展示・在庫確保するぐらいなら扱わないという方向性なんだろう。その代わりに装備や探索道具が多く展示できるってわけだ。


 出来るだけ無駄なものは持たない、必要なものは確実にそろえる。それも探索者に必要な能力と言っていい。俺にはまだまだ足りない能力だな、便利なスキルがあるおかげで楽をしてしまっている。かといって、今からスキルを使わない縛りプレイをしろ、と言われても贅沢に汚染された俺には難しい話で。


 今も目の前のカートに買い込んだ製品を全部見て、これを持ち込めと言われたら多分二人連れでもイヤというだろう。帰り道はそこに拾ったドロップ品が増えるのである。行きはよいよい帰りは恐いとはよく言ったもので、稼ぎを捨てて帰ることは探索そのものを目的としない限り難しい。


 探索者を始めたころを思い出す。と言ってもほんの二週間ぐらい前の話なので思い出すというほど遠い昔ではない。だが、持ち物についてどれをもって行くか、どれを置いていくか、という選択の楽しみは確かあった。今はどうだろう。


 使ってみたいというものを好きなだけ(資金的な問題は置いておく)持ち込んで好きなように使える。本当にこれでいいのだろうか。


 そもそもなぜ探索者になったのか。再就職の片手間でやるようになった探索者としての仕事を、今の自分はまるで本業でこれからもやっていくかの如き悩みでもって考えている。


 本当に探索者を続けていくのか、考えるタイミングか?そもそもこれは今悩むことか?段々解らなくなってきた。こういう時は落ち着いて初心に帰ろう。


 何を買いに来たんだっけ。次の階層に行くための武器と防具……あ、ツナギ変えなきゃ。急いで俺は服のコーナーへ行く。防刃仕様のツナギとか無いかな。あったらそれにしよう。すると、ベストマッチな品物があった。グレイウルフが噛みついても切れないといううたい文句のツナギが二万ちょうどで置いてあった。これでよかろう。


 さて、そろそろ文月さんを現実に引き戻さないと。


「こっちの買い物終わったよ」

「あ、安村さんどっちがいいと思います? 」


 うん、違いが判らない。どっちも同じに見える。こういうときはどっちを選んでも不正解だ、適当に答えよう。


「右手に持ってるほう」

「こっち? う~ん、じゃぁそうしようかな」


 ちなみに俺にはどっちも水色に見える。男性と女性では色の種類の分解能の違いに差がありすぎるという話だが、ただでさえそういうのに疎い俺にそれを見分けるのは不可能に近いだろう。


「で、なんか予定外の物増えてる気がするんですが」

「そうかなぁ。研ぎに出してるマチェットと、マチェットに代わる新しい武器のグラディウスだろ、盾割れちゃったから代わりの盾だろ、それからツナギ噛み千切られちゃったから、前のよりちょっと頑丈なツナギ」

「なんですかその玉は」

「女の子が玉玉言うんじゃありません」

「冗談は良いですから、返してきなさい」

「え~でもこれ欲しい~予備として大きい玉も欲しい~」

「子供か」


 結局、小玉の予備の補充はしないことになった。使い切ってから次を買えとのお代官様の仰せだ。素直に従っておこう。中玉は十個までにしなさいと言われた。大玉は一個になった。


「しょんぼり……」

「良い歳したおっさんがしょんぼりしても可愛くありません」

「とりあえずお会計するか……カード使えるかな」

「使えますよ。安村さんみたいに盛り上がってお金を使い落すために」

「そう言われると返す言葉が無い」


 なんだかんだで八万ぐらいの出費になった。でも二日間、三層四層で狩りが出来ればペイできる。残りは全部利益にできるのは大きい。っと、利益に目がくらんで無理しないようにしなければな。


「あ、レシートは多分確定申告の時に経費計上できるはずですから取っといてくださいね」

「確定申告? 」

「自由業でしょう? 今。その間の収入は雑所得になりますが、それにかかった費用は経費で落とせます。ざっくり言うと、収入申告する際に八万円分は税金かからないことになります」

「そういえば前もそんなことを聞いたような気がする。ということは、今までの買い物の費用も経費として計上できる? 」

「できますね。食品や生理用品は入らないと思いますが、マチェットとか割れた盾とかは行けるかと」

「レシート確か残してたはずだな……帰ったら整理しよう」

「良かったですね、優秀な秘書が居て」

「全くだな」


 一階での会計を終えると二階へ行く。


「二階は雑貨かぁ。ダンジョン産の革とか肉とかあるんかな」

「肉は無いと思いますが革はあると思います。ワイルドボアの革って丈夫なんですよ」

「それはまだ会ったことない奴だな」

「もうすぐ会えますよ。肉がすごく美味しいんです」


 肉が美味いのか。覚えておこう。


「まぁ半分はお土産屋さんですね。ダンジョン産製品ってまだまだ希少ですから需要あるんでしょう」

「動物愛護団体はダンジョン産の動物製品についてどういう声明を出してるんだろう」

「知りませんがな」


 スマホでざっと調べてみたが、声の大きい団体は存在しないらしい。ただ、何故声を上げないのか?という皮肉めいた発言をしてる人は見かけられた。そのうち出てくるだろうな。


 ラインナップを見ると、ダンジョン攻略中にお薦めの食事・水分・生理用品・ドロップ持ち帰り用のエコバッグ・ダンジョン産アイテムの商品化されたもの、とにかく色々ある。


 ウルフ肉カレーとウルフ肉の味噌漬け、それからジャーキーは人気らしい。試しに三つ買おうとしたら横ですげえ顔で睨んでくる人が。


 OK、わかった。必要なものだけにするよ。だから試食のジャーキーぐらい許してくれ。


 ビーフジャーキーよりあっさりしているが、これを噛み砕きながらダンジョンを徘徊するのは中々ワイルドさがあっていいと思う。そしてウルフ肉を狩ってラインナップを補充していくのだ。


 ここではヒールポーションランク1も売られていた。さすがにショーケースに並んではいたが、お値段は一万五千円。ギルドの買い取りは一万円ではなかったかな。どこをどう巡ったら五千円の中抜きマージンが発生するのか少し考えた。


 しかし、奥のほうへ行くために道中の狩りを短くしたい人はここで五千円余分に払って補充してから奥へ行ったほうが効率が良いからだろうな。そのための五千円と考えるとなるほど、安いかもしれない。俺もいつかそうなるのだろうか。


 結局二階で買い物したのはウルフ肉カレーだけだった。正直キーホルダーとか財布とかは探索する側の人間としては要らない。探索する側の人は一階へ、補充品がある人は二階へ、とある程度住み分けが出来ているんだろう。


 店を出て時間を見る。二十一時を過ぎたところだった。店はどうやら二十三時までやっているらしい。


「いろいろ買いましたね」

「買ったなぁ。今度は不必要なものも買おう」

「買わないでください」

「とりあえず今日はここで解散かな。明日は潜る?」

「明日は丸一日講義があるので行きません」

「じゃぁ、また後日」

「えぇ、また後日」


 文月さんと別れた。買い足した荷物は結構な量だったが、迂闊に保管庫に入れるわけにもいかない。電車で帰る以上、同じ方向に帰る探索者が居て偶然それを見ていたら、持っていた荷物の量が違う事に気づいてスキルに気づかれる可能性がある。重いが仕方ない、両手がふさがったまま帰ることにしよう。


 帰ったら風呂に入ってからマチェットと小盾を買ったときのレシートを探し回る。どうやら運よく全部保管庫に入れてあった。安心するとすぐ寝た。一日身体を動かしたせいか、すぐに眠気が来たようだった。


作者からのお願い


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続きを頑張って書くためにも皆さん評価よろしくお願いします。

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確定申告とレシートの話は前もしてただろw ポーション買取の1.5倍だろ?人件費に保管等考えれば良心的ですらあると思うが、中抜きとか言うんじゃありません
スリングショット用の10㎝弾は10㎜弾の誤植かと思ったんだが 大玉1個、中玉5個しか買ってないって事は10㎝で間違いないのか ゴム弾とかな訳が無いから金属球なんだろうけれど 仮に鉄だとしたら4㎏くらい…
何回同じ話書いてんだよ 主人公と作者の頭はリンクしてんだなぁ
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