569:昨晩はお楽しみでしたね
キングクリムゾン!
日の出の太陽が黄色い。徹夜なんてことをしたのはいつぶりだろう? 仕事の都合で徹夜するような事はそもそもない職種だったため、徹夜で何かをすると言うこと自体が珍しい。学生時代に徹夜麻雀したのが最後じゃないか? 二十年ぶりぐらいになるのか。
昨晩はお楽しみだった。お互い気どりもせず、恥ずかしげもなく相手の事だけを考えていた。多少荒っぽかったかもしれないな。お楽しみの相手はまだベッドに突っ伏している。しかし幸せそうな顔をして眠っている。起きたら風呂に放り込んでおく間にシーツの洗濯をしないといけないな。
とりあえず今日は探索は無しだな。このコンディションでダンジョンに挑んでまともに動けるとは思えない。今日一日ゆっくり、ちゃんと、そうちゃんと休んでそれからダンジョンへ行こう。夜からダンジョンという手もあるが……それは芽生さんの再起動の具合次第だな。
全裸のままで迎える朝日も中々に気持ちいいもんだな。まだまだ現役であることも確かめられたし、一晩かけてこき使った割にまだまだ余力がある。ダンジョンでステータスを鍛えるとこっちの方にも効果があるんだろうか。
とりあえず……俺もまだ色々とベタベタだ。シャワーを浴びてスッキリする事にしよう。まぁスッキリはさっきまでしてたんだけどな。わはは。
シャワーを浴びて身ぎれいにすると、普段着に着替えて朝食を作る。まだ朝食という時間には早すぎるが、しっかりと運動したおかげでお腹もすいている。芽生さんがいつ起きても良いように二人分作っておいて保管庫で温かいままの状態を維持しておこう。
朝食を作り終わって部屋に戻る。芽生さんはまだのんきな顔で寝ている。おそらく、寝顔をまじまじと観察されているとは夢でも思ってないだろう。
ふがっと一瞬起きるような仕草を見せるが、寝言の一種らしい。試しに鼻をつまんでみたらふにゅーって言うのかな。やってみよう。
……んがって声と共に口が開く。そして鼻をつまむのをやめると、また元の寝姿に戻った。ちょっと見てて楽しい。多分今起きたら怒るだろうから観察を続けるのはこのぐらいにしておこう。
さて……もうちょっと寝かせておくとして、その間にコンビニでお菓子の補充とか色々しておくか。さすがに出かけている間に目を覚ますというタイミングの悪さを引くことはないはずだ。
ミルコに献上する分の何か新しい奴を探すと、少し時期的には遅くなるがサワー系のポテトチップスがあったのでそれとコーラでダブルシュワシュワになってもらおう。味わいストロング系らしいからきっと気に入るはずだ。後はホットスナックを二人分用意すると家に帰る。一応アレも買っておいた。今後は使うかもしれないから残弾はチェックしておこう。
芽生さんはまだ寝ている。よっぽど疲れたんだろうか。まぁ幸せそうに眠っているからいいか。俺ももう少し横になるか。
流石にぐちゃぐちゃになったベッドでもう一度寝る気にはならないのでソファーで寝ることにする。起こされるか自然に目が覚めるか、どうなるかは解らないがとりあえず時間を持て余すぐらいなら体力を回復させておこう。
◇◆◇◆◇◆◇
「……さん、洋一さん」
起こされて目が覚める。顔を上げると昨日のベタベタの服装のままの芽生さんが居た。どうやら目が覚めたらしい。時計を見ると二時間ぐらい寝てた事になるか。
「おはよう、しっかり寝てたな」
「えぇ、全身汗やら汁やらにまみれてる芽生さんですよ、おはようございます」
「とりあえずシャワー浴びて着替えておいで。その間に洗濯とか掃除とか色々するから」
身体の方に目を移すと、少し隠すそぶりを見せる。やはり昨夜のテンションとは違い、今は恥ずかしさのほうが勝るようだ。
「そうします。さすがにこのまま帰るのはあり得ませんし……洋一さん、このままの私を眺め続ける趣味とか無いですよね? 」
「ないな。贅沢なことを言えば俺の前だけでその姿でいて欲しい。が、寝床の掃除ぐらいは早めに終わらせてしまいたい」
「結構独占欲強いですね。じゃ、シャワー借ります」
そういうと客間へ一旦戻って着替えを手に浴室へ向かった。その間にシーツを取り換えて……今度マットも綺麗にするか。いっその事新品にしてしまってもいいかもしれん。シーツを洗濯機に放り込んで洗濯を始めると、次はベッド周りの掃除だ。色々散らかってはいるが簡単に掃除できる範囲の汚れで済んでいる。
部屋を開けて空気の入れ替えを……暑いがこの際仕方ないだろう。扇風機も回して部屋に広がっているすえた匂いを外へ吐き出してしまう。ついでに消臭剤を空気中に散布する。匂いが抜けたら改めて冷房をかけよう。
◇◆◇◆◇◆◇
暫くすると着替えてさっぱりした湯上りの芽生さんが現れた。キッチンの冷房で体を冷ましつつ、髪の毛を拭きながらのご登場だ。ずいぶんリラックスしている。
「下着、家で洗っていく? シーツのすすぎが終わったら洗濯機空くけど」
「そうさせてもらってもいいですかね。一応お高いですし、ドロドロのを持ち帰っていくのもちょっと精神的に抵抗がありますし」
「どうせこの体調だし今日はゆっくり休もう。とりあえず昼ぐらいまでだらりとして、頭と心が落ち着いたら予定を立てよう。まずは飯食うか」
保管庫から朝食セットを取り出す。出来上がって一分ほどの料理が突然目の前に現れることになる。
「やっぱり便利ですね保管庫。食べるの待っててくれたって事ですか」
「先に食べてても良かったが、放り出して勝手に食べてろ、というのもなんか悪い気がしたからな」
「ありがとうございます。では早速食べましょう、頂きます」
いつものゴキゲンな朝食を取る。一日のペースを取り戻すのはまずは食からだ。いつもの朝食を胃に入れることで、胃がグググっと動き始め、腸が準備運動の脈動を始める。トイレが近くなって朝一番の戦果をお目にかけてみせようとばかりに腹がグルグルとなり始める。
ふと、もりもりと食事を口に運ぶ芽生さんが目に入る。朝食というよりモーニングというほうが近いような朝食だが、これといった文句も言わず食べ続けるのは結構育ちが良い証拠なんだろうか。そんな子に手を出したのか? と罪悪感がよぎるが、奨学金自分で借りてまで大学に行こうとしてるんだから少なくとも裕福な家、という訳ではないんだろう。もしかしたら自立心がやたら強いだけかもしれない。
今になって色々と思い返すことが増えて来た。向こうにお膳立てをさせておいて箸をつけたらその後でそもそもその食事は正しいものなのか? と難癖をつけるようなものである。後悔はこれからするかもしれないし、両親からしたら自分と歳のそう変わらない男に大事な娘に乗っかられたのだ。思い切りぶん殴られる覚悟は必要だろうな。
「何ボーっとしてるんですか? あれだけ動いてお腹空いてないとか……もしくは私が起きる前につまみ食いでもしましたか」
考え事をしているのを察せられたらしい。
「今日この後どうするかなーっと。さすがに今からダンジョン行くのは体力的に厳しいので、ちゃんと気持ちよく眠ってそれから考えようか、それとも昨日の続きの調べ物をするか。いろいろやる事はあると思ってな」
「寝直すのは賛成ですね。もうちょっと眠っていたいところです」
「じゃ、寝直すか。情報を得たからって今週来週でそれ急げって話でもないし、どうやら次のマップは相当広いらしい。森の中じゃドローンが飛ばせるかどうかも怪しい。上手く迷わないようにしつつ地図を作り上げていくしかないな」
「急いては事を仕損じるですね……ごちそうさまでした」
「そういう事……ごちそうさま。さて寝るか」
片づけをすると、早速二人して寝る事にした。保管庫に入れてあった羽毛布団を二枚とも出す。放り込んでおいたおかげで匂いが移ることも無くきれいなままだ。
早速芽生さんが俺のベッドにもぐりこんできたので、そのまま抱えると隣室にポイする。
「一緒に寝ちゃだめですか」
「盛り上がって二回戦が始まっても困るからな。今はしっかり疲れを取る時間だ。メリハリは付けないとな」
「はーい」
大人しく従うようだ。正直なところを言うと一緒に寝ても問題ないのだが……息子のほうが臨戦態勢に入ろうと伸びたり縮んだりしている。実は俺が一番お代わりを求めているというのを知られたくないのでごまかす。後、シーツをまた洗うのが面倒だ。
こまごまとした家事をこなしてから改めて寝に入る。芽生さんのほうからは音は聞こえてこないので大人しく眠ったようだ。俺も寝るか。寝て起きて、またご飯食べて。それから何するか決めよう。
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